怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」 名越康文

2015-04-10 20:46:14 | 
今の日本は閉塞感に満ちていて、日本人の心が疲弊していると言われています。
実際、自殺者は3万人は割り込んだとはいえ依然高い水準を保っていますし、引きこもりや無差別殺人のような事件も絶えません。
そんな中で生き難い今を生きるにはどうすればいいのかを実践的な方法を示した本です。著者は精神科医で、日々の診療での経験をもとにしているのですが、とは言っても現代の日本社会への洞察から単なるハウツー本にはなっていません。

複雑化する社会の中で、今の社会は「規範とする基準」を持ち合わせていません。「何のために生きるのか」の答えを現代人は十分に持ち合わせていないのです。そこには戦後の日本が「宗教性」をなくし、社会維持システムの枠を超えた普遍的価値観を体得している人(それはいわゆる賢者と言うかお坊さんであったり、理知的に陶冶された村長さんであったりするのですが)もいなくなってしまったことがあるのでしょう。
結果として心が小さい範囲での合理主義に縛られてしまっています。損得勘定で物事を見、効率や能率を価値観として追求すれば、未来の結果と過去の結果に心を引きずられて不安に苛まれて閉塞感から抜け出せなくなってしまうのです。
しかし、人間の充実感というのは本当は過程の瞬間瞬間にしか得られないものではないのか…
損得勘定に囚われるのではなく、その分無駄な精神エネルギーを使わないなら、心に余裕や落ち着きが出てくるし、その余剰として他人への受容力が生まれてくる。日常のミニマムレベルで見ると不合理な姿をしているかもしれないが大きな合理性を持った「徳のある人」に近づき、広い意味で人生が成功の方向に向いてくるのでは。
そして性格は変わらないけど、心はものすごく変わりやすい。例えて言えば心は一つの特殊な部屋のようなものでその部屋のジャックをつなぎ替えれば現実に起こっている事態は同じでも外界の物事は天国にも地獄にも見えてしまう。実践としてどうすればいいかと言うと、心に光がさすような感じ、気持ちが晴れやかになる瞬間の感覚を日常的に保持していると、ある程度平常心を保って生きていけるようになる。それは、公園で大きな樹に抱きつくとか神社で手を合わせて一心に拝むとかで感じる感覚を保持するということなのでしょうか。
うつというのは、心を車にたとえて言うと、ブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいる状態。だから動けないままエネルギーはどんどん消費される。
うつ状態になって誰にも相談できずにいる時に親切心でよく「気分転換しに旅行でも」とアドバイスを言う人がいますが、うつ状態というのは状況が地獄なのではなくて、自分の心の中が地獄と思った方がいい。その場合無理な気分転換がかえってストレスを感じてしまう。ネガティブな「頭の暴走」「意志の暴走」に翻弄されてしまうのです。
こうしたストレスから逃れるための本当に効果的な方法は、集中力を高める訓練以外にはないそうです。一番効果的な方法は朝の過ごし方で、起きてから1時間の間に、どういう風に準備ができるのか、意識を上げられるのか。自動操縦で漫然と習慣的な作業をこなすのではなく、ベッドから起きたら深く呼吸して、できるだけ一つ一つの行動を意識化して、ちょっと集中してみる。
寝床でいつまでも居続けると、頭の中はいろいろ空想してしまっていることが多く、精神的な疲れとかダメージを抱え込んでしまう。とにかく起きあがってみましょう。目の前のことにちゃんと取り組むことによって「今ここ」の自分の心の状態を意識化することが大切です。
イライラとか不安とか恐怖とか落ち込みある種の傲慢さ、これらは全部形を変えた怒りともいえ、「感情的になる」とは「怒りの感情を持ってしまう」ということなのです。そして人間が最もエネルギーを浪費するは感情的になった時です。感情的にならないためには、とにかく自分の感情を客観視してネガティブな感情と自分を切り離すことです。失恋、貧困、人間関係のもつれ等々の外的要因は最後まであきらめずに取り組めば、どこかで何らかの問題を解く糸口が見つかるかもしれないけど、心の中で止めどもなく作り出される妄想というかネガティブ思考の連続は死に至る心の病となりかねない。
それを止めるには、その自分の状態をまず「自覚する」ことなのですが、まずは一日一回一分だけでいいので集中しましょう。たとえば自分の腕をゆっくり上げながら「右腕上げます、上げます、止めます、下ろします、下ろします。」というように「今ここ」だけに集中すれば心に湧いてくるネガティブな思考が、その最中だけは確実に締め出されて、その瞬間フッと楽になる。
ところで仕事が面白くない、やりがいがないという人が多いのですが、もともと仕事というのはニーズがあって初めて成り立つもの。世の中に自分のやりたいことだけやって生計を立てている人はほとんどいないのです。「やりたい仕事」ではなくて「与えられた仕事」をできるだけクリエイティブにこなそうとする姿勢を持つことです。与えられた仕事に創意工夫をしてこそ、自分の仕事だという感覚を持てるのです。そこから仕事を楽しむことができ人生を充実していくことができる。
そうは言ってもノルマは厳しくいろいろなプレッシャーがかかることもあります。その場合は「所詮仕事」という割り切りも必要。そもそも仕事は何のためにするのかと言えば「生きていくため、あるいは人生を幸福に過ごすため」と自分で自分に問いかけることができたら、見方がかなり変わってくるかも。
とにかく「人生一寸先は闇、だから今を生きよう」
最後のほうは仕事の啓発本みたいなところもありますが、生き難い世を生きる具体的知恵を教えてくれます。

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