先月西の奥様と石鎚山に登った時に、『来月の13日はルリちゃんが旅行で留守なので、かねてからの懸案だっ
た剣山の鬼神の岩屋に連れて行ってください!』と頼まれていたのを思い出した。
ただここ最近膝の調子が思わしくなく、登山道から外れて歩くのは少し躊躇いがあったので、三つほどピックア
ップしてみた。其の内のひとつ『紅葉はイマイチかもしれませんが、山頂からの360度の大展望の山』と銘打
った那岐山にあっちゃんが食いついた。(事前に調べたYAMAPの活動日記には紅葉の様子をアップした写真が
あまり見当たらなかったので)
集合場所の丸亀からだと高速を利用するので、2時間強で登山口まで行ける距離。普段出かける四国の山とさほ
ど変わらない。津山ICを降り国道53号線を奈義町へと車を走らせる。
登山口の手前にある『那岐山麓 山の駅』でトイレを済ませて、那岐山登山口第一駐車場に車を停める。駐車場
には車が数台停まっていた。
駐車場で身支度を整えていると目に付いたのがこの注意書き。『ヌ・ヌ・ヌ8月と言えばつい最近じゃないです
か!』しかもCコースは今から登って行く道・・・・。
駐車場からしばらくは舗装路を歩いて行く。道の脇の木々は意外と色づいていていい感じだ。するとまた熊注意
の看板。『そうかここは熊の生息域に立ち入らせてもらってるんだ』
その先で道の右側に蛇渕の滝の道標。その道標の横から脇道に入って沢へと降りていくと、上手に何段かに分か
れた蛇渕の滝があった。
滝自体は高さもなく小滝といった感じで平凡だったが、渓谷に差し込む朝の光に照らされたモミジが幻想的で、
思わず声をあげて見入ってしまった。
渓谷から道に出る間にもまた熊の注意喚起の看板。しかも今度は写真付き。この後熊注意の看板は度々目にする
事になる。気になったので帰って調べてみると、今年の6月には那岐山から西の広戸仙の登山道で男性が噛まれ
て怪我をしていた。熊被害は北海道や東北の話だと思っていたのにこの辺りでも身近な事のようだ。
蛇渕の滝から少し歩くと登山道入り口になる。その取りつきから先でBコースとCコースの分岐になる。YAM
APの活動日記ではBコースとCコースで周回する人が多いが、今日はあっちゃんから山頂からAコースで周回
しましょうと提案があった。Aコース上には慈母峰・八巻山・大別当山があるので、YAMAPの山頂ポイント
を増やそうという魂胆だと思ったので、距離は少し伸びるけど素直に了承従うことにした。
Bコースの様子は分からないが、Cコースは取り付きからしばらくの間は大小さまざまな大きさの石がゴロゴロ
転がっていて歩きづらい。場所によってはその石を避けて道の脇を歩いて行く・
この那岐山は氷ノ山後山那岐山国定公園に指定されているだけあって、登山道の道標もしっかりした道標が続い
ていく。丸太で作った階段も、先週歩いた龍王山の丸太よりひと回り太くてしっかりしている。
気温が下がってきたとはいえやはり登りではまだ汗が噴き出る。途中で二人とも上着を脱いで登って行く。
ゴロゴロ石や丸太の階段をやり過ごすと、少し歩きやすい道になる。途中にあった水飲み場。細い塩ビのパイプ
から流れ落ちる水に手をやるととても冷たく、その手で顔の汗を拭う。
道は次第に急登になってくるとヒノキの林から自然林へと移って行く。すると上の方から何やら子供の声が聞こ
えてきた。あっちゃんにそのことを言うと、『下から?』と言うので『いえ上からです』と言った先に声は聞こ
えなくなった。
連絡した時は『紅葉は期待できないと思います』と書いてメッセージを送ったが、いやいや嬉しい期待外れ?こ
こまで来ると錦の中の登山道になる。『おかしいな~YAMAPの活動日記にはほとんど紅葉の写真が上がって
なかったのに』と思いながらも、今シーズン最高の紅葉に二人で感嘆の声をあげながら歩いて行く。
しばらく登って行くと大神岩の広場で子供たちの姿が見えた。さっき聞こえた子供の声は聴き間違いではなかっ
た。その人数の多さに驚いたのと、ここまで我々でも1時間20分ほどかかっているのに子供たちが、と驚いた。
引率の女性に話を聞くと岡山のあゆみ保育園の年長組さんで、ここからさらに山頂まで登るというのを聞いて、
さらに驚いた。
大神岩には「大日如来」「不動明王」の文字が刻まれているというので、岩の下を回り込んでみるが分からなか
