三月のはじめ、カタクリやスミレの花がまだ地上に現れない森を歩きながら、短いワルツ風のメロディが何度も繰り返し、脳内から口元にかけて再生されてきた。曲名と作曲者が出てこないので少し悶々として帰った。
家に帰って、Youtubeで調べたらショパンの遺作に分類されるホ長調のワルツだった。
きっと、口に出たワルツは、最近寝床でYoutubeなどにアップされているショパンものを聴きながらウツラウツラと聴いていたことが原因で、どこか脳内にストックされていたのだろう。ショパンのワルツの中で有名な曲ではないが、このワルツや同じ遺作の変ホ長調のものも含めて、どこか儚く、消え入るようなメロディーで、スプリングエフェメラル、早春の花たちにふさわしい音楽だと思った。
早春にはいつも「再生」という言葉が湧いてくる。「死と再生」のうち春を再生の季節だと思うからだろう。
国語の辞書で「再生」という言葉を引く。
① 衰え死にかかったものが生気を取り戻すこと
② 動植物が失われた部分を新たに作り出すこと
などに並んで、
③ 録音・録画したレコードやテープなどをかけて、もとの音、映像を出すこと
などと記されている。
①②も③も、実は全く関連のない次元の意味ではないのかもしれない。
①も②も、宗教やファンタジーのように「無」から突然「有」が出現するとは言っていない。死にかかったり、失われた部分が「復活」すると言っている。
植物も動物も「死にかかった生気」や「失われた部分」をDNAなどの記憶装置に留めておいて、あたかもレコードやテープをかけることによって音や映像をだすように、もとの姿を現すのだろう。
道端にヒメオドリコソウのピンクが再生されていた
アリス・サラ・オットさんのピアノで、ショパンのホ長調、変ホ長調の遺作ワルツを聴く