今年の春頃のことだったと思いますが、会社の後輩であり、同人仲間でもあるNちゃんが、ワタクシにこう言ったのでございます。
「本、出せばいいじゃないですか。表紙、描きますよ」
ワタクシの目には、Nちゃんが自ら墓穴を掘って、自ら飛び込むように見えました・・・。
もう1年以上前にオフ活動引退宣言をしていたワタクシは、当初は「いや~、もう若い子ちゃんたちに交じってイベント参加なんて厳しいよ。それに本作るのも面倒だし、第一誰も買ってくれないじゃん、こんなマイナーカップリング!」と言って、その後も何度かそういう会話を交わしたのですが、次第に心を動かされてしまいました。なぜなら「本作るのが面倒」というのは、なにしろ字書きなので、毎度表紙をどうするのかで悩むのがいやになったからというのもあったのです。そこへこの申し出。夏コミ直前、『changin'』を3分の1ほど書き終えた私は、Nちゃんに言いました。
「2冊でもいい?」
・・・というわけで、当サークルは2年ぶりにコミケ参加申込みを致しております。発行予定は『wish』と『changin'』。それに伴い、ブログ掲載予定内容を変更致します。やはり、本を発行するからには、ご購入者様を優遇させていただきたい!ので、申し訳ありませんが、ご了承願います。なお、コミケ抽選もれの場合は通販先行、イベントは5月のスパコミのみ参加を予定しております。
①12/30コミケについて
Dグレで参加申込み中です。しかしワタクシ落選率高いです!しかもジャンル初参加のため、お友達がおりません・・・。もし当ブログをご覧の方の中に、Dグレで参加申込みされていて、なおかつ「相互委託してもいいです」という方がいらっしゃいましたら、ご連絡ください!そちら様が落選されて当方が当選の場合、御本をお預かりさせていただきます!逆の場合は委託させてくださいませ!何卒よろしくお願い申し上げます。
発行予定は
『wish』(ブログ掲載分+お初話書き下ろし)
『changin'』(regret及びchangin'ブログ掲載分※を含む完結+ちょっとだけ書き下ろし。書き下ろし部分にラビは出てきません。本文の補足。でもどうでもいいっちゃどうでもいい・・・)
②通販について
コミケ当選の場合、年明けから通販開始いたします。落選の場合でかつ委託先が見つからなかった場合、印刷でき次第通販開始いたします。
③『changin'』ブログ掲載※について
全文掲載の予定でしたが、大変申し訳ありません、クロスとラビが方舟で再会する前までの部分のみ、試し読み用として掲載致します。再会以後の完結部分は、発行1年後を目処にブログにUP致します。また、『wish』のお初話も、同様の扱いとなります。大変恐縮ですが、ご購入者様優遇処置としてご理解くださいますよう、何卒お願い申し上げます。
また、『changin'』は18禁表現が多用されておりますので、パスワード請求制とさせていただきます。面倒くさい・・・という方は本をご購入くださるとありがたいです
・18歳以上の女性
・ラビ受けが好き、またはクロス攻めが好き
・Hシーンがあっても大丈夫。むしろ歓迎(笑)
に該当する方のみ、ブログ右下「ブックマーク」にある「別館パスワード請求」をクリックして、メールフォームに必要事項を書き込み(*は必須項目)、送信してください。受信後3日以内にパスワード及びブログアドレスをご連絡いたします。(yahooメールのため、ゴミ箱や迷惑メールに振り分けされることがあります。必ずご確認ください)
ただし、掲載開始は10/25からです。それまでは記事はありません。その後随時(土日のいずれか。ずれることもあります)更新していきます。
パスワードの請求は本日より受付開始いたします。
以上につきまして、お手数おかけ致しますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
いや、わかっちゃいるけどね!でも体が反応してしまうのよ!それが腐女子ってもんなのよ!!
ぼけてて見にくいですが・・・。東海地方のニュース番組の特集だ。「ラブラビな人たち」・・・!!
ラビのことをラブな人たちって、私およびラビ受けの腐女子のことですかーっ!?(違う)
うさ耳という萌えアイテムをつけたラビの姿が目に浮かぶ・・・ラブだ・・・
そんなラビはお散歩に連れて行くと、ご機嫌になっちゃうんですかー??か、可愛いぞ、ラビ!・・・ハァハァ
・・・そんな妄想で、朝から新聞のインクで鼻の頭を真っ黒にするワタクシであった・・・。(新聞に突っ伏して萌え死んでいたのだが・・・洗面前だったので、脂が浮いていたようだ・・・)
※言うまでもなく、これはウサギ愛好家が増えているというニュースだった。念のため。
昨日から頭痛に悩まされている・・・。
もともと頭痛もちなのだが、いわゆる緊張性頭痛で、たいてい肩凝りか眼精疲労が原因なので、バファリンを飲むか風呂に入るか寝れば直るのだが、今回は・・・
初体験の偏頭痛だよ!右目の奥と右のこめかみが痛くて、最初バファリン飲んだけど全く効かない。いくら飲んでも効かない。(薬は用法用量を守って飲みましょう・・・)風呂に入っても治らない。しかも下を向いたり体を傾けたりすると激しくなる。寝ればいいだろうかと期待して今朝目覚めたが、起き上がった途端、痛みが・・・。
くそう。明日には治っているだろうか?治ってくれないと仕事にならん・・・。
まあ、それはともかく。本題はこちらです。
前に予告していたDグレ、クロス×ラビ甘々バージョンお初ショタ小説、8月中掲載という予定を延期します・・・。多分12月になります。理由は今書いてる、殺伐バージョンに苦戦していて、頭を甘々設定に切り替えられないからでございます・・・。殺伐バージョン完結が優先ですので、申し訳ない!しかも殺伐バージョンも連載開始は10月かな~という状況。根性なしで本当に申し訳ない・・・
というわけで、もし、万が一、今日こそ載っているかと思って時々当ブログをチェックしてくださっている方が見えましたら、10月下旬までは可能性低いので、放置しておいてくださっていいですよ~
はあ・・・あまりに申し訳ないので、殺伐バージョンの一部をちょっとお披露目。
ガチ、と鍵のはずれる音にラビはびくりと振り返った。
塀の内側にドアが開き、その空間に大きな影が立っていた。暗くて顔などわからないが、タバコの香りの中にラビは、世界で唯一の香りを嗅ぎ取った。
言葉も忘れて彼を見つめるラビに、男は「入れ」と短く言った。
男はラビが中に入ると、ドアを閉めた。
「あ・・・あの・・・元帥殿・・・」
その先を続ける間もなく、ラビは肩を掴まれ、塀に押し付けられた。
「挨拶をしに来たわけじゃあるまい?」
あたりをはばかってだろう、囁かれたクロスの声と、覆い被さるように近づいた彼の体から放たれる熱と匂いとに、ラビは体の力を奪われ、塀にもたれながらずるずると座り込んだ。
クロスは羽織ったコートの下のシャツはボタンを留めずに腕を通しただけで、胸から腹までが露わで、その肌からも甘いだけではない春の花のようなさわやかな香りがした。前に会ったときの、ほとんどアルコールのような強い芳香とは違う。衝動的にラビはその筋肉の浮いた腹に顔を押しつけ、その香りを思い切り吸った。
くらくらと頭の芯が痺れ、激しく突き上げてきた情欲に命じられるまま、男のズボンのボタンをはずし、下着から取り出した雄を咥えた。
はい、ここまで!これにてご容赦くださいませ~m(__)m
注意!!
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。
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ラビは周囲を見回した。彼らがいる棟と他の3つの棟は、渡り廊下でつながれているが、母屋に繋がっているのは彼らがいる棟だけだ。しかもこの棟の階段は、母屋との連結部分にあったので、1階に降りることもできない。
他の棟の階段を使えば1階に降りて、母屋に行ける。ラビは渡り廊下を伝って隣りの棟に移動し、足音を忍ばせて端にある階段へと向かった。
そこにも、予想通りというべきか、壁しかなかった。触ってみても、木の板の感触がある。念のため、その隣りの棟も確認に向かう。
この棟は、ラビたちのいた建物とは中庭をはさんだ真向かいになる。ラビはちらりとそちらへ目を向けた。クロスの姿が見えて、少しほっとする。クロスは腕を組んで壁にもたれている。動く気はないようだ。当然だ。これはラビの任務なのだから。
静まり返った空気の中、足元の床のきしむ音にぎくりとする。
ラビは足を止めた。あれほど人の気配や低い話し声に満ちていた遊郭内は、今、ラビとクロスしか存在しないのではないかというくらの静寂に包まれている。3時4時という時間ならともかく、そんなことはあり得ない。
ラビは廊下に並んだ引き戸の1つに手をかけ、思い切って引いてみた。が、びくともしない。まるでその戸が紙に書いた絵でしかないように、わずかにガタつくことさえない。
彼は袖からイノセンスを取り出すと、羽織っていた振袖を脱ぎ捨てた。襦袢の裾を緩めて欄干に足をかけ、下を確認してから中庭に飛び下りる。
「…う、わ……」
着地の瞬間に痛みが突き抜け、思わず膝をついてしまった。しかも、中に出されたクロスのものが溢れ出る感触があって、しばらく動けなかった。
なんとか立ち上がって、1階の階段部分を確認しに行ったが、やはりそこも壁になっていた。1階の渡り廊下のところは本来中庭と棟の外回りの庭とをつないで行き来できるようになっていて、そこは開いていたので外へ出ようとしたラビは、見えない壁に鼻と額をぶつける羽目になった。試す気にはなれないが、おそらく2階の渡り廊下も中庭には飛び下りられても、外庭へは出られないだろう。
つまり、4つの棟と廊下、それ自体を境として、完全に空間が閉じている状態だった。
(あとは……)
ラビは空を見上げた。月は見えないが、星が瞬く夜空は見えている。彼は円を描いて鉄槌を振った。
イノセンス第一開放。ラビの中の何かがイノセンスを刺激して目覚めさせ、それに呼応したイノセンスから、その力が流れ込み、五感の位相をずらす。これによって適合者は、常人のレベルを遥かに超えた感覚や運動神経を手に入れ、アクマと対等に戦えるようになる。
槌を大きくするときに振り回すのは、巨大化させるイメージがし易いからだ。イノセンスをコントロールするのはすべて適合者の意思、イメージだ。イノセンスを発動させる訓練をするときに、動作や言葉をイメージと紐付けさせることが多いのは、細かなコントロールを脳に条件付けてしまうためである。
ラビは槌を振って扱いやすい大きさにすると、そのヘッド部を地面に突き立てるように逆さまに置いた。両手で柄を持ち、片足を柄にかける。
「伸!」
ぐん、とラビの体ごと柄の部分が空へ伸びていく。
「……うへぇ」
ラビは目に映る光景に目が回りそうになった。遊郭全体を上から見下ろす──はずが、柄が伸びていくにつれて建物の上に建物が積み重なって、無限に増えていったからである。よく見れば、その1つ1つにクロスの姿があって、それがまた気色悪さを倍増させた。
「まるで合わせ鏡みたいさー……」
ビクンと、ラビは自分の洩らした言葉に心臓の鼓動を速めた。
(……何だ?なんか……ひっかかるっていうか……思い出せそうな……)
無限に続く同じ像。それは……昼間ささめに見せられた万華鏡のようだ。
(……まさか?!)
