週末にBL小説の更新ができなかった理由のひとつが、日曜に遊びに行っていたせいでございます・・・。
今でこそポポちゃん(アフリカオオコノハズク・・・オオ、とついてるのにちっちゃいよ~)で有名な掛川花鳥園だが、私がここを知ったのは、朝のローカル情報番組で、大温室を黄色いインコが集団で飛び回る迫力の光景を見たときだった。その話を橘(彼女は大の鳥好き。1客ウン千円の鳥柄のカップを買い、ウン千円の鳥柄のお猪口を買い、ウン千円の漆塗りの小箱を買い、羽毛布団を愛用し、鶏肉が好き←何か間違ってないか?・・・な鳥フェチである)にしたら「知ってるよ~。こないだ1人でバスツアーで行ったもん」などと言うので、そうか、鳥マニア(?)には有名な場所なのか・・・と記憶に残っていたものである。その後ペンギンが入口でお出迎え(ただの散歩ともいう)してくれるであるとか、ポポちゃんがあちこちで取り上げられるようになったりとか、「う~む、ポポちゃんはともかく、ペンギンの営業部長に会ってみたいし、インコの大群が飛び回る様が見てみたい・・・」と思い続けていたのを、ようやく行く気になったわけだ。
というわけで、すでに2回も行ったことのある(いや、バスツアー以後にもう1回行っていたとは知らなかったんだけど。どんだけ鳥好きなんだ)橘を連れて掛川まで車で行った。
10月26日。この日、私は二日酔いでややグロッキー気味だった。先日20年ぶりに会ったSと、Sが年賀状だけのつきあいをしていたMに連絡をとってくれ、25年ぶりの再会となって、3人で飲みに行ったのであった・・・。おかげで朝ごはん食べられず、コーヒーだけ飲んで駅まで橘を迎えに行った。
8:30出発。まずは豊橋美術博物館へ。ちょうど「上村松園・松篁・淳之展」がやっていたので、見に行った。着物の柄の細かさ、美しさに感動。やっぱ松園はいいよ~無理やりつきあわせた橘も気に入ってくれたようで良かった良かった。
そのあと掛川花鳥園へ。ペンギンは迎えてくれなかったが、受付に「営業」と書かれた名札の上の止まり木に鳥がいた。
入ってすぐのところでは、「フクロウコレクション」としていろんなフクロウがガラス越しに見られる。必死で写真を撮るが、暗いがフラッシュはいかんな、とフラッシュ消して写したらスローシャッターになってしまい、手ぶれブレブレブレ・・・(と、「絶望○生」の主題歌が頭の中で流れる・・・)。唯一きれいに撮れていたのがこちら。
りりしいまゆげにつぶらな瞳のハンサム君。名前は・・・メモってません
その奥の温室へ行く渡り廊下の左右には池があり、カモ、オシドリ、ペリカン、ペンギンなどが雑居状態。しっかりと家からパンを持ってきた橘が「来い来い来い」とエサやりにはげむ。
ちょうどお昼だったため、頭上にベゴニア?かなあ・・・の鉢がいっぱいにぶら下がる温室内の売店でうどんを食べ、鷹匠ショーを見に行く。朝から雨が降ったりやんだり、とりあえず車の中ではよく振っていたが、外に出るタイミングでは傘がなくともなんとかなる程度でラッキー。外でのショーも見られた。このときはハリスホークという種類の鷹。スリムでしっぽが長くてカッコイイし、人懐こいなあ・・・。
エミューと戯れ、200円払って「フクロウを乗せてみよう」と腕に乗せて写真を写す。(「ポポちゃんどうでもいいしー」といいつつ、ちゃっかりポポちゃんと写真をとってご満悦。橘はポポちゃんと、もっと大きい茶色のフクロウの両方と写真を撮る)どうでもいいが、このネーミングは・・・
さて、やっと鳥が飛ぶ大温室へ。ヤ○ーのクーポン券を使えば入場料1050円のところ950円になる上に、1回分のエサ券もついている。エサをもらって奥へ進むが、池の睡蓮がきれいなので、ついつい鳥より睡蓮を写すことに一生懸命になってしまう私だ・・・。「鳥は触るもんじゃない、見るもんだ!」という私と違い、気がつくと橘は黄色いインコまみれになっていた。インコたちは観光客からエサをもらうことに夢中で、あまり・・・つーか、全然飛んでくれない。がっかりだー!
さらに水鳥のスペースへ移動。入口に「いたずら好きのフラミンゴがいます。足に○色のリングがはまっている子に注意してください」とか何とか、注意書きが。「やつらにとってはいたずらじゃなくて攻撃じゃないのか・・・」と呟きつつ入る。エサは全部インコにやってしまい、カメラを持って獲物・・・じゃない、被写体を狙う私に隙はない。やるんじゃないかなー、とぼーっとフラミンゴが目標(おっさん)に近づいていくのを見ていると、おっさんは背中を頭突きされた。さらにそのフラミンゴはご婦人の背中をつつく。正面から行かないところが姑息だ・・・。
次の獲物を虎視眈々と狙うフラミンゴ・・・。意外と背が高い。頭のてっぺんまで140センチくらいありますか?
花鳥園を出たのは3時近く。「結構早いかもー。せっかくここまで来たから、太平洋を見に行こう!」「太平洋なんか、見飽きてる・・・」「まあ、伊勢湾も太平洋の一部だからね・・・。でも、私の計画では、夕日に染まる海を見ることになっていたんだ!」今日は曇り時々雨だが・・・。「38号線はどこだ・・・」と迷いつつ、なんとか海へ向かって走り出す。あのだん吉(「鉄腕DA○H」参照)も走った150号線を走り、適当なところで海へ向かって道を折れ、空き地に車を置いて堤防を登る。見渡す限り砂浜が続く太平洋。晴れていたらさぞかし美しかろーが、とにかく風は強いし寒くてたまらん。
一眼レフに広角レンズをつければもっと海岸の長さが表現できるのでしょーが、私のコンパクトカメラではこれだけしか入らず。残念
その後も袋井ICに行こうとしてさんざ迷い(カーナビなどない!3年前の地図が頼りさ)、日も暮れて豊田ジャンクションで伊勢湾岸道路に入りそこない、しょーがなく豊田ICで降りてもう1回高速に乗るというあほなことをやらかしながら(幸田の運転と橘のナビで、順調にミスなく目的地に着くなど、あり得ない!)、なんとか帰ってまいりました・・・。まあ、迷うのも旅の醍醐味ってことで!
