万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

G7アメリカ孤立論-米ドルが国際基軸通貨ゆえの世界の悩み

2018年06月04日 14時44分54秒 | 国際政治
米国、G7で孤立 関税措置導入で「G6プラス1」= 仏財務相
カナダのウィスラーで開催されていたG7財務相・中央銀行総裁会議は、昨日、閉幕しましたが、同会議を取材したマスメディアは、各社とも一斉にアメリカの孤立論を書き立てております。フランスのルメール財務相に至っては、『G6プラス1』の構図とまで表現したそうです。それでは、何故、トランプ政権の保護主義は、かくも酷いバッシングを受けているのでしょうか。

 アメリカからしますと、製造拠点、労働力、知的財産なども自由に移動するようになった今日の自由貿易主義は、近年BIG5(Facebook, Apple, Microsoft, Google, Amazon)とも称されるようになった一部のグローバル企業を除いては、必ずしもアメリカ国民に恩恵を及ぼしてはいません。トランプ政権は、自由貿易主義に対する批判によって誕生したと言っても過言ではありませんし、自由貿易主義=相互利益の構図は既に理論破綻をきたしております。そして、アメリカが経験した産業の空洞化による自国産業の衰退と雇用問題の深刻化は、実のところ、‘G6’の大半の諸国も同様です。当のフランスも、マクロン大統領の認識は別としても、一般のフランス国民にとりましては、産業の空洞化は切実なる問題なはずなのです。それにも拘らず、‘G6’が、自国、とりわけ、自国民に不利となる自由貿易主義を堅持しようとしている姿は、些か奇妙にも見えます。

 もちろん、‘G6’の政治家の大半が、自由貿易絶対主義に染まっており、思考停止の状態にある、あるいは、一部のグローバル企業の利益しか頭にないのかもしれませんが、もう一つ指摘し得る理由は、米ドルが今日なおも圧倒的な通用力を有する国際基軸通貨であることです。ここで参考とすべきは、1960年にトリフィン(R. Triffin)によって提起された流動性ジレンマ論とも称された‘トリフィンのジレンマ’です。この説は、金・ドル本位制であったブレトンウッズ体制の下で唱えられましたので、アメリカの国際収支が改善されると、国際流動性(貿易決済のための国際基軸通貨)の供給が不足するとする説です。ニクソンショックを以ってブレトンウッズ体制は崩壊し、今日では既に変動相場制に移行していますので、この説をそっくりそのまま現状に当てはめることはできませんが、基本的な構図は変わらないように思えます。トランプ政権が、貿易赤字の解消に躍起になればなるほど、アメリカの貿易相手国は、対米貿易縮小に伴う米ドル不足による流動性の危機を心配せざるを得なくなるのです。となりますと、アメリカの保護主義を批判する’G6’の必死な形相も理解に難くはありません(アメリカ製品の輸入を増やすという方法もありますが、今度は、自国企業が国内シェアを失う…)。

 米ドル一極であったブレトンウッズ体制とは違い、今日では、欧州中央銀行がユーロを発行しておりますし、中国もまた人民元の国際基軸通貨化を試みていますが、多極化したとはいえ、アメリカは世界第一位の経済大国であるだけに、米ドルの地位は抜きんでています。ビットコインといった仮想通貨に至っては、相場の不安定性や投機性から国際基軸通貨となる可能性は殆ど皆無です。

 もっとも、トランプ政権の貿易不均衡是正の方針は、必ずしもマイナス面ばかりではありません。米中間の不均衡が是正されれば、対米貿易の黒字で積み上げた外貨準備を元手とした“チャイナ・マネー”はその勢いを削がれ、お金で他国を買い叩くような中国の覇権主義的行動を押さえることができるかもしれません。また、トリフィンは、ジレンマを解くために‘世界中央銀行’の設立を唱えましたが、案外、大半の諸国が独自通貨を発行している現状からしますと、各国とも、国内産業の育成や内需拡大の重要性に気が付く契機ともなりましょう。このように考えますと、アメリカによる保護主義への転換は、内外がより調和した経済体系を構築するという、一つの重要なる課題を人類に提起しているようにも思えるのです。

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