ラビは柄を戻し、地面に降り立った。ささめはここに住み込んでいる。彼女の部屋のある棟へ飛び込むが、やはりどの引き戸もびくともしない。第一、どの部屋が彼女の部屋かわからないので、開いたとしてもほとんど全部の部屋の中を探さなければいけない。客を取っていないで部屋にいる遊女もいるだろうし、見咎められずに済むわけはない。
(いったいどうしたら……)
とりあえず今はあきらめて、発動が止まるのを待って、ささめに貸してほしいと頼むべきか?それで万華鏡を支部で調べてもらって……
(だけど、それで違っていたら、また発動するまで待たなきゃいけない……)
だめだ。何としても今夜なんとかしないと、再び発動するとは限らない。──むしろ、二度と発動しないだろう。自分の感が正しければ。
(今までのは違うが、今回の発動は、オレに反応したんだ、多分……。これが起こったときの感覚は……いつもイノセンスを発動させるときと同じだった。だったら、コントロールできるかもしれない。いや、何としてもやらないと、下手をするとずっとこのままだ。なんてったって、適合者が発動させちまってるんだからな……)
教団内では一般に、1つのイノセンスに1人の適合者しかいないと思われている。だが、例外はある。それは大元帥と室長しか知らない極秘事項となっているが、ブックマン一族の適合者だ。本来の適合者とめぐりあっていないイノセンスに対し、ブックマン一族の血を引く適合者はある程度シンクロできる、つまり基本的にはどのイノセンスも発動させることができる万能の適合者だ。だからこそ適合者だったラビとブックマンは、次の記録地(ログ)を黒の教団と決めたとき、本部に行き、回収されたイノセンスの中からシンクロ率の高いものを選んでエクソシストとなったのだ。
(オレは本当の適合者に比べればシンクロ率は低いだろうけど……)
ラビは鉄槌の発動を解除した。もう1つのイノセンスに集中するためだ。小さな姿に戻ったそれを腰ひもにはさみ込む。
目を閉じて、漆喰の壁に両手をつく。感触はただの壁だが、もしこれを物理的に壊そうとしても小さな穴ひとつ開けられない、イノセンスの結界でもある。これは、自分がそうさせた。なぜ?
(行かせたくない)
あのとき、そう思った。その彼の強い想いに触発され、この空間を閉じてしまったのだろうか。クロスを中に閉じ込めて。
──今でも彼のことを夢に見るのよ。行かないで、戻ってきてほしいって……
ささめの言葉を思い出す。夢を見て、蘇った彼女の過去の想いに、イノセンスは反応したのではないか?そして、夢の終わりとともに、結界も消える……。
彼女の想いは過去のもので、今の彼女はそれがすでに叶わないことだと知っている。だが、今、イノセンスを発動させているラビの想いは、消せるものではない。
ラビは壁に額を当てて、自嘲した。
(自分じゃちゃんと納得して、あきらめてるつもりだったのに……少なくともそう見えるようにしていたつもりなのにさ、これじゃ未練たらたらな本音が、クロスにばれちまったかもなー……)
だったら、とラビはぐっと歯をかみしめた。
(オレは、自分の力でこのイノセンスを支配してやる。一族の血と、訓練して身につけた技とで)
深呼吸して、意識を肉体の感覚から徐々に遠ざけていく。何かあればすぐさま反応できるように、完全に遮断はせず、ぎりぎりの糸は残しておく。
次第に感じ始める、イノセンスの気配。まずは最もなじんだ、自分の持つイノセンス。次に、これも見知ったクロスの「断罪者」が、遠いぼやけた光として感じた。意識を向けるとその光が明るく、はっきりする。もう1つあるはずの「聖母の柩」の存在がまったく感じ取れないのは、クロスの魔術で別次元に隠されてしまっているからだ。
すでにその固有の波長を記憶しているものは容易に見つけられるが、イノセンスを見つけるにはその波長に自分の意識を一致させなければならないが、全く未知のものは難しい。暗闇で一粒の砂を探すようなものだ。それでもラビは手探りで探し続ける。
ふと、頭の上で──もちろん比喩で、ラビにはそんなふうに感じられたということだが──淡く光るものが見えた気がした。そちらに意識を向けると、消えてしまう。ゆっくりと、慎重に、意識をシンクロさせていく。少しずつ、ぼんやりとした光が見えてくる。その輪郭が鮮明に、鋭く、そして眩しいほどになっていく。光の中に、また光で縁取られた何かの形が見えてくる。それに向かって意識の手を伸ばし……そっと、手のひらの中に、包みこみ……
(つかまえた!)
「イノセンス発動……解除!」
自分の支配下に入れば、あとの手順は同じだ。無制御に発動されたその力を、意思の力で収束させる。一瞬、建物の像がぶれ、目眩の感覚が起こったが、すぐにそれは治まった。
どこか落ちつかない気配、ひそやかな声、虫の音、そして秋の気配を含んだ肌寒い風が戻ってくる。
ラビは、廊下に座り込んでいた。左手に何かを握りしめているのに気づき、手を開く。薄暗い行灯の光で見たのは、きらきらと星のような光が中で飛び交っている、黒い透明な石の欠片だった。3つあわせても小石程度の小ささだ。
それらを落とさないようもう一度握りしめて、立ち上がる。振り返れば2階の回廊にまだクロスの姿はあった。
彼が戻ると、クロスはかすかに笑んで迎えた。
「良くやった、ひよっこ」
大きな手で、ぐしゃぐしゃと髪を掻きまわされる。なつかしい呼び方、なつかしい仕草に不覚にも涙が滲んでくる。それを振り払うように、
「これ、さ」
握っていたイノセンスを見せる。万華鏡がイノセンスではないかと予想していたのに、まさか中の石の方だとは思わなかった。
「こんな割れてるし、少なくねえ?」
「割れているのは、本部の科学班の連中ならなんとかするだろう。だが、確かに小さすぎるな。残りはまだどこかにあるんだろう」
「残り……」
あるとすれば、ささめが拾ったという海岸に残されている可能性が高い。そうなると、今制御している自分が探しに行かされるのは必至だ。いくら波長を覚えたからといって、マジで砂の中から砂粒探しをさせられるのかと思うと、さすがにげんなりする。
「とりあえず、ここでの任務は完了だな」
クロスは拾っておいた着物を、ラビの肩に羽織らせた。
「じゃあな」
「え……」
踵を返したクロスを茫然と見送り、慌てて追いかけて渡り廊下の途中で腕をつかむ。
「なんで……朝までいてくれないんだよ……?」
「………」
「オレ、仕事終わったんだから、あんたが帰る必要なんてないじゃん?」
「……」
「アンタがもし、今日はもう……3回もしたから、オレとする気になれないっていうんなら、一緒に眠るだけでもいいからさ……」
こんなにぐずぐずと引き止めてしまうのは、このイノセンスのせいで、今さらながら離れたくない気持ちを確認してしまったからだ。イノセンスがラビに気持ちに反応してしまったのは、むしろ気持ちを抑えこんでしまったからのような気がしたが、今はどちらにしろイノセンスは彼の制御下にあるので、発動する心配はない。
クロスは、大げさなため息をついた。
「……ホントにおまえは、鈍い上にガキのまんまだな」
「何だよ、それ。オレ、もう16で、ガキじゃないだろ」
「ガキでないなら、ひよこだ」
唇をとがらせたラビの頭に手を載せて押しながら、クロスは廊下を引き返した。
部屋に戻ると、ラビはイノセンスを懐紙に包んで、自分のイノセンスとともに袖に入れ、着物は几帳に掛けた。
上着だけを脱いだクロスは、ごろりと布団の上に寝転がり、手招きしてラビを自分の横に寝させ、腕枕をするように抱きこんだ。そのまま動かないクロスを見上げると、彼は目を閉じていた。
本当に一緒に眠るだけのために戻ってくれたのだ、とラビは嬉しさ半分、切なさ半分でクロスの肩に頭を擦りつけた。幼い頃は、師匠に叱られた日や人恋しいとき、或いは冬の寒い夜などは、よくクロスのベッドにもぐりこんで眠った。クロスは最初のうち「狭い」だの「うっとおしい」だの文句を言っていたが、そのうち黙って入れてくれるようになり、やがて腕枕をしてくれるようになった。好きだと告白してからは、かえってそんなことをしづらくなってしまったし、もうそうしてふたりで眠るには抱き合うしかないほどベッドが狭くなったので、しなくなってしまったが。
クロスの体温と華やかなフレグランスの香りのまじった体臭を感じていると、条件反射のようにラビはその頃のように手放しで安心しきってしまう。心地良い眠りの波にたゆとい始めたときに、クロスの唇を──顎ひげも当たるのでそれとわかる──額に、頬に、唇に感じたが、ラビは目を開けることができず、そのまま深い眠りの中に沈んでいった。
朝、予想通り、クロスはすでに去っていた。身支度をして店の玄関へ向かう間に、ささめと顔を合わせることはなかった。会ったとしても、何も言うことはできないだろうと思い、探そうとはせずに、番頭から花代を受け取って外へ出た。
昨日より倍も支払われた代金を見て、昨日の分も渡し忘れたことを思い出し、くくっと笑う。
(もしかしてオレ、あんたに借金を作った最初のヤツ?)
棟の欠落感はどうしようもないけれど、再会する前とは違った気持ちでいられた。お互いずっと一緒にいられる立場ではないことはわかっている。だが願っていれば、自分が愛し続けていれば、二度と会えないわけではない。生きている限り。だったら、せめてこの次に会えたときは、彼に一方的に助けられたり労わられたりされるこどもではなくて、身も心も大人になっていたい。幸い、「この未熟者!」と叱ってくれる師匠もいる。
(また……必ず会えるから……)
ラビは、きっとやきもきしながら待っているだろう師の元へ、再び旅立つために歩いていった。
「ところで師匠、どうすればここから出られるんです?」
「あ?おまえがソイツを弾きゃいいだろうが」
アレンのこめかみに青筋が浮かぶ。
「…前から思ってたんですけど、あなたってほんっっとーに、説明が足りないですよね?」
「さっき教えてやっただろうが。おまえが望んで弾けば箱舟は動く。『江戸接続』を切れ」
クロスはどかりと椅子に座った。
「言ってる意味がわかりませんケドー」
仲の良さそうな師弟の会話を聞きながらラビは、少し離れたところに立ってクロスを見つめていた。千年伯爵の方舟で、戦いの最中に再会してから、まだ一度も口をきいてもいない。それに、自分たちが知り合いだということさえ公にしていないのに、こんな人目がある中で、私的な会話などできるはずもなかった。
けれど、この部屋に来てからずっと、気になっていたのだ。黒い手袋のせいで誰も気づいていないし、クロス自身も気にしてはいないだろう。だけど……
ラビは、思い切ってクロスに近寄った。
クロスは表情を動かさずに彼を見上げた。
「あの……手を……左手、血が乾くと手袋が張り付いてしまいますから、拭いてもよろしいでしょうか……?」
「……」
その場の者たちは皆──意識のないクロウリーは除いて──、驚いて彼らを振り返った。
クロスは、黙って左手を差し出した。
ラビは跪いて、クロスの手から手袋を取った。白い手は血塗れで、革の手袋は血を吸って、重かった。拭くのに使えるようなきれいな布は、上着の下に着ていたシャツくらいしかない。ラビはシャツの裾を引っ張り出して、生乾きの血をぬぐった。乾いてしまったところは擦っても取れず、ラビは舐めて湿してから、またシャツで拭く。それを繰り返すうち、知らず涙が滲んでくる。
「……無茶するなって言ったのに……」
ポツリと、ラビは呟いた。
「別にこれくらい、無茶のうちに入らんさ。おまえこそ、人の目の前で死にかけやがって、あのじじいなら修行が足りんと張り飛ばすところだぞ」
「……ごめん…なさい……」
クロスは右の手袋も外して投げ捨てると、両手でラビの頬をはさんで上向かせた。
「……背が伸びたな。顔つきも、大人っぽくなった。…だが、泣き虫なのは変わらんな……」
「クロス……元帥……」
ふっ、とクロスは笑った。
「どうした?ずいぶん遠慮してるじゃないか。飛びついてくるぐらいはするかと思っていたのに」
「だって……あんたさっき、汚いから寄るなって……」
ラビは、上目使いに口を尖らせる。
「ああ、悪ィ。戦闘モードのときの言動なんぞ気にするな。…来いよ」
「……クロス……!」
ラビはクロスの首に抱きついた。
「会いたかった……!」
オレもだ、とクロスは他には聞こえないように小声で囁いて、抱え込んだラビの顎を、強引に上げさせた。そして…
ラビは泣き笑いしながら、目を閉じた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
やっとこさ、ENDです。お疲れ様でしたー!
