日本においては、有明海沿岸の干潟にしか生息していない「むつごろう」という魚を、このあたりでは「むっちゃん」と呼ぶ。
有明海の干潟に順化した特殊な魚であるようだ。
魚類ではあるが、潮が引いた後の干潟の上では、両生類ででもあるかのように胸びれを器用に使って潟の上を移動する。
魚だから当然のことながら水中でも生存でき、また空気中でも潟の上でかなり長時間活動できる。
初夏から秋の終り頃にかけて、潮が引いた干潟の上を、「むっちゃん」は潟の上に成長した圭藻類を食べるために、巣穴の周りを活発に動き回る。
その巣穴から出ている時の「むっちゃん」を、長い竹ざおとその先に結びつけたヨマ(道糸)の端に取り付けた手作りの特殊なかけ鉤を使って、引っ掛けて獲るのが「むっちゃんかけ」である。
その手作りの特殊なかけ鉤そのもののことも、「むっちゃんかけ」と呼ぶ。
「むっちゃんかけ」ば作っち「むっちゃんかけ」に行くというような言い回しになる。
「むっちゃんかけ」という道具を作って、それを持って「むっちゃんかけ」という漁獲行為を実行しに行くという意味である。
初夏から秋口にかけての学校が休みで晴れた日の干潮時には、長いさおを担いで千鳥川の干潟に出かけ、「むっちゃんかけ」をするのが私の遊びの主役だった。
河川堤防の上から、干潟の巣穴から出ている「むっちゃん」を「むっちゃんかけ」を使って、二通りの方法のうちのいずれかの方法で、かけ鉤に引っ掛けて獲る。
小学生ぐらいの初心者が用いるのは「待ちがけ」という方法である。
「むっちゃん」は通常は一匹で一つの巣穴を持っている。
その「むっちゃん」が隠れた巣穴のすぐ脇の20cmぐらい先のほうに「むっちゃんかけ」のかけ鉤をセットして、「むっちゃん」が這い出してくるのをジッと待つ。
巣穴から這い出してきて、かけ鉤と繋がっているヨマ(道糸)の上に体を乗せた瞬間に、さおを引っ張って「むっちゃん」を引っ掛けて獲る。
中学生ぐらいの中級者が用いる方法は、「待ちがけ」より高度な技能を使う方法である。
巣穴から出ている「むっちゃん」を直接狙うのである。
狙いをつけた「むっちゃん」より1mぐらい先の方に、なるべく音がしないように、さおのしなりを利用して静かに「むっちゃんかけ」を落下させ、「むっちゃんかけ」とヨマ(道糸)の方向が「むっちゃん」のいる方向に合致するように狙いをつけ、「むっちゃん」より50cmぐらいの所まで掛け鉤を近づけておいてから、「むっちゃんかけ」を一気に引っ張って引っ掛けて獲る。
テレビ番組などでよく放送しているような「むっちゃんかけ鉤」が空中を移動している瞬間に引っ掛けて獲るというような芸当は、干潟面よりかなり高い位置である堤防面からの「むっちゃんかけ」ではほとんど使えない。
あのようなことは、超上級者つまりプロ級の技能者にしかできない。
中学生ぐらいになると、半日程度「むっちゃんかけ」をすれば、20匹や30匹ぐらいは掛ける事ができるようになっていた。
夕方その日の漁獲物をぶら下げて家に持ち帰り、自分でさばく。
さばくといっても、はらわたを出してきれいに水洗いするだけである。
うろこは、ほとんど気にならないように細かくて薄いので、落とさなくても良い。
味噌炊きか、蒲焼にして食べる。から揚げにしても美味である。
夏になると、必ず何日かに一度は、私の漁獲物である「むっちゃん」料理が我が家の食卓の一品として並んでいた。
干潟における自然の生産力は相当なもので、一夏中大勢の子どもたちが「むっちゃんかけ」で「むっちゃん」を獲っても、その魚が絶滅するということなど絶対にありえない。
そこに「むっちゃん」が生息し、それを捕獲して食するというのは、地域文化のひとつでもあった。
今でも家の裏の千鳥川で、休日ともなると子どもたちが楽しそうに魚釣りをしている。
かつてその川では「むっちゃん」や「はぜ」がいたという事も知らないような地元の子どもたちが、潮が遡上しなくなった干潟の消滅した川で。
千鳥川河口部での「むっちゃんかけ」は、過去の事柄として語り継がれるという選択肢しか無い訳ではないと思うのだが・・・・。
