「う…わああ…!」<o:p></o:p>
皮膚に当たった雨粒が、火に触れたような痛みをもたらした。吸い込んだ空気が肺を焼く。
いきなり何かにぶつかった衝撃が来た次の瞬間、彼は逆に体が浮き上がるのを感じた。開けた目には、赤い色しか見えない。<o:p></o:p>
赤龍…?<o:p></o:p>
顔を上げようにも、おそらく両腕──前足と言うべきか──にがっちり抱きこまれていて、身動き一つできない。声も出せず息もできず、遠のきかけた彼の意識を、心地良い感触が引き止めた。<o:p></o:p>
ひんやりしたものが、肌の上を優しく撫でていく。ひりひりとした痛みが和らいでいく。忍は安堵して力を抜いた。彼を包んでいるのは、清らかな真水だった。何かに支えられて、その中に浮いている。<o:p></o:p>
忍ははっと目を開けた。頬に触れているのは、ゴムの塊のように弾力があり、表面はつるつるして滑らかだ。水の温度に比べれば温かささえ感じる。腰から上をそれに押しつけられて、水の中に落ちないように支えられている。<o:p></o:p>
「…レッ…」<o:p></o:p>
彼は咳き込んだ。一度咳き込むとどんどん誘発されて止まらなくなった。咳をするたびに胸のあちこちが痛む。<o:p></o:p>
ざば、と赤龍は忍を抱えたまま水の中から飛び上がった。
赤龍は忍を足から地面に降ろすと、すぐに彼から離れ、背を丸めて咳き込み続ける彼を見守った。<o:p></o:p>
“…横になってゆっくり深呼吸しろ”<o:p></o:p>
言われたとおり、忍は仰向けに横たわって、咳を我慢して懸命に深呼吸を繰り返した。次第に落ちついてくると、自分が寝ているのが青々とした草の上だと気がついた。目蓋を上げれば薄い絹のような雲が浮かぶ青い空。ずぶ濡れの布越しに感じる風が少し冷たい。<o:p></o:p>
彼は首だけ横に向けて、少し離れたところに体を伸ばして伏せている赤龍を見つめた。<o:p></o:p>
「…ここは……地球か…?」<o:p></o:p>
“そうとも言えるし、そうでないとも言える。私の結界の中だからな”<o:p></o:p>
赤龍の体長は、前に見たときの半分もなかった。体長の半分は尾で、頭から後ろ足まではおそらく忍より少し大きいくらいだろう。<o:p></o:p>
金色の眼球と虹彩、縦長の赤い瞳。爬虫類に近い、全く異質な目だというのに、その目には複雑な感情が浮かんでいる。忍は、「霊的存在」の彼らがそんなことを感じるのかどうかよくわからないが、赤龍は、疲れているようだと思った。たぶん…存在することに。<o:p></o:p>
忍は、また咳の発作に襲われないように、ゆっくりと身を起こした。濡れた服が重く、はりついて動きにくい。せめて上着を脱ぎ、靴も脱いで裸足になる。<o:p></o:p>
赤龍は、何も言わない。訊こうともしない。ただじっと忍を見つめている。<o:p></o:p>
「…そちらに行ってもいいか…?」<o:p></o:p>
“……”<o:p></o:p>
返事はないが、怒ったり拒んでいる気配はないので、いざり寄る。まだ立ち上がるだけの力はなかった。<o:p></o:p>
「触っても、いいだろうか…」<o:p></o:p>
“……”<o:p></o:p>
忍は、そっと手を伸ばした。腕の付け根の上あたり、赤い鱗が規則正しくぎっしりと生えている。ごつごつしているのかと思ったら、鱗の一枚一枚は曲線を描いたプラスチックのようで、さらさらと乾いた手触りだった。そこから鱗のない胸の方へと触れていく。赤龍は目を細めた。<o:p></o:p>
「……すまない……銃で撃ったりして…」<o:p></o:p>
もちろん、赤龍の体に傷などない。それでも彼を撃ったという事実は消えるわけではない。<o:p></o:p>
“撃たれたところで私には影響ない。そう仕向けたのは私だ。謝る必要はない”<o:p></o:p>
一時の感情の爆発にまかせて引き金を引いてしまっただけで、殺意はなかった。けれども、撃ったからにはたとえヘルムートが死んでも死ななくても、自分は死ぬつもりだった。…確かに、自分には破滅願望があるのだ。そう、あのときも…そう、望んだ。<o:p></o:p>
「赤龍…僕はあなたに謝らなくてはならない。僕は、思い出したんだ。あなたと出会ったときのことを…」<o:p></o:p>
悪夢のようなあの夜。それは、ヘルムートと忍の宿命が断ち切られ、忍と赤龍が出会った、宿命の日だった。
はーっようやく山場にたどりつきました。峠を越えれば終わりがみえるかな…
ワードで打ったのをブログの記事編集ページにコピーペーストしてみたんだけど、勝手に字下げしたり、改行したりして、修整がきかない・・・。なんでだろ?HTMLの方でも見ても、そんなタグは見当たらないんだけどなあ。というわけで、お見苦しいところがありますが、直す技術がないのでご勘弁を!