東西冷戦終了後、アメリカ一強になりパックスアメリカが実現するかと思いきや、中東は混迷の度合いを深め、ウクライナ問題は解決のめどはなく、中国は膨張を続けていて、世界は混とんとしている。この本はそんな戦争の世紀となった今を当代の売れっ子、佐藤優と池上彰が縦横無尽に語ったもの。
14年11月に発行して12月には5刷。書評にもよく取り上げられて売れていますね。
内容は多岐にわたっていますが、どうもこの日本はこれでいいのかと思ってしまうようなことばかり。安倍総理が「集団的自衛権」にこだわっているのはおじいさんの岸信介に対する思いと言われるとなにやら寒気がします。
ともかく今の世界を占うのは民族と宗教。中国は多民族国家で、ウイグル人、チベット人を包摂することには難しい。自治区も建前としてはトップにその民族の人を持ってくるのですが、下の幹部は全部漢民族が押さえた傀儡政権。共産党のいうことを聞かない民族、宗教は許そうとしていません。中国はほかっておくと国がばらばらとなってしまう危険があるわけで、イスラム主義とウイグル民族主義の交わるウイグル問題は国家安定のためには尖閣列島なんかよりははるかに大事。尖閣列島は経済発展のために必要なんでしょうがわざわざ紛争を起こす必要はない。いみじくも中国ウオッチャーのロシア人が「ウイグルで衝突が起きたら日本は一息つけますね」と言っていたそうです。
中国について言うと外務省の国際情報局長をしていた孫崎享の「不愉快な現実」を読むと統計を見ても中国の大国化は必然であり、アメリカはもはや日本よりも中国を重視している。いつまでもアメリカが日本を律儀に大事にしてくれるというのはこちらの片思い…
すでに国防費ではアメリカに追いつき、軍事的にも力をつけてきている。貿易相手国としてはアメリカにとって日本よりも重要な国となっており、いずれはGDPもアメリカを抜くのだろう。そんな中で増大する国防費を賄いきれないアメリカの戦略は部分撤退を図りつつ、その分を同盟国で穴埋めさせ共通の敵にあたらせるというオフショア―・バランスを取っていくのだろう。アメリカがいつまでも伝統的な日米関係を重視するという選択肢を取ると信じるのは日本だけ。これからの日本の対中国戦略をよく考えないといけない。今回のアジア投資銀行の参加状況を見れば、すでに世界の主要国はアメリカの懸念にもかかわらず大国となった中国に迎合しようとしており、日本だけがアメリカのポチとして頑なに判断を停止している。
もちろん中国についてはいろいろな問題を抱えており、統計数字も信憑性を欠き、これから人口も減ってくることから将来的にもアメリカを凌駕することはできないという意見も多いのだが、今のままの成長はできないにせよ超大国の道を歩んでいることは確かであろう。
もう一つの焦点は中東情勢。ここではまさに宗教が問題になっています。アラブの春で何か変わると思っていたが、春が過ぎれば厳しい夏になっているみたいです。アラブの春によって民主的な選挙が行われたらイスラム主義の政党が勝利して世俗派とか軍と衝突して混乱する。あるいは宗派ごとに内部抗争して内戦状態になる。こうなるとアラブ諸国の現段階で民主主義がいいのかということになるのですが、イスラムとは何か、イスラム原理主義とは何かを手際よく解説してあります。イスラム国が登場してくる背景にはイラク戦争があり、結果シーア派政権に反発するスンニ派地域が統治の空白地帯になってしまいイスラム国が支配する地域になってしまった。ここにシリアの内乱も絡み敵の敵は味方の論理とかサウジとイランやイスラエルの思惑もあって日本人には訳が分からない状況になっています。その訳が分からない状況を解き明かしてくれるのですが、どうも混沌とした状況は簡単には収まらないみたいです。
根底にはアメリカの内向きの志向があるのですが、国論は分裂していて経済は独り勝ちと言われていても、オバマは早くもレイムダックと化していて史上最も弱い大統領などと言われています。どうしてかとなるとオバマは教養があって熟慮するタイプで決断が遅いのだからと言われると考えてしまいます。ブッシュはあまり考えることなく決断したのですが、その決断がイラク戦争となり現在の混沌とした中東情勢のもとになっているのですから、大衆社会における指導者の資質というものを考えてしまいます。勇ましい言辞でぐいぐい引っ張っていくのは魅力的かもしれませんが、その先に待っているものは恐ろしいものです。今の民主選挙にはそういう危険性を秘めているだけに一時のブームに乗ってあまりにも単純に世の中を割り切っていく人には危うさを感じます。
イデオロギー対決による冷戦は終わりましたが、資本の過剰を背景にして、新たな帝国主義の時代に入っています。そのなかで各国は民族感情や宗教感情を奮い立たせて「過去の栄光をもう一度」と画策しています。ロシアは旧ソ連の力を、中国は明や清の時代の領土を、イスラム国は、東はインド西はスペインまでのイスラム帝国を夢見ています。
