2020年の夏、梅雨明けを見計り、立山の浄土沢のほとりにテントを張って5日間を過ごしている間、天体は、さまざまに微笑んでくれた。
☆ 雨雲が、さあっと立山をかすめていってあとに大きく架かった虹
☆ 大日連峰のあかね雲
☆ 立山山頂の雄山神社の光と交歓する木星と土星の光
☆ 雄山神社から現れた満月と月の暈(かさ)
☆ 月の出る前に輝きを見せた夏の三角(白鳥座デネブ・こと座ベガ・わし座アルタイル)
お日様が沈んでしまっても、その光は惑星たちによって照り返されているし、仲間が数知れぬ光を届けてくれて、晴れた夜空はにぎやかだ。夜もテントの中で寝てばかりはいられない。
海抜2300m、夏山でも夜は震えあがりそうな気温だが、天空の光をゆっくり味わえるのはこの季節だけのもの。昼に山を歩かなくとも、晴れてさえくれれば、山は輝いていてくれる。
霊山・雄山の社の灯火から、木星が昇り、次に土星が昇り、とうとう大きな丸いお月様がぬうっと現れた時には、天と地上との何かしらの縁(えにし)というものを感じざるをえなかった。(天と地は、あそこでつながっている。)今だけの季節とはいえ、それを見ていた祖先たちは、お社の権現様に誘われ、月光菩薩様や阿弥陀様が、地上に降りてきたと随喜し、手を合わせたことだろう。
立山とお別れする日、山はまた、厚い雲と冷たい風雨に閉ざされた。夏山といえ、神々や仏たちの微笑みはいっときのものだ。
祖先と同じように、ふかぶかと額ずいて、コロナ禍の不安のなかでも、ひとときの至福をいただいたことに感謝して山を下りた。