テーマは国際結婚。しかし、デフォエルメされているとは言え、フランスは北部シノン城近郊の由緒ある旧家の娘らの婿は長女がムスリム、次女がユダヤ、三女は中国人。そして四女の彼は…。
フランスで大ヒット、史上最高の興行収入をあげたのにはわけがある。フランスでの国際結婚率は20%。他のEU諸国の平均5%を大きく超える。周囲の5人に1人は国際結婚という割合。そしてドイツが歴史的にトルコなど中東地域からの移民が多かったことに比べて、アルジェリアを植民地として有していたこともあり、対岸のアフリカからの移民が多い。身近な話題かつ、切実な問題なのだ。
大きな枠組みの中で文化の違いと一言で片づけてしまいそうだが、その中身は食習慣であったり、どのような行為を許容あるいは拒否するかという宗教的バックグラウンド、他の民族をどう見てきたか、どう接してきたかという歴史的背景、そして日常の言動・しぐさと言った個人的相違まで。イスラム教徒が豚肉を食さないのは有名だが、長女の夫のように飲酒をする人もいる。最近では日本でもハラル(イスラムで食していいもの、またその加工法)は知られるようになってきたが、フランスではほぼ当たり前。ハラル認証の食品だけを扱うお店は、主人公夫婦が住む比較的古く保守的なシノンの街にもある。そして、次女の夫はコーシャ(ユダヤ教で許された食品の規定)にこだわる。面白いのが、次女の夫はさかんにナチュラルコーシャで商売を起こそうと試みるが「ユダヤ市場は小さい」と相手にしてもらえない。そこで、三女の成功した夫に資金を提供してもらってはじめるのはハラル食品。その頃にはいがみ合っていた、あるいはギクシャクしていた彼らも仲良くなっていたということだ。
四女の彼はカトリックで、両親は喜んだが、連れてきたのはコートジボアール出身の黒人。ショックを受けた母親はうつで倒れ、父は庭中の木を切りまくるという奇行に出る。離婚の危機と心配した長女らを助けようと、長女の夫以下3人自分らのことは棚に上げて、一致団結して四女の中を裂こうとする。そして四女の結婚にもっとも反対したのは彼のコートジボワールの父親。本国ではかなり裕福な層で、その分ナショナリズムの意識も強い。「フランス女(と訳していたが、カトリーヌ・ド・ヌーブと言っていたのが笑える)に大事な息子をやれるか」。二人の結婚(式)を潰そうと画策する両方の父親。しかし、「ドゴール主義者」で意気投合し、結婚を許すことに。そうとは知らず、結婚をあきらめ傷心のまま一人パリに帰ろうとする四女。
本作は最初から最後まで笑いっぱなしで見られる。それも、さきの文化的摩擦や意識、言葉の端々に見られる他者への偏見と皮肉、そして「差別していない」と強調するのに丸見えの差別意識。これらを少しカリカチュアしてはいるが、分かりやすく、おそらく「フランス人」の本当の姿で、また自分らの姿であるからに違いない。これら厳しい世界を笑いで描けるのはすばらしい。
ヨーロッパでは他者を皮肉り、自分を笑うジョークに事欠かない。しかし、長い戦争を経たヨーロッパの国々が再び戦争をしないための知恵であり、揺れていはいるがヨーロッパ統合の理念の証である。不安定な中東や北・西アフリカ情勢のもと多くの移民が再びヨーロッパを目指す現在。移民政策に濃淡があり、テロ事件に見舞われたフランスは対移民強行政策に舵を切りつつある。しかし、自由や平等を旨とするフランスの国是を揺るぎないものだと自覚する矜持をこの映画に見た。
お互いに笑いあうペーソス、余裕を持たずに戦争の危機ばかり煽っているかのように見える東アジア情勢。フランス国民ではなく、東アジアの一員たる私たちこそ見るべき作品かもしれない。
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