やっと、と言っても、6回しかありませんでしたけどね・・・。物足りない、もっと読みたいと言っていただければ書いた甲斐があるというものですが、しつこいようですが、このカップリング、どんだけ需要があるんだろ・・・
最後の再会の場面は書き終わってから付け足したんですが、ない方がいいのかな、どうかな?クロスの手を拭く場面は、今書いてる話の方に入れたかったけどちょい入れられそうにないので(いや、まだ全然そんなとこまで書き進んでないけど、その辺はもう頭の中にあるので)、ラブラブ仕様に直して入れてみました。単なる私の願望です・・・。
誰も気づかないけど、クロスのケガに気づいてるラビ!こっちの甘々バージョンのラビは言えるけど、殺伐エロバージョンのラビは言えなくって(オレなんかが心配する権利ないよな、とか、オレなんかに触られたら嫌だろうとか、拒否されそうで言えない、とか、うじうじしてるの)、でも気になってちらちら目がいっちゃう。それにクロスも気づいてるけど、何も言わない。内心ではそういうラビの自信のないとことか卑屈さ加減にいらいらしてんの!だってもうこの時点で、クロスはラビのこと愛してる(きゃ)からさー、なんでそれがわかんねーんだ、このドアホウ!とか思ってるわけよ。てへへ。
あ、またうっかり自分の妄想に浸りこんでしまった!引かないで~
というわけで、できましたらご感想&私もクロス×ラビ好きです!というカミングアウト(笑)、いただけましたら大変嬉しいです。ではでは、次は夏(って、大丈夫か・・・このトロいペースで・・・。プロット立てずに書くからいちいち行き詰るんじゃ!)に上げられたらいいなーってことで!
注意!!
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。
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日本酒の香り混じりの口づけでラビを酔わせ、クロスは彼を抱き上げて几帳の裏の布団に下ろした。ラビの腰から解けかけた帯を引き抜き、振袖を脱がせ、几帳に掛ける。ドレスシャツを脱ぎ始めたクロスの正面にいざり寄ったラビは、彼のズボンと下着を下げて、彼の雄に舌を這わせた。
だが、いくらもしないうちに「もういい」と止められた。なんで、と見上げたラビの頭を包み込むように支えたクロスの手が、彼の頭に巻かれた布を解いていき、現れた眼帯にも指をかける。反射的に身を引こうとしたラビを、クロスの大きな手は逃さずに、それを取り去った。
周囲に思わせているように、ラビの右目には事故による傷などありはしない。あるのは、「ブックマン」となることを定められて生まれた証である「眼」だった。
長い前髪で隠すように顔を伏せたラビは、下を脱ぎ捨てたクロスがその服の上に白い仮面を落としたのを見て、はっと顔を上げた。彼よりも少し暗褐色がかった髪の陰に、クロスの右目の光を見つけ、甘く胸をしめつけられる。
互いの双眸を見つめながら、膝立ちで抱きしめあい、情熱的に唇を重ね、舌を絡めあう。
布団に横たえたラビの長襦袢の前を広げ、クロスは日に焼けていない白い肌に唇を這わせ、赤い痕を残していく。彼の長い髪が肌を滑っていく感触がじれったい愛撫のようで、ラビは身を粟立たせた。
「んっ」
緩く立ち上がったものを口に含まれた。直接的な刺激はキスや肌への愛撫とは比べものにならないほど強烈すぎて、たちまちラビのものは硬く反り返り、クロスの口の中でびくびくと跳ねる。
「……やだ……!出ちゃう…出ちゃうから……!」
クロスが放してくれたのでほっとしたのもつかの間、ラビは引っくり返されて尻を上げさせられた。谷間を両手で広げられたと思ったら、そこに濡れたものが触れた。
「いや…!」
あまりの恥ずかしさに前へ逃げようとするが、がっちりと掴まれていて叶わず、引き戻され、舌をねじ込まれた。
「!!」
ラビは両手で顔を覆った。恥ずかしいのに感じてしまう自分が泣きたいくらい恥ずかしくて、膝が震えた。
「イキそうか?」
ラビは必死にうなずいた。
「まだ我慢しろ。根元を手で押さえてろ。できるな?」
荒い息をつきながらラビは右手を伸ばし、言われるがまま自分のものを握った。左肩と肘に上半身の重みがかかり、クロスが片腕をラビの腰にまわして支えていなければ崩れ落ちてしまいそうだった。
抗う筋肉を無理やり開かれる圧迫感を、ラビを浅く息をついて耐えた。1年以上ぶりに呑みこまされたクロスの長い指。2本の指をゆっくりと一旦奥まで入れられたあと、慣らすように抜き差しされる。
「……も……いい……早く…!もう入れて……!」
これ以上手に力を入れたら逆にいってしまいそうで、かといってこのままではいかされてしまう。それだけはいやだった。
「ばか。まだ全然開いてねえぞ」
「だってオレ、もう……っ」
指が抜かれ、再度引っくり返される。両脚でクロスの体をはさむように、腰から下を彼の膝の上に乗せられた。
ラビは欲に潤んだ目で、同じく欲と理性とがせめぎ合う、クロスのいっそ険しい表情を見上げた。クロスは片手でラビの腰を支え、もう一方で天を向いた自分のものをラビの後ろにあてがった。
「……っ」
クロスはためらうことなく押し入ってくる。ラビは両手で口を塞いだが、意思とは関係なくそうしても呻き声が洩れてしまう。
「ああっ」
肌がぶつかる衝撃とともに、ラビは達した。自分の胸と腹に放ったものが降りかかる。
「い……痛…!」
「ウッ」
涙目になりながら、ラビはなんとか目を開けた。クロスは唇をゆがめて笑った。
「ちぎれるかと思ったぜ」
「ご……ごめん……」
目を移せば、結合部はクロスの繁みに隠れるくらい、隙間なくはまっている。そこから体の中を侵されている、息苦しいくらいの異物感があったが、同時に自分の中にあったそれだけの空間が充たされた安堵も感じた。
「……クロス……?」
じっと、確認するかのように自分を見つめて動かないクロスに、ラビは少し首を傾げた。
「いや……」
彼はラビに覆い被さり、片手でラビの頬に包むように触れた。
「この1年間、オレはおまえが欠けたままで過ごしていたことを、おまえを抱いて、今さら感じてな……」
ラビは目を瞠った。
「離れている間は、そんなこと感じたりしなかったのにな」
「……オレも、今、同じこと感じてた……」
苦しいのと嬉しいのとが同時にこみあげてきて、せっかくこらえていた涙がこぼれる。
「ずっとあんたに捨てられたって、それをつらいとばかり思ってて、気づかなかった……。いつの間にか、オレの中に空洞があってさ…それを充たせるのはあんただけで……あんたを失ったら、オレは一生この穴を抱えていかなきゃならないんだなって。……この穴は、生まれたときからあるのかな?ただ気づかなかっただけで、あんたを好きになったから気がついたのかな…?でも……だったら、なんであんた以外じゃだめなんだろう……他の誰かで埋めたっていいはずなのに……。それとも……あんたを好きになった瞬間に、開いちまったのかな。そんな変なのって……オレだけなのかな……?」
「………」
クロスはラビの涙を手で拭った。
「……おまえ、ばかだばかだと思っていたが、時々そうでもないな」
「なんだよそれ!」
状況を忘れて体を起こしかけたラビは、痛みにまた呻いて倒れた。
「……もう……あんたもじじいも、いつも人のことばかだのくそガキだのひよこだのばっか言って……」
「本当のことじゃねえか」
クロスが楽しげな笑みを浮かべる。ラビは不意に突かれて声もなくのけぞった。先に達してしまったラビが落ち着くのを待っていたクロスは、腰を動かし始めた。
「あっ、あっ、クロス……」
揺さぶられながら両手を彼へと伸ばす。クロスは体を支える代わりに両腕でラビを抱きしめ、彼に重みを預けた。
「すき……好きだよ……」
「オレもだ。……」
今では呼ばれることのない本当の名前を耳に囁かれる。体だけでなく、ラビの心の中の空洞にも、クロスの存在が満ちていく。名前のない、どこにも存在しない彼を、その名を呼び、その素顔を知っている、唯一人、彼を彼自身として見つめてくれる人。彼こそがラビにとって、ほとんど全世界といってもよかった。
目が覚めると、視界は暗く物の形がぼんやり黒く見えるだけだった。クロスとしているときにはまだ薄暗くなり始めたところだったが、あれから何時間経ったのだろう……
ラビは衣擦れの音に寝返りをうって目をこらした。暗闇の中に、白いシャツがひらりと翻った。
「クロス……?もう朝なん……?」
「さっき店が閉まったところだ」
店が客の受け入れをするのは12時まで。すると、まだ1時にはなっていないくらいだ。
「なんでもう服着てんのさ?」
「……オレは帰る。おまえは今から仕事だろう」
ラビは、のろのろと身を起こした。一動作ごとに体内の鈍痛が、先程の行為を思い出させる。正直言うと、12のときに初めてクロスのものを受け入れて以来、快感と苦痛とどちらが大きいかと問われれば、肉体的には苦痛の方が大きいとしか言えない。経験や慣れの前に、身長で30センチ、体重でも30キロ近く違う、いかんともし難い体格差が原因だろう。
それでも入れてほしいと思うのは、クロスとの一体感が嬉しいのと、何よりクロスが口でするより好むからだ。
「……うん……。やらないとな……」
わかってはいても、こんなに幸福な時間を過ごしてしまったあとでは任務のみならず、あっさり帰ろうとするクロスまでもうらめしくなる。
クロスが几帳の向こうに回ったので、ラビは慌てて眼帯をはめ、襦袢をいい加減にかき合わせて着物を羽織って追った。
団服を着、マスクをつけたクロスが、戸口で待っていた。
「じゃあな、ジュニア」
その言葉で、クロスがこの地を去るのだとわかった。
「……今度はどこ行くんだ?」
「南の方、だな」
答えてくれると思っていたわけではなかったが、そう返ってくるとやはり寂しさを感じずにはいられない。
「あんま、無茶すんなよ」
「おまえも、オレ以外のために泣くんじゃねえぞ」
「ひっでーの……」
クロスはラビを抱き寄せた。ラビは泣きたくなりながら目を閉じた。
軽く舌を吸って、クロスはすぐに体ごとラビを放した。戸をくぐったクロスのあとに、ラビも続いて部屋を出た。
廊下にはところどころに行灯が置かれ、歩くのに支障がないようになっている。ずらりと並んだ部屋はすっかり灯りが落とされていたが、人々のうごめく気配は消えてはおらず、時折女の嬌声が聞こえてラビをいたたまれない気分にさせた。
決まりでは、仲見世のある母屋との境の踊り場まで客を見送ることになっている。逆に言えば、そこから先へは行ってはいけない。そこにクロスが差し掛かり、ラビは足を止めた。クロスの振り向かない背中を見つめながら。
(行くなよ……)
死んでも口に出せない言葉。クロスの愛人たちなら、そう言ってすがることも許されるだろう。だけど自分は男で、ブックマン後継者で、エクソシストだ。クロスに煩がられるより何より、自分の矜持が許さない。
けれども、ただ思うだけなら許されるだろう。
(オレを置いて……行っちまうなよ……)
「……え?」
ラビは目眩のような視界の揺らぎをおぼえ、思わず両足に力を入れた。
(この感覚……)
体の中から、何かが引き出され、流れ込む、何度も経験した、よく知っている感覚。
(なぜだ?)
