万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政府効率化省の目的はアメリカ連邦政府の電子政府化?

2024年11月14日 11時40分07秒 | アメリカ
 今月11月12日、アメリカ大統領選挙で勝利を収めたドナルド・トランプ次期大統領は、選挙戦での献身的な貢献を認めて、実業家にして大富豪でもあるイーロン・マスク氏を「政府効率化省」のトップに任命したと報じられています。もっとも、新設される同組織は、マスク氏一人ではなく、共和党の候補者でもあったビベック・ラマスワミ氏とのトップ二人体制として発足する模様です。

 とかくに知名度に優るマスク氏に人々の視線が集まりがちですが、ラマスワミ氏もまた、共和党の候補者指名レースに名乗りを上げただけあって、決して無名の人物ではありません。インド・タミル系である同氏は、若くしてロイバンドサイエンシズという社名の製薬スタートアップを創設し、金融事業等も手がけることで築いた個人資産は9.5億ドルにも及ぶとされます(ソフト・バンクからも11億ドルを調達したとも・・・)。マスク氏もラマスワミ氏も共にテック産業界の‘申し子’であり、その思想も最大限に個人の自由を認めるという意味において共通しているのです(あらゆる制約や規制を否定する自由原理主義、あるいは、リバタリアン・・・)。因みに、ラマスワミ氏の両親の出身地はインドのケララ州であり、同州は歴史的にマルクス主義者の多い地域でもあります(現職の州首相もインド共産党マルクス主義派・・・)。

 両者ともに異例の事業拡大並びに集金力を見せたところに、投資者あるいは支援者としての世界権力の影が見え隠れするのですが、異例の二人体制となる「政府効率化省」のトップの人事は、あるいは、世界権力によるものであったのかもしれません。何れにしましても、政府予算の3割削減を目指すとされる同機関は、トランプ政権の発足と同時に任務を開始することとなるのです(世界権力は、自らの構想を実現すればよく、その実行者は共和党でも民主党でも構わない・・・)。

 両氏の任命に際してトランプ次期大統領は、同機関を「現代のマンハッタン計画」とし、「官僚主義を壊し、過剰な規制をなくし、無駄な支出を削減し、連邦政府のリストラを進める。ホワイトハウスなどと連携し、政府の外から助言や指針を与える」と説明しています。凄まじい破壊力を‘マンハッタン計画’に喩えたのでしょうが、リストラされる連邦職員の数は凡そ100万人ともされ、大量失業者の発生と行政サービスの著しい低下が懸念されるほどの大規模な数字です。アメリカ政府の雇用システムには猟官制の側面がありますので、リストラの主たる対象は、前政権、すなわち民主党系公務員であるのかもしれませんが、ポストの入れ替えではなく、ポストそのものがなくなることを意味しますので、‘小さな政府’への改革として理解されましょう。

 もちろん、アメリカ国民の多くも、非効率な政府の運営や無駄遣い等はなくしてゆくべきことに異論はないことでしょう。しかしながら、この大量リストラを伴う‘合理化計画’、マスク氏とラマスワミ氏の背景を考えますと、別の目的があるようにも思えます。つまり、アメリカ連邦政府のデジタル化、すなわち、電子政府化となる可能性が高いように思えるのです。

 実際に、ラマスワミ氏と縁の深いインドのケララ州では、電子政府化が積極的に進められており、2015年には、同州の知事がインドで最初の完全なるデジタル州であると宣言しています(complete digital state)。また、古来、香辛料貿易で栄えた国際的な港湾都市であり、植民地時代には英国領となっていた同州のコチ(旧コーチン)には、今日、アラブ首長国連邦のドバイとの共同出資プロジェクトとしてスマートシティーも建設されています(Smart City Kochi)。グローバルな繋がりからしますと、同氏は、デジタル行政やそれに要する技術もノウハウを自らが属するグローバルなネットワークから取り入れようとするかもしれません(なお、コチにはソロモンの時代からユダヤ人が居住していた・・・)。なお、同州はインドの宇宙開発の発祥の地ともされ、宇宙開発事業に邁進しているマスク氏との繋がりも伺えます。

 およそ100万人の公務員を削減しつつ、行政上の事務作業や公的サービスのレベルを維持しようとすれば、何らかのフォローや代替措置を要することは確かなことです。となりますと、アメリカ連符政府は、結局は、今般‘外部機関’として設置された政府効率化省の提言を受ける形で、AIの大規模な導入を含むデジタル化を進めざるを得なくなるのではないでしょうか(日本国ではデジタル庁?)。大規模なシステム導入を伴い、しかも、技術的進歩の速度が速いデジタル化にも相当の予算を要しますので、連邦予算の3割削減に繋がるかどうかは不明なところであるものの、近い将来、アメリカが電子国家化するとしますと、それは今般の大統領選挙でアメリカ国民の多くが期待した中間層の復活ではなく、同国民の目の前には全く別の世界が広がるのではないかと思うのです(つづく)。

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