『孤鷹の天』
澤田 瞳子
怠け癖がついたのか、しばらくブログから遠ざかっておりました。
集中力がなくなって、本のレビューを書きかけてはやめ、
未完成の記事ばかり。
このまま、尻切れトンボでブログも終わってしまうのか・・・と思ってた矢先、
久しぶりに読み応えたっぷり、その世界にどっぷり浸ってしまった本に出会いました。
それがこの『孤鷹の天』。
たまたまネットで、「奈良を舞台にした本」の紹介で見かけた本です。
藤原仲麻呂が出てくるというので興味をひきました。
その同じ日、本屋へ行くと、普段読みたいと思う本がめったに
置いてない本屋さんに、なんとこの本があるではありませんか!
詳しい内容もわからず買うのに一瞬躊躇しましたが、
図書館で検索しても見あたらなかったので思い切って購入。
久しぶりに本の衝動買いをしました。
簡単に内容を説明すると・・・
舞台は、天平宝字4年藤原仲麻呂が権力を握っていた頃の寧楽<なら>。
主人公の高向斐麻呂<たかむくのいまろ>が、大学寮に入学が
決まったところから始まります。
大学寮というのは、律令制官人候補生としての教育を施す公設校です。
儒教を中心とした教育理念のもと、唐語や算学などの専門知識を
身につけ、任官試験を受けて優秀な官人として国家に奉仕する
人材を育成するわけです。
ここでユニークなのは、官僚として政治に参与するには出自が
重要であったこの時代において、大学寮では貴族の子弟だけでなく
庶民にも出世の機会を与えた画期的な機関だったことです。
主人公の斐麻呂も遣唐使として唐へ渡った藤原清河
(実在の人です)の娘、広子の使用人。
ひとりで父を待つ広子のために、大学寮で唐語を学び、
唐まで清河を迎えに行くという志のもと大学寮に入るわけです。
説明がやたら長くなりますが、この「大学寮」というのが
この物語の中で大きな意味を持っているのですね。
ここに集まってくる、とても個性的な学生たち。
彼らが、とっても魅力的なのですよ。
勉強はからきしダメだけど、弓の名手で熱血漢の上信<うわしな>。
頭脳明晰でクールな雄依<おより>。
算学が得意で人のよい光庭。
そんな一筋縄ではいかない彼らを教え、ずっと見守る巨勢嶋村。
そして、当時牛馬より劣る扱いをされていたの赤土。
前半は彼らを中心とした、まるで奈良時代の青春ドラマのように
話は進みます。
しかし、中盤以降、儒教を学び理想の国を目指そうとする若い彼らも、
時代の歯車に否応なく巻き込まれていきます。
いえ、自分の信じるものに従って、自ら飛び込んでいったのです・・・
もともと、この時代に興味があって読み始めたわけですが、
専門知識のない私でも、この時代天皇をめぐる激しい権力争いや
それに伴う政争があったことは知っています。
長屋王の変、藤原広嗣の乱、橘奈良麻呂の変、そしてこの物語に
出てくる藤原仲麻呂の乱。
どちらが勝ち、争いに負けた方はどうなってしまったか、
歴史の事実を知っていながらこういう小説を読むわけです。
大河ドラマの「新選組!」も「龍馬伝」も、結末がわかっていて
それでも観るわけですよね。
龍馬が暗殺されるのがわかっていながら、彼が新しい日本を
つくろうと奔走しているところを観るわけですよ。
あと何ヵ月後には死んじゃうんだ、と思いながら。
つらいですよね・・・
話はそれましたが、この話もそうでした。
この本を読むまでは、藤原仲麻呂は権力に目がくらんだ悪いやつだ、
と思ってたんです。
でも、それはある一面、ある一方からの見方であって、
彼は儒教の教えを中心に国をつくろうとし、
大学寮を支援しました。
そして儒教を学ぶ大学寮の学生達も、その仲麻呂の考えは
正しいと思ったわけです。
一方で、仏教を推進する阿部上皇派が大学寮出身者を排斥するなど、
両者の対立が激しくなっていきます。
そしてついに武力対決に。
そこから命を賭け義を貫こうとする若い彼らの、
まさに血みどろの戦いが始まります。
主人公の斐麻呂は悩みます。
自分は何を主と思い、何に誠を捧げればいいのか。
この国をよくするにはどうすればよいのか。
そもそも、その国とは一体何なのか?
