万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

韓国の政治文化は民主主義に馴染まない-前政権バッシング問題

2019年01月31日 13時29分13秒 | 国際政治
 先日、韓国では、所謂‘徴用工訴訟’をめぐり、二人の元最高裁判事が逮捕されました。前政権期にあって、対日配慮から同訴訟の判決を故意に遅らせたとして。この逮捕劇の裏側には、対日強硬姿勢を貫いている文政権の意向が働いているともされ、三権分立の原則を以って最高裁判所の反日判決を擁護したにも拘わらず、政治による司法介入が疑われることとなったのです。

 現政権による前政権バッシングは、文政権に限ったことではなく、韓国においては、幾度となく繰り返されてきました。韓国では、安楽な余生を送ることができた大統領は殆どおらず、たとえ権力の頂点を極めたとしても、その退任後には人生の転落が待っています。朴槿恵第18代大統領は実刑判決を受けて刑務所に収監され、第17代大統領の李明博大統領も横領・収賄の罪で起訴されています。第16代大統領に至っては、‘政治はするな。得られることに比べて失うことの方が遥かに大きいから’という後悔の言葉を残し、検察による事情聴取を受けてから一か月後に飛び降り自殺を図ったのです。

本日も、文在寅大統領の長女の家族が東南アジアに移住していたとのニュースが報じられています。移住の理由は不明なのですが、あるいは、何れは大統領の座を離れる時が来ることを見越して、次期政権によるバッシングを逃れる準備を進めていたのかもしれません。もっとも、こうした未来予測に基づく行動が、文政権に対する国民の不信感を招くと共に野党に攻撃材料を与え、それが支持率の一層の低下をもたらしているとしますと、文一族の‘事前対策’には誤算があったとも言えましょう。

それでは、何故、韓国では、世界に類を見ない前政権バッシングが起きるのでしょうか。その理由としてしばしば指摘されているのが、韓国の伝統的な政治文化です。長らく中華文明の影響下にあった朝鮮半島では、王朝交替に際して新王朝が旧王朝を徹底的に叩くという中国風の流儀が根付いてきました。これらの諸国の歴史改竄問題の遠因もここにあり、権力を握った者は、自らの権力を正当化するためには、たとえ事実とは正反対であっても、旧権力者の悪行をこれでもかと並べ立てることが許されていたのです。否、如何に盛大にその悪逆無道ぶりを捏造し、筆を以って誇張できるかが、史書を綴る史家達の腕の見せ所であったのかもしれません。

韓国における激しい前政権バッシングが、伝統的な政治文化の現れであるとしますと、この慣習は、民主主義の時代には政治混乱の要因となります。何故ならば、民主体制にあっては大統領には任期が定められており、王朝のような長期に亘る権力の独占はあり得ないからです。韓国の憲法によれば、大統領の再選は許されませんので、一つの政権の期間は最長で5年です。つまり、民主化されている韓国では、5年に一度のターンで‘王朝交替’が頻発するわけですので、その度に、天地がひっくり返るほどの逆転と激烈なバッシングが発生するのです。北朝鮮の金一族があらゆる手段に訴えてでも体制維持に固執するのも、一旦、権力を失えば、ルーマニアのチャウチェスク夫妻を越える惨劇が自らの身に降りかかることを自覚しているからなのかもしれません。

そして、日本国にとりましても、こうした韓国の前近代的な政治文化は無視できません。何故ならば、戦前に朝鮮半島を統治した日本国とは、巨視的に見れば徹底的に叩かれるべき‘前王朝’に他ならないからです。権力を握った‘現王朝’には、‘前王朝’を悪の権化に仕立て上げる動機が強く働くのであり、それ故に、史実の歪曲や捏造に対しても何らの罪の意識も感じていないのでしょう。一般の日本国民、並びに、非中華圏諸国の大半では到底受け入れられない文化なのですが、朝鮮半島ではこれこそが‘常識’なのであり、それが、近代的な個人的な権利尊重や人道主義の衣を纏うことで、過激な反日プロパガンダを伴う賠償や補償請求として現れていると考えられるのです。

韓国は、国家体制としては民主化を果たしましたが、伝統的な政治文化との間に生じた時代的なギャップが、今日の同国の混乱を特徴づけているように思えます。しかも、この伝統に由来する韓国や北朝鮮の独特の政治感覚は、朝鮮半島に留まらずに国際社会の舞台においても発揮されており、とりわけ隣国である日本国や同盟国であるアメリカに困惑と反感をもたらしているのではないでしょうか。文化の相互理解とは必ずしも文化の相互寛容を意味するものではなく、伝統とはその良し悪しを賢く峻別すべきものであり、韓国こそ、民主主義の時代に適応すべく、前近代から引き継いだ悪しき政治文化を改めるための努力を払うべきではないかと思うのです。

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コメント (4)
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