った。その後岩の上に登ってみると眼下に奈義町の田園風景が広がっていた。
すると私たちが登っているのを見て、園児たちも登ってきた。普通なら危ないので引率の先生は止めるはずなの
に、逆に声をかけてどんどん登らせている。園児たちも慣れた様子で喜んで上がってきた。
段差が高くて上がりづらそうにしている園児のお尻に手を当てて押し上げてあげるが、先生たちはあまり手伝わ
ない。おそらくこの保育園はそういう教育方針なのだろう、多少危なくてもむやみには手をかけずにどんどん外
で遊ばせているようだ。
大神岩からは登山道の雰囲気が変わってきた。登山道というよりは広尾根で明瞭な道といった感じではない。
周りの木々も葉が散って明るさも増してきた。そのせいか風が吹き抜け少し肌寒くなってきたので、この道標の
建つ場所で脱いだ上着を着込む。
二つ目の神仏ポイントの須佐之男命と刻まれた文字は間近に見る事が出来た。この神仏ポイントから少し上で樹
林帯を抜けて、笹原が広がり始めた。
風はやはり強かったが、陽が当たるので思ったよりは寒くはなかった。スタートから2時間20分で稜線に出た。
左手には真新しいトイレが建っていて、右手には北に向かっての展望台があった。展望台からは西に向かって続
く稜線上に滝山が見える。そして東には那岐山山頂で何人かの人が休んでいるのが見える。
南東には山頂からの周回になる慈母峰。普通植林地の境界は線上になってはっきりしているが、慈母峰の植林地
は自然林に交わって斑になっている。逆光で陰になった道標が十字架に見える。
山頂の途中にある三つめの神仏ポイントにはこの山の由来にもなる「伊邪那岐命」のほかに「天照大御神」「奈
義神」の文字が刻まれている。
山頂の手前に屋根にエントツを構えた立派な避難小屋があった。時間は11時20分。お昼前だがあっちゃんが
『お腹が減ったと』騒がないうちに小屋の中でお昼にする。室内は10度をきっていたが風がない分暖かく感じ
る。
20分ほど休憩した後山頂へと登って行く。山頂手前で振り返ってあっちゃんに『子供たちはまだ来んやろね~
』と話をすると『ん~来てくれたらいいのに』と。
でも後ろに見える展望台をよ~く見ると、何やらゴゾゴゾと動いている。『いや~もう登って来てるわ!』とあ
っちゃんに言うと『早くこっちまで来ないかな?』と。
するとしばらく見ていると展望台からこちらに来ているのが見えた。そして避難小屋の前で集まっている。
山頂に着いたが360度の大展望どころではない。二人で園児の様子をずっと伺って、『避難小屋でお昼にする
かな?』『こっちでお昼にしたらいいのに』などと言いながら眺めていて、周りの景色を全く見ていない。
すると何人かの子らがこの山頂に向かって走り出した。『キャ~来る来る!』と大騒ぎ。
早い子はやはり走って登ってきた。先に登ってきていた先生と一緒になって『一番・二番・・・』と声をかける。
次々と登ってくる園児たち。ふざけてワザとへばったふりをする子もいたが、息を切らせていても一瞬で治まる
あたりはまるで小さなアスリートだ。そして集合写真を撮るというので自ら進んで買って出る。
一気ににぎやかになった山頂で園児たちがお昼にする様子。そんな園児たちを見ながらずっと目じりが下がりぱ
なしだった。写真をとってあげたのでこちらも先生に撮ってもらう。
園児たちに『バイバイ!』とあいさつをして山頂を後に東へ縦走路を歩いて行く。山頂からしばらくはドウダン
ツツジの並木が続いている。途中で振り返ると山頂、避難小屋そして展望台が見えた。
Bコースへの分岐の道標を越えて更に東に、1201mの標高点から今度は南に下って行く。ここからがAコー
スとなる。
分岐からは慈母峰との鞍部まで300mを一気に下って行く。足元もさほど良くはなく、少し膝に違和感が出始
めた。笹原から樹林帯へと入ると、また彩が目に飛び込んできた。下り坂だが右に左にと細かく足を運んでいる
と次第に暑くなってきた。
陽の当たりが薄くなるヒノキの林の中が体感温度が下がってちょうどいい。
稜線の分岐から30分で鞍部に着いた。林道の脇のススキの穂が陽に当たって輝いている。
さあここから慈母峰までがひと踏ん張り。長い階段状の道が続いていく。中腹位になると段差のある個所は、土
