万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日産の‘植民地化’を公然と要求するマクロン仏大統領

2019年01月29日 13時45分23秒 | 国際政治
 新党‘前進’を結成して颯爽と登場したエマニュエル・マクロン氏は、混迷を極めたフランス政治を救う時代の寵児として持て囃され、大統領選挙を制した際には、マスメディアから‘ナポレオンの再来’として礼賛されていました(‘ナポレオンの再来’がほめ言葉であるのかは今となっては疑問…)。しかしながら、‘マクロン・フィーバー’も今や見る影もなく、反マクロンを訴える‘黄色いベスト運動’が全国的な広がりを見せています。

 ‘黄色いベスト運動’も特定のカラーを象徴とする反政府運動の影にはそれを背後から支援する国際組織が潜んでいるのが常ですので、マクロン政権をよしとしないまでも同運動に対しても懐疑的フランス国民も多いのでしょう。しかしながら、少なくとも、マクロン大統領が一般国民からも支持を失っていることだけは確かなようです。そして、国民がマクロン大統領に対して反感を覚える気持ちも、ここ日本国に居ても分からないではないのです。何故ならば、日本国の日産に対する同大統領の要求こそ、マクロン政治の本質を現しているように思えるからです。

 マクロン大統領の対日要求とは、カルロス・ゴーン容疑者の保釈に加え(日本国の司法の独立を脅かす政治介入では?)、仏ルノーと日産を共同持ち株会社方式により完全に経営統合してほしい、というものです。両社の統合案はゴーン容疑者逮捕以前から燻っており、同氏が自らの地位保障と引き換えにフランス政府の要請を呑んだことが、独立性を強めたい日産側が告訴を急いだ背景としても指摘されています。つまり、一旦、ゴーン容疑者逮捕で暗礁に乗り上げた統合案を、今度は、日本国政府に圧力をかけることで実現しようとしているのです。

 統合案に対する日産側の強い反発は、同案が日産側にとりまして著しく不利であった証でもあります。株式の持ち合い関係にある現状でさえ、仏ルノー側が議決権付きの日産株の43%余を保有しているため、正当なる株式配当であれ、前者による後者の搾取と評されるほどに後者の利益が前者に移転されています。ルノー株の凡そ20%を保有する筆頭株主はフランス政府ですので、間接的には、日産がフランスの財政にも貢献している構図ともなります。

提案通りにルノーの共同持ち株会社を設立したとしても、フランス側の政府・ルノー連合は、ルノー主導の現状の変更には消極的なそうです。このため、共同持ち株会社の株保有率が双方フィフティ・フィフティになるとも限らず、本社所在地がフランス国内、あるいは、オランダのアムステルダムともなれば、日本国の税収も減少するそうです。同案が実現すれば、日仏間の不平等関係の下で日本国側が著しい不利益を被るものと予測せざるを得ないのです。

 日本側からしますと、公然とマクロン大統領から日産の‘植民地化’を要請されていることとなるのですが、同大統領が、日本国側がこの案を受託するは当然と考えているとしますと、その発想は、戦前の植民地主義と何らの変わりもないこととなります。マクロン大統領の基本的なスタンスはリベラルであり、言葉では、フラン革命由来の‘自由、平等、博愛’を謳っておりますが、その真の姿は、自らが強者の立場であれば搾取や不平等を容認する‘帝国主義者’なのかもしれません。そして、日本国政府に対して日産に圧力をかける役割を期待しているとしますと、同大統領から見れば、日本国政府は植民地において育成した‘代官’なのでしょう(日本国民からすれば‘悪代官’?)。

今般のフランス政府の動きに対して同問題が政治レベルに移行したとする評もあるのですが、マクロン大統領の手法とは、政治権力を経済目的に利用するところにあるように思えます(同大統領は、ロスチャイルド銀行出身…)。先日、韓国公正取引委員会が日産に対して競争法違反で検察に告発すると共に課徴金を課しましたが、時期が時期だけに、その背景にもフランス政府、あるいは、ルノーサムソン自動車を介した政治的な司法介入も疑われます(もっとも、前日には韓国公取委はトヨタ自動車に対しても課徴金を課している…)。

このように考えますと、マクロン大統領と同氏の推進する新自由主義的政策の犠牲者となった一般フランス国民との関係は、同大統領と日産との関係に極めて類似しているように思えます。それ故に、一般のフランス国民の同大統領に対する反発に、日本国民の多くも共感を覚えると共に、その強引な‘革命志向’の政策手法が日本国でも発揮されることには十分な警戒が必要なのではないでしょうか。そして、日本国政府が、マクロン大統領の‘悪代官’となるのか、それとも、国益と日本企業を守る盾となるのか、日本国民も固唾を呑んで今後の展開を見つめているのではないかと思うのです。

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コメント (4)
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