万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

新年早々国連憲章違反を宣言する習近平主席

2019年01月07日 13時35分22秒 | 国際政治
 年が明けて間もない1月2日、中国の習近平国家主席は、首都北京で開催された「台湾同胞に告げる書」の40周年を祝う記念式典において、物騒な発言で穏やかな新春の気分を吹き飛ばしております。‘武器の使用は放棄せず、あらゆる必要な措置をとる選択肢を残す’と凄んだのですから(‘武力行使’については2008年に消えて今般復活…)。

 平和的統一や「一国二制度」を目指すとする従来の原則を維持しつつも、武力使用を示唆する上記の発言に続いて、特に“外部勢力の干渉”や“台独分子”に言及しています。“外部勢力”とは、主として台湾の準同盟国であるアメリカを、そして“台湾分子”は、民進党を中心とした独立を支持する人々を意味しているのでしょう。この発言から予測される事態は深刻です。仮に習主席が、国内の不満を逸らし、共産党一党独裁体制を維持することを目的に台湾進攻の挙に出た場合、‘新冷戦’は即座に‘熱戦’へと転じると共に、台湾国内では、独立支持者、即ち、台湾の一般国民多数に対する凄惨な弾圧や虐殺が発生するのです。戦争とジェノサイドの同時発生は全世界を恐怖に陥れると共に、台湾海峡が発火点となって第三次世界大戦を誘発しないとも限らないのです。

 想像しただけでも慄然とさせられるのですが、習主席が台湾攻略に向けて着々と手を打っている様子は、昨年の台湾におけるどこか腑に落ちない統一地方選挙の民進党敗北の結果からも窺えます。外国や国際勢力からの選挙干渉のリスクは各国の選挙において既に指摘されておりますが、実際に、同選挙に際しても中国からの嫌がらせや世論誘導などが報告されています。中国は、背後から親中政党を支援して政権を取らせ、「一国二制度」へと持ち込む“平和的統一”を第1シナリオとして描いており、このシナリオが失敗した場合には、軍事侵攻という第2シナリオを発動させるつもりなのでしょう。

 第1シナリオのケースでは、民主的選挙制度を踏み台にして全体主義体制が誕生する点において戦前のナチス・ドイツの事例に近いのですが、台湾の場合には、(1)一般の台湾国民には熱狂的な習支持者が殆どいない(習主席にカリスマ性を感じていない…)、(2)国民党への支持誘導の背後には軍事力の脅しがある、(3)侵略側にある習主席は台湾の‘救国の英雄’には絶対になり得ない…といった違いがあります。今日の国際社会では、領土の帰属を変更する場合には、通常、国民投票や住民投票が実施されるにも拘わらず、今般の演説において習主席、「一国二制度」への具体的な移行プロセスとして「台湾の各党派や団体」を挙げているのも、レファレンダムを実施すれば、台湾国民の拒絶に遭うことを十分に承知しているからでしょう。 ‘傀儡政党に政権を取らせる’、あるいは、‘政党を乗っ取る’手法こそ、中国流の‘民主主義の壊し方’なのかもしれません。何れにしましても、民主主義が悪用された事例として歴史に汚点を残すこととなりましょう。

 一方、上述したように、第2のシナリオが選択された場合における悲劇は言うまでもありません。そして、この武力行使も辞さずの発言こそ、国連憲章違反である点に思い至りますと、中国は、国連安保理の常任理事国でありながら、公然とそれが定める基本原則を踏み躙っていると言わざるを得ないのです。国連憲章第2条3は、「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によって国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決しなければならない」と定めています(第2条4でも、領土保全や政治的独立に対する武力による威嚇又や武力の行使を慎むべきとしている)。同憲章第6条に照らせば、除名処分となり得る発言なのですが、おそらく、国連憲章が定める原則は、習主席の思考の枠からすっぽりと抜け落ちているのでしょう。

 第1シナリオであれ、第2シナリオであれ、中国の狡猾、かつ、暴力主義的な行動により、国際社会が重大なチャイナ・リスクに直面することは疑い得ません。習主席の覇権主義的野心表明と共にスタートした2019年は、日本国を含め、全世界の諸国が中国に対する警戒を強め、心して接せざるを得なくなる時代の本格的な幕開けとなるかもしれないと思うのです。

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