「……なんだ?」
テスは振り向いて眉をひそめた。
「あ、い…いや、それ……似合うね」
「こどもの頃の服だ。王宮に入るのに平服というわけにはいかないからな。お前は仕度できたのか?」
「……うん。…ねえテス、俺も行かなきゃだめかい?」
今日のために用意された服は、普段用に与えられた上等なものよりいっそう高価そうだった。ベストもいつもとは違い、前から見ると変わりないが、後ろがシャツと同じくらい長い。テスも色が違うだけで──エドは薄い青で、テスは若草色だった──同じ型のベストを着ていた。
「見学に行くと思えばいいだろう」
「でも……俺は本当は王宮に入れるような立場じゃないし……」
立ってみろ、というテスの手振りでエドは立ち上がった。テスは彼の格好を点検すると、部屋に引き返した。
戻ってきた彼が手にしていたのは、ブラシと水色の編ひもだった。
「そこに膝をついて」
言われるままにすると、髪を結んでいたひもが解かれて、広がった髪が頬にかかった。
「テス?」
「動くな。こういうのは得意じゃないんだ」
背後から髪をブラシで梳かれ、ひとまとめにされる。
「……立っていいぞ」
エドは後ろに手をまわして結び目に触れてみた。
「靴ひもではあんまりだからな」
この世界に来たとき髪を束ねていたゴムは、とうの昔に切れてしまっていたので、代わりに荷物の底にしまってあるスニーカーのひもで縛っていたのだ。
「テス……」
たまたまあったひもを使ったのではないことはすぐわかった。ひもの色は水色で、彼の瞳の色──髪と同じで色素が薄いアイス・ブルーの瞳──に合わせて買ったものだろう。
「ありがとう……」
「たいしたものじゃない。お前は、いつもわたしが言わない限り自分のものは何も買おうとしないから、気になっていただけだ」
素っ気なく答えるテスが愛しくて、エドの口から自然に微笑みがこぼれる。
「嬉しいよ。大切にする」
「…大袈裟だな、お前は」
彼は仏頂面で椅子に腰かけた。間もなく王宮へ行く迎えが来ることになっていた。黙って待つテスは、押し隠してはいるが神経質になっているように見えた。
「失礼致します。お迎えが参りました」
ノックの音に肩を揺らしたテスは、肘掛けを摑んで大きく息を吸うと、勢いよく立ち上がった。彼の後ろを支える気持ちで、エドも続く。テスは「一緒に来てほしい」とは言わなかったが──当然のように行く話の流れになっていたのだ──何も言わなくとも、「父と対面する勇気が持てるよう、見守っていてほしい」というテスの気持ちが、髪を直している間に伝わってきたからだった。
外から中はほとんど見えない、天蓋つきの2頭立ての馬車で、彼らは王宮へ向かった。途中モスカーティ家でファビウスと、昨日再会を果たしたルキスが乗り込み、4人を乗せた馬車は王宮の正門ではなく、裏手の王族の住まいである後宮の、王族専用の門へとやって来た。ファビウスは許可証と自分の顔を衛兵に見せてそこを通過した。
モスカーティの本宅の方がよほど広いだろうこじんまりした後宮は、ひっそりとして、淋しげな雰囲気すら漂っていた。それも無理はない──今ここに住むのは国王夫妻と第二王子だけで、しかも主である国王は病に臥せっているのだ。病床の王を憚って静寂を保っていることもあっただろうが、第一王子の失踪に続き国王の病という不幸が、宮全体を沈ませているのだろう。
「王妃様はお部屋でお休み中、レジオン殿下は政務中ですので、今ならば顔をあわすこともありません。今日は私が遠縁のものと陛下のお見舞いに訪れることになっておりますから、邪魔は入りません」
ファビウスが先頭に立ち、ルキスとエドがテスをはさんで見えないようにして、彼らは廊下を急ぎ足で進んだ。
植物を図案化した彫刻が美しい両開きの扉の前に立っていた兵士たちは、ファビウスの姿を見ると剣を掲げ敬礼した。ファビウスは軽く手を上げて答礼する。
兵士がノックして扉を開けると、そこはソファとテーブル、小さな飾り戸棚がある小部屋になっており、側仕えの女官が1人詰めていた。濃い金髪をきっちり結い上げた彼女はファビウスに向かい一礼した。
「すまないが、陛下と大切なお話がある。席をはずしてほしい」
「かしこまりました」
彼女は再度お辞儀をし、退室した。
「君たちはここで待つように」
ファビウスは奥のドアをゆっくりと叩き、扉を静かに引いた。
「失礼いたします、陛下。ファビウス・モスカーティにございます」
「入れ」
病人の声とは思えない、しっかりした深みのある声が響いた。扉の前に立つテスは、はっと顔を上げ、胸元を握りしめた。
「……殿下」
テスは小さくうなずくと、明るい部屋の中へ足を踏み入れた。それに続けて入ったファビウスが振り返り、ドアを閉めた。
間もなくファビウスだけが出てきて、黙って彼らとともにソファに座った。扉の向こうからは、かすかに人の話し声は聞こえてきたが、何を言っているか聞きとれるほどではなかった。ふたりはずいぶんと長い間話し込んでいた。
やがて声が途切れると、扉が開いてテスが顔をのぞかせた。まだまつげの濡れた、泣き腫らした赤い目で。
「エド、来てくれ」
「え?お、俺?」
突然のことに面食らう彼に、テスは硬い表情でうなずいた。
「お前に礼を言いたいそうだ」
「礼って…」
また彼のことを説明するのに「命の恩人」を使ったのか、とエドは恥ずかしかった。他に一緒にいることを納得させられる説明をひねり出せないので仕方がないが、助けられた覚えはあっても助けた覚えのない彼としては、どうにも居心地が悪かった。
寝室、というよりは執務室にベッドを持ち込んだような、衣装戸棚があり、円卓があり、大きな机や本棚がありというちぐはぐなインテリアは、おそらく倒れてからここで政務を行うために急遽持ち込まれたせいだろう。そしてその、中庭に面した窓を背景に、クッションに支えられて背を起こした、厳しい顔の初老の男性が、ベッドの上に座っていた。
男は──国王は、じっとエドを見つめていた。エドも見つめ返した。言われなくとも、おそらく街中で会ったところでこの男がただ者ではないとわかるだろう、威厳と強い意志のオーラを発散させている。
(似てる……)
面長で四角い顎や秀でた額、その下の鋭い褐色の目やがっしりした鼻、やや大きい口、どれをとってもテスと似たところはない。なのに似ていると感じたのは、その相手を射抜く冷徹な視線、厳しさと強烈な意志を感じさせる引き結ばれた唇は、初めて会ったときのテスとそっくりだった。
「……父上、こちらがエドワード・ジョハンセンです」
心配げに、テスはちら、とエドを見上げる。
エドはあまり緊張を感じなかった。こんなに「偉い人」に直接会うのは大学の学長以外には初めてだなどと、とりとめのないことを考えていた。
「初めまして、お会いできて光栄です」
「テリアスの父、クラウディウス・ローディアスです。事情はテリアスから聞きました。さぞ不安でいらしたことでしょう。ネルヴァ族の村へは必ずお送りしますので、ご安心ください。もし残念ながらすぐには国へ戻れないようでも、ローディア国内で暮らせるよう取り計らいましょう」
「……身に余るご厚意、深く感謝いたします、陛下」
敬意をこめた言い回しがわからなかったので英語で答えると、テスがすばやく通訳した。王は頷いた。
「物怖じせず度胸がある。順応性もあり、教養もある。見所のある青年だ。可能ならばじっくり話をしてみたいものだが、引き止めるわけにもいきますまい。村まではテリアスを同行させますので、どうかこれをよろしくお願いいたします」
「いえ、私の方こそお世話をおかけします」
「父上……」
テスが意外そうに王を見つめる。
「行きなさい。一族のことは彼らに聞くしかあるまい。だが…それで何も方法が見つからなかったとしても、必ず戻ってきなさい。お前は自分の価値を軽んじすぎる。お前がいなくとも将来のローディア王府に支障はないかもしれぬ。しかしそれが最善の体制だとは決して私も大臣たちも思ってはおらぬ。どうしても王子として、未来の王兄としての義務と責務を果たすことができないというにしても、大臣たちへの説明もせずにおくことは許されない。それはわかっているな」
「……はい」
彼は唇を噛みしめた。
「もっとも、お前は王家の人間としての義務から逃げたいわけではなかろう。問題は、レジオンのことではないか?」
目を上げたテスの顔から血の気が引いた。
「父上…っ」
対照的に王は冷静そのものだった。
「公言するほど慶ばしいことではないが、母が違うのだから咎められる謂れもない。そう思って黙認していたが……」
「父上!その話は今はおやめください…!」
「この男の前では、か?」
王の鋭いまなざしが自分に移ったのはわかっていたが、それよりもエドにはぼんやりとしていた疑問がはっきりしたことの方で頭がいっぱいだった。「レジオンを裏切った」とは、レジオンを愛していたつもりだったのに体の変化がそれを否定した、本当は愛していなかったのではないかと気づいたことだったのだ。テスは王の失望や自分の将来を悲観して国を出たのではない。ただレジオンに、その事実を知られたくなかったのだ。
「……この男の前だから、言うのだ。お前はこの男に惹かれている。だから、お前の口からは言えないことを言っておる」
テスは必死にエドから顔をそむけていた。
「お前たちは恋に目がくらんで、自分自身も相手のことも見えなくなっていた。お互い、初めての恋愛で、レジオンも若すぎた。あれはお前を手に入れたと有頂天だったし、お前はあれの情熱に巻き込まれて冷静さを失っていた。お前たちは、互いの気持ちと考えをもっと話し合うべきだった。その上お前は自己卑下が過ぎた。結局お前はレジオンの愛情を失うことを恐れるあまり、打ち明けるよりも逃げることを選択した。違うか」
口調には責める響きは全くなかったが、内容は厳しかった。
「いいえ……」
テスはうなだれて答えた。
「おっしゃるとおり……わたしは彼の気持ちを…信じることができませんでした……」
「……テリアス」
王の声音に、愛しさが混じった。
「私がそなたの母の愛情と信頼を得るのに、何年かかったと思う。一目惚れをして、いくら口説いても一顧だにされず、焦るあまり権力づくで連れてきてしまった。結局セイファと褥を共にするまでに、3年かかったのだぞ」
テスは驚いて王を見た。
「お前を身ごもるまでにさらに1年。テリアス、真実の愛情は一瞬で生まれることもあれば、育んでいかねばならないこともある。一方の中にあってももう一方はこれから変わっていくところかもしれぬ。お前は結論を出すのが早すぎたのではないか。機が熟すのを待つことも時には必要だ。お前は、過去現在、そしてこれからのことも、レジオンに正直に話すべきだ。それに対するレジオンの答えを聞いてから、結論を出してはどうだ」
「……おっしゃることはよくわかります。しかし今は……自分がどうなるかわからない状態で、わたしは誰にも何も約束はできません…。レジオンとは、一族の村から戻ってから……」
「戻ってくるのか?」
静かに、王は尋ねた。テスは答えられず、苦しげに王の視線を見返すだけだった。
「……お前を身ごもったセイファは、私に早く王妃を迎え、嫡子をもうけるよう強く勧めた。あれは、お前に一族の体質が受け継がれているのではとひどく恐れていた。だからお前には決して王位を継承させてくれるなと嘆願し続けた。理由は、わかるな」
「……はい……」
「王としては、お前に望むこと、許せること、許せぬことは多々ある。しかし父としては、お前は私の最愛の子だ。レジオンもかわいいが、生涯ただひとり愛した女の、その面差しも気質もそっくりな子であるお前をより愛しく、不憫にも思うていることは否定できぬ。だからこそ、お前をこの男と共に行かせる」
テスの体が揺れた。
「……父上…っ」
「行き、選ぶがよい。父としてお前に一度だけ機会をやろう。戻るも戻らないも、王子として義務と責任に一生を捧げるも、臣籍降下し王家から離れるも、どの道を選ぼうと許す」
「父上……!」
彼の目から涙があふれ、それを隠すように彼は膝をつき、ベッドに顔を突っ伏した。
「お許しください……っ」
つと伸ばされた王の手が、テスの頭を撫でる。太くごつごつとしたその手は、その人生の平坦でない道程と、越えてきた数々の困難を物語っていた。テスを見つめる慈愛と悲哀のまなざしは、しかしエドに向けられたときには、嘘偽りを許さない、峻厳なものになっていた。
「エドワード殿」
反射的に彼は背筋を伸ばした。
「はい」
「テリアス同様、あなたもこの旅で大きな決断を迫られることになる。それにあたり、私から1つだけ助言を差し上げたい」
顔を上げてテスが不安そうに王を見る。
「あなたがこの世界にいらしたのは間違いでも偶然でもない。あなたは今この時、この世界に来なければならなかった。この世界で経験したこと、出会った人はすべてあなたにとって大きな意味がある。ここが単なる仮初めの地、仮初めの出会いとなるか、そうでないかは、あなた次第だ。それを決して忘れぬように」
王の言葉はエドを動揺させた。父上、と小さく叫んだテスは、咎めるように王を睨んだ。
「彼を迷わせないでください……!」
「またお前の悪い癖だ。お前の選択は彼の選択となり、彼の選択はお前の選択となる。お前ひとりで決めてよいものではない。3年前と同じ過ちを繰り返すつもりか」
王の叱責に、テスは目を伏せてシーツを握りしめた。
「…ネルヴァの族長宛に私からの親書を送る。その使いの一行にまぎれて行けるよう、ファビウスに手配させた。テリアス……立ちなさい」
「…はい」
腹の上で重ねていた手を、王は開いた。
「行く前に、お前を抱きしめさせてはくれまいか」
「父上……」
目を瞠ったテスは、すぐに苦笑まじりの大人びた微笑で口元を綻ばせた。
「わたしは結構重いですよ?」
「何を言う。お前などよりよほど私の方が鍛えてあるわ」
それでも王の体を気遣って遠慮がちにベッドに腰かけたテスを、王は言葉通り筋肉の浮いた太い腕で膝の上に抱き上げた。
「お前をこうして腕に抱くのは20年ぶりくらいか。…レジオンが生まれてからは、マルティアに気兼ねしてどうしてもセイファとお前のもとを訪れるのが間遠くなってしまった。セイファが亡くなってからはお前を叔父上に預け、公式の場でしか会うことができず……お前には父として十分に接してやることができなかった。許せ」
「そのような……。母上もわたしも、事情は理解しておりました」
だがその答えは余計に王の心を刺激したらしく、彼はこみあげた感情のままにテスをがば、と抱きしめた。
「……だからこそ、お前たちに負い目があるのだ、私は」
「……」
テスはそっと王の背に両腕をまわした。彼らはこれが最後だとでもいうように、固く抱き合っていた。
「……もう、行きなさい。お前の顔を見て元気が出た…と言いたいところだが、さすがに疲れた。出たら女官を呼んでくれ」
名残惜しげにテスの身を離した王は、テスが床に降りると力を抜いてクッションにもたれかかった。
テスは軽く膝を折り、優雅な礼をした。
「かしこまりました。陛下、どうかお体をおいといください」
「うむ。そなたもな」
そのままの姿勢で2、3歩下がると、テスはくるりと身を翻して扉へと向かった。慌ててエドも深々とお辞儀をして彼のあとを追った。振り返らなかったテスの代わりに扉を閉めるため後ろを向いたエドは、王へと目を走らせた。王もまた、目を閉じ、テスを見送らずにいた。
ファビウスはそのまま王宮に残り、ルキスが彼らを別邸まで送り届けた。帰り道の馬車の中でテスは、黙り込んで、物思いに沈んでしまった。テスとは乳兄弟だという、実年齢でも年上だろうルキスは、物静かで控えめな青年で、臣下の立場を崩そうとはせず、時折気遣わしげな目を向けても自分からテスに話しかけることはなかったので、馬車の中の沈黙は別邸に着くまで破られることはなかった。
「……今日はすまなかったな、ルキス」
別邸の玄関まで供をしたルキスに、テスは言った。ルキスは栗色の真っ直ぐな髪を振った。
「とんでもない、殿下。国王陛下にお会いになることができて、ようございました」
使節派遣の詳細が決まったら連絡をすると言い置いて、ルキスは帰っていった。
部屋に戻って着替え、エドがリビングに出てきても、テスが自室から出てくる気配はなかった。彼といるのが気詰まりなのか、考えごとをしたいのか、おそらく両方だろうと思い、石を飲み込んだような重い気分で部屋に戻った。彼にも考えたいことはあった。
国王の言葉はどういう意味だったのだろう。彼が示唆したことは、果たして自分が受け取った内容で合っているのだろうか。
この世界に迷い込んで以来、元の世界に帰れるか帰れないかしか考えたことはなかった。帰れるものならば帰りたい、いや、帰る以外の選択肢がある可能性すら思いつかなかった。なのに、国王は何と言ったのか。
国王は、彼には「この世界に来なければならなかった」「仮初めとなるかならないかはあなた次第」と言い、テスに対しては「エドの選択はお前の選択」「宮廷に戻ることも戻らないことも、臣籍降下も許す」と言った。それは……
(ここに残れと……ここに残るという選択肢もあるいうことなのか?そして……テスが望めば、テスは王子の身分を捨て、俺と……)
にわかに鼓動が速まり、てのひらに汗が滲んだ。
(俺と生きていくこともできると……?)
胸の動悸は、その可能性への期待と喜びのためだけではなかった。ここに残るという選択のもたらすだろう結果への重圧のせいでもあった。
(テスは、俺の気持ちを考えて、戻れなかったら、戻る方法が見つからなかったら、とは一言も言わないけど……戻るには奇跡を待つしかないなんてこと、俺だってわかってる。ネルヴァ族が昔、他の世界から来たという伝説があったって、つまりは彼らも戻ることができなかったということだ。だからこの旅は、俺が諦めてここに住む決心をするためのものでしかない。テスだって、最初からそのつもりで言葉や習慣や知識を教えてくれていたのだろうし)
帰れないだろうとわかってはいても、認めるには覚悟がいる。どこかで生きているだろう両親、引き取ってくれた養父母、友人たち、バイト先の仲間、今までであったすべての人々と、二度と会えないということ。考古学者になり、知られざるかこのページを埋めたいという夢を捨てなければいけないこと。
電気や水道のある便利な生活や、映画にスポーツ、ドライブにゲームにインターネット…、溢れかえっていた遊びにはたいして未練はない。もともと「生活の豊かさ」への欲はあまり感じたことはない。ここでの生活も慣れればさほど不自由とは思わなくなった。
だから本当につらいのは、たとえ少なくても細くても、彼がたどたどしく結んだ人々とのつながりと、夢を失うことだった。そして彼に残されるのは……
(君と出会って、まだ3ヶ月も経っていないんだね、テス……)
店で買い物をしたり宿をとったり、見ず知らずの他人には愛想を振りまくくせに、笑うのが罪悪だとでもいうように、エドに見せるのは眉間にしわを刻んだ仏頂面ばかり、めったににこりともしなかった。
けれどもその作りものの表情の下にある厳しくも優しい心は、出会ったときからエドを支え続けてくれた。でなければいくら楽観的な彼といえど、もっと落ち込み、絶望し、やけになっていたことだろう。この世界に興味を持ち、楽しむ余裕さえ持てたのは、テスがいたから、出会ったのがテスだったからだ。
テスを愛している。彼がずっとあの姿のままでもかまわない。彼を失いたくない。──だがもし、帰れるとなったら、自分は元の世界を捨てて、彼を選べるだろうか?彼と永遠に別れて、帰ることを選べるだろうか?
エドは膝の上に肘をつき、祈るように握った手に額を押しつけた。
選べない。選べるわけがない。
彼は自嘲して唇を歪めた。
(こんな……百万分の1の可能性で悩む前に、テスが俺を選んでくれるとは限らないよな。恋人だった……弟王子よりも……)
テスが国を出る原因となった彼の弟。未来のローディア国王。会ったことなどなくても、エドは、自分と彼とを比較できるとすら思えなかった。何も持たない、テスの負担にしかならない、異世界の人間である自分では、比較の対象にすらなれない。気持ちだって、彼がテスをまだ愛していると主張したら、元の世界を捨てると言い切ることもできない自分が何を言えるだろう?ずっと一緒にいて、恋をして愛し合っていた相手より、出会って3ヶ月にもならない自分の方を好きになってもらえた自信など、どこを引っくり返しても出てきやしない。
(一族のところへ行くまで返事は保留してくれとテスは言った。それまでに俺も、心を決めよう。……そして、ここで一生を終える覚悟ができたら……そしたら、テスにもう一度好きだと言おう。……彼の返事がどうだろうとも……)
昨日、ある電話をとった。
客「終身保険って書いてあるんだけど、これはワシが死んだらいつでも払ってもらえるのかね」
幸田「終身保険は死亡時にご遺族に保険金を払う保険です。終身保険でしたら途中で保障がなくなることはありませんよ」
客「そうかね。確認したいからそっちへ行きたいんだが、場所はどこにあるの?」
幸田「名古屋の○○にございますが・・・保障内容のご確認でしたら、証券番号をおっしゃっていただければお調べいたしますよ?」(いちいちそんなことで来るなっつーの。電話で済ませてくれ・・・)
客「いや、ちゃんとこの目で確認したいから、明日妻と一緒に行くわ。妻は車椅子なんだが、店は車椅子で行けるかね?」
幸田(おいおい!そこまでして来なくていいっちゅーの!来るなら奥さんは置いてきてくれ・・・)「ビルの1階からはエレベータで来られますが・・・」
客「じゃあ、明日行くから」
幸田「お客様、詳しい内容をお調べしておきますので、証券番号だけお願いできますか?」
しょーがないので契約を確認すると、後輩の担当の団体だったので、「明日来るってさ~。応対頼むよん」と押し付ける・・・。「お年寄りじゃないですか!うわ~、何確認したいんでしょうかね~?苦手だな~;」と叫んでいたので、「ま、がんばれ」と口先だけで言ってみる・・・。
今日、その客はやって来た・・・。妻と娘が同行していた。戻ってきた後輩が言った。「なんか、ほんとうにうちの会社が存在してるかどうか、見たかっただけらしいですよ・・・」
それじゃ何か?昨日電話にでたのは実はどこかの「電話代行業」で、テレビのCMもインターネットのHPも、実は潰れているのを誤魔化してやってるだけだとでも思ったのか?!そのためだけにわざわざ家族3人で、オフィスがあるかどうか見に来たってか?!・・・どうコメントしていいのやら・・・
やってきたのは、濃い緑の長いマントを肩からかけた、威厳と親しみを同時に感じさせる、背の高い、がっちりした体格の老人だった。
彼はまず、立って迎えた彼らのうちエドに目を留め、だがすぐに視線をずらしてその横のテスを見た。
彼の眉が寄せられ、テスを見つめる。エドはテスの手が固く握りしめられているのに気づいていた。強張った頬にも。
ファビウスの口がぽかんと開き、次いで目が見開かれる。
「まさか……」
彼はふらふらと2、3歩進んだかと思うと、力を失って膝をついてしまった。
「テリアス様……?まさか、まことにテリアス様で……?!」
「久しいな、ファビウス殿」
テスは苦いものの混じった笑みを口元に浮かべた。
「それともこの姿なら、昔のようにじい、と呼んだ方がよいか?」
「テリアス様……!」
ファビウスはまろびながらテスに駆け寄り、片膝をついてシャツの裾にすがりついた。
「なんというお姿に…!それでは、ようやく…ようやく合点がいきました。あのとき、国を出るか、それができねば自害するとまでおっしゃった訳が……!」
テスは涙ぐむファビウスの手をとった。
「3年前、そなたには迷惑をかけた。…ネルヴァ族の血は、わたしには特殊な影響をもたらしたらしい。わたしはそれを……どうしても知られたくなかった。今も、だ。ローディアに戻ってきたのは、ただ陛下のご病状を確かめたかっただけだ」
ファビウスの顔が厳しいものになる。
「王家にお戻りにならないおつもりですか!」
「こんなこどもが第一王子だと言って戻ったところで何になる?陛下を失望させるだけだ」
「……それは私には断じることはできませぬが……、そのことについては後ほどじっくりお話しいたしましょう。ところで殿下、こちらは?」
エドの頭の中では、1つの単語がぐるぐると回っていた。……第一王子?第二王子より年上の、第一王子が誰だって……?
「ああ、紹介しよう。事情があってここしばらく共に旅をしてきた、エドワード・ジョハンセン。わたしの命の恩人だ。大切な客人としてもてなしてほしい」
「おお、もちろん、テリアス様のご友人とあれば」
ファビウスは手を差し出した。
「テリアス殿下をお助けくださり、お礼申し上げます、エドワード殿」
エドは混乱を押し殺しつつその手を握り返した。
「とんでもない……助けられたのは俺の方です…」
「紹介が遅れてすまないな、エド。ファビウスはわたしの大叔父、つまり父方の祖母の弟にあたる」
難しい話を突っ込まれる前に、テスが助け舟を出した。簡単な日常会話以上になると、エドはお手上げになるからだ。
「とにかく……そなたがわたしだと判ってくれて助かった」
テスは椅子に腰かけ、手振りでファビウスにも座るよう示した。
「セイファ妃亡きあと、テリアス様をお育て申し上げたのはこの私でございますよ。わからぬはずはございません」
「だからこそわたしも、陛下と弟を除けばそなたを最も信頼している。……教えて欲しい、陛下のご容態はいかがなのだ?」
「殿下……」
ファビウスはちらりとエドに視線を走らせたが、テスが彼に席をはずさせるつもりがないと理解して続けた。
「2か月前、閣議の最中に陛下は意識を失い、倒れられました。医者の話では、心労と過労が積もって心臓が疲弊されたためとのことです。何より休養と…心労を取り除くことが大事かと」
テスはつらそうに額に手を当て、肘かけに寄りかかった。
「…ローディアを取り巻く環境は決して楽ではございませんが、陛下のお力により、国内外とも安定しております。大きな問題もここ数年起こってはおりません。それなのに陛下がお倒れになった……。陛下を悩ませている問題が何か、おわかりになりますか」
ファビウスの口調の変化に、テスがぴくりと身じろぎする。
「3年前、テリアス様が出奔されたあと、陛下はどれほど気落ちされ、悩まれたことか。レジオン殿下がどれほどご自身を責められたことか。陛下は私が手を貸したことに気づいておられましたが、一言も責められず、ただ『そこまで思いつめるとは思わず、放置しておいた私に非がある』と洩らされました。陛下は、私などよりずっと、あなたのご気性を理解しておいでになる。当時の私にはテリアス様が何を悩んでおられたのかがわかりませんでしたが、陛下はきっとお気づきになっておられたのでしょう」
「気づいて……?」
テスはひとりごちた。
「……まさか……」
「陛下にお会いなされませ、テリアス様。ネルヴァ族のセイファ様を愛され、テリアス様のご誕生を心よりお喜びになられた陛下なら、今のテリアス様を御覧になられても失望などなさいますまい。こう申しては不敬に当たるかもしれませぬが、陛下はレジオン様よりテリアス様を溺愛されておられた。王位はレジオン様にと決められたのも、それはむしろテリアス様のご気性やお体のことを考えて、いらぬ苦労をさせたくないとの親心。その陛下が3年も、あなたの生死を知るすべなく、後悔と心配でお苦しみ続けられた結果がこたびの病と言って間違いありますまい。今もっとも陛下に必要な薬は、テリアス様の無事なお姿でございましょう…!」
顔をそむけ、目を閉じて唇を噛みしめたテスの姿から、彼の苦悩と迷いが伝わってくる。エドは息を殺して自分の存在を消そうとつとめ、ファビウスもテスの答えを、鋭いまなざしで見つめながら忍耐強く待ち続けた。
「……会おう」
ファビウスがほっと表情を緩めた。それとは逆に、テスの表情は苦悩に満ちていた。
「陛下には、幾重にもお詫びせねばなるまい。申し上げねばならないこともある。このまま黙って行くよりは……」
「殿下」
ファビウスは身を乗り出す。
「あなたのご無事でのお帰りを願っておりましたのは陛下だけではありません。我々臣下一同も、心よりお祈り申し上げておりました。レジオン様は確かに王としての器を備えておいでですが、まだお若く未熟でもあり、欠点も多い御方。それを補佐し、支え、ときに叱ることができるのはテリアス様のみ。外見で殿下の能力を疑うような者は我が王府には不要。陛下が倒れられた今、ローディアは切実に殿下を必要としているのです」
かきくどくファビウスに、テスは心動かされた様子はなく、ぼんやりと呟いた。
「……レジオンにはそなたたちがついている。わたしなどがいなくとも大丈夫だ……」
「何をおっしゃいます。レジオン様は陛下よりも妃殿下よりもあなたをお慕いし、頼られておられた。あれ以来レジオン様はすっかり憔悴され、人が変わられたように打ち沈んでばかりおいでになる。テリアス様も、レジオン様をあんなにも慈しんでおられたではありませぬか。レジオン様にお会いになりたくはないのですか?」
「会いたいに決まっている!」
初めて、テスは感情も露わに声を荒げた。
「だが、会うことはできない……!会えるはずがない……っ。わたしは彼を裏切った。彼がそれを知れば、決してわたしを許すまい。彼に知られるくらいなら、いっそわたしは死んだと告げてくれた方がましだ…!!」
両手で顔を覆ったテスが、だが泣いてはいないことをエドは知っていた。夜中に膝をかかえ、じっと苦痛に耐えていたテス。彼には泣いて苦しみを吐き出すことさえできないのだ。
「……レジオンには会わぬ。会えば、彼はわたしの裏切りを知り、わたしを憎むだろう。わたしを側に置くことはない。……どのみち、わたしは王宮に戻ることはできないのだ……」
「テリアス様……」
ファビウスは、何かを察したらしかった。眉間にしわを寄せ、ひどく難しい顔をして、
「……他には知られぬよう、陛下のもとにお連れする段取りを整えましょう」
「……頼む」
「その前に、殿下のお小さい頃の服が私のところに保管してございますので、こちらに運ばせましょう。何か不足はございませんでしたか?」
「特には──」
振り返ったテスに、エドは小さく首を振った。
「──ないが……そうだ、剣を預けたときに研いでくれるよう頼んだのだが、その剣、そなたから借りたものだ。それで、謝らなくてはならないと思っていた」
「何をでございますか?」
「せっかくの名剣を、見事な細工の柄は売り飛ばしてしまった上、わたしの背に合わせて相当短く打ち直してしまった。すまなかった」
「そのようなこと」
ファビウスは破顔した。
「あれはテリアス様に差し上げたもの。お役に立ちましたのなら、それでよろしいのです。…ところで、剣を預けられたというのは、当家の者が要求したのでは?」
「気にするな。主人より家を預かる家令として当然のことだ。ましてこんな得体のしれない客ではな」
テスはようやく苦笑とはいえ笑みを見せた。
「こちらにはテリアス様のお顔を知らぬ者を急遽寄こしましたものですから、申し訳ございません。研ぎ上がりましたらすぐお返しするよう命じておきます」
「よい。ここにいる間は必要になることもあるまい」
「いえ、そのようなわけには……。おお、もうこんなに暗くなって。すっかり話し込んでしまいました。お食事の用意をさせましょう。私もご一緒したいのは山々ですが、今晩は会食の予定が入っておりますので、失礼させていただきます。明日は必ず、すべて断って是非ともお供させていただきます」
「右大臣ともあろうものが、感心しないな」
「かわいい孫が帰ってきたのですから、それくらいのことは大目に見てもらいませぬと」
椅子から立ち上がり、再びファビウスは床に片膝をついた。
「明日にはなんとかよいお知らせができるように致しましょう。今宵はゆっくりとおくつろぎくださいませ。では」
「そなたの忠心に感謝する」
ファビウスが退出してしまうと、不自然な沈黙が続いた。エドは何から訊いたらいいのか、訊かずに今まで通りにすべきなのか迷い、テスは眉を寄せてエドから目をそらしていた。
「……テス、あの……テリアス王子?」
「テスでいい」
不機嫌そうな返事がテスから返ってきた。
「お前との間に、国だの生まれだのそんなものはなかっただろう」
「そう…だけど」
確かに、互いに異世界の住人だということに比べれば、「身分違い」などたいした問題ではない気がした。
「確認したいんだけど……君は、俺より年上なのか?」
「そうだ。次の誕生日で25歳になる」
つまり、今23歳ということだった。この世界での1年が365日前後で──ということは、ここは「もう1つの地球」なのだと、それを知ったときに思った──、生まれたときを1歳と数えるほかは、誕生日ごとに年齢を増やしていくことに変わりはなかった。
「わたしも、20歳のときまでは普通に成長して、普通に成人した。だがある日、今まで着ていた服が大きく感じることに気づいた。それが単に痩せたわけではなく…身長が低くなっているせいだと気づき……信じられなかった。ネルヴァ族といえど、そんな例は一度も聞いたことはなかったからだ」
ネルヴァ族の血が何か関係あるのか、と訊き返す前にテスは淡々と続けた。
「ネルヴァ族がこの大陸の民と違うのは、特殊な能力だけではない。肉体的にも…大きな違いがある。わたしも……母の話や文献程度の知識しかないので、正確ではないかもしれないが、一族は、成人すると外見上は年をとらなくなる。体が再び時を刻むには……誰か…愛する相手と、精神的にも肉体的にも一体となる……結びつく経験が必要だという。ただ、そういう精神的な感応力を持っている一族同士でないと難しい。ほとんど不可能だ。…わたしが生まれたのは、奇跡に等しいと言われた。それに、一族以外と愛し合うことは、一族の掟で禁じられている。わたしの母だとて、最初は単なる…一族を保護してくれたローディア王への感謝と忠誠の証として、王に差し出されただけだ」
テスは皮肉な冷笑を浮かべた。
「いつまでも若く美しい妾としてな」
「……だけど、君のご両親は本当に愛し合って、それで君が生まれたんだろう?」
「……一族の掟を破って。ネルヴァ族は恋をし、心より愛し合わなければ死ぬまで若い姿のままだ。そのために昔は強欲な者に狩られ、美しい男女は売笑宿や権力者の奴隷として高値で売られた。だからこそ決して、金や権力で自分を買った者に心まで売らないことを誇りとしてきた。母は……父を愛しながら、いつもわたしに向かって泣きながら言ったものだ。自分は一族の掟を破り、誇りも汚した。一族の者は……自分の父も母も、決して自分を許してはくれないだろうと」
「そんなこと…!たとえどんな立場で出会おうと、心を自分の思い通りに動かすことなどできないよ……!」
言ってから、エドは胸の痛みを感じた。少年のテスと出会った自分は、彼が本当は大人だとも王子だとも知らなかった。自分が同性の、しかも少年を好きになるなんてことは、夢にも思わなかった。けれども、口では冷たいことを言いながら気を使いすぎるほど使ったり、感情を表に出さないのは逆に激情家なのを隠すためだったり、可愛らしいこどもの顔と艶めいた大人の表情が同居する彼に、どうしようもなく恋をしてしまった。生まれも、過去も、何者であるかも、「本当のこと」すら関係ない。彼らが彼らとして出会ったことが、すべてだ。
「……そうだな。お前の言うことは正しいとわたしも思う。だがわたしは、その掟がなぜあったのか、自分の体の変化を知ったとき、わかった気がした。……成人した姿のままでいるのなら、まだ何年かは自分自身をごまかすことはできただろう。しかし、体が退行し始めたことで、私は相手を愛しているつもりで本当は……自分でも疑っていたとおり、打算と欲望混じりの愛情でしかなかったことを思い知らされた。その上、どこまで戻るのか──15歳?10歳?それとも幼児まで?…そうなってしまったら、もし私が誰かを愛したところで、相手に愛されることなどあり得ない。家族や周囲の人々が人生を過ごしていくのに、わたしだけが誰にも顧みられずこどもの姿で取り残され……死んでいくのだと絶望し……そんな姿を誰にも……わたしに愛情を注いでくれる人には絶対に見られたくなくて、出て行くことを決めた」
苦しむことに疲れ切った感情を交えない口調で、テスは話し続けた。
「どこで野垂れ死んだってかまわないと自暴自棄になっていた。なのに……食料も尽きて無人の荒野で行き倒れかけて、このまま死んでしまえと思いながら、最後の最後でやはり立ち上がって歩き始める。無謀に野盗たちを挑発して斬り合いになっても、ぼろぼろになるまで必死で戦って生き延びようとする。結局……わたしはまだ生きることに未練たらたらで、あり得ない希望にみっともなくしがみついているのだと、気づかざるを得なかった。世間の水にも慣れて、生活することが楽になり、どうやら退行するのは止まったらしいと気づくまでのわたしは、相当荒んでいた。国を出て1年ぐらいの間だったか、その間にもしお前を見つけていたら、近寄りもせず見捨てて行ってしまったことだろうな」
話し終え、追憶を見ているのか遠い目のテスに、エドは何も言うことができなかった。抱きしめたかった。自分は今の君を愛していると言いたかった。君が生きていてくれて、そして出会えて良かったと伝えたかった。
だが、そのどれもできなかった。「お前は帰るんだ」とテスに拒まれたように、無責任に想いを伝えたり慰めたりはできない。それに、知らされた事実が彼の自信を失わせていた。テスは、以前に愛し合っていた恋人がいた。だから理由を明かさず姿を消した。その人を、今でも愛しているのだろうか?その人は今でも、テスを愛しているのだろうか?もし彼らが再会したら……その恋は終わるのだろうか。それとも再び始まるのだろうか?
ここへたどり着くまで、テスは日に日に無口に、陰鬱になっていった。よほど帰りたくない、帰りづらい事情があると思われたが、それなのに予定通り速度を緩めることなく次の町へ次の町へと進んでいく彼の意志の強さは驚嘆に値した。サーランの町並みが地平線上に見えてくると覚悟を決めたのか、表情から暗さが消えた。代わりに瞳の思いつめた色は濃くなって、エドを内心はらはらさせた。
午後に宿に入って荷物を解くと、テスは「買い物に行くぞ」とまた出かけた。テスはこれまでのように人に訊いたり探したりすることなく、勝手知ったる様子で繁華街の中の一軒の店に入っていった。そこは「紙」屋で、文房具店より高級な雰囲気だった。そこでテスは2種類の便箋と封筒を買った。
次にテスはいつも古着で済ましているのに、新しいローディアの服を一揃い買った。そのあとはウィンドウショッピングで時間をつぶし、夕食をとって宿に戻った。
エドがベッドにもぐりこんだ横で、テスはランプの明かりで手紙をしたためた。考えている時間は長かったが、手紙自体はずいぶん短いようだった。テスは封をした封筒を、更に手紙とともにもう1つの封筒に入れた。
翌朝は例によってふたりして宿の水場で洗濯をし、裏庭に干させてもらった。それが終わるとテスは「散歩に行かないか」とエドを誘った。
「散歩?」
「宿にこもっていても退屈だろう?おれは寄りたいところがあるから、お前も一緒に来るか?」
あの手紙を届けに行くつもりだろうと察しがついて、エドは意外に思った。
「…俺も一緒に行っていいのか?」
テスは片頬だけで笑みを作った。
「妙な気をまわすな。お前に何も隠すつもりはない」
そう言ったとおり、彼は昨日買った服に着替え、エドとともに手紙を持って屋敷街へ向かった。
ローディアの建築物は貧富を問わず平屋か2階までしかない。地盤が軟らかいので、法律で制限されているとのことだった。そのため、広い敷地を高い塀で囲んだ富裕な家は、外からは全く中が覗けない。屋敷街と言っても、道を行く者には壁が続くだけのそっけない街並に見えた。往来するのも屋敷に出入りする業者や使用人、それに警備の兵士だけだった。
「すみません、いいですか?」
「ああ?」
愛想よく笑ってみせれば、可愛くも美しくもある彼のこと、屈強な兵士もやや相好を崩した。
「お願いがあるんです。ご主人さまのお使いで、ここで働いていらっしゃるルキス様に手紙をお渡ししたいのですけど、どなたか仲介をお願いできませんか?」
「ルキス秘書長殿に?」
衛士は眉を寄せた。
「大事な手紙なら表の執事を通したほうがいいんじゃないのか?」
「いえ、ルキス様への私信なんです。ご主人様はルキス様をお見かけして以来、どうしてもお心をお伝えしたいと思われて…」
真新しいローディアの服を着、ローディア語を話し、話し方も雰囲気も上品なテスは、ローディアの上流の家に仕える小姓を完璧に演じていた。
