万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

対北非核化協議無期限の危うさ-アメリカには期限がある

2018年06月26日 15時31分22秒 | 国際政治
北朝鮮の非核化協議に期限設けず=ポンペオ米国務長官
米CNNの報道に拠りますと、同社との電話インタヴューにおいて、アメリカのポンペオ国務長官は、北朝鮮との非核化協議に期限を設定するつもりがない意向を示したそうです。北朝鮮の行動を逐次検証するとはしておりますが、この発言、事実上のアメリカによる北朝鮮の核保有の黙認となる可能性も否定はできません。

ポンペオ長官の発言は、アメリカと中国との間で金正恩委員長が揺れている状況にあって、強いてアメリカが2か月や半年といった短期的な期限を設定して北朝鮮に迫れば、北朝鮮は、中国を後ろ盾にして非核化に応じなくなるのではないか、とったニュアンスで語られています。つまり、米朝首脳会談で漸く金委員長から非核化の確約を引き出したのだから、その合意の土台を壊すような行動は控えたい、ということなのでしょう。いわば、アメリカによる対北懐柔策の一環と言えます。

しかしながら、対北非核化協議の無期限化は、北朝鮮の非核化の実現を遠のかせるリスクがあることも確かです。何故ならば、独裁国家である北朝鮮には期限はなくとも、民主主義国家であるアメリカには、大統領の任期という期限があるからです。両国の国家体制の非対称性は、期限が政治的な焦点となる場合、政権交代があり得る後者を不利な状況にする場合があります。

因みに、トランプ大統領の任期は、2021年1月までです。米朝首脳会談に先立って指摘されていたのは、同会談において両国が曖昧な内容で合意した場合、北朝鮮側がトランプ大統領の任期切れを待つ作戦に出るのではないか、とする懸念です。この予測が的中すれば、金委員長の口約束を信じたばかりに、アメリカは、三度も同じ手で騙されるという信じがたい結末を迎えます。もっとも、トランプ大統領が二選を果たせば、期限はさらに4年延長されますので、北朝鮮の非核化は二期目において実現するかもしれません。あるいは、アメリカは、国際社会に対しては北朝鮮に非核化を迫ったという‘アリバイ’を残しつつ、その裏では対中戦略を優先し、北朝鮮の核保有を認める代わりに、同国がアメリカ陣営に与することを確約させた可能性もあります。このシナリオではNPT体制が崩壊しますので、日本国を含む他の諸国の核武装が現実味を帯びますが、少なくとも、米陣営の一員となった北朝鮮と国境を接する中国は、軍事的に不利な状況に追い込まれます(この構図の変化は、純粋に対中防衛政策としては、日本国にとっても必ずしも不利というわけではない…)。

しかしながら、もう一つ、より危険に満ちたシナリオがあるとすれば、それは、トランプ大統領の退陣後に、北朝鮮が早々にアメリカを裏切り、中国陣営に加わるというものです。その徴候は、既に金委員長の三度目の訪中と習近平国家主席との会談でも現れております。しかも、トランプ政権下において在韓米軍も縮小、あるいは、撤退が実現されていれば、近い将来、朝鮮半島全域は、中国の軍事的コントロールの下に置かれることでしょう(このシナリオこそ、米中朝のトップ、あるいは、その背後に潜む国際組織による“茶番説”に一定の信憑性を与えている…)。あるいは、アメリカは、朝鮮半島の両国に信頼を置いておらず、日本国まで防衛ラインを下げる決断を下しているのかもしれません。

ポンペオ国務長官は、対北強硬派として知られておりましたが、最近の言動を見ておりますと、対北宥和的な姿勢が目立っております。トランプ大統領の見解とどこまで一致しているのかは分かりませんが、同長官の発言の真意を掴むには、今後の北朝鮮側の具体的な行動、並びに、中国の反応を注意深く見てゆく必要があるように思えます。

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