帝や上皇か、額に汗して国を富ます民百姓か。
そこに、影の主人公とでもいうべきの赤土が、
上皇派のおかげで良民となり、位まで授かって
再び斐麻呂の前に現れます。
しかも、赤土の妹のお腹には斐麻呂の子が・・・
対立する斐麻呂と赤土。
そして、そんな斐麻呂をずっと心配している広子。
彼らは否応なく、それぞれの戦いに身を投じていきます。
国をよくしよう、時代を変えようとする彼らの純粋な思いに、
何度涙を流したことでしょう。
今の時代の子を持つ親の身であれば、
いくら義のためとはいえ死なないで、と言いたいところです。
しかし、この時代、彼らには命よりも大事だと信じるものが
あったのでしょうね。
本の帯に「理想に殉じた若者たちの 眩しいまでのひたむきさ」
とありましたが、まさにその通り。
久しぶりに心が熱くなる作品でした。
最初に、大学寮がこの作品に大きな意味を持っていると書きました。
大学寮にいた誰もが義を貫こうとしたわけではありません。
中には立身出世のため、阿部上皇側についたものもいます。
また、自分の身を守らんがため、一見ふらふらしているような
人物もいます。
それでも、大学寮で身についた教えが、彼らから失われた
わけではありませんでした。
絶体絶命の斐麻呂を救ったのは、そんな彼らだったのですから。
こういう歴史的事実に想像を膨らませた小説の面白さは、
実在の歴史上の人物と架空の人物をうまく絡み合わせてある
ところでしょう。
へー、この人物がこの先こういう人になるのか~、
えっ、彼はこの人と実際に結婚したんだ!
なーんて発見もあり、日本史の教科書で知るだけの人物が
とっても身近に感じられました。
この作品、歴史好きの女子には絶対ウケルと思うんですけどねー(笑)
澤田 瞳子
怠け癖がついたのか、しばらくブログから遠ざかっておりました。
集中力がなくなって、本のレビューを書きかけてはやめ、
未完成の記事ばかり。
このまま、尻切れトンボでブログも終わってしまうのか・・・と思ってた矢先、
久しぶりに読み応えたっぷり、その世界にどっぷり浸ってしまった本に出会いました。
それがこの『孤鷹の天』。
たまたまネットで、「奈良を舞台にした本」の紹介で見かけた本です。
藤原仲麻呂が出てくるというので興味をひきました。
その同じ日、本屋へ行くと、普段読みたいと思う本がめったに
置いてない本屋さんに、なんとこの本があるではありませんか!
詳しい内容もわからず買うのに一瞬躊躇しましたが、
図書館で検索しても見あたらなかったので思い切って購入。
久しぶりに本の衝動買いをしました。
簡単に内容を説明すると・・・
舞台は、天平宝字4年藤原仲麻呂が権力を握っていた頃の寧楽<なら>。
主人公の高向斐麻呂<たかむくのいまろ>が、大学寮に入学が
決まったところから始まります。
大学寮というのは、律令制官人候補生としての教育を施す公設校です。
儒教を中心とした教育理念のもと、唐語や算学などの専門知識を
身につけ、任官試験を受けて優秀な官人として国家に奉仕する
人材を育成するわけです。
ここでユニークなのは、官僚として政治に参与するには出自が
重要であったこの時代において、大学寮では貴族の子弟だけでなく
庶民にも出世の機会を与えた画期的な機関だったことです。
主人公の斐麻呂も遣唐使として唐へ渡った藤原清河
(実在の人です)の娘、広子の使用人。
ひとりで父を待つ広子のために、大学寮で唐語を学び、
唐まで清河を迎えに行くという志のもと大学寮に入るわけです。
説明がやたら長くなりますが、この「大学寮」というのが
この物語の中で大きな意味を持っているのですね。
ここに集まってくる、とても個性的な学生たち。
彼らが、とっても魅力的なのですよ。
勉強はからきしダメだけど、弓の名手で熱血漢の上信<うわしな>。
