立山の最終日に弥陀ヶ原の周遊をしようと思っていたが、室堂の山岳パトロールの方に「大雨の影響で獅子鼻岩付近のルートが崩壊して通行止めとなっています」と説明されたので、室堂から天狗平を1時間ばかり下ったあたりで引き返すことにした。
最後まで上天気、天狗平手前では、剱岳の金字塔が姿を現してくれた。弥陀ヶ原で仰ぐ剣のビューポイントはここだな、と脳内マーキングを行った。(あと、何度来られるというのだ・・)
熱心に花を撮影しているオジサンがいたので、何を撮っているのかと尋ねてみたら、「ピンクのチングルマです。この辺に時たま見られるんです。」とのこと、何かの遺伝子が変位したピンク種が天狗平近辺に咲いているのだという。
薄黄色の仲間に交じって、やや薄紅をにじませたもの、しっかりピンク色に染まった花が、ほんの少しだけ咲いている。
日本全国、あちこちの高山でチングルマを見てきたが、初体験である。願わくば、もうすぐワタゲになって風に飛ばされ、この種の遺伝子を持った種が弥陀ヶ原に広がってくれれば・・・
目の前をハラハラと飛んでいく羽虫がいたので、草に止まったところを撮影したが、すぐにまたハラハラとどこかに飛んで行った。見たこともない姿かたち、カゲロウにしてはしっかりした飛翔をしていた。カメラの記録を覗くとオメメが愛らしい。
まったく、どのような生き物か見当もつかないので、「図鑑.JP」の掲示板に質問をしてみたら「スカシシリアゲモドキの雌ではないか」との回答をいただいた。恥ずかしながら、60数年生きてきて「初めて耳にする生きもののお名前」。
ネットで、確認したところ背中方向から見ると大きな羽をもった、まるで異なる昆虫ではないかと訝しくもなったが、「羽を閉じたメスを真横からとるとこういう姿かたちになるのではないか、もっと違う角度からとっとけばよかった」と悔やまれた。5月ごろに成虫となるみたいだが、「スカシシリアゲモドキ」の高山型という種もあって、高山では7月ごろも観察されるようなので、この虫さんでいいのだと、言い聞かせた。
見たことも、名前も分からない虫さんをもう二匹。
これも「図鑑.Jp」さんのお世話になり、「カオジロトンボ♀」と教えられた。正面から見れば、お顔の白さが分かったのだが、背中からだけの写真では見当もつかなかった。それにしても、世の中には、昆虫のエキスパートさんがいるもんだと感心した。上記のシリアゲモドキを教えてくれた方と同じ。「さすが!」
このバッタさんは、ネットで何とか探し当てた。♂♀不明であるが、蝗(いなご)の仲間で、「ハネナガフキバッタ」という名前と分かった。
トンボもバッタもシリアゲさんも、目の前にササっとやってきて、もっとカメラを向けたらササっとどこかに行ってしまった。高原に秋風が吹く頃には、もう子孫を残してこの世とお別れするのだろう。彼らには、「不要不急の外出」とか「今年は特別の夏」などない。1回限りの大事な時間を懸命に生きているのだろう。昆虫図鑑もそろえて、名前はもちろん、生態も学ぶとなにかしら教わるものがあるかもしれない。
昼を回り、帰り路につく頃、剱岳に雲が湧いてきて、あっという間に姿を隠した。「不易流行」、「不易流行」・・・・思い出した芭蕉翁のキーワードをかみしめる。
ドカッと動かず、不易の代表選手みたいな岩山だって地質学の立場からはものすごいスピードで変容を遂げているのかもしれない。流行の代表選手みたいな気象現象と、その質の異なるスピードが目の前に現れているにすぎない。あらゆるものは流れゆく雲みたいなものではないかな・・・