着物の袂に目をやるが、イノセンスに変化はない。
「……おい」
クロスが、ラビの方を向いていた。
「廊下がなくなっちまったぞ」
クロスは彼の目の前の壁を、手の甲でコンコンと叩いてみせた。
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ハイ、残りあと1回でございます。次回はいつも通り日曜にアップ。このさきHはありません(笑)
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。
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いつも通り店が始まるより大分早めに来て、ラビはぶらぶらと手持ち無沙汰そうに店の中をうろついて、それらしいものがないかと見て回った。誰もいない廻し部屋も1つ1つのぞいて確認する。庭や裏方の棟もうろつくが、すでに夜中に何度も見たところだし、目当てがあるわけでもないので、どうにも焦点がぼやけている感覚が否めない。やはり、その現象が発現しないとどうにもならない気がする。
(それに、部屋住みの女性たちの私室にはなかなか入れないしなあ……)
住込みの女性たちは、自分の部屋で客の相手もするので、夜の間は空くことがほとんどない。部屋主が張見世に出ているときには空くが、ラビが抜け出したわずかな時間で探れたのはたった2部屋だった。
ラビは2階の欄干に腰かけ、どうしたものかとぼんやり考えていた。
「もみじ」
誰かと思えば、朝声をかけてきた遊女、ささめだった。店にいる遊女たちの名は、張見世にいる間に覚えた。先に名を呼ばれて出て行くのを一度見れば、覚えられる。向こうがこっちを知っているのは、やはりこの外見のせいで目立ったからだろう。
「あんた、そんな格好してると、遣手に叱られるわよ」
ラビはうわっ、と欄干に載せていた脚を下ろした。ついズボンを穿いているときのように、片脚を上げた上に肘をついていたので、裾が開いて太腿まで露わになっていた。下着を穿いていないが奥までは見えなかったよな、と焦っているラビを尻目に、ささめはラビと同じ欄干に腰かけた。
「……予約が入ってるんだって?昨日の男から」
ラビはうなずいた。ささめはまだ長襦袢1枚の姿だった。秋も深まりつつあったが、まだ昼間は時折汗ばむ陽気のことがある。今日も暖かい日射しが注いでいた。ささめはふいと横顔を向け、庭を眺め下ろしながら、結い上げた髪から落ちた後れ毛を指で直した。
「あの男は、あんたを連れて行ってはくれないの?」
ラビは答えに窮した。ここへ来た理由には貧しい家に送金するためという答えを用意していたが、クロスのことは予定外だったので、何も準備していなかった。
「……彼は仕事で世界中を旅していて、その途中で寄ってくれただけだから……。それに、そんなことをしてもらえる身ではないです。もうとっくに捨てられたんだと思っていたし……」
適当な話をとっさには思いつけず、曖昧にぼかしたが、話しながらラビは、でっちあげるどころかまるっきり本当のことじゃないか、と自分で呆れた。
「…そう……。一緒にはなれない男なの……」
その声に表面的でない同情を感じて、ラビは彼女を見つめた。
「わたしの父はロシアの地方貴族で、わたしは使用人の息子と幼なじみのように育って、やがて愛し合うようになったわ。彼はわたしにふさわしい男になるって言って、都会の学校に入学した。最初のうちは頻繁に手紙のやりとりをしていたけど、次第に彼からの返事は来なくなってしまった。そのうちわたしは父の命令で婚約させられ、彼に戻ってきてほしいと手紙を出したのだけれど、返事はこなくて……わたしは家を飛び出して彼のもとへ行った。……あとは想像がつくでしょ」
他に女ができたのか、勉強をあきらめて身を持ち崩していたか、そんなところだろう。
「今さら家には帰れず、持ち出した金や宝石も尽きて、かといって働く方法なんて知らない貴族の娘に売ることができたのは体だけ。とうとうこんなところまで来てしまったわ。なのに……今でも彼のことを夢に見るのよ。夢の中でさえ、わたしはあの頃と同じことを思うの。行かないで、戻ってきてほしいって……」
「………」
彼女の身の上を、世間によくある話だと片づけることは、ラビにはできなかった。自分は戦争や政治や歴史のことはよく知っている。けれど、愛だとか恋だとかについては、多分何も知らないのだとわかっていた。彼は生まれて初めてクロス・マリアンに恋をして、彼との関係以外知らないのだから。それでも、その男の愛情を失ったと知ったときの彼女の気持ちは……わかった。クロスが2か月経っても3か月経っても、何の連絡もなく帰ってこなくて、やっぱりオレじゃだめだったんだ、オレに飽きたんだと思って、打ちひしがれたときの自分の気持ちに、きっと彼女も共感してくれたのだという気がした。
「そうだ、あんたに見せてあげる。ちょっと待ってて」
彼女は自室に引き返すと、小さな筒のようなものを取ってきた。鈍い銀色の筒の表面には、細密な幾何学模様と草花のレリーフが彫られている。
「こどもの頃からの宝物で、これだけは手放さなかったの。のぞいてみて」
その一言で、それが何かわかった。ラビは、筒の蓋の穴に目を当てた。
無限に拡がる三角で構成された空間。色とりどりのガラスや小さな貝殻が、6片の花のような図形を作り出す万華鏡だった。
「中に入ってるの、ガラスじゃなくて宝石のかけらよ。ガーネット、サファイヤ、エメラルド、アメジスト……。本当はちゃんとカットされた大きな粒もあったんだけど、それは売っちゃったから、海岸で拾った石や貝を足したの」
波に洗われたのだろう、きれいな卵形をした黒いシルエットが2、3個見えた。
「その石、万華鏡だと黒くしか見えないけど、外に出すとすごくきれいなのよ。黒曜石みたいなガラス質で、中に金色の星みたいな、砂金みたいな粒がたくさん入ってるの。出してみようか?」
くるくると回して見とれていたラビは、万華鏡をささめに返した。彼女は底の蓋をはずそうと止め具に爪をかけた。
「もみじ!ささめ!」
「ひゃっ」
ふたりは飛び上がった。廊下に遣手が仁王立ちしていた。
「いつまで油売ってるの!もう時間だよ!」
「すみません!」
大慌てでささめは小走りで自室に戻っていき、ラビは1階へ降りようとした。
「もみじ、あんたは見世に出なくていいから、3番の部屋で待ってなさい」
「……はい」
指示された部屋は、上客用の個室だった。ラビは新入りなので本来個室は使えないが、予約の場合はそれだけ料金を高くとるので、こちらに回されたのだろう。
部屋は、8畳に座卓と座椅子、几帳で目隠しした奥には布団が敷かれており、廻し部屋とは比較にならないほどゆったりしていて、一見すると普通の宿のようだ。
ラビは、脚を投げ出して座椅子に座った。
てっきり一夜きりでまた行ってしまったのだと思ったのに、今夜も来てくれるなんて、嬉しいけれど、怖くなる。行ってしまう場面に遭わずに別れられたのなら、それきりあきらめもついたのに、こんなふうにまた会ってしまったら、もう1日、あと1日だけ、と離れ難くなって、何倍にも辛さが増してしまうだろう。
(あんたは……優しくて、ほんとひどい男だよな……)
「もみじ、旦那さんがお見えです」
ラビは慌てて椅子から飛び退き、畳の上に苦手な正座をして待った。
引き戸が廻し方によって開けられ、クロスが軽く身を屈めて入ってきた。ラビは息を止めた。元帥を表す金糸で縁取られた団服が、これほど似合う男はいない。
クロスが脱いだ上着を、ラビは立っていって受け取った。旅の間、クロスや師匠の身の回りの世話はラビの役目だった。食事作りや簡単な裁縫は師から習った。「ブックマン、エクソシストである前に、自立した人間として生活能力がなくてはならない」というのが、師の方針だったからだ。
上着を壁のハンガーに掛けるとき、ふわっと煙草とクロスの香りが鼻腔を満たした。その香りが記憶を呼び醒ます。……まだクロスに片思いをしていた幼い頃、クロスが出かけてしまったとき、置いていった荷物の中からこっそりと彼の服を取り出し、それを抱きしめて彼の香りに包まれながら眠った日々。あの頃は、彼が帰ってくることを疑ったことなどなかった。だから、すべての荷物を持って、何一つ残さずに彼が姿を消したとき、二度と彼は戻ってこないのだとようやく理解して、どれほどショックだっただろう。何一つ、ハンカチーフ1枚すら残していってくれなかった。
「……おい。中身がここにいるのに、そんな抜け殻にしがみついてることはないだろう」
我に返りラビは、自分が無意識に団服を抱きしめていたことに気がつき、うろたえた。振り返ると、座椅子に胡座をかいたクロスが、困ったように笑った。
「……泣くな。おまえは大丈夫だろうと、自分に都合よく考えて行動したオレが悪かったと、昨日反省した。だからこっちへ来い」
言われて初めて、ラビは自分が泣いているのに気づいた。クロスの広げた両腕の中に身を投げ出すようにしがみつき、胸に顔を埋める。
「泣き虫なのは、相変わらずだな」
「……あんたの……前だけだ、よ……っ」
ラビは思う存分、クロスのシャツの胸を濡らした。
背を優しく撫でられ、髪に唇が落とされる感触に顔を上げる。しっとりした口づけに包まれ、ラビはそれに応えながら、両腕をクロスの首にまわして自ら引き寄せた。
「失礼いたします」
と、戸が開いた。動転して硬直したラビを、クロスがその腰を抱いて膝の上に載せたままのところへ、使用人が食事を運んできた。座卓の上に重箱とお銚子などを並べ、男はふたりに視線をやることなく出て行った。
「おまえ、腹がすいているだろう。食べろ」
「え……あんたのメシじゃないのか?」
「オレはこれがあればいい」
クロスは徳利を持ち上げてみせた。
早く出かけてきたのでおやつをつまんできただけで、食事らしい食事をとっていなかったラビは、仕出しの弁当の蓋をとって料理の匂いをかいだ途端、空腹を自覚した。
中国での生活が長かったラビは──師匠も修行したという拳法道場に放り込まれたのだが。同様に行く先々の国で、ラビはいろいろな体術を身につけさせられた──箸を使って食べ始めた。その横から、手酌で日本酒を飲むクロスが、外国人だからと添えられたフォークを伸ばして、ひょいとおかずをつまむ。ラビが締めに緑茶を飲んで満足のため息をつく頃には、クロスもお銚子を2本とも空け終わった。
「こら。寝るな」
「ん……」
クロスの胸を背もたれにして、目蓋が重くなったラビは生返事をする。
「寝るのはやってからにしろ」
背後からまわされた手が、片結びにして垂らした帯を解いていく。その衣擦れの音でラビは目を開けた。
「……オレ……イノセンス探さなきゃいけねぇんだけど……」
一応、言い訳がましく呟いてみる。
「だからこんなに早く来たんだろうが。やったあとひと眠りしても時間があるようにな」
「……」
昨日、最後までしなかったことといい、彼の任務や体のことを考えてくれてはいるのだろうが、きっと「ちゃんとした大人」なら、そもそもそんな相手とすることはやめておくだろうと考えて、ラビは頬が熱くなるのを感じた。
「なあ……」
上半身を捻って、クロスの首に腕をかける。
「オレのために来たんじゃなくて、あんたがオレを抱きたいから来た……?」
「最初からそう言ってるだろう。本気なのはおまえだけだと」
「……オレも」
クロスの口の端に、キスをする。
「あんたが好き。大好き」
「……くそかわいいこと言いやがって」
クロスが獰猛な笑みを見せる。戦いに臨むときのような──それもアクマのような雑魚ではなく、千年伯爵を前にしたときぐらいしか浮かべない、その本気の表情が、ラビは一番好きだった。
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次回はH突入です。いきなり反転してますが、記事がないわけではありませんので、ちょっと見て「あれ?ないや」と他へ移動しないでくださいね~(笑)
お知らせ
次の日曜(5月3日)は東京にお出かけ中ですので、土曜にアップします。ヨロシク
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。
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ぱたぱたと廊下を行き交う音、女たちの甲高い声……薄暗い中で目覚めたラビは、自分が廻し部屋にひとり眠っていたことに気づいて、がば、と起き上がった。
クロスの姿はなく、ラビは一瞬自分が夢を見ていたのかと思った。ただ灰皿に数本吸い殻が残っているのだけが、夢ではない証拠だった。
(眠りこんじゃうなんて……またいつ会えるかわからないのに……オレの大ばかやろー……)
帰る気力もないほど落ち込んだが、そういうわけにもいかないので、のろのろと振袖を着付けて袂にイノセンスを放り込み、すっかり日も昇って女たちが襦袢と腰巻というあられもない姿でうろうろしていたり、男たちが部屋の片付けで忙しく往復している廊下へ、そっと出た。
「ちょいと、もみじ!」
引付座敷から顔をのぞかせたのは、遣手の女だった。
「あんた、お客を見送らなかったわね。だらしなく寝こけてちゃだめじゃないの!」
「……すみません……」
ラビはしおしおと洗面所へ向かった。
すれ違う女たちの様子はいつもと変わりなく、幸い昨夜は何も起こらなかったようだ。これで奇怪現象が起こっていたら、とんだまぬけだ。
ほっとしながらもまだ落ち込んでうつむいて歩いていると、向かいからやって来た女に肩を叩かれた。長いブロンドに派手な目鼻立ちの、確かロシアから出稼ぎで来ている女性だった。
「昨日の男、あんたの恋人なんでしょ?国から追っかけてきてくれたの?」
「え……」
英語で話しかけてきた彼女は、廊下の端にラビを引っぱっていった。
「わたし、あんたたちの隣りの部屋だったのよ。言葉はわからなかったけど、最初けんかしてたじゃない。もしかしてここで働くこと、彼、納得してないの?あんただって嫌なんでしょ。事情は知らないけど、やめるなら今のうちよ?こんなに可愛がられてるんだから」
彼女はラビの頬を指で突つくと、一方的にしゃべって行ってしまった。
洗面所の鏡の前に立ったとき、ラビは彼女が最後に言ったことの意味がわかった。口の周りから頬にかけて、赤いものがべたべたとついていた。触って指についたそれを見て、口紅だと気づく。自分がつけていた口紅だが、自分の口にはほとんど残っていない。
ラビはかっと頬を染めた。口づけでクロスの口に移ったそれが、逆に自分の顔についたのだ。たぶん、クロスにもついていただろう。ちゃんと気づいて拭いてから帰っただろうかと考えたが、彼は女とのキスなど慣れているだろう……。
他の女たちがいなくなったのを見計って頭の布と眼帯をはずし、顔を洗いながら、先程の女の言葉を思い出す。
(恋人……だなんて、口に出したらあの人にいやがられそうだけど……そう思うだけなら、いいよな……?愛人の1人じゃないって……オレに惚れてるって、言ってくれたんだから……。そんなこと、オレに嘘つく必要なんかないもんな……?)
