久し振りのアカデミックな本です。
巻末には参考文献と索引がちゃんとあります。
小池先生は私の大学時代には「賃金論」の講義を担当していました。その切り口は斬新で、労働現場での丹念な聞き取り調査による分析はいわゆる通説を完膚なきまでに論破していて目からウロコ。分野が労働経済とマイナーなので知る人ぞ知るなのですが、飯田經夫教授と並ぶ経済学部の看板教授だった(と書くと水田洋教授とか平田清明教授はどうしたと言われそうですが思想史の人はちょっと置いといて)と思います。
今回は非正規労働についての論考なのですが、非正規雇用の機能が通説のように雇用調整機能と低賃金活用だけならば、なぜ企業は正社員を雇用するのか、市場経済の下では全員が非正規労働者になってしまうのではないのかという問題意識から論考が進みます。
詳しいことは興味のある人に読んでもらうにして、非正規労働者を雇用する機能としては、
・人材選別機能
・雇用調整機能
・低賃金活用
の3点があり、人材選別機能の重要性を強調しています。
正規と非正規は現場でどうすみ分けていてどういう仕事をしているかを見てみるとすべての仕事を非正規に置き換えれるわけでもなく、職場で一緒に仕事をしてその能力・適性・意欲を確認して正規に登用する人材を選別する機能が実際に大きな役割を果たしていたのです。
ここから小池先生お得意の現場の詳細な調査を見ているのですが、現場の実態は統計だけではフォローできず、職長への具体的な聞き取りによって明らかになってきます。
高度成長期までの造船業と鉄鋼業の現場を見てみると、職場によって異なってはいても、社外工・臨時工という名の非正規労働者がたくさん配置(職場によって異なるけど概ね半分くらい)されている。非正規の問題は最近のことだけではない!
さらに60年代の自動車製造工場を見ると臨時工・期間工という名の非正規労働者が多く、正規労働者の半分くらいは非正規出身。まさに正規労働への登用へのフィルター役を務めていたの言える。
ところが70年代に入ると高度成長の進展とともに極度の人出不足が進み、臨時工成制度が成り立たなくなってきた。非正規労働は社会的に見れば問題意識が薄れていったということでしょう。
ところがバブル崩壊後、非正規が著しく増加し、問題がクローズアップされてきた。しかし、派遣、パートと呼称が違っても非正規という面では高度成長以前からあった構造で、グローバルスタンダードを言われる中で最近になってでてきたような問題ではない。
そこで非正規の多い、非製造業とりわけ外食産業とスーパーを見てみても、非正規が非正規のまま終始するのではなくて正規労働への登用の道はあり、能力とやる気のある人材にはキャリアを伸ばしていく事例はある。すべての仕事をパートに任せれるわけではなく多様な職場、地域、お客を経験することによって技能を高めていくことができる人が正規職員とすると非正規の中から選別するのが一番確実でコスト的にも安くできる。
その面では非正規労働者の正規労働者への昇格制度を整備するならば、制度としての意義がある。問題は昇格の恣意性をどうするかですが、ここでは職場に正規労働者と非正規労働者を同じ基準で記した「仕事表」を提示することで解決できる。
「仕事表」は実際に日本の電機メーカーや自動車関連企業が取り入れていたもので、どこかの国の教科書の借り物ではない。まさに現場の知恵と工夫の賜物で、多くの産業の下位中位職務に適用可能なものです。
こうやって結論的なことだけ書くとそんなことかとなるのですが、読んでもらえばわかるのですが、アメリカを始めとした諸外国の事例から確認できるいろいろな調査を網羅したうえでの結論です。
法律論となると機械的な同一労働同一賃金で正規転換となるのですが、戦後の労働現場における正規非正規の在り方とそこではたしてきた機能を考えると現場の実態に即した方策が望まれるということでしょうか。
本の中でも少し触れていますが、日本の判例は解雇に対して非常に厳しいので、今後5年以上働いた人への雇用期間の定めの撤廃とか同一労働同一賃金が厳しく適用されると非正規労働者の制度の根底が揺らいでくると思うのですが、どうなっていくんでしょうか。
そうは言っても今の私の職場でどうすればいいのか具体策が全く考えが及ばなのが、出来の悪い受講生なんですよね。ざんねん~
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