東日本大震災後福島では未だ仮設住宅暮らしあるいは離れたところで避難生活を送っている人は多い。
それでも徐々にではあるが除染作業は行われ、故郷に帰宅できるようになった人もいる。
しかし、放射線被ばくリスクから戻らないと決めた人も多い。
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実は福島での一般住民の被ばく量は予想以上に少なかったことがわかってきている。南相馬市内の小中学校の通うすべての生徒に対する測定では、セシウムによる被ばく量は全員が検出限界以下だった。
被ばく量を語る時、広島・長崎では年100ミリシーベルトを超えると癌が増えてくる(と言ってもがん死亡が0.5%増えるだけですが)というデータがあるのですが、この場合の被ばくの速さも問題になります。ラムサール条約の名前の由来のイランのラムサールではウラン鉱石による自然被ばく量が1年間で260ミリシーベルトという場所があります。しかし、ラムサールの住民に癌は増えていません。一瞬で被爆するのと1年間で被爆するのでは人体への影響にとって質的な違いがあるみたいです。ラムサールの260ミリシーベルトまでいかなくても世界では2ミリシーベルト以上の自然放射線量の地はいくらでもありますが、健康上有意な差があるとの報告はありません。そして福島原発事故での住民の放射線被ばくは基本的に速さが非常にゆっくりで、自然被ばくに近いのです。
ちなみに日本の自然被ばくは、年間約2.09ミリシーベルト(世界平均は2.4シーベルト)なのですが、そのうち半分の約1ミリシーベルトが食べ物による自然な内部被ばくだそうです。
ところで被ばく線量が100ミリシーベルト以下だと、がん死亡率を増やすかどうかは影響が少なすぎて検出できないからわからないということだそうです。仮に癌が増えないことを証明しようとすると膨大な数の被ばく者のデータが必要になるのですがそんなデータはどこにも存在しませんし、調べることは不可能です。
そんな中で福島県では年間1ミリシーベルトを目指して除染を進めていますが、適切な対応なのでしょうか。過剰な対応に思われます。除染作業が進まないため住み慣れた故郷を出て地域社会が分断された慣れない避難生活を強いられた結果、不活発な生活習慣によってタバコとお酒の量が増え、血圧も上がるという事態を招いています。
がん死亡率を増やすかどうかでいうと、喫煙は2000ミリシーベルト、飲酒も1000ミリシーベルトと同じくらい、がんを増やすのです。糖尿病はがん全体を2割増やします。がんの原因の3分の2近くが喫煙、飲酒、運動不足、塩分方、野菜不足といった生活習慣によるものから考えれば、100ミリシーベルト以下の放射線量にタバコを吸いながら反応するのはナンセンスとしか言えません。
福島県では27万人の子供が甲状腺検査を受けて、33人ががんと確定されたとして手術を受けたのですが、今の福島で発見されている子供の甲状腺がんは、放射線被ばくと関係ない「自然発症型」で、18歳以下の子供すべてに精密な超音波検査を行ったために顕在化したものだそうです。
ちなみに青森、山梨、長崎の3件で同じ甲状腺の検査を行ったところ、異常が見つかった子供の割合は福島と変わらなかったとか。手術を受けた高校生は「過剰診断」だった?
甲状腺がんはめずらしいものではなく高齢になると微小なものもふくめれば、ほとんどの人が持っているとか。アメリカのデータでは顕微鏡レベルのがんまで含めれば、60歳以上だと全員甲状腺がんを持っていたそうです。必ずしも死に至るものではない「潜在がん」と言っていいみたいです。
福島ではごく低線量の放射線被ばくでは、発がんの増加という健康被害はほぼなかったと言っていいのでしょうが、皮肉にも放射線被ばくによるがんを避けるための避難生活ががんを増やしています。飯館村の健診結果の推移をみると震災前に比べて震災後は体重と肥満が増え、高血圧、糖尿病の人も増えています。ストレスからたばこや酒の量も増えているようです。結果として被ばく以上の危険因子を自ら取り込むことによって、がんが増えていきます。
「美味しんぼ」で福島第1原発を訪れた際、鼻血が出るとあたかもそれが被ばくのせいのように描き論争を起こしましたが、放射線被ばくと鼻血の因果関係がある証明されていません(因果関係がないという証明は不可能です)し、住民に鼻血が増えているというデータもありません。作者が実際に感じたであろう疲労感なりの体調不良は放射線被ばくの恐怖によるストレスがもたらしたものではないでしょうか。それを原発の是非と重ねて放射線のせいにするのは間違っています。
この本では、がん発生のメカニズムもわかりやすく説明していますが、細胞レベルで言うとがん細胞は毎日生まれているのですが免疫細胞にほとんど退治されています。その中で見逃されて細胞分裂を繰り返し一定の大きさになるのに10年、20年と掛かります。
福島では、必要性の薄い避難生活を続けていると避難生活のストレスと生活習慣病によって、これから10年20年たつと癌による亡くなる方が増えてくる可能性が大です。
放射線の被曝によってがんになり亡くなる方はいないのに、避難生活によってがんになる方が増える…そして20年後に統計を取った時には、そのがんが放射線の被ばくによるのか生活習慣によるのかはわからない以上、福島で放射線にさらされ避難生活を送った人のがん発生率は高く、これは原発事故の放射線の影響だとなり、ますます放射線への恐怖が増強されいわれのない風評被害が拡大されていくのでしょう。
この本では第5章では放射線科医の枠を飛び出した文明論的な議論もし、最後に玄侑宗久さんとの対談でもかなり突っ込んだ議論をしていますが、今の福島の現状と世間の科学に基づかない風評への憤りが吹き出ていると思います。今現在の福島は必要のない避難生活がもたらすストレスにより確実に原発関連によるがん発生率を増やしています。偏見に曇った科学的知見によって住民を不幸にしている馬鹿さ加減にはなんなんでしょう。これが日本の現実…
とりあえずできることとして福島県産の農産物、海産物を食べて、お酒を飲みましょう。
ところでがんにならない7つの生活習慣も消化されているので皆さん心しておきましょう。
1 たばこは吸わない(受動喫煙にも注意)
2 お酒は1日1合以内(週に21合を超えると休肝日を作っても駄目)
3 野菜中心の変化ある食生活
4 塩分を減らす
5 定期的な運動(できれば毎日歩く)
6 若い時の体型を維持
7 ウイルスや細菌の感染を防ぐ
いずれもよく言われていることで、分かっちゃいるけどやめられない…
理想的な生活をすれば男性はがん罹患リスクを3分の1にできるとか。でもいくら理想的な生活をしてもがん罹患リスクはゼロにはできません。検診も受けましょう。
読みごたえがあるし、福島の現状を知るためにもぜひ読んでいただきたい本です。