こういう嫌な時代を見通す冷厳な目を養うことが肝要でしょう。
14年11月に発行して12月には5刷。書評にもよく取り上げられて売れていますね。
内容は多岐にわたっていますが、どうもこの日本はこれでいいのかと思ってしまうようなことばかり。安倍総理が「集団的自衛権」にこだわっているのはおじいさんの岸信介に対する思いと言われるとなにやら寒気がします。
ともかく今の世界を占うのは民族と宗教。中国は多民族国家で、ウイグル人、チベット人を包摂することには難しい。自治区も建前としてはトップにその民族の人を持ってくるのですが、下の幹部は全部漢民族が押さえた傀儡政権。共産党のいうことを聞かない民族、宗教は許そうとしていません。中国はほかっておくと国がばらばらとなってしまう危険があるわけで、イスラム主義とウイグル民族主義の交わるウイグル問題は国家安定のためには尖閣列島なんかよりははるかに大事。尖閣列島は経済発展のために必要なんでしょうがわざわざ紛争を起こす必要はない。いみじくも中国ウオッチャーのロシア人が「ウイグルで衝突が起きたら日本は一息つけますね」と言っていたそうです。
中国について言うと外務省の国際情報局長をしていた孫崎享の「不愉快な現実」を読むと統計を見ても中国の大国化は必然であり、アメリカはもはや日本よりも中国を重視している。いつまでもアメリカが日本を律儀に大事にしてくれるというのはこちらの片思い…
すでに国防費ではアメリカに追いつき、軍事的にも力をつけてきている。貿易相手国としてはアメリカにとって日本よりも重要な国となっており、いずれはGDPもアメリカを抜くのだろう。そんな中で増大する国防費を賄いきれないアメリカの戦略は部分撤退を図りつつ、その分を同盟国で穴埋めさせ共通の敵にあたらせるというオフショア―・バランスを取っていくのだろう。アメリカがいつまでも伝統的な日米関係を重視するという選択肢を取ると信じるのは日本だけ。これからの日本の対中国戦略をよく考えないといけない。今回のアジア投資銀行の参加状況を見れば、すでに世界の主要国はアメリカの懸念にもかかわらず大国となった中国に迎合しようとしており、日本だけがアメリカのポチとして頑なに判断を停止している。
もちろん中国についてはいろいろな問題を抱えており、統計数字も信憑性を欠き、これから人口も減ってくることから将来的にもアメリカを凌駕することはできないという意見も多いのだが、今のままの成長はできないにせよ超大国の道を歩んでいることは確かであろう。
もう一つの焦点は中東情勢。ここではまさに宗教が問題になっています。アラブの春で何か変わると思っていたが、春が過ぎれば厳しい夏になっているみたいです。アラブの春によって民主的な選挙が行われたらイスラム主義の政党が勝利して世俗派とか軍と衝突して混乱する。あるいは宗派ごとに内部抗争して内戦状態になる。こうなるとアラブ諸国の現段階で民主主義がいいのかということになるのですが、イスラムとは何か、イスラム原理主義とは何かを手際よく解説してあります。イスラム国が登場してくる背景にはイラク戦争があり、結果シーア派政権に反発するスンニ派地域が統治の空白地帯になってしまいイスラム国が支配する地域になってしまった。ここにシリアの内乱も絡み敵の敵は味方の論理とかサウジとイランやイスラエルの思惑もあって日本人には訳が分からない状況になっています。その訳が分からない状況を解き明かしてくれるのですが、どうも混沌とした状況は簡単には収まらないみたいです。
根底にはアメリカの内向きの志向があるのですが、国論は分裂していて経済は独り勝ちと言われていても、オバマは早くもレイムダックと化していて史上最も弱い大統領などと言われています。どうしてかとなるとオバマは教養があって熟慮するタイプで決断が遅いのだからと言われると考えてしまいます。ブッシュはあまり考えることなく決断したのですが、その決断がイラク戦争となり現在の混沌とした中東情勢のもとになっているのですから、大衆社会における指導者の資質というものを考えてしまいます。勇ましい言辞でぐいぐい引っ張っていくのは魅力的かもしれませんが、その先に待っているものは恐ろしいものです。今の民主選挙にはそういう危険性を秘めているだけに一時のブームに乗ってあまりにも単純に世の中を割り切っていく人には危うさを感じます。
イデオロギー対決による冷戦は終わりましたが、資本の過剰を背景にして、新たな帝国主義の時代に入っています。そのなかで各国は民族感情や宗教感情を奮い立たせて「過去の栄光をもう一度」と画策しています。ロシアは旧ソ連の力を、中国は明や清の時代の領土を、イスラム国は、東はインド西はスペインまでのイスラム帝国を夢見ています。
こういう嫌な時代を見通す冷厳な目を養うことが肝要でしょう。