以前のように一緒にいられなくても、昨日までのように二度と会えないと絶望する必要はない。いつかは会えると、そう思って生きていける。…それに、わかっていた。自分はブックマンで、彼はエクソシストで、いつまでも一緒にいられるわけではないことを。それが思ったよりも早かっただけのことだ。
ぐっすり眠ったせいか、昨日よりずっと気分も軽い。会えないことを思い悩むより、会えたことを幸せに思おう、とラビは自分に言い聞かせた。
帰ろうと玄関へ行き、草履を出したところで、番頭に呼び止められた。
「もみじ、花代忘れてるぞ」
一瞬何のことかと思ったが、夕べはクロスが客として来たことを思い出す。払ったんだ、と驚いたが、考えてみればラビは身分を隠して潜入しているのだから当然だった。自分はもしかしたら、あのクロス・マリアンに、初めて花代を払わせたのだろうかと、複雑な気分になる。彼が実際に払った金額には全然足りないだろうが、これはいつか返そう、と帯にはさみこんだ。
「今朝帰った客、今夜6時から予約入れていったからな。休んだり遅れたりするなよ」
え、と顔を上げると、番頭がにやにやと笑っていた。
「お前のことが気に入ったみたいだぞ。1人で降りてきたからお前を起こしに行こうとしたら、疲れているようだから寝かせておいてやってくれ、だとよ。あのガタイ相手にがんばったようだな?」
ラビは顔に血を昇らせた。体温が急上昇し、全身から汗が噴き出す。
「そんな……あの……」
しどろもどろになって、慌ててその場から逃げ出した。女たちのあけすけな会話を聞くのには慣れたつもりだったが、自分がその当事者になるのは恥ずかしくていたたまれなかった。それに……
(今夜も…来るって……。どうして……)
ブックマンに頼まれたのか、という問いに答えてはくれなかったが、そうでなかったとしても、心配はされてしまったのかもしれない。調査を始めてから4日間は何の収穫もなく、これ以上居づらくなってもいた。昨日クロスが来てくれて、客も取らず何のためにいるのかとあやしまれる可能性もなくなって、実際のところとても助かった。もっとも、貴重な一夜を寝て過ごしてしまって、何の調査もできなかったのだが。
(今夜こそ…ちゃんと探さないと。とはいえ、奇怪現象が起きてくれないことには見当もつかないんだよな。現象が起き始めたのが3、4か月前だというんだから、この場所に昔からあるものじゃなくて、そのころ外から持ち込まれたものだとは思うんだけど)
「ただいまー…」
「おかえり」
ブックマンは読んでいた本からちらりと目を上げ、また視線を戻した。草履を脱いで上がりこむ間にラビは全部脱ぎ捨て、長襦袢1枚になって畳の上に座り込んだ。小さな台の上の皿には、大きなおむすびが2つ載っていた。
「ありがと、じじい。いただきます」
片手で頬張りながら、腰紐も解いてしまう。そうすると締めつけるものがなくなって、やっと解放された気分になる。1個目を平らげて空腹が落ち着いたところで、ラビはそっとブックマンの背中に声をかけた。
「……じじい……もしかして、クロスと会った……?」
「ああ。お前のところにも行ったか?」
「う、うん……」
頷いてから、昨夜のことを思い出し、赤くなりながら慌ててつけ加える。
「来てくれて、助かったさ。やっぱ逃げ続けるのは苦しくなっててさー」
「ワシは何も言っとらんぞ。お前の任務と、店の名前は教えたが、行ってくれとは頼んどらん」
「……ああ……そう……」
「言えば、行くとは思っとったがな」
「へ……」
ラビは口の端からこぼれかけた塊を、指で押し込んだ。
「なんでさ…?」
「あいつはお前を甘やかしているからな」
「………」
ブックマンはまた読書に戻った。ラビはもぐもぐと最後の一口を食べ終えた。
「……でもさ、じじい」
「なんだ」
指についた米粒を舐め取る。
「クロスが行くと思って言ったってことは、じじいはそれ以上にオレを甘やかしているってことじゃねえ?」
ブックマンの跳び蹴りが、ラビの頬に決まった。吹っ飛んだラビの手前に着地すると、何ごともなかったように彼は席に戻った。
「お前が未熟者だからだ。馬鹿者が」
畳の上に倒れたまま、ラビは頬をさすりつつ、声を出さずに笑い転げた。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
こっちの甘々設定では、ラビのことをじじいとクロスがめちゃくちゃ甘やかして育てたっつーのがワタクシの妄想です・・・けど、原作読んだって、じじいはラビのことめっちゃかわいがってますよね~~。マイ設定ではブックマンはクロス10歳から15歳までを後継者として育てたことになっておりますが、10歳のときすでに自分を見下ろすようなガタイで、くそ生意気で、11歳で娼婦のおねーさんと筆おろしするような(もちろん、気に入られてだからタダで!おねーさん、あとで年齢知って驚愕!16、7のハンサムな坊やだと思っていたという・・・←言うまでもなく、幸田の勝手設定)かわいくないガキだったクロスと違い、まだちっちゃくて、うるうるしたでっかい目で「じーちゃん」(人前ではそう呼ばせている)などと呼ぶ素直なラビに、めろめろになったわけですな!修行は厳しく、しかしそれ以外はただの「じじばか」だったというのが、ワタクシの萌え萌え妄想でございます・・・
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。
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狭い部屋は布団が1組と行灯だけで、もう何を置く隙間もない。その布団の上に、胡座をかいて座っている男を、まだラビは信じられない気持ちで見つめた。
クロス・マリアン。教団内では元帥の地位にあるが、ここ1年、教団との接触を絶って所在が掴めなくなっており、1年中諸国を巡っているラビたちには特に、行方がわかったら報告してほしいという要請が来ていた。
「……いつ日本へ?ここへ来たのは……偶然…?じゃあないよね……?」
ラビは、日本語はもちろん、英語も聞かれることを警戒して、彼らの故郷の言葉で訊いた。隣りの喘ぎ声も聞こえるような状態なので、ほとんど囁き声になる。
「日本にいたのは偶然だが、この店に来たのはブックマンに聞いたからだ。…おい、そんなところに突っ立ってないで、こっちに来い」
ラビはその命令を無視して、そっぽを向いた。
「へえ。やっぱりじじいとは連絡取りあってるんだ。オレが知らないうちに」
「……おい」
「それで、じじいに頼まれて様子でも見に来てくれたんですか?だったら…」
ラビははっと息を呑んだ。クロスはラビの腕を掴んで布団の上に引き倒すと、彼の上にのしかかり、有無を言わせず唇を塞いだ。
ラビは抵抗せず──する気など全くなく、逆にその背にしがみついた。彼らはしばらく無言でひたすら互いの唇を貪った。
ラビの喉から嗚咽が洩れる。
「……オレ……もう、あんたに捨てられたんだと、思ってた……っ」
「何だって?……ばかなことを」
クロスはラビの涙を舐めとった。
「だってあんた、愛人がいっぱいいるし……男なんて嫌いじゃん」
クロスの動きが止まる。ラビはしゃくり上げた。
「あんたがオレに手ェ出したの、10のときじゃん。それからずっと続いてたのに……オレがアレが出るようになって半年も経たないうちに、あんたは戻ってこなくなって、音信不通になって……やっぱ、オレが男になったから、だめだったんだと思って……」
「おい、待て」
クロスは、ラビの顎を掴んで、自分の方を向かせた。
「それじゃ、オレが変態で鬼畜みたいじゃねぇか」
「……10歳のオレに手を出した時点で、十分変態だと思うけど」
「最後まではしてねえだろうがッ。だいたい、オレにキスして押し倒してきたのはてめえの方だぞ。そこまでされたらいただくに決まっているだろう!」
「ガキが好きな相手にキスしたからって、そういう意味にとる方がおかしいだろ?!」
クロスは手でラビの口を塞いだ。ラビも気づいて身を硬くし、周りの様子をうかがったが、幸い隣りはそれどころではないようだった。もっとも、この店の客も女も、聞こえてくる秘め事や痴話喧嘩など慣れっこなのだろう。
ふたりは見つめ合った。クロスは口角を歪ませて苦い笑いを浮かべ、目元に優しい皺を寄せた。
「……オレが行方をくらましたのは、そうしなきゃならなかったからだ。誰にも知られるわけにはいかないんでな。教団の中にも……信用できる奴だけでなく、できない相手はいるからな」
それだけで、ラビはクロスが言う意味を理解した。ぎゅ、と眉を寄せてクロスを見つめる。
「……もう……前みたいに、3人で旅をすることは……できないんだな……?」
「ああ……」
「……今度は、いつ会えるか……わかんないんだよな……」
「ああ」
「………」
どっと盛り上がってきた涙を、ラビはまばたきしてごまかし、わなないて歪んだ唇を、無理やり笑みの形に作った。
「……オレ、平気さ。あんたがまだ、オレと会ったときには抱きたいって思ってくれるんなら、同じだろ。たまたまじじいがあんたの師匠で、それで一緒に旅していたから長く続いただけで、ホントは、あんたの愛人の1人なんだって、ちゃんとわかってるさ」
ぱん、とラビの頬が鳴った。力は入っていなかったので音だけで痛くはなかったが、ラビはなぜクロスに叩かれたのかわからず、ぽかんと彼を見上げた。
「ばかか、おまえは」
クロスは苦々しげに言った。
「おまえも知っての通り、オレは女に不自由したことはない。おまえたちと旅していたときだってそうだ。なのにわざわざ、こっちが気を使ってしたいようにもできないガキで男のおまえを抱く必要がどこにある」
「……オレが、あんたを好きだったから……それで……」
「オレはそんなに親切じゃない。オレが、おまえに、惚れてるからに決まってるだろうが」
「うそだ」
「……速攻で否定するな。じゃあなぜおまえに手を出したと思ってるんだ」
「……手近、だったから……?」
「ばかやろう。手近どころか、すげえ面倒だっただろうが、ブックマンの目を盗むのは。おかげで四六時中一緒にいるっていうのに、実際にやれるのは2、3か月に1度あるかないかだっただろう」
「………」
ラビは、初めてクロスを見たように、妙にあどけない、それでいて怯えを滲ませた表情で、おずおずと右手を伸ばし、クロスの頬に触れた。
「……オレは……あんたが気に入るようなもの……何も持ってない……」
「全くだ。オレも、おまえのどこがいいのかわからん。なのになぜこんなくそガキに欲情するのか、オレが悩まなかったと思うのか」
クロスの指がラビの頬を撫で、首筋をくすぐった。ラビは肩をすくめ、猫のように目を細めた。
「だがな……この赤い髪と緑の目は気に入っている。この生意気な口も、嫌いじゃない。時々かわいらしいことを言うから、ついばみたくなる。骨ばって筋肉のついた体も、抱き心地は良くないが、そそられる」
クロスの手は、ラビの首から胸、腰から脚へとたどりながら下りていく。それが着物の合わせ目から中に侵入した。
「性格は」
下着をつけていないので直接触れられて、びくりとラビは震えた。
「口は悪いし強情だし、年々素直でなくなってくる。突っ張っているくせに甘ったれで、醒めているつもりで中はぐだぐだの、どうしようもないバカなガキだと思うのに……それでも惚れているから仕方がない」
「……ひど…オレ、いいとこないじゃん……」
ようやく、泣きながらだったが、ラビは笑った。
「本当のことだろうが」
クロスも曇りない笑顔を見せた。
ラビは、両腕を彼の首にまわした。クロスは彼を抱き起こし、前に膝で立たせると彼の帯を解いた。着ていた振袖を肩から滑り落とさせて、長襦袢1枚になったラビの手首を掴み、座るように促す。
ラビは布団の上に座り、クロスのベルトを緩め、ズボンの前を開いた。下着の上から彼のものを取り出し、ためらいなく舐め始める。1度目は口で、というのが彼らの決まりごとだった。まだラビが幼いうちに関係が始まったので、長い間その行為がふたりにとってのセックスだったのと、数度の挿入行為はラビに負担がかかりすぎるので、それを軽減するためというのが、その理由だった。
