かぎ分ける能力 嗅細胞の受容体が活性化
レモンは独特のにおいを持っている。しかし、レ モンのにおいを持つ特定の化学物質(におい物 質)があるわけではない。レモンに含まれている におい物質のうち、多いのはリモネンという有機 物であるが、ほかにもさまざまなにおい物質が含 まれている。リモネンはグレ-プフル-ツにも含 まれている。それでもレモンと同じにおいがする わけではない。それぞれのにおいは、複数のにおい物質が組み合わ さって作られているからである。人工的に作られた純粋なにおい物質 もある。それらは、それぞれに違うにおいを持っているので、におい物 質の種類は十万種類とも四十万種類とも言われている。日常的には、 これらが組み合わさるので、においの種類は無限にあると言っていい。 このように多様なにおいを、どのようにかぎ分けているかは、長い間解 明されていなかった。2004年にノ-ベル賞を受賞したパック博士とア クセル博士は、においを受容するタンパク質(におい受容体)か゛千種 類ぐらい存在することを見いだした。ヒトの場合、嗅覚の重要性がやや 低くなっているので四百種類くらいにとどまる。これほど多様なにおい を、われわれはどうやってかぎ分けているのか。においを受容する嗅 細胞には、それぞれ一種類のにおい受容体が存在する。一つのにお い物質は、何種類かのにおい受容体を活性化する。その活性化の程 度はにおい物質によって異なり、それぞれ特有の応答パタ-ンも微妙 に異なるため、われわれはいろいろなにおいをかぎ分けることができ るのだ。(柏柳 誠=旭川医学部教授)