嚢袋を置いて段差を低くしてくれているのが助かる。
鞍部からは100mほどの標高差だが急でほぼ直登。とにかく息が切れるが、周りの彩を眺めながらだと幾分か
しんどさが軽くなる。
階段を登りきると慈母峰までの稜線は平坦な道になる。ベンチの置かれた場所からは、那岐山の稜線と山麓の
風景が見渡せた。
そのベンチの後ろの木の枝に、小さくて見逃しそうな山名札がかかっていた。山頂近くからこの慈母峰を見た時
に、植林地が斑になっているのが見えたが、那岐山の南面もの濃い緑が斑になっていた。
慈母峰から次の八巻山へと歩いて行くと、こちらも道の両側できれいな彩を見せてくれた。
道の横にある大岩を過ぎると尾根の西側が伐採地の頂部になった。伐採地の麓の少し先には朝トイレを使った那
岐山麓・山の駅が見えている。山の家の手前にはため池が見えているが、他にもあちこちにため池があるのが分
る。ちなみに県別のため池の数は香川が多そうに思えるが、やはり県の面積自体が小さいためか、数でいうと一
位は兵庫県の2万4000ヶ所になる。香川県が第三位で1万4000ヶ所だから、兵庫県のため池の数は圧倒
的だ。そして岡山県は第五位だった。
慈母峰からしばらく歩くとヒノキの林の中に、こちらは擬木の階段が続いていく。
擬木の階段が終わる途中の鞍部で菩提寺への分岐になっていた。菩提寺には大イチョウがあるそうなので、時間
が早く降りれれば、帰りにちょっと寄ってみようとあっちゃんに話をする。
更に道標に従って進んで行くと道の両脇に、八巻城跡の説明版が設置されていた。ここには説明版はあったが、
山名の標識や札がなかったが、YAMAPを見ると八巻山になっていたので取りあえず写真を撮る。
この辺りの林も錦のオンパレード。赤からオレンジ、そして黄色のグラデーション。少し薄い緑が混じっている
のもいい感じだ。予想もしなかった紅葉の波に『ご案内はしていなかったですが、割増料金になりますがよろし
いでしょうか?』と冗談であっちゃんに言ってみた。
錦の林を過ぎると今度はヒノキの林の中の道。地形図では鞍部まで何度も折れた破線が続いている。その地形図
通りに道は右に左にと何度もターンを繰り返す。
林床から伸びたシロモジだろうか?陽に当たって輝き、陰になったヒノキの幹とのコントラストが、その輝きを
ひときわ目立たせてくれている。
九十九折れの下り坂が終わると車道の上に出た。その車道を跨ぐようにしてつり橋がかかっていた。
橋の下の車道は菩提寺へと続く道だ。
つり橋を渡ると今日最後の登り坂。これを登ると四座目の大別当山になる。取り付きの階段を登ると、昔十円玉
を入れて右に左にパチンコを打つようにしてゴールさせるゲームを思わせる坂道。その道を登りきると大別当山
の山名札がかかっていた。
四座目をゲットしたのでさっそくもと来た坂を下りて行く。するとつり橋まで戻って来るとあっちゃんが『あ!
標高点まで行けていないわ』と言い出した。言われてYAMAPを見てみると、確かに591mの標高点まで行
けていなかった。『どうします?』と言われたが、もう気持ちは登る返す気にならない。『たぶん、山頂ピーク
はゲットできていますよ』と言って、そのまま車道を下って行く。
駐車場まで戻ると、もう神戸ナンバーの車が残るだけだった。
時間通りに戻って来られたので、途中で話をした菩提寺の大イチョウを見に行ってみる。
本堂から東に立つ大イチョウは今まで見た事もないような大きなイチョウの木だった。根元から何本も分かれた
幹から太い大きな枝が真横に伸びていた。その枝から下に向かって乳のような担根体がぶら下がっている。古木
で時々見られるというが、たしか梶ケ森に行く途中でも『八畝の乳イチョウ』があったと話をする。
樹齢900年となっているが、その樹皮の深い彫に重ねてきた長い年月を感じ、畏怖する感じてしまう。
今日は終日頭の中で那岐山とは全く関係ない、ピンクレディーの『渚のシンドバット』のフレーズが流れていた。
思わぬ園児たちとの出会い、そして予想していなかった彩さらにはこの大イチョウと、天候にも恵まれて久しぶ
りの10km近い山歩きに、心地よい疲れを感じながら高速道路を家路へと車を走らせた。
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