クロスのものを根元まで丹念に舌を這わせ、大きすぎて先端しか咥えられないそれからこぼれる蜜を吸い上げる。この行為をラビは決して嫌ではなかった。むしろ、クロスの反応が確かめられるから、喜んでした。自分の愛撫でそれが大きく硬くなり、彼の息が荒くなって、快楽を感じて興奮しているのだと思うと、そのときだけは彼を自分が所有している気になれた。
ラビの髪を梳くように、クロスの手が彼の頭を撫でる。彼が幼かったころと同じ仕種を、以前はこども扱いされていると不満に思ったものだが、今は前と変わらずいとおしんでくれているのだと、素直に嬉しかった。
「……う……ンッ」
クロスの放ったものを口腔で受け止めたが、久しぶりすぎてうまく飲み込めなかった。慌てて部屋の隅まで這っていき、盆の上の急須から白湯を注いで飲み干した。
戻ってもう一度しようとすると、「むこうを向いて座れ」と言われ、ラビはクロスの脚の間に背を向けて座った。
「………っ」
背後から抱きしめられて、反射的に呼びそうになったクロスの名を呑み込む。襦袢の裾をまくり上げられ、立てた膝を大きく開かれた。クロスに奉仕しているだけで勃ちかけたそこが冷えた外気にさらされ、自分の熱を自覚する。
「あ……」
クロスの手がそれを愛撫し始める。彼の手に触れられているという事実だけでめちゃくちゃに感じて、あっという間に昇りつめそうになる。片手で腰に回されたクロスの腕を握りしめながら、もう一方で口を塞いで声を抑える。
頬に唇と、顎ひげが押し当てられるのを感じた。チュ、と鳴らされ、彼がキスを求めているのを知る。
「……は」
ラビは振り向きながら手を離した。上から覆い被さるようにクロスの髪と唇が降ってきて、息を奪われた。苦いタバコの味に、舌と喉が痺れる。密着した腰に猛った雄を感じるのに、クロスはこのまま彼を最後までいかせるつもりだと気づき、抗議の声を上げようとするが、奥まで侵入した舌と、唇ごと食われるような荒々しいキスに抗う術はなかった。
快感ではなく、こんなに求めているのにクロスに貫いてもらえない苦しさに泣きながら、ラビはガクガクと膝を震わせてクロスの手に吐精した。彼の声を吸い上げておいて、クロスの唇は離れていった。
ラビはぐったりとクロスの胸にもたれかかった。息が整ってくるにつれて、急速に睡魔が襲ってくる。昼夜逆転の生活にまだ慣れないし、昼間に眠ったつもりでも熟睡できていないのだろう。どうしても目を開けることができない。
温かい胸に抱きしめられ、クロスの香りに包まれながら、ラビはこどものように眠りに落ちていった。
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ワタクシ、基本的にフェ○が嫌いなんで(お前の好みは訊いていない・・・そして、サービス精神のかけらもない・・・)、自分がエロ書くときでも受けがするのはめったに書かないんですが、クロラビに限ってはバッチこーい!つか、ほとんどそれがメイン!って感じで、自分でもびっくりです。それもこれも、クロス様がそうさせるとしか言いようがないですな!そして今、禁断の、つーか、「全く、書く(描く)人の気がしれん。何が楽しいんだか」と思っていた女体化も、「ラ・・・ラビならOK・・・つか、書きたい・・・。でもその場合、アレ+神田×ラビの3P・・・(もちろん、ラビ1人が受けだ)」などと腐りきったことを考える始末。こ、これはラビが私を狂わせたとしか言いようがない・・・!そのうちそーっと、上げておいても、嫌わないでね・・・!
注意!!
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」甘々ラブラブで、ややショタ気味です。基本設定は完全ショタです。このカップリングやラビ受けやショタが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は完全無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)また、前回の小説とは全く別設定で(一部同一設定あり)、続きではありません。
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させることがあります。
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wish
仮想19世紀末の仮想都市・江戸。日本は鎖国を解き、科学技術の導入や産業振興を試みたがなかなか振るわず、その後方針を180度転換、外貨獲得のため観光立国を目指し、鎖国状態が続いていたことを逆手にとって、「エキゾチック・ジャパン」を宣伝文句に世界中に売り込んで、外国人観光客を積極的に受け入れ始めた。その甲斐あって日本への観光旅行ブームが巻き起こり、大勢の観光客が押し寄せ、日本は──とりわけ京都と江戸は、街に外国人が溢れる国際都市に変貌した。
一方、その状況は「黒の教団」にも影響を及ぼしていた。これまでファインダーたちが入り込めなかった日本に、もしかしたらまだ大半が行方不明のイノセンスがあるかもしれないと、観光客にまぎれて彼らを潜入させていったのだった。
ブックマンが日本を訪れるのは、20年以上ぶりだった。初めて訪れたのは日本が開国して数年後、今の日本ブームが起こるよりもずっと前のことで、ブックマンの記録の中でも長らく空白だった日本に関する情報を集めようと、1年以上滞在した。そして今回の再訪問は、後継者として育て始めたジュニア──今はブックマン共々「黒の教団」にエクソシストとして所属し、教団内での名は「ラビ」と名のっている──の見聞を広めるためことと日本語の習得を目的としていたため、彼らとしては割合長く、3か月にわたって国内を巡っていた。おかげで特殊な記憶法と言語習得技術によってジュニアは、話すだけならほぼ流暢に日本語を操れるようになっていた。
そんな彼らがそろそろこの島国を離れようと江戸へ戻ってきたところへ、ファインダーが教団からの指示を持って尋ねて来た。
江戸の吉原地区──そこは政府公認の遊郭街である。外国人観光客も出入りし、多くの金が落とされる場所として、今や政府によって厳しく統制されている。遊女たちは定期的に健康診断を受け、技楼も決められた基準──遊女や使用人の労働基準から施設の衛生・防災設備まで──をクリアしなければ営業を許可されない。おかげで「吉原」は安心して快楽を買える場所として、男性観光客の人気スポットとなったのみならず、他に収入を得る術を持たない女たちも、好待遇で稼げる場所として世界中から出稼ぎにやってきた。その吉原のある妓楼で、奇怪現象が発生しているというのである。
だがそれは吉原という特殊事情に阻まれ、噂の域を出ていない。キリスト教会の力が政府に及ばない日本では、公権力を使って調査に入りこともできず、民間の協力者もまだ得られていないため、二の足を踏んでいる状態だった。しかし、イノセンスがあるのならば、絶対に手に入れなければならない。そこで教団は、その妓楼内に団員を潜入させて原因を探り出し、イノセンスだったなら入手することを決定したのだった。
「なんでさ?!こっそり忍び込んで探して取って来りゃいいじゃん!!」
「奇怪現象は常に起こっているわけではないらしい。忍び込んだところで当てもなくどうやって探すつもりだ?」
悲鳴を上げたラビに、ブックマンは冷たく答えた。
「そんなこと言ったって、絶対男だってばれるって!オレ、指名されたらどーするさ?!」
「指名されんように、ぶさいくな面(ツラ)でもしておれ」
一時金をもらって年季を勤める遊女もまだ残ってはいたが、昔の吉原と違い、今では完全歩合制の通いの遊女や、住込みの賃金制など、さまざまな形態の遊女がいる。なので、16歳になったばかりのラビを出稼ぎ遊女として送り込もうというのがアジア支部の指令だった。なにしろ女性のエクソシストは元帥が1人と、年端もいかない少女しかいないので、男性エクソシストの中では神田ユウと並んで最年少のうちのひとり、ラビに白羽の矢が当たったのだ。もっとも、性格的に神田には無理と判断されたという理由もあったのだが。
さんざん抵抗したものの他に手がないと押し切られ、ラビは形ばかりの面接──保健所の健診結果とパスポートさえあれば、格の高い大見世でもない限り、歩合制の遊女を断ることはまずない。もちろん、それらは偽造した──を受け、その夜から見世に出ることになった。
問題の妓楼は中見世に格付けられており、上級遊女から下級遊女まで約40人が勤めていた。外国人の遊女もいたが、吉原では日本情緒を守るため必ず着物を着ることが決められていたので、髪こそ洋風に結っていたりリボンを結んでいたりしたが、皆振袖を前で帯を結んで着ていた。
ラビも、潜入開始前にひとりで着物を着る特訓をさせられた。胸にはタオルを巻いてふくらみを持たせる。髪を下ろし、眼帯は上から布を巻いて印象を和らげ、頭の横で結んで垂らす。白粉など塗らずとも少し紅を注すだけで、まだ少年の域を出ないラビは、十二分に少女に見えた。右目を隠しているのもマイナスどころか、むしろ痛々しいような妙ななまめかしさを感じさせた。
初日、吉原内に借りた小さな部屋からその姿で出かけようとしたラビに、ブックマンは言った。
「……頭から何かかぶって、顔を隠していけ」
「そのつもりだけど?まだ明るいから男だってばれるといけねえし」
ラビはきょとんとした。
「いや、ばれることはないだろうが……店でも、外から見えないように陰に隠れていろ」
「わかってるさー」
振袖の長い袂の中には、彼のイノセンスである槌を入れていた。また、いざというときのために科学班特製の即効性の麻酔薬を仕込んだ針も隠し持っている。
「んじゃ、行ってくる」
「うむ」
妓楼の営業時間は午後6時から0時まで。と言っても新規の客を迎え入れるのが0時に終了するというだけで、客のついた遊女はその後ずっと客の相手をし、つかなかった遊女たちはそのまま大部屋で眠ったり、近所に住むものは帰ったりする。ラビは帰らずに、楼内の調査をするつもりだ。
6時より前に店に着いた彼は、裏口から中に入り、開店準備に追われている雇い人たちに愛想良く挨拶しながら、まっすぐ表には行かず、中を一巡りし、庭にも出てみた。
妓楼の造りはどこもほぼ同じで、中庭に面して建物が配置されている。建物はすべて2階建てで、2階には客をもてなす部屋がずらりと並び、1階は厨房などの水周りと、遊女達の仮眠用大部屋、それに住込みの者や主人一家の部屋など、生活の場となっている。ここで起こっている奇怪現象の噂は、「歩いても歩いても、出口にたどりつかない」というものだった。
この妓楼は建物が渡り廊下でロの字型につながっているのだが、客が夜中に小用を足そうと廊下を歩いていくと、どこまでいっても厠にたどり着かない、或いは元の部屋に戻れないというのだ。最初は酔っているせいで、同じような部屋が中庭を取り囲んでずらりと並んでいるのでわからなくなったのだろうなどと笑い話にしていたのだが、そのうちに戻ってこない客を探しに行った女まで戻れなくなって、朝になって自分の部屋の前で座りこんでいるのが発見されたとか、1階に下りる階段まで見つからずやけになった客が、庭に飛び降りて怪我をするという事態になって、人々の間に噂が広がり、日本駐在のファインダーの耳にも入ったのだった。
そんなわけで、その噂の妓楼を一目見ようという野次馬や、自分も体験してみたいと登楼する客まで現れ、妓楼はむしろ大賑わいとなり、楼主もほくほく顔で遊女はいればいるほどいいという状態で、難有りのラビでも潜り込めたというわけだった。
