万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

民主主義と自民党は両立しない?-二階元幹事長の国民軽視発言

2022年08月25日 14時31分11秒 | 日本政治
 昨日8月24日、自民党の二階俊博元幹事長の講演会での発言が、多くの国民から猛反発を受けることとなりました。特に批判が集中したのは、世界平和統一家庭連合と自民党との関係に関連して述べた「自民党はびくともしないから」というくだりです。この発言、国民にけんかを売っているようにしか聞こえません。国民からの批判など、自民党には関係ないと・・・。同発言が自民党の国民軽視の本音であるならば、‘自民党と民主主義は両立しない’という結論に至ることとなりましょう。

 もっとも、同発言に先立って二階元幹事長は「問題があればどんどん出して、修正をしていくべきだ。」と前置きしており、‘びくともしない’という表現は、条件付きであるのかもしれません。元幹事長は、曖昧な表現に留まっていますが、同条件をより詳細かつ具体的に記述しますと以下のようになりましょう。

  1. 政党並びに政治家と宗教団体との関係について徹底的な調査を実施する。
  2. 調査結果を報告書(「政党と宗教団体との関係に関する調査報告書(仮題)」)として纏める。
  3. 同報告書を国民に公表し、詳細の説明並びに質疑応答を行う。
  4. 報告書において指摘された諸点について、立法措置を含む有効かつ具体的な対策を講じる。

 調査の対象を自民党と世界平和統一家庭連合との関係に限定しなかったのは、同教団との関係が指摘されている政党は、自民党のみではないからです。一方、宗教団体による政治介入は、世界平和統一家庭連合のみではなく、創価学会と言った他の宗教団体にも同様の問題があります。国民からしますと、政治と宗教との問題は、政界全体を蝕む民主主義の危機なのです。

そして、調査の中立・公平性を確保するためには、問題が政治案件であるだけに、工夫を要することとなりましょう。同調査委員会の委員には、現職、あるいは、同職の経歴を有する検察官や裁判官を委員に任命し、高い独立性を付与するといった方法が考えられます(捜査のノウハウを有する専門家である必要性からすれば、警察官も適任かもしれないし、公安事案であれば、実際に警察が捜査を行なうかもしれない・・・)。もっとも、同調査委員会の設置については、政党並びに政治家が調査の対象になりますので、国会での委員会設置決議が成立しない可能性があります。そこで、政府が同委員会を設ける道もないわけではないのですが、岸田改造内閣の顔ぶれを見ますとその大半が世界平和統一家庭連合との関係が指摘されていますので、同方法も期待薄です。

加えて、国会並びに政府の両者によってブロックされてしまうリスクは、対策の段階にも認められます。たとえ中立・公平な調査委員会によって事実を洗いざらいにした報告書が作成され、それが包み隠さずに公表されたとしても、反カルト法の制定や個別の議員に対する処分については、政府提出法案であれ、議員提出法案であれ、身を切る改革に恐れをなした政党や政治家によって見送られてしまうかもしれません。また、政党レベルでの自浄作用や内部改革についても、与党のみならず、野党にあっても自己改革に挑むほどの熱意は感じられません。立憲民主党を始め、野党側にもカルト教団との関係を指摘されている議員も少なくないからです。

国民の多数が反対している安部元首相の国葬についても、同幹事長は、「当たり前のことで、やらなかったら馬鹿だ」と啖呵を切っています。国民世論を頭から無視する発言からしますと(元幹事長の‘常識’は国民の非常識・・・)、‘びくともしない’発言も、本心にあっては国民の批判は無駄であると述べていると推測されます。その一方で、上述してきたように‘びくともしない’発言が条件付きであるとしましても、二階幹事長の発言は自民党にとりまして致命的な意味を持ちましょう。条件を満たせない場合、自民党は、もはや安泰ではないことを、暗に認めたことになるのですから。今後、自民党は、そして、日本国の政界がどの方向に動くのか、国民の多くは、固唾をのんで見つめているのではないかと思うのです。

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