地方を訪れると、いわゆる「シャッター通り」を必ず目にする。それはつい最近のことではなく、また、地方に限ったことでもない。だが、その勢いに抗いきれないものの、何とかしようとする試みもあちこちで見られる。そう、3月に訪れた奈良でも、先月訪れた八戸でもそうした取り組みを目の当たりにすると、微かではあるが希望を感じる。
この春、有川浩さんの『県庁おもてなし課』を読んでいた時も、舞台となった高知に4年前に行った際、四万十川沿いを自転車で下ったり、中村の飲み屋さんでその雰囲気に酔ったことなどを思い出しながら、心がワクワクした。そしてその後、何もできない自分を情けなく思い、上を見上げてしまった。
吉田修一さんの新刊
『平成猿蟹合戦図』を買い求めたのは2週間ほど前だった。書き下ろしでないのは仕方がないが、それでも早く読みたいという気持ちだった。だが、その前から読んでいた本があったことから、開きもせずに時間だけが過ぎていた。昨日ようやく20ページほど読み終え、そして今日の午後一気に読み終えた。舞台の一つ、新宿歌舞伎町は最近はたまに訪れるくらいだが、散歩道の一つである滝野川がちらっと登場し、心に引っかかった。そして、後半の舞台である
秋田県大館市は、6年前に映画『好きだ、』を観て以来、一度は訪れたいと思っている所で、それも読むスピードを速める一因となった。
読み進める間、突拍子ない展開だなあと感じるところもあったが、吉田さんが綴る軽妙な文が心地よく、夕方までに500ページを読み終えた。主人公の浜本純平に、同じく吉田さんの『横道世之介』を感じる人は多いだろう。吉田さんは、世之介に別の人生を歩ませてやりたかったのだろうか…なんて考えてみた。そして、故郷に戻った純平に対し、長崎県の五島から歌舞伎町にやって来た真島朋生、美月、瑛太の親子は、弱々しそうに見えて案外タフで、遠く離れた場所での新しい暮らしにもすぐに順応できたのだろう。
今の日本が抱える様々な問題を思い浮かべながら、その先はきっと明るいだろうと思い、本を閉じた。