妓楼の母屋の通りに面したところには、張見世という、遊女たちの控えの間がある。ここには壁はなく代わりにベンガラ格子が取り付けられ、道行く人々が遊女の品定めができるようになっている。表からよく見える格子際の中央には上級遊女が陣取り、端にいくにつれ格が下がる。ラビはもちろん、いちばん後ろの端だが、それでも表からあまり見えないようにうつむいたり、他の遊女の陰に座ったり、しょっ中用足しだの水が飲みたいだのと引っ込み、指名されないように気をつけた。そして売れ残りの中に入って大部屋で雑魚寝しつつ、皆が寝静まったころにそっと抜け出して、楼内を探った。
しかし、ラビが来てから折悪しく奇怪現象は起きず、無為に4日が過ぎてしまった。5日目ともなると周りの遊女も心配して、「もっと前へ出なよ」「この商売初めてなの?怖がってるのはわかるけど、覚悟決めないと稼げないよ」と気にするようになり、楼主からも「客がつかないようじゃ、うちにいてもらってもねえ…」といやみを言われる始末。これはそろそろあの薬を使うしかないのかと暗くなりながら、その日もラビは張見世の隅で縮こまっていた。
上級遊女たちはすっかりいなくなり、気づけば40人が押し合いへし合いしていた張見世には、ラビを含めて5人しか残っていなかった。通りかかる人もまばらになり、宴会のにぎやかな音曲も絶え、店々の明かりもぐっと減っていた。本当は通りに電気を引き、終夜営業にしてしまうこともできるのだろうが、それでは江戸情緒がなくなってしまうと禁止されているのだ。
そろそろ今夜も店じまいか…、と連日の気疲れから壁にもたれてうとうとし始めたラビの耳に、女たちの興奮した声が聞こえてきた。
「見てみて、すっごいいい男!顔を半分変な面で隠してるけど、でもいい男よ!」
「本当、いい体格してるし!どこの国の軍人さんかしら?見たことない制服よねぇ」
「遊びに来たんじゃないのかしら?それとも気に入った娘がいなかったのかしら」
「案外、見世番に断られたのかもよ。だってあんなでかい男、あたしらが壊れちゃう」
格子に張りついていた女たちが、一斉に嬌声を上げて笑った。
ラビはふらりと立ち上がった。
格子越しに、近づいてくる姿が見える。豊かな赤い髪、右半面の白い仮面、金糸で縁取られた黒い制服の左胸には、ローズクロス。黒い手袋の大きな手が、煙草を口元に持っていく。露わになった左半面の、鋭く男らしい端整な白晢。
「もみじ?」
源氏名を呼ばれたのにも気づかず、ラビは表側に歩いてくるとへたり込み、格子を両手で掴んだ。通りかかった男と目が合う。男は歩を緩め、表情は変えずに呆然と見上げるラビを眺めると、そのまま入口から中に入ってきた。
「ちょっと…うちに来たわよ」
「誰?誰を?」
女たちが浮き立った調子で囁き交わす。見世番と男は言葉を交わし、話がついたのか籬(まがき)越しに見世番が声をはりあげた。
「もみじ、座敷に上がれ」
女たちのうらやましげな、かつ気の毒げな目に見送られ、ラビは2階に上がった。
妓楼のならわしでは、初見の客と遊女はまず引付座敷で、遣手(やりて)という遊女のお目付役の女と、廻し方という、部屋を手配したり女たちを客にあてがう男が同席の上、対面が行われ、軽く酒食をとってそれから部屋へ、となる。が、もちろんそんなまだるっこしいことは省略したければすぐ同衾ということも可能だ。
ラビは廻し方に促され、引付屋敷で待っていたが、廻し方が客を案内して部屋の前を通り過ぎていく気配があり、結局すぐに呼び出された。
昔は客が混みあっていると、大座敷を衝立で仕切っただけで行われていたというが、今は外国人のために簡単な板壁ではあるが、すべて個室に仕切られている。
廻し方に案内され、その四畳半ほどの小部屋の1つに、ラビは滑り込んだ。
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いやはや、いきなり妄想炸裂ですみません前の小説の続きを書き始めて、ラビが遊郭に潜入調査する話だったんだけど設定が中国だったもんだから、今回UPしたような格子越しの再会場面がなくっておもしろくなかったの・・・。単なる遊郭設定萌えです。
前回と同一設定はクロスもブックマン一族出身ということと、目が怪我のせいじゃないことです。
タイトルは思いつかなかったので、またエンディング曲から。(仮)タイトルってことで・・・。でも、多分思いつかないまま、これになっちゃうんだろーな
・・・しかし、これから書く話のパロみたいな話になっちゃってアホだわ。まだ自分にしかわからないからいーんだけどさ・・・
注意!!
①これはいわゆるボーイズラブというジャンルの女性向け小説であり、同性間の恋愛を扱っており、性的表現を含みます。このジャンルに興味のない方、そのような内容を苦手とする方はお読みにならないよう願います。
②Dグレ「クロスXラビ」です。ドSのクロスとドMなラビなので、このカップリングやラビ受けが苦手な方はご遠慮ください。
③原作の設定は一部無視、また多数捏造しております。くれぐれも信じないように!(笑)
④文章の一部は、うっかり目に入らないように反転させてあります。
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regret
ロト一族同士だけが嗅ぎ取れる、一族だけが放つ芳香。子どものうちはわからないが、成長すると感じとれるようになる。それは、例えるなら植物の香りに似ているが、1人1人全く違う。その香りは麻薬のように一族を縛りつけ、村から出て行くものが少ないのも、その結果一族の血が薄まらず受け継がれているのも、そのおかげ──呪いと言うべきかもしれないが──だった。
「こんなに……オレを狂わせるのはあなたの香りだけだ……。師匠の香りはオレを温かく包んで安らかにしてくれる、春の菜の花の匂い。旅の途中で出逢った同族の男は、まだ刈ったばかりの牧草の青い匂いだった。もしこの先同族と出会えなくなって、一生これらの香りを感じることができないとしたら、オレは世界を感じられなくなってしまう。紙に描かれた黒と灰色と白だけの絵にしか見えなくなる。なのに……あなたはどうして、独りでいられるんです?この香りなしでいられるんです?あなた自身はこんなにも甘く、蠱惑的な香りを持っているのに……?」
そう言う合い間にも、ラビはクロスの手に接吻し、舌を這わせ、その指を1本1本丹念に舐め、口に含んでいく。
あの夜、クロスがラビを拾ったのは偶然ではない。ある意味では偶然だが、ただの浮浪児ならば見捨てたのにそうしなかったのは、それがラビ──つい先程、一緒に任務をこなしたブックマンに同行しているはずの子供だと、その匂いで気づいたからだった。
ラビもまた、朝目覚めたときには本能で理解していた。この男は自分が欲する唯一の相手だ。この男ともう一度出会うためには師の元へ戻り、世界中を旅して求め続けるしかないのだと。
強くなっていくクロスの香りに、ラビは半ば恍惚として彼の指を舐め続ける。それを見ていたクロスの目に、凶暴な光が走った。
ぐい、とラビの前髪を鷲掴みにして頭を仰け反らさせる。
「……くそガキが……。なんて匂いをさせやがる……」
クロスの視線には、殺意がこもっていた。しかしそれさえも今のラビには、淫らな欲望を煽るものにしかならなかった。
「だから俺はあのくそったれ一族を捨てたんだ。こんな血なんかに自分の体を自由にされるなんて我慢できるか……!それをてめえは……」
クロスは、ラビの襟首を掴みベッドへ放り投げると、倒れこんだ彼の横にどかりと座った。
「咥えろ」
熱に浮かされたまま、ラビは片膝を立てたクロスの足の間に這い寄り、ベルトをはずした。クロスの雄はすでに下着を押し上げ、ラビに──ラビの匂いに欲情していることを示していた。
出会ってから6年が経っていたが、まだ14歳のラビに経験などあるはずもなく、勃起した大人のものを見るのは初めてで、その形に一瞬ひるんだが、男の命令が彼に意思を縛った。
おそるおそるそれを両手で支え、口を近づける。経験はなかったが知識だけはあった彼は、単純に咥えるだけでなく、本で読んだことを思い出せるだけ懸命に実行した。
男のものからは、体臭よりも一層濃密な花の蜜の匂いがした。鈴口から滲み出てくる体液も、本に書いてあったこととは違い、彼には甘い蜜の味にしか感じなかった。口の中で体積を増したそれは、顎が痛くて苦しいほどだったが、彼はその甘い蜜を舐めれば舐めるほどもっと味わいたくてたまらず、夢中で吸った。
頭の後ろを大きな片手で掴まれ、押さえつけられた。
「うっ……」
強引に男のものが口腔を何度か往復したあと、どっと口の中に蜜が溢れた。それはアルコールのように熱く喉を焼き、鼻腔を抜けた香りはラビを酩酊させた。
男の脚の間にうずくまり、ラビは荒い息をつきながら満足感と、収まらない欲望に浸っていた。自分自身から、クロスの香りが立ち上っているのを感じる。体内に取り込んだクロスの体液は吸収されて、その香りは血液に乗って体中をめぐり、彼の細胞一つ一つにまで運ばれていくだろう。だけど、これだけじゃ……足りない。もっと。もっと、この男の精を注がれたい。パンも水も要らない。この空っぽな内臓全部、男の蜜でいっぱいに満たされたい……。
伏せた顔から、視線だけを上げて男を見つめる。淫蕩な欲望に濡れた瞳を、狂気を秘めた小冥い瞳が見つめ返す。視線を絡めたままラビは男の重量のあるものを手で上向かせ、舌を突き出して舐め始めた。すぐにそれが硬く反り返っても、男の顔を見ていられるよう咥えずに、露がこぼれて伝い落ちていくのを舌ですくい舐め続けた。
自分の淫らで惨めな様を、彼がどんな表情で見ているのか知りたかった。軽蔑でも嫌悪でもいい。自分が絶望するほど拒絶してくれたなら、この未練を断ち切れる。自分は「ブックマン」という名の、「エクソシスト」という名の道具なのだと思える。この先誰をも何をも求めず、ただこの香りへの飢餓に狂うまでは。
「……服を脱げ。下だけでいい」
少なからず意外な思いで、ラビはその命令を聞いた。
元帥の地位にありながらめったに教団の本支部に姿を現さない彼だったが、その噂だけはいやというほど耳に入った。型破りの彼の派手な行動は、本人自身が印象的な容姿であることもあいまって、どこへ行っても人々の注目を集めてしまうからだった。その中で必ず、やっかみ雑じりに囁かれていたのは、どこへ任務や作戦で行こうと、その町の女たちにもてまくり、金を払うどころか引く手あまたでタダで泊まり歩いているとか、必ずその町1番のイイ女を愛人にしてしまうとかいうものだった。とにかく女にもてるし、女好きであることは確かだったので、ラビも、自分が奉仕すること以外のことは望んでいなかったし、そもそもそれ以外思いつきもしなかった。
ブーツを脱ぎ、隊服のズボンを下着ごと下ろす。羞恥心などは最初から捨てていた。これから何をされるのか知ってはいたが、実際はどうなのか想像もつかず、欲望に浮かされてはいても、恐れを感じずにはいられない。
「四つん這いになれ」
クロスの表情がわからなくなり、不安になる。上着の長い裾を捲り上げられたかと思うと、双丘を左右に押し拡げるように腰を掴まれ、高く持ち上げられた。
「…あっ」
拡げられた穴に、熱いものが当てられた。慣らされてもおらず、指1本入れられたこともないそこに、容赦なく突き入れられる。
叫び声は、すぐにラビの後頭部を押さえつけたクロスの手で殺された。力加減もなく枕に顔を押しつけられ、息もできなかったが、それよりも引き裂かれる苦痛にラビは体を痙攣させた。恥も外聞もなく泣き喚いたが、それらの声も涙も枕に吸い取られ、かすかな呻きにしかならない。わずかに肺に入ってきた空気が、刺し貫かれる衝撃で吐き出される。その息にクロスの匂いが混じる。それを感じているうちにまた頭の芯がぼんやりし始め、苦痛が和らいでいった。
頭を押さえていた手が離れても、顔を上げることはできなかった。男を後孔で受け入れることは苦痛でしかなかったが、かまいはしなかった。自分の息が、汗が、クロスの香りに変わっていく。男の快楽の道具になら、喜んでなろう。この香りを所有するためなら。
