万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

韓国最高裁による‘植民地支配の慰謝料’請求は無理筋

2019年01月19日 15時48分31秒 | 国際政治
賠償の議論「できない」 徴用工問題で新日鉄住金社長
 韓国最高裁判所が下した‘徴用工判決’は、新日鉄住金に対して原告一人当たり凡そ1000万円の賠償を命じたことで、日本国内では落胆と怒りの感情が拡がっています。1965年に難航を極めた交渉の末に日本側の大幅譲歩によって決着を見た日韓請求権協定が、事実上、一方的に反故にされたのですから。

 同判決において、原告一人あたりの賠償額が実際の給与未払い分を越えて凡そ1000万円と算出された理由は、‘違法な植民地支配の慰謝料’が含まれているからなそうです。たとえ戦争末期に日本企業で働いていた朝鮮半島出身者に対する賃金の未払いが発生していたとしても、それは、命じられた賠償額に比べれば微々たるものであったことでしょう。しかしながら、韓国の最高裁判所は、本来の債権債務関係を越えた‘慰謝料’という概念を持ち込み、日韓請求権協定の枠外に‘慰謝料’という別枠の個人請求権を創設したいようです。果たして、この主張に正当性は認められるのでしょうか。

 第一に問題とすべきは、日韓請求権協定の本来の目的が、韓国独立に際しての相互清算である点です。日韓交渉を義務付けたサンフランシスコ講和条約の第4条は、両国における国、並びに、国民間の財産及び請求権の相互清算を定めています。相互清算は、第一次世界大戦後のオーストリア・ハンガリー二重帝国からの東欧諸国の独立に際しての規定を踏襲しており、戦勝国による敗戦国に対する賠償請求を意味していません。あくまでも、独立に際して発生する両国間の財産や請求権に関する問題を解決するための一作業であって、そこには‘慰謝料’という意味合いは含まれていないのです。また、サンフランシスコ講和条約において日本国が残した残置財産の処分権を認めたのは連合国の一員とされた中国のみですので、韓国には、在韓日本財産に対する処分権もありませんでした(もっとも、合衆国軍政府による処分権は認めている…)。なお、韓国の慰謝料要求が通用すれば、アジア・アフリカ諸国を植民地化した西欧諸国は、様々な名目で永遠に旧植民地から‘逆搾取’を受け続けることになるかもしれません。

 第二に指摘すべき点は、財産及び請求権を越えた‘慰謝料’要求は、既に、実質的に日韓請求権協定の経済支援に含まれている点です。日韓請求権協定という簡略化した名称からは、契約等の法的な根拠を有する権利(実体的権利)に関する合意のようなイメージを受けますが、同協定の正式名称は「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」です。同協定は、経済協力を定める第1条と財産・請求権に関する第2条とによる二本立ての構成なのです。その理由は、同協定をめぐる交渉において、李相伴政権時に韓国側が‘植民地支配’を根拠として日本国政府に対して莫大な額の支払いを要求したことによります。この時、日本国政府は韓国側の要求を拒絶したものの、その後、朝鮮戦争をバックとしたアメリカの仲介もあり、結局、多額の経済協力を供与することで妥結します。つまり、この時、既に日本国政府は、‘植民地支配’は認めないものの、アメリカの後押しの下で韓国側に譲歩し、実体的権利を遥かに越えた額を支払っているのです(法的根拠に基づく韓国側の請求額は最大限に見積もっても7000万ドルであったが、経済協力の名目で5億ドルが供与された…)。こうした経緯を踏まえますと、今般の韓国最高裁判所の判決は日本国側に二重払いを要求しているに等しく、今後、この問題が国際司法の法廷で争われることとなれば、両国間の交渉過程や合意事項は議事録等にも記録されていますので、韓国側の主張は否定されることになりましょう。

 第3に、韓国最高裁判所は、2012年5月の判決以来、「違法な植民地支配に基づく強制動員については、日韓請求権協定によっても徴用工個人の請求権は消滅しておらず、大韓民国の外交的保護権も放棄されていない」とする立場を示しています。この問題は日本国の朝鮮半島統治の実態に関わりますが、韓国併合は条約に基づくものであって、同君連合の形態に近い合法的な合邦でした。企業合併にも、経営難に陥った企業を救う形での吸収合併の形態が存在し、また、しばしば国家レベルでも、政府が、財政基盤が盤石な自治体による脆弱な自治体の合併を奨励することがあります。当時の韓国の財政状況を考えますと、日本国による韓国併合は搾取型の植民地支配ではなく、財政移転や投資の方向性や収支を基準として判断すれば、救済型の合併として理解され得ます。

 第3点に関連して第4に指摘すべきは、日韓請求権協定の議事録では、‘全ての’請求権が対象となる点において両国間で合意が成立していることです(議事録2(a))。2018年の判決における原告は、国家総動員法に基づく徴用工でもないそうですが、徴用の事実の有無にかかわらず、同合意に基づけば、その請求権は解決済みとなるはずです(植民地支配が根拠であるならば、日本国の民間企業に‘慰謝料’を求めるのも筋違い…)。また、韓国の外交的保護権も放棄されていないのであれば、韓国政府こそ、この問題の矢面に立つべきです。言い換えますと、韓国最高裁判所の立場に従えば、韓国政府は、日本国政府に対して植民地支配の慰謝料を求めて日韓請求権協定の破棄と再交渉を申し出るのが筋と言うことになりましょう。その際には、日本国に対し、過去に受け取った経済協力の供与金を全額返済する必要があります。

 そして、第5点として挙げられるのは、韓国側は、日本国側にも財産及び請求権が存在している事実を無視している点です。日韓請求権協定の付属する第二議定書では、ひと先ずは、1961年4月22日の交換文書で合意された日本国側の債権について、韓国側の日本国への支払いが定められていますが(債権の総額は凡そ4600万ドルですが、インフラ等の投資残高が含まれるのか、そして、実際に返済、あるいは、経済協力費から差し引かれたのかは不明…)、仮に韓国最高裁判所の論理が通用するのであれば、日本国側も、協定外の個人請求として莫大な対韓請求が可能となります。何故ならば、韓国国民の違法行為から生じた日本国民の損害が甚大であるからです。特に朝鮮半島からの引き上げ時にあって、日本国民の多くが犯罪被害者となる一方で、日本国内でも、朝鮮半島出身者による駅前一等地の不法占拠や日本人虐殺などの事件が頻発しました。人道問題や違法性を以って協定枠外の請求権を正当化できるならば、日本国側もまた、同様の論理を以って韓国に対抗することができます。

 細かな点を含めればこれらの他にも問題点はあるのですが、韓国側の対日姿勢は、もはや協定どころか理性の枠までをも超えているかのようです。韓国政府並びに最高裁判所の支離滅裂な論理が韓国固有の自己中心性に基づくとしますと、日本国政府は、公平・中立な第三者(国際司法機関等…)による判断に委ねる方法での解決に努めるべきではないかと思うのです。

 よろしければ、クリックをお願い申し上げます。

にほんブログ村 政治ブログへにほんブログ村

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする