ほぼ是好日。

日々是好日、とまではいかないけれど、
今日もぼちぼちいきまひょか。
何かいいことあるかなあ。

神去なあなあ日常

2009-09-23 | 読むこと。

  『神去なあなあ日常』
    三浦 しをん


新聞の書評を読んで、夏休み前に図書館にリクエスト。
8人待ちでしたが、先日ようやく順番がまわってきました。


奇妙なタイトルですが、ひょんなことから
林業に就職するハメになった男子の話です。
まず、えっ、林業!?って驚きますよね。
いまどきの男の子がリンギョー、まさかね、って。
本人がマジかよ~って思ってるくらいですから(笑)

横浜から、遊ぶところもコンビニもない、ケータイも通じない
三重県の山奥、神去村で林業に就職させられた少年の物語です。
ここから何とか逃げ出したい、と思ってた主人公勇気が、
林業に携わることによって、戸惑いながらも徐々に
山や村の人々との暮らしに馴染んでいく姿が描かれています。
林業の大変さ、凄さ、そして山の不思議さ、奥深さは、
勇気の体験を通じて、そのままストレートに読者にも伝わってきます。

そんな彼を厳しく、そして暖かく支えてくれる村の人たち。
それぞれがとても個性的かつ魅力的に描かれています。
勇気に林業を叩き込むのは、斧一本で自由自在に木を切り出す、
山仕事の天才のようなヨキ。
若いながらも広大な山林を持ち林業を経営する、
冷静でどっしりしたおやかたの精一さん。
一緒に働く、林業のエキスパート巌さんに三郎さん。
それに、男勝りでそっけないけど、魅力的で勇気の憧れの女性直紀さんや
ユニークな存在の繁ばあちゃん。

一般的にみれば「斜陽産業」の代表ともいえる林業ですが、
そこで生きる人たちは、誰もが山で生きることに誇りを持ち、
こんな現代においてさえ、山を敬い、山の神さまが生活の中に
自然と溶け込んでいることに驚かされます。


この物語のクライマックスはなんといっても、
48年に一度行われるオオヤマヅミさん(神去山の神さま)の大祭。
巨大な千年杉を切り出し、村の男総出で山奥から滑らせて、
ふもとまで一気に下ろしていきます。
その巨木に荒縄を巻き、それをつかんで男たちが
山から滑り落ちる描写は豪快そのもの。
村人からよそ者扱いされていた勇気も、命知らずのこの祭に
逃げ出したいと思いながらも、みんなと一緒に
命からがら滑り落ちていきます。

以前ニュースで、切り出した木に乗って滑り落ちる
諏訪の御柱祭の様子を見たことがありますが、
それを、山の頂上近くからするというのですから、
まあ、無茶なことこの上ないですね(笑)

この小説の中には、山で暮らす人々の、都会人にはわからない
山に対する思いというものがとても強く感じられますが、
なかでもこの祭は、古来から綿々と受け継がれている、
文化というか宗教というか、何か根源的なものを感じました。

そして、勇気はこの祭で不思議な体験をします。
山の神秘を垣間見た、とでも言ったらいいでしょうか。
それが読者に違和感なく伝わってくる、というのが、
この物語で知った山の不思議さなのでしょうね。

タイトルになっている「なあなあ」というのは、
神去村の言葉で「ゆっくり行こう」「まあ落ち着け」
というニュアンスなんだそうです。
山という大自然の中で、林業という百年単位で暮らす人々の、
生きるの知恵のような言葉ですね。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする