万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アルジェリア拘束事件-現在の命と将来の命の過酷な選択

2013年01月18日 15時37分59秒 | 国際政治
政府「人命第一」考慮されず アルジェリア拘束事件(産経新聞) - goo ニュース
 アルジェリアで発生したイスラム原理主義武装集団による人質事件は、邦人を含む無辜の人々が命を落とされ、痛ましい結末を迎えることになりました。日本国政府としては、”人命第一”の立場から、早急な軍事作戦の展開を避けたかったようですが、アルジェリア軍は、迅速な作戦の決行による制圧を目指したようです。

 アルジェリア軍の攻撃作戦により、人質の命も失われたため、軍の行動を批判する声もないわけではありません。しかしながら、テロによる人質事件には、現在の命と将来の命の選択という重い課題が常に付きまといます。人質の命、すなわち、現在の命を尊重してテロリストの要求を飲むと、将来において、より多くの命が失われることになるからです。アルジェリアでは、既に、テロ集団との戦闘により16万人もの国民が死亡しており、ようやく、テロの一掃に目途がついた矢先に起きた事件でした。仮に、テロリストの要求に政府が応じるとなれば、テロ活動が再び国内で活発化し、より多くの命が失われます。そして、イスラム原理主義勢力による北部支配の危機が深まる隣国のマリは、テロリストの要求通りに軍事介入を停止すれば、第二のアフガニスタンともなりかねません。マリにはウラン鉱もあり、イスラム原理主義勢力とそのバックとなる諸国の手に、核兵器の原材料が渡ることにもなります。こうした事態となれば、おそらく、何百、何千、何万もの命が失われることになるでしょう。しかも、アフリカに、かつてのアフガニスタンのタリバン政権のような、非人道的行為が神の名の下で許される、原理主義国家が出現するかもしれないのです。

 政治の世界では、時にして、過酷な選択を迫られることがあります。批判を受けるべきは、事件を起こしたイスラム原理主義武装集団であることは言うまでもありませんが、アルジェリア軍の行動を、無碍には非難できないようにも思うのです。そうであるからこそ、日揮の社員の方々、そして、人質となられた方々の犠牲はあまりに重く、自らの命を以って他者を生かしめた尊い犠牲に、心より哀悼の意を捧げるのです。

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コメント (2)
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