「…なるほど、そっちの用か」
どうしても主人の命令を果たさなければ、と懇願の表情のテスに、合点がいったらしい男はしたり顔でうなずいた。
「いいとも。次の交替のときに女中に届けるよう頼んでおいてやるよ。手紙は俺が預かろう」
「本当ですか?ありがとうございます!」
テスは胸に抱いていた手紙を渡すとき、男の手に銀貨を握らせた。
「必ずお返事くださるようにと書かれているそうですので、確かにお渡しくださいね。でないとぼくが奥様に叱られてしまいますから」
「わかっているさ。内密に、だろう」
首尾よく手紙を預け、待っていたエドのところに戻ってきたテスは、彼を促して屋敷街を出た。
「……あれ、ちゃんと届けてもらえるの?」
エドがこっそり訊くと、
「たぶん。ああいう門番や下働きの者たちは、普段から自分たち使用人同士や、勤め先の家人への付け文や贈り物を仲介することに慣れている。お互いに頼みあって持ちつ持たれつだから、まず渡さずに捨てたり中身を他に洩らすことはない。それをやったことがばれたら信用をなくして仲間内からもつまはじきにされるし、場合によっては仕事もクビになるからな」
この世界にはまだ郵便制度や宅配便はなかった。運送業や、同業者同士、あるいは商売上のネットワークはあるようだが、個人と個人の間は自分で届けるか知り合いに託すか、個人的に運搬人を雇うしかない。もっとも、庶民がそのようなものを必要とすること自体めったにないのだろう。
「…訊いてもいいかい?手紙の相手って、君の……家族?」
「いや。だが、家族のようなものだ。ルキスの母はおれの乳母で、ルキスはおれにとって兄のようなものだ」
やっぱり、とエドは思った。乳母がつくほどの家に、テスは生まれ育ったのだ。
「彼に、帰ってきたと知らせたんだ?」
「ああ。それから、中の手紙を渡してくれるようにと」
昨夜テスが、封筒の中にまた封筒を入れたのを、エドも見ていた。
「その人に直接届けないの?」
「ルキス経由でないと無理だ。いくらなんでも右大臣相手に裏口から手紙はまわせない」
エドは思わず足を止めてしまったが、我に返ってテスに追いついた。
「ルキスが秘書長──3年前はただの秘書だったんだがな──として仕えるあの家の主人、右大臣ファビウス・モスカーティ宛ての手紙だ」
その夜遅く、彼らが泊まっている宿に使いがやって来て、「エドとテスという兄弟に」と手紙を置いていった。宿の者に呼ばれて取りに行ったエドは、部屋で待っていたテスにそれを渡した。
封を剥がし、読み終えたテスは言った。
「明日、ここを引き払う。何日かモスカーティ家の世話になるだろう。お前には窮屈な思いをさせるが、すまない」
「俺は気にしないよ。君が納得するまでつきあうよ」
手紙をサイドテーブルに置いて、テスは自分自身に向かって言った。
「できるだけ早く、一族の村に向かえるようにする」
荷物をまとめ、馬を引いて向かったのは、昨日行った屋敷ではなく、サーランの中心部をはずれた、湖畔の港町だった。そこからはカーブを描いた湖岸に佇む王宮が、湖面に浮かんでいるように見えた。実際、一部の建物は湖の上に建てられていた。
港には帆と何十本も櫂を備えた船から、公園の池にあるようなボートまで様々な舟が係留され、荷や人がひっきりなしに出入りして賑わっていた。その港を抜けて湖沿いに行くと、道が湖から離れるように曲がってしまう。そこから先は、瀟洒な邸宅が湖岸に連なる私有地で、入れなくなっているのだ。
道なりに行くと家々の表玄関が湖側に並ぶ通りに出た。どうやらこの辺りは貴族の別邸が集まっている地区らしい。港とは対照的にひっそりとしたその通りを進み、ある別荘の前で足を止めたテスは、門の内側に立つ門番に話しかけた。
「ファビウス候にご招待いただいたものだが」
彼は封筒からカードを取り出して渡した。門番はそれをさっと見ると、恭しく礼をして、
「承っております。どうぞお入りください」
もう一人の門番が門を開けると、取り付けられていた鐘がカランカランと鳴り響いた。テスは馬の手綱を男に預けた。
大理石の大きな鉢の中央に水が湧き出、溢れた水が小川となって流れる、強い日射しの中でも涼しげな庭を通って玄関にたどり着くと同時に、中から扉が開かれた。
「お待ちしておりました、エドワード様、テス様。こちらへどうぞ」
まだ若い、30代くらいの生真面目そうな男が、深々とお辞儀をして彼らを迎えた。迎え入れられた内部の床はすべて大理石。白い漆喰の壁に大きな窓が特徴の開放的な造りで、エドは高級リゾートホテルに足を踏み入れてしまったような気がした。窓には湖が大きく広がり、廊下のそこかしこに美しい花が活けられ、彼らを先導する使用人の方が彼らよりもよほど高級そうな服を着ており、どうにも居心地が悪かった。これが「別荘」だというのだから、全く中の見えなかった「本宅」はどれほどのものだろう。さすがに王に次ぐ権力者だけのことはあった。
邸内は彼ら以外いないように静まりかえっていたが、これだけの家を維持するのだから、他にも使用人がいるはずだが、部屋に入るまで誰も姿を見せなかった。
男は彼らを部屋に案内した。客の滞在用らしいその部屋は、ダイニングと居間、寝室が2つついていた。
「着替えを用意しておきましたが、少々サイズが合わないようですので、すぐに揃えます。主は8マーレ半にこちらに到着する予定でございます。それまでおくつろぎください。軽いお食事をお持ち致します。湯浴みの用意も整っておりますが、側仕えは必要でしょうか?」
「いや、結構だ」
「では、御用の際はその鈴を鳴らしてお呼びください。扉の外にお世話する者が控えております。申し遅れましたが、私はこちらの屋敷を預かる執事のコルネリと申します。何なりとお申しつけください。それから…大変失礼とは存じますが、お腰の物をお預かりしてよろしいでしょうか?」
「…ああ」
テスは長剣の鞘をベルトからはずし、コルネリに渡した。
「ついでに砥ぎに出してくれると助かる」
「承知いたしました。確かにお預かりいたします」
彼は両手で捧げ持つように受け取って、退出した。
コルネリが出て行くとテスは、寝室のクローゼットをのぞき、シャツを出した。
「エド、来いよ」
テスは居間の湖側の、ガラス格子の引き戸を開け放し、テラス伝いに移動した。
驚いたことにテラスは、屋根はあるが壁のない、広々としたバスルームに続いていた。ベージュのタイルの床には小さなプールかと見紛う浴槽が掘られ、青く見える湯でいっぱいに満たされている。浴槽の横には膝くらいの高さに貝の形のボウルがあり、その端から湯が浴槽に流れ落ち、ボウルには壁から突き出た管から湯が供給される仕組みになっている。
「すごい……」
上下水道はもちろん、給湯設備も整った元の世界ならたいしたことではないが、この世界でこれだけの設備を維持し使用するとなると、どれだけの金と人手がかかるのか見当もつかない。
「ローディアの上下水道普及率はこの大陸で最も高い。というか、他国とは比較にならないほどだが、これほどの贅沢はそうそう経験できないぞ」
「そうだろうね……」
エドはため息をついた。
「おれは風呂に入ってくるが、お前も入るだろう?」
「うん。き、君のあとでね」
テスは苦笑した。
居間に戻ったエドは、テスには見せなかったが、打ちのめされた表情でカウチに身を沈めた。
テスからの連絡で、右大臣はすぐにこの別荘で彼を迎える準備をさせた。しかもふたりの質素な身なりを見ても使用人たちの態度は慇懃この上なかったということは、丁重にもてなすように命令が徹底されているということだ。それはテスが右大臣家の人間か、それと同格、あるいは上の人間だからとしか思えない。右大臣への手紙を家族宛てではないと否定したことを考えると、ここがテスの実家だとは考えにくい。テスの「逃げ出した」という口ぶりから察すると、お家騒動とか何かいざこざがあったように思われた。もしテスが家には帰ってきたことを知られたくなくて、一時的に身を寄せるとしたら、匿ってくれそうな親戚か……家来のところしか考えられない。親戚ならまだしも、もしかしたら……
テスが身分の高い生まれだとは予想していた。だがもし、右大臣家の主君にあたるとしたら……?
