万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米朝首脳会談は‘スタート’発言-トランプ大統領の真意とは?

2018年06月03日 15時13分01秒 | アメリカ
非核化へ行動取るまで見返りなしと米長官
本日の朝刊一面は、各社とも、米朝首脳会談に関するトランプ大統領の発言が大きく取り上げられておりました。これまでの方針を転換し、6月12日に開催される米朝首脳会談では包括的な合意を目指さず、米朝交渉のスタート点と捉え直したからです。いわば、短期戦から長期戦へとアメリカの交渉戦略が変わったのですが、トランプ大統領の真意はどこにあるのでしょうか。

 実のところ、‘米朝首脳会談スタート論’は、既に北朝鮮側からの発言として報じられております。トランプ大統領の中止声明に対して逸早く反応した北朝鮮の金桂寛外務次官の談話の中にこの言葉を見出すことができます。同氏は“米朝首脳会談は‘良いスタート’として開催されるべき”と述べているのです。ここで意味する‘良いスタート’とは、「段階的な非核化」に向けた最初の一歩と解されるのですが、それでは、トランプ大統領も北朝鮮に歩み寄り、「完全な非核化」、即ち、‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’を諦めたのでしょうか。

 トランプ大統領周辺の様子からしますと、CVIDの放棄とは即断はできないようです。アメリカの交渉戦略の変更は、むしろ、必要に迫られた判断であった可能性の方が高いように思えます。その理由は、対中政策をも視野に入れたアメリカの世界戦略を考慮した場合、6月12日までの間に全ての問題において望ましい戦略を策定することは、時間的な制約から困難であるからです。おそらく、軍事的圧力の下で北朝鮮にCVIDを呑ませることは比較的容易なのでしょうが、同時に朝鮮戦争が終結されるとなりますと、それに先立って、その後の朝鮮半島におけるアメリカの関与や米韓同盟の行方をも予め決定しておく必要があります。また、当然に中国やロシアが、アメリカのプレゼンスの拡大を押さえるべく動き出すことが予測されますので、あらゆるシナリオに対応できるよう準備しておかなければなりません。特に、将来的には台頭著しい中国との衝突もあり得ますので、アメリカとしては、対中包囲網の一環として北朝鮮を手懐けるという選択肢もあるはずです(もっとも、北朝鮮には寝返りリスクがありますが…)。こうした米朝首脳会談に付随する問題は、短期間で解決することは難しく、アメリカは、十分な時間を必要としていると推測するのです。

 もっとも、長期戦の構えとなりますと、その間、北朝鮮が秘かに核・ミサイル開発を進展させかねず、過去の失敗を繰り返すリスクもあります。この懸念に対しては、突然の米朝首脳会談中止の知らせに北朝鮮人民軍は浮足立ったとされますが、最後の抑えとして米軍の圧倒的な軍事力を以って北朝鮮の開発再開を止めることでしょう。北朝鮮は、以前としてアメリカからCVIDの要求を受け続けると共に、米軍の爆撃を怖れる恐怖の日々が続くことになるのです。自らの望みどおりに米朝交渉の‘スタート’を切ったとしても、北朝鮮にとりましては、期待したような‘良いスタート’にはならないかもしれません。こうした米朝双方の手筋を見ましても、やはりアメリカの方が一枚上手ではなかったかと思うのです。

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コメント (2)
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