kenroのミニコミ

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アメリカ東海岸美術館巡り2013 6

2013-01-21 | 美術
前回METについて書いたが、そのMETに行く直前の朝、METの別館クロイスターズを訪れた。クロイスターズは、スペインやフランスから回廊と修道院を移設した中世専門の美術館である。中世美術にあふれた空間は、ヨーロッパにいくつもあるが、「美術館」として大規模に特化したのは、パリのクリュニュー美術館とバルセロナのカタルーニャ美術館以外に思い浮かばない。カタルーニャは、ビザンチン様式が主流で、ロマネスクからゴシックへと、あの得も言われぬ、それは必ずしもキリスト教とは関係のない、旧い佇まいはやはりクリュニューとこのクロイスターズであろう。
中世美術には静謐が似合う。冷たさもある石の回廊が美しく、その外側に広がる薄暗い部屋には彫刻や調度品、絵画、家具、タピストリーが並ぶ。中世彫刻といえばリーメンシュナイダーははずせない。リーメンシュナイダーに特徴づけられる深く、峻厳さにあふれた思惟像はこのビショップでも再現されている。ほかにも、まるで運ばれたのではなく最初からそこにあったかのような威厳に満ちた彫りばかりだ。絵画ではカンピンのメローデ祭壇画がある。15世紀初頭の作品は、ルネサンス以前フランドルの画家たちが、後世いかにこの発色を遺そうとしたかのとの創意工夫が偲ばれる。受胎告知は数えきれないほど描かれた画題であるが、ルネサンス以前、特に中世フランドルや北方ルネサンスのものほど美しい受胎告知はないのではないかと、一人思っている。
規模はもちろん小さいがステンドグラスも美しい。光の少なかった中世。教会により光をとりこもうとこじんまりしたロマネスク様式とうって変わって、ゴシックは大規模な、窓を多く施し、より高い建物を志向した。そのいわば完成形がランスやシャルトルであるが、このような名も知れぬ回廊がいい。柱一つひとつに表情があり、クリュニューでも記したが、蛇口一つにとっても楽しい彫りがあり、油断がならない。神は細部に宿ると誰かが言った。温かい季節なら回廊の中庭も解放されているという。建築、作品、すべての雰囲気に囲まれて豊かな静謐を満喫したい。そんな気にさせるクロイスターズである。
 
駆け足で、MoMA(ニューヨーク市立近代美術館)とブルックリン美術館も行った。MoMAは前回、12年前だったかに訪れたときは改装中で、マンハッタン島を離れた場所で小規模な仮設展示であったので、マチスの「ダンス」やピカソの「アヴィニョンの娘たち」など限られた作品しか見られなかった。それが、今回雪辱を果たせた。大げさだけれども。ガイドブックに沿って常設の4階に行くといきなりアンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」。アメリカン・リアリズムここにありとばかりの記念碑的作品。時代的には印象派より前だが、堅苦しいアカデミーのなかったおかげで19世紀にはリアリズムが発達した。それは南北戦争前夜の豊かな農場主(もちろん黒人奴隷差別・搾取の上で)が持つ広大な穀倉地帯と草原が描かれ、アメリカと言えども本格的な近代のまだ手前であったことが示唆されている。
アメリカの美術館の豊かさは、富豪らの印象派買い漁りにより成り立ったとくどく述べた。MoMAは、そのような印象派以前、歴史の浅いアメリカでは19世紀初頭、に始まってこぼれるほど多量な印象派、二つの大戦間の美術、世界中の戦後美術を先導したドローイングやその他、などModern=近代のすべてを俯瞰できる御殿のような存在だ。ちょうど、企画展も日本の50年代~美術をはじめいくつも同時併催していた。ポンピドゥー・センター、テート・モダン、ピナコテーク・モデルニ、ソフィア王妃芸術センター。ヨーロッパの名だたる近代美術館がたばになっても、MoMAの資金力と構成力には追い付かないのではないか(そんなことはないが)と思わせるほどの充実した新生MoMAであった。(カンピン 「メローデ祭壇画」 この稿了)

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