頭脳明晰でクールな雄依<おより>。
算学が得意で人のよい光庭。
そんな一筋縄ではいかない彼らを教え、ずっと見守る巨勢嶋村。
そして、当時牛馬より劣る扱いをされていたの赤土。
前半は彼らを中心とした、まるで奈良時代の青春ドラマのように
話は進みます。
しかし、中盤以降、儒教を学び理想の国を目指そうとする若い彼らも、
時代の歯車に否応なく巻き込まれていきます。
いえ、自分の信じるものに従って、自ら飛び込んでいったのです・・・
もともと、この時代に興味があって読み始めたわけですが、
専門知識のない私でも、この時代天皇をめぐる激しい権力争いや
それに伴う政争があったことは知っています。
長屋王の変、藤原広嗣の乱、橘奈良麻呂の変、そしてこの物語に
出てくる藤原仲麻呂の乱。
どちらが勝ち、争いに負けた方はどうなってしまったか、
歴史の事実を知っていながらこういう小説を読むわけです。
大河ドラマの「新選組!」も「龍馬伝」も、結末がわかっていて
それでも観るわけですよね。
龍馬が暗殺されるのがわかっていながら、彼が新しい日本を
つくろうと奔走しているところを観るわけですよ。
あと何ヵ月後には死んじゃうんだ、と思いながら。
つらいですよね・・・
話はそれましたが、この話もそうでした。
この本を読むまでは、藤原仲麻呂は権力に目がくらんだ悪いやつだ、
と思ってたんです。
でも、それはある一面、ある一方からの見方であって、
彼は儒教の教えを中心に国をつくろうとし、
大学寮を支援しました。
そして儒教を学ぶ大学寮の学生達も、その仲麻呂の考えは
正しいと思ったわけです。
一方で、仏教を推進する阿部上皇派が大学寮出身者を排斥するなど、
両者の対立が激しくなっていきます。
そしてついに武力対決に。
そこから命を賭け義を貫こうとする若い彼らの、
まさに血みどろの戦いが始まります。
主人公の斐麻呂は悩みます。
自分は何を主と思い、何に誠を捧げればいいのか。
この国をよくするにはどうすればよいのか。
そもそも、その国とは一体何なのか?
帝や上皇か、額に汗して国を富ます民百姓か。
そこに、影の主人公とでもいうべきの赤土が、
上皇派のおかげで良民となり、位まで授かって
再び斐麻呂の前に現れます。
しかも、赤土の妹のお腹には斐麻呂の子が・・・
対立する斐麻呂と赤土。
そして、そんな斐麻呂をずっと心配している広子。
彼らは否応なく、それぞれの戦いに身を投じていきます。
国をよくしよう、時代を変えようとする彼らの純粋な思いに、
何度涙を流したことでしょう。
今の時代の子を持つ親の身であれば、
いくら義のためとはいえ死なないで、と言いたいところです。
しかし、この時代、彼らには命よりも大事だと信じるものが
あったのでしょうね。
本の帯に「理想に殉じた若者たちの 眩しいまでのひたむきさ」
とありましたが、まさにその通り。
久しぶりに心が熱くなる作品でした。
最初に、大学寮がこの作品に大きな意味を持っていると書きました。
大学寮にいた誰もが義を貫こうとしたわけではありません。
中には立身出世のため、阿部上皇側についたものもいます。
また、自分の身を守らんがため、一見ふらふらしているような
人物もいます。
それでも、大学寮で身についた教えが、彼らから失われた
わけではありませんでした。
絶体絶命の斐麻呂を救ったのは、そんな彼らだったのですから。
こういう歴史的事実に想像を膨らませた小説の面白さは、
実在の歴史上の人物と架空の人物をうまく絡み合わせてある
ところでしょう。
へー、この人物がこの先こういう人になるのか~、
えっ、彼はこの人と実際に結婚したんだ!
なーんて発見もあり、日本史の教科書で知るだけの人物が
とっても身近に感じられました。
この作品、歴史好きの女子には絶対ウケルと思うんですけどねー(笑)