万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国には対北経済支援の余力はない-巨大地震による甚大被害の予想

2018年06月08日 10時53分01秒 | 国際政治
政府の地震調査委員会は、今後30年以内に南海トラフ巨大地震が発生する確率を凡そ70%から80%、首都直下地震を70%とそれぞれ予測しています。南海トラフ巨大地震による被害は関東から九州までの太平洋沿岸一帯に及ぶため、死亡者数も最悪の場合には32万3千人というのですから、その規模は東日本大震災を遥かに凌ぎます。直下地震が襲うのも、まさしく日本国の中枢である首都圏ですので、その被害は計り知れません。

こうした甚大な被害が予測される中、昨日6月7日、日本土木学会において、南海トラフ巨大地震による被害は膨大な人的被害に留まらず、その経済的損害は、20年間で1410兆円にも上るとする衝撃的な推計が発表されました。首都直下地震のケースでは778兆円と試算されていますので、両地震の合計で、損害額は2000兆円をゆうに超えます。

 推計損害がかくも巨額となる理由は、交通インフラが寸断されるからです。東日本大震災に際しても、サプライチェーンが崩壊したために製造停止を余儀なくされた企業が続出し、日本経済は危機的な状況を迎えました。首都圏は言うに及ばず、太平洋沿岸も工業地帯が連なり、産業の大動脈となる交通インフラも集中していますので、巨大地震の発生に因る産業全体に与える影響は致命的と言っても過言ではありません。同報告に依りますと、日本国は、‘最貧国’にまで転落する可能性もあるそうです。大航海時代の先陣を切り、一時は‘世界帝国’を構築したポルトガルも、1755年11月1日に突如その首都を襲ったリスボン大地震による津波によって壊滅的な被害を受け、‘最貧国’には至らぬものの、かつての栄華を二度と取り戻すことはできませんでした。

 それでは、度重なる巨大地震の発生を機に、経済大国から‘最貧国’に落ちるという過酷な運命を、日本国は避けることはできないのでしょうか。この問いに対しては、同報告は、「インフラの耐震化などに南海トラフ地震は約40兆円、首都直下地震は約10兆円投じれば、被害額は3~4割減る」と指摘しています。乃ち、インフラ施設の耐震化のみならず、首都機能の地方への分散化を含め、少なくとも凡そ50兆円規模の対策費を投じれば、両地震による損害額は、900兆円以下に抑えることができることとなります。となりますと、今後、政府が万全な対策を講じようとすれば、対策期間を10年と定めた場合でも、年ペースで5兆円の予算を増額させる必要があります。

 財政再建も間々ならない状況にあって、年間5兆円の対策費は簡単に捻出できる額ではなく、政策の優先順位を見直す必要も生じてきます。巨大地震に伴う被害は、国民の命や生活基盤と直結しますので、当然に、政策上の優先順位は高くなりましょう。今般、北朝鮮問題に関連して、仮に北朝鮮がCVIDによる非核化に応じた場合、日本国に対して‘最貧国’の状況にある北朝鮮を援けるべく、巨額の経済支援を引き受けるべきとの意見も聞かれますが、日本国は、近い将来、自らが‘最貧国’になる危機に直面しているのですから、対北支援に予算を割く余力はありません。人為的に避けることができない自然災害であればこそ、日本国政府が丁寧に説明すれば、‘日本ファースト’であっても、国際社会の理解を得られるのではないかと思うのです。

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コメント (2)
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