消化液 悪臭転じ循環農業の柱
市街地周辺に酪農家が点在する十勝管内鹿追 町では、かつて家畜のふん尿による悪臭が問題 になっていた。特に夏の観光シ-ズンは、ちょう ど一番牧草の刈り取り後の堆肥すき込み作業と 重なり、風向きによって観光客から苦情が寄せられることもあったと いう。町環境保全センタ-のバイオガスプラント計画は、そもそもこの 悪臭対策からスタ-トした。町とともに施設を運営するプラント利用組 合は、特に対策が急がれる市街地周辺の酪農家11戸で組織され、 ほぼ毎日、プラントへふん尿を運び込む。昨年夏からは、各組合員の 牧草地には、堆肥の代わりにメタンガスを採取した後の消化液がま かれている。ふん尿に含まれる肥料の三要素(窒素、リン酸、カリウ ム)が損なわれず残り、アンモニアなど悪臭の原因物質がほぼ取り 除かれた液肥だ。町によると観光客からの悪臭への苦情はなくなっ たという。プラントを利用する組合員も「苦情」というストレスから解放 され、活力が生まれてきた。市街地に隣接して酪農業を営む桜井公 彦さん(45)は「少しでもにおいが流れないようにと風向きを考えて堆 肥をまいていたが、今は気にせず作業ができる。堆肥をつくる手間も 省け、その分で飼育頭数を増やすこともできた」と喜ぶ。さらに、肥料 高騰が続く中、各組合員に還元される消化液にも注目が集まる。町 などの実地検証では、牧草の生育で堆肥以上の効果が認められ、化 学肥料の投入が大幅に抑えられるからだ。消化液は組合員以外の 畑作農家からも引き合いが急増しており、プラント利用組合長を兼務 する町農業振興課の大井基寛課長は「消化液の利用による町内のク リ-ン農業推進を模索している。化学肥料の価格が高止まりするなら、 販売することも検討していきたい」と話す。やっかいものの家畜ふん尿 がエネルギ-を生み出し、さらに環境に優しい肥料として土に戻り、作 物を育てる。プラントを軸に循環型農業が、ほぼ理想的に展開しつつ ある。プラントが立地する町環境保全センタ-には、連日、全国から多 くの農業関係者が視察に訪れている。