有明海の干潟に順化した特殊な魚であるようだ。
魚類ではあるが、潮が引いた後の干潟の上では、両生類ででもあるかのように胸びれを器用に使って潟の上を移動する。
魚だから当然のことながら水中でも生存でき、また空気中でも潟の上でかなり長時間活動できる。
初夏から秋の終り頃にかけて、潮が引いた干潟の上を、「むっちゃん」は潟の上に成長した圭藻類を食べるために、巣穴の周りを活発に動き回る。
その巣穴から出ている時の「むっちゃん」を、長い竹ざおとその先に結びつけたヨマ(道糸)の端に取り付けた手作りの特殊なかけ鉤を使って、引っ掛けて獲るのが「むっちゃんかけ」である。
その手作りの特殊なかけ鉤そのもののことも、「むっちゃんかけ」と呼ぶ。
「むっちゃんかけ」ば作っち「むっちゃんかけ」に行くというような言い回しになる。
「むっちゃんかけ」という道具を作って、それを持って「むっちゃんかけ」という漁獲行為を実行しに行くという意味である。
初夏から秋口にかけての学校が休みで晴れた日の干潮時には、長いさおを担いで千鳥川の干潟に出かけ、「むっちゃんかけ」をするのが私の遊びの主役だった。
河川堤防の上から、干潟の巣穴から出ている「むっちゃん」を「むっちゃんかけ」を使って、二通りの方法のうちのいずれかの方法で、かけ鉤に引っ掛けて獲る。
小学生ぐらいの初心者が用いるのは「待ちがけ」という方法である。
「むっちゃん」は通常は一匹で一つの巣穴を持っている。
その「むっちゃん」が隠れた巣穴のすぐ脇の20cmぐらい先のほうに「むっちゃんかけ」のかけ鉤をセットして、「むっちゃん」が這い出してくるのをジッと待つ。
巣穴から這い出してきて、かけ鉤と繋がっているヨマ(道糸)の上に体を乗せた瞬間に、さおを引っ張って「むっちゃん」を引っ掛けて獲る。
中学生ぐらいの中級者が用いる方法は、「待ちがけ」より高度な技能を使う方法である。
巣穴から出ている「むっちゃん」を直接狙うのである。
狙いをつけた「むっちゃん」より1mぐらい先の方に、なるべく音がしないように、さおのしなりを利用して静かに「むっちゃんかけ」を落下させ、「むっちゃんかけ」とヨマ(道糸)の方向が「むっちゃん」のいる方向に合致するように狙いをつけ、「むっちゃん」より50cmぐらいの所まで掛け鉤を近づけておいてから、「むっちゃんかけ」を一気に引っ張って引っ掛けて獲る。
テレビ番組などでよく放送しているような「むっちゃんかけ鉤」が空中を移動している瞬間に引っ掛けて獲るというような芸当は、干潟面よりかなり高い位置である堤防面からの「むっちゃんかけ」ではほとんど使えない。
あのようなことは、超上級者つまりプロ級の技能者にしかできない。
中学生ぐらいになると、半日程度「むっちゃんかけ」をすれば、20匹や30匹ぐらいは掛ける事ができるようになっていた。
夕方その日の漁獲物をぶら下げて家に持ち帰り、自分でさばく。
さばくといっても、はらわたを出してきれいに水洗いするだけである。
うろこは、ほとんど気にならないように細かくて薄いので、落とさなくても良い。
味噌炊きか、蒲焼にして食べる。から揚げにしても美味である。
夏になると、必ず何日かに一度は、私の漁獲物である「むっちゃん」料理が我が家の食卓の一品として並んでいた。
干潟における自然の生産力は相当なもので、一夏中大勢の子どもたちが「むっちゃんかけ」で「むっちゃん」を獲っても、その魚が絶滅するということなど絶対にありえない。
そこに「むっちゃん」が生息し、それを捕獲して食するというのは、地域文化のひとつでもあった。
今でも家の裏の千鳥川で、休日ともなると子どもたちが楽しそうに魚釣りをしている。
かつてその川では「むっちゃん」や「はぜ」がいたという事も知らないような地元の子どもたちが、潮が遡上しなくなった干潟の消滅した川で。
千鳥川河口部での「むっちゃんかけ」は、過去の事柄として語り継がれるという選択肢しか無い訳ではないと思うのだが・・・・。