(テスは……王家の人間なのか…?まさか、王子……?)
だとしたら説明がつく。ローディア王重病の情報に蒼白になり、逃げ出したはずの祖国に戻ることを決心した理由。国の一大事と思ったというよりも(それだって、王家に近い人間だからだろうが)、父の病を心配したという方が自然だろう。
(そうじゃないかと、あのとき思ったんだ……。いくら母国の王が倒れたからといって、あんなに取り乱すはずないもんな。だけど責任感の強い彼のことだから、家や家族に影響があるかもしれないと心配したんだろうと無理に納得したんだ……)
エドはローディアの政情などわからない。だからなぜテスが国を出なければならなかったのかもわからない。噂どおりならば──ローディアに入ってからは、自然に王家の話が人々の口にのぼるのを聞くことができた──王の病は今すぐ命に関わるというものではないらしいし、将来王位を継ぐのは正式に王太子と指名されている、正妃の子の第二王子だということは当然視されている。摂政に就いたことに若すぎるという意見もあったが、大臣たちがうまく補佐するだろうという見解で決着していた。たまに「第一王子がご健勝だったら、もっと安泰なのに」という声も聞いた。「妾妃のお母上によく似て、見目麗しくて聡明で、弟殿下ともとても仲睦まじかったのにねえ……」
人々の話を聞く限りでは、王家内で争いや不穏な出来事があるようには思えない。ただ、王のこどもは妾腹も含めて2人きりだという。もしテスが王の血を引いているのならば、確かに騒動が起こる可能性はある。が、成人した正妃の血筋の第二王子が、しかも王位継承が確定している王子がいるのだから、余程のことがなければ大きな影響があるとは思えない。
(君が王子でもそうでなくても、俺の気持ちは変わらない。身分違いが問題でもない。ただ不安なのは……)
テスは家に戻るつもりなのだろうか。「逃げ出したことに決着」がついたなら、彼はどうするのだろう。
「待たせたな、エド。お前も入って来い」
テラスから、濡れた髪を拭きながらテスが入ってきた。借りた大人もののシャツを着ただけで、足元もはだしだった。丈が膝上まである分、肩は落ちて袖も2、3回折り返している。真っ白なシャツの下に彼の体の線や肌の色が淡く透けて見え、エドは慌てて目をそらした。
「置いてある服は少し小さいかもしれないが、ゆったりしたデザインのものなら大丈夫だ」
「ああ、ありがとう」
「そうだな……おれが選んでやろう」
テスは進んで服を物色し、一揃いエドに渡した。
「上着は体が冷めてから着ればいい。とりあえずそれで大臣の前に出られる格好にはなる」
久しぶりに体を伸ばしてゆっくりと、気兼ねなく湯と石鹸を使って体の隅々まで洗ったエドは、テスが選んだローディアの服を身につけてみた。
衿の高い白いドレスシャツは、基本の型は町で人々が着ているものと同じだが、大きな違いは丈の長さだった。普通は股下くらいだが、これは膝が隠れるほど長い。その下に履くストレートパンツは、生成りの薄い地で、よく見れば同色の糸で裾に草花の刺繍が施されていた。靴は涼しげなサンダルである。本当はこれに革の太いベルトをシャツの上から巻き、ウェストまでの短いベストを着るのだが、まだ体が熱いのでだらしなくないようベルトだけ締めた。
部屋に戻るとテスはいつもの服に着替えてしまっていた。残念のようなほっとしたような心持ちで、エドは彼の向かい側に座った。
テーブルの上には、運ばれてきた果物や菓子、チーズにパン、お茶とジュースと果実酒が手つかずで置かれていた。
「食べないの、テス?」
「別に腹は空いていない。…喉は渇いたかな」
「何か飲む?」
「…それをもらえるか」
エドはピッチャーから鮮やかな黄色のジュースをグラスに注いだ。それを飲み干して空のグラスを持ったまま、テスは物憂げに呟いた。
「お前は頭がいいから……だいたいのことは察しているんだろうな……」
エドもジュースを飲んだ。
「お前には、何も隠さないと言いながら、まだ何も話していない……」
「…テス、話したくないことを話す必要なんてないんだ。隠しごとのすべてが悪いことだとは、俺は思わないよ」
「………」
唇を噛みしめたテスの黒い瞳から、懊悩の色は消えることはなかった。
「……風に当たってくる」
テスはテラスから庭に出て行った。庭木の間を縫い、湖の方へ歩いていく彼の背を、エドは見守ることしかできなかった。
毎週更新を自分に課しているBL小説ですが・・・もともとタイピングが好きじゃないし遅いので、今日も朝からちょっと打っては食べ、ちょっと打ってはテレビを見、ちょっと打ってはマンガを読み・・・進んでいません・・・次でもう(やっと)10回になりますか?ようやく半分か・・・。誰だ!こんな長いやつ書いたのは!(お前だっつーの)
というわけで、明日・・・明日の夜には更新しますので・・・探さないでくださ・・・じゃなくて、今日はもう、うちをのぞかないで寝てください・・・(更新をお待ちくださっている奇特な方がいらっしゃったらの話ですが!)
明日、と宣言しないとこのまま来週の平日に突入しそうなだらけっぷりなので、自分に責を課してみました・・・。だめ人間ですみません・・・
あ!「ブラッディ・マンデイ」が始まってしまった!では!!(こらーっ)
それはともかく、新聞のテレビ番組表で『日本史サス○ンス劇場 本当にあったうんたらかんたら・・・ ①新撰組・・・土方&沖田禁断の愛』というのを見て、「なにっ!土方×沖田の禁断(ホ○)の愛?!これは見なくては!」(もう、オチが見える・・・)とコーフンしたら、何のことはない、土方にはだれそれ、沖田にはだれそれ、という恋人がいたという話だった・・・。(当たり前だ)
栗本さんが土方×沖田で書いてるもんで、目にフィルターかかっていたらしい・・・。「&」と「×」の間は、アンドロメダよりも遠い・・・(遠い目・・・)
新しいものを上げたいなーと思いつつ、今はデータが読めなくなったオリジナルBL小説を打ち直すのを優先しているため、できてません。野望だけはあるのですが・・・。マンガの「Y」とか、アニメの「G」とか(ガン○ムではありません)。どっちもマイナーすぎるわ・・・。
というわけで、過去のコピー本などそっと上げてみました。これもワープロで作っていたので、全打ち直ししなくてはならなかったのですが。
私の最愛カップリングの1つ、「カード○ャプターさくら」の桃矢×雪兎です。本当は「ツバサ」の桃矢×雪兎がやりたい・・・つか、王様×神官で犯りたい・・・ハアハアサクラちゃんが潔斎かなんかに入っていて、小狼に触れちゃダメっつー話があったとき(コミックス未収録)、「神官さんも、なんか儀式の前とかそういうことがあるのかしら?!うわっ、王様まだ若いからさー、悶々とすることあるかも?あると思います!萌えるぜ!!」とコンビニで鼻息荒くなってしまった・・・。これ、いつか書きたいわ・・・。
話がずれた・・・。というわけで、桃矢×雪兎の話が2つ、サイトの方にありますので、「実は桃雪が好き・・・」という方がいらしたら、見にいらしてくださいね宣伝でしたー!
寝る子は育つ・・・というが、猫は大人になってもよく眠る。
とはいえ、やはり子猫はよく遊びよく寝る。うちの子猫、目を細めて人を上目遣いに見る顔はまさしく般若、お前はチョビ(※『動物のお医者さん』参照・・・)か?な「うりちゃん」。寝姿を激写。といっても画素少ないケータイでは画像ぼろぼろですが。
今はもっぱら猫が眠るときに使用する、爪とぎ跡だらけの座椅子の上で眠るうり。
私の股間で眠るうり。まだ小さいので「膝の上で寝る」って感じにはならんのです。しかし、太い足だなあ・・・
追加。うり、お色気シーン(?)
猫の伸びた姿ほど、まぬけなものはない・・・。