鼻腔が嗅ぎとる花の香りが強まるにつれ、この香りの主である男の快楽も高まっていることを教える。部屋の空気も、自分の体も、とろりと手で掬えそうなほど濃密な花の香りに満たされ、窒息しそうだ。
「あっ、ああっ!」
野の花々をすべて吹き散らし、さらっていく激しい突風のように、ラビの体の中を芳香が突き抜けていった。自分が花そのものになったような──クロスの生み出した花に──不思議な感覚とともに、ひらひらと飛んでいく蝶の幻を見た。安らかな解放感と、甘やかな充足感。これは自分がエクスタシーに達したからではない。クロスが達したことで、もたらされたものだった……。
……くん、と強い刺激臭が鼻腔を刺し、ラビははっと目の焦点をあわせた。眠っていたわけでも、気を失っていたわけでもない。男の苦々しげな呟きも聞こえていたし──何を言っているのかまではわからなかったが──、いつ毛布をかけてくれたかも知っている。ただ体が麻痺したように指一本動かせなかったのだ。
じわじわと、疼痛が背筋を這いのぼってくる。どうしたんだろう、と体を起こしかけると、脳天まで痛みが突き抜けた。歯を食いしばってそれをやり過ごし、タバコの煙の漂ってくる方を振り返った。
ベッドの足側に、長い脚を立てて壁にもたれて座るクロスがいた。タバコを咥えた右の横顔は、右半分を覆い隠す白いマスクのせいで表情がわからない。起き上がったラビの方をちらとも振り返る気がないことくらいはわかるが。
強いタバコの香りは、クロスの香りを消すことはできないが、嗅ぎ分ける邪魔にはなる。だから彼はいつもタバコを吸っているのだろうか、と思う。普通の人間にはこれこそが「彼の香り」なのだろうが、一族にとっては余計な匂いでしかない。それに、アルコールは感覚を鈍らせる。タバコも酒も彼自身の香りをわかりにくくするとともに、他の一族の香りを感じることを拒むためのものなのかもしれない……。
ラビはそっと床に足を下ろし、服を拾おうと身をかがめた。脚を何かが伝っていく感触がした。見ると、太腿の内側を血が流れ落ちていくところだった。床を汚してしまう、と急いで下着とズボンを穿き、服を整えた。
彼は自分を叱咤しながらぐっと奥歯を噛みしめ、顔を上げた。クロスに真正面から向き直る。
「お時間を取らせまして、申し訳ありませんでした」
一度姿勢を正してから、腰を折って深々と頭を下げる。3つ数えて頭を上げようとすると、
「これに懲りたら、二度と俺に近づくな」
ラビは一瞬息を呑んだが、意を決して口を開いた。
「…できません」
彼は目に力をこめて、クロスを見た。
「先程言ったはずです。オレはあなたが欲しい。心まで欲しいとは言わない。あなたの……都合のいい、ただの捌け口でかまわない」
「……てめえ……殺されたいか……?」
苛立ちを立ち上らせたクロスに、むしろラビは反抗心のようなものが湧き上がるのを感じ、昂然と言った。
「殺してください。あなたなしでは、オレは狂うしかない。それぐらいなら殺してください。……一族の誰もがこんなふうになってしまうかどうか、オレは知らない。だから、とっくにオレは狂ってしまっているのかもしれませんが」
「…………」
彼らは、これから戦いあう敵同士のように、睨み合った。これが戦いなら、何が勝利だというのだろう?──ラビは思った。自分に爪の先ほどの関心も持たない男を愛した時点で、自分は全面降伏したも同然なのに。
「………いいだろう。今度会ったらてめえを使ってやる。何か月、何年後かは知らないがな」
白刃を首筋に当てられたような、冷ややかな怒りに、ラビはぞくっと背を震わせた。
「……望むところです、元帥殿」
ラビは一礼して、背を向けた。
部屋を出て、自分の部屋へ戻ろうとしたが、気が緩んだのか痛みがぶり返し、異物感も加わって、壁に縋らないと歩けない。やって来る人影に気づいて足を止め、彼らに背を向けて窓にもたれて外を眺めるふりをしてやり過ごす。川面に映る月よりも、窓に映った自分の顔しか見てはいなかったが。
充血してうるんだ目、明らかに泣いたとわかる腫れたまぶたと青黒い隈。こんな顔を師匠に見られたら……いや、たとえ顔を見られなくたって、彼にはラビが何をしてきたかわかってしまうだろう。彼の体に染み付いたクロスの匂いで。
彼には自分自身の匂いはわからない。師匠に、自分がどういう匂いがするのか訊くのは気が引けた。第一無駄といえば無駄だった。彼らの匂いは、相手によって感じ方が違う。だから師匠が知るラビの匂いと、クロスが感じるラビの匂いは、全く別物だ。同様にラビはクロスの匂いを甘い花の香りだと思うが、ブックマンには違うように感じられているはずだ。だが、今のラビからラビとクロス両方の匂いを嗅ぎ取ることは容易なことだ。そして、これだけ他人の匂いを強くまとっていることが何を意味するか、気づくだろう。
激怒するか、蔑まれるか、それとも無視されるか……どちらにせよ、師が深く落胆するのは目に見えている。厳しくも愛情を持って自分を育ててくれた師に、彼も今では深い情を感じている。それだけに、これまで自分が何のためにつらい訓練や旅に耐えてきたのか知られるのはつらい。すべては……あの男に、クロス・マリアンに会うためだった。
6年前のあの日、あの男だけでなく、ブックマンからも同じように花の匂いがすることに気づいたとき、わかった。あの男もロト一族で、あの眼帯の下には、自分と同じ「ロトの印」があるのだろうと。
しばらくして、ラビが一族の匂いがわかっていることに気づいたブックマンは、一族のみが持つその体質のことを教えてくれた。数年後、あの男がクロス・マリアンであることを知り、さりげなくクロス元帥の話に水を向けたときには、彼が実は一族の出身で、本当はブックマン候補だったが、エクソシストとなると後継を拒否し、本名を名乗り、一族との縁を切ったことを話してくれた。
月日が流れ、体が成長し、世間を知るにつれ、ラビはあの夜の出来事の意味を理解するようになった。自分の身に起きたあの変化も、男に興味を持ってもらえなかったことがひどく悲しかった理由も。
彼にどうやったら近づけるだろう。ただの子供で、駆け出しのエクソシストの自分が、どうやったら彼の関心──なんだっていい。エクソシストでもブックマン候補としてでもなく、彼個人へのものならば──を引けるだろう。そう考えて出した結論が、彼が拒絶した一族の血そのものを利用することだった。それ以外、彼には他に何もなかった。
結果は……予想以上の結果で、ラビは幸福だった。彼の雄を口で味わい、彼の吐精を注がれた。愛されることなんて、心なんて望んでいない。嫌われたってかまわない。無関心よりどれだけかマシだ。彼のあの香りさえ──どんな女たちも、他の一族でさえ誰も知らないあの甘く苦しい蜜の香りさえ手に入るならば。そう思っていたし、今、その喜びを手に入れた。
なのに……なぜこんなに哀しいのだろう。苦しくてたまらないのだろう?自分は何か間違っていたのだろうか。
大声を上げて泣きたいのに、ここには何処にもそんな場所はない。自分の部屋へ帰るしかない。師匠が待つ部屋へと。彼の前で泣けば、きっと彼を悲しませる。弟子として失望させ、家族として悲しませ……。そんなことはできない。決して、泣くわけにはいかない。
苦しくて痛くて……胸が痛くて、喘ぎながら歩き始める。今さら後悔なんてしない。自分はあの日、選んでしまったのだから。もう一度彼に会い、彼を手に入れるためならどんなことでもすると。そのためなら「ブックマン」にでも「エクソシスト」にでもなろう。
だから、生き続ける。次はいつなのかわからない。数年後かそれとももっと先か、彼に再び会うために、人々の血と悲しみに塗れた道を傍観者として踏みにじり、その血の匂いの中に、花の香りを求めながら。
2009.1.11
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・・・妄想追加です・・・
1.ワタクシ、基本はブックマンXラビ(プラトニック)なんスよ・・・。
2.エクソシストは教団本部に自室をもらえるみたいだけど、どうしてブックマンとラビは同室なのかねー?18歳の健全な男の子がこれじゃーナニもできやしないじゃん?夜中にオOってるラビに気づかないふりするブックマン・・・。ラビの下半身事情も把握しているブックマン・・・。オメーら、どういう関係じゃ!
3.捏造設定いっぱいですが、世の中にはクロス&ラビ親子ネタもあることだし・・・。これぐらいいいよねーっ。
4.ただ赤毛で右目隠してるという共通項だけでここまで捏造するとは・・・。自分の妄想っぷりに呆れちゃうよ!
5.だけどさー、クロスが悪魔の改造ができることを、「ワシだけが知っている」とかブックマンが言ってたのが引っかかるんだよね。なんでブックマンだけ?そんなに親しいの?まあ、じじいだからクロスが駆け出しエクソシストの頃から知ってるという理由かもしれんけど・・・。あ、今、新人クロスの教育をしたのがじじいだったという妄想が・・・!アリかもしれん・・・。
6.私の妄想では、クロスの悪魔改造能力の秘密は右目にあって、まだ全然隠してる理由が出てこない(たぶん・・・。小説版とかで出てたらごめんなさい。読んでないです。・・・それ言ったら、アニメも3分の1くらいしか見ていないし、コミックスも後輩から10巻あたりまで借りて読んだだけだ・・・。だから勝手に捏造しまくってるんだけど!)ラビの右目も、同じ能力がある・・・ということになっております。まだ本人自覚なし。元帥の方々程度までイノセントを使いこなせないと使えねーってことで。
7.タイトルの「regret」はエンディング曲から。『たった一言「行かないで」が言えなかった。あなたが幸せならそれでいいなんて、絶対に言えない」というフレーズがすっごい好きです。ラビの気持ちにピッタリー!と決定。
8.この話は殺伐とした関係で終わりましたが、希望としては、このあとクロスはアレンを育てて、多少は変わるんじゃないかなー。その間2、3回ラビとは会ってる。会ううちに逆にラビの「心まで望まない」という頑なな心に苛立つようになってきて、で、江戸で再会してなんとか箱舟の破壊に成功したあと、ゴニョゴニョ・・・とかなるといいなーっっ
9.・・・そんならぶらぶHも書きたいよ・・・。リクもらえたら書こうかな・・・。その前にもうちょっと原作ちゃんと読まないといかんと思うけど・・・。ところでコミックスではどこまで話が進んでるのかねえ?
10.しつこいようですけど、99%捏造設定ですので!ラビの名前もわかんないからてきとーにつけた。どうせラビだって偽名だからいいじゃん。あ、ブックマン一族(なんてあるんだったっけ?記憶に自信ない・・・)に「ロト一族」と勝手に名前付けましたが、ロトというのは旧約聖書に出てきます。娘たちとともにソドムの滅亡から逃れた男ですが、なにしろみんな滅びちゃったから、娘たちと交わって、子孫を残すんですねー。そういう近親相姦からの連想で・・・村中みんな親戚。だからクロスとラビもけっこー近い血縁ってことで。またいとこくらいかなー。
・・・以上、妄想を垂れ流してみました!この小説はそのうちサイトに上げときます。
昨日この書き込みを見てくださった方は気づかないだろうなー、と思いつつ、こっそり本日(1/13)追加のたわごと。
11.書きながらどうしても、紫の照明で薔薇をくわえて登場し、女性たちを落としまくるセクスィ~部長※1姿のクロス元帥が頭から離れませんでした・・・
※1.NOKのコメディ番組「サラOーマンNEO」に登場する、そのムンムンフェロモンだけでばったばったと女性たちを失神させる部長。どんな会社だ・・・
12.ま、クロス元帥はもともと女性限定フェロモン撒き散らしですけどね!男向けはラビ限定で(笑)
13.実はこの話もワタクシ的にはショタだ・・・。私のショタ定義は上限15歳なのさ!16歳だと国家公認で結婚できちゃうからさ~(女の子だけだけど!)