みゆきさんは新譜のライナーノーツに、あとがきーーー「世界が違って見える日」ーーーというメッセージを寄せている。
そのため、このアルバム名にこめられたみゆきさんの心境が理解できる。
著作権上全文を書き留めることはできないが、要旨以下のとおりである。
「私たちを取り巻く世界は、ある出来事による心の変化により希望に満ちた世界に見えてくることがある。目の前の180°が、ある出来事によって絶望的な世界に見えることがあるかもしれないが、次の瞬間に希望方向に見えてくるような出来事が生じるように願ってます。」
神戸や東日本大震災、コロナのような疫病、ロシアのによるウクライナ侵攻、トルコ・シリアの大地震と私たちが生きている世界には人々を絶望方向においやる出来事がくりかえし、頻繁に起こっているし、私たちの身辺にだって、親しい人々との死や別れ、命にかかわる病気の診断など絶望の淵に追いやるような出来事が繰り返されている。一寸先は闇、生老病死、この世は絶望に満ちた世界かもしれないが、180°がむつかしくても、90°でも、10°でも希望の光がさすことがあるじゃないか、そういう出来事がやってくることを祈ってます、というメッセージなのだろう。
このアルバムを毎夜コンサートに出かけた時のように聴いているが、これもそうした出来事の一つになりうるだろう。希望方向行きの列車に乗った気分になってくる。元気が湧いてくる。
みゆきさんのこのメッセージを読んで、オイラはすぐに寅さんのメッセージを思い出した。
寅さんの第39作「男はつらいよ寅次郎物語」で、かなわぬ恋に絶望を感じた甥の満男が、寅さんに「人間って何のために生きているのか」と問われた際に寅さんは以下のように答えた。
「何というかな ああ生まれてきて良かった、そう思うことが何べんかあるだろう。そのために生きてんじゃねえか。そのうちお前にも そういう時が来るよ、な! まあ、がんばれ」
どうも寅さんもみゆきさんと同じことを言って私たちを励ましてくれているようだ。
3月2日の夜に、NHK「SONGS」が中島みゆき特集をやっていたが、みゆきさんは、この番組で上記「あとがき」全文を読んでいた。よっぽどこの激励のメッセージに思いがあるのだろう。
yahooニュースを見ていたら、SNS上では、この番組に登場した工藤静香さんにバッシングともいうメッセージが多数寄せられ、いわゆる「炎上」しているという。
・工藤静香さんが勝手に「ヘッドライト・テールライト」の歌詞を解釈している
・楽曲の提供もあってか、いかにも工藤さんがみゆきさんと懇意にしているという態度が気に食わない
・工藤静香はいいから、みゆきさんの歌ばかり流してほしかった
などなどだ。だがオイラはこの番組を見てちっとも違和感が感じなかったし、工藤さんばかりでなく、MCの大泉さんや戸次さんもしっかりみゆきさんをリスペクトしてくれていたと思っている。みゆきさんには、熱狂的な信者が多数いることは知って入るが、このようなファンが、番組の工藤さんを「うざったい」と思ってバッシングしているのだろうか。(オイラは工藤さんのファンではないからこれまでの彼女の態度が女性たちに嫌われている理由、あるいは木村拓哉の妻だということが女性たちを穏やかにしていないのか、その辺のことは分からない)
SNS上のこのような他人を傷つけるような心ないメッセージは、みゆきさんが最も嫌うことではないのだろうか。そのような悪意をみゆき信者は発してほしくない。
みゆきさんの新アルバムで最も気に入ったのは、10曲目、最後に歌われる「夢の京(ゆめのみやこ)」だ。この歌にめずらしくみゆきさんが「作者註」をよせている。要旨は、
「失われた京(みやこ)は夢で見ようということではない。人間は夢の中に京(みやこ)の設計図を持ち続けるだろう。どんな暴力もそのような夢を奪うことはできない。未来を恐れるな。」
ということ。まるで、ロシアにより故郷を破壊されつくされているウクライナの人々に語りかけてくれているようだ、と思うのはオイラだけだろうか。
今宵もみゆきさんの歌を聴きながら、「倶(ともに)」生きている時代を喜ぼう。
*「倶(とも)に」は旧漢字が正しいとあるがワープロでは出てこない。ジャケットではしっかりと直されている。
Netofix Japanさん提供