怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

村田沙耶香「コンビニ人間」

2024-09-16 21:30:14 | 
今評価の高い村田沙耶香の芥川賞受賞作です。

主人公の古倉恵子は子どもの頃から空気を読めないと言うか思ったことを忖度せずに実行してしまい、数々の問題行動を起こしていた。
家庭に問題はなく、カウンセリングを受けたりしても変わらない。それでも周りが困惑していて自分の思ったことを素直に口に出したり行動にしたりはいけないことだとは理解して、心に鎧を着せて世間をやり過ごして生きてきた。
今ならば問題行動の何らかの診断名をつけているんだろう。いずれにしても本人にしてはずっと仮面をかぶったような不本意な人生を生きていかなくてはいけない。
そんな時に出会ったのがコンビニ。そこは光り輝く空間で、すぐにアルバイトの店員として働いてみるとそんな自分の居場所を初めて見つけた。それまで自分の周りのどこにも居場所がなかったのに、コンビニの店員として働くことで世界の正常な部品になることが出来た。
以来そのまま就職はせずにアルバイトのままコンビニ店員として十数年。大学を卒業して普通に就職することもなく同じ店でアルバイトをし続ける。その間に店長は8人替わり、一緒に働きだした店員は一人も残っていない。店の商品さえもあの日のものは1つも残っていない。
それでもコンビニには完璧なマニュアルがあって、店員になることは出来たのだが、マニュアルの外でどうすれば普通の人間になれるのかは分からないまま。コンビニの店員になることによって周りから変わっていると思われていても、辛うじて自分を正常な人間にしている。
そんな古倉さんですが、偶然と言うかひょんなことから短期間同僚の店員として働いた白羽がアパートに転がり込んでくることに。白羽は絵にかいたような腐れ男で、世の中を恨んでいるばかりでまともに働こうともせず、縄文時代までさかのぼっても世界は間違っているままだと言うのが口癖。それでもいつまでも結婚もせずにコンビニのアルバイト店員でいることに対する世間の厳しい目を逃れるためには一緒に住んでいる男が出来たと言うのは普通の生活ができるようになったと言うアリバイつくりにはいいので、そんなヒモというしかない男でも一緒に住むのはいいのかとなる。因みに肉体関係はない。
この白羽、古倉が何時までもアルバイトの店員ではヒモとしての旨味がないと思ったのか、就職しろと盛んに勧めて面接試験までセットしようとする。
いやいやながらもコンビニをやめて就職試験を受けようとするのだが…
全てのことがマニュアル化されていて一つの完結した世界であるコンビニ。店員はそこでは何も悩むことなく世界の一つの部品になることが出来る。
主人公の古倉も同居した白羽もこの世界の不適合人間なんだろうけど、古倉にとってコンビニこそが約束の地だとは。
社会に疎外されがちな現代人の在り様を考えさせられます。
さすが芥川賞受賞作、150ページほどの小説ですが、いろいろ考えさせられる読後感でした。

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