万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自らの足元を見ていない公明党-「反カルト法」の対象に

2022年08月24日 12時39分31秒 | 日本政治
 自民党と平和統一家庭連合(元統一教会)との関係について、国民の多くが絶縁を強く求める中、連立政権の一角を占める公明党の山口代表は、「岸田政権として国民の不信や疑念を招かないよう、しっかりと今後の対応を明確にしていく必要がある」と述べたと報じられています。同発言を聞いて、あまりにもとぼけた反応に唖然とさせられた国民も少なくなかったのではないでしょうか。全くもって自分自身のことは棚に上げているのですから。

 自民党と平和統一家庭連合との癒着がかくも大問題に発展したのは、現行の日本国憲法が定める政教分離の原則に反するからに他なりません。政教分離の原則は、外部的存在である特定の教団によって政治が動かされてしまうリスクを排除する、即ち、民主主義を損ねる迂回ルートとなる道を遮断する役割を果たしています。宗教団体とは、国民の一部に過ぎない信者のための組織ですので、国益=教団益ではありませんし、信者=国民でもありません。信者が忠誠を誓う対象も教祖個人(文鮮明氏や池田大作氏・・・)ですので、政治と宗教を分離させませんと、政治権力が、特定の教団によって私物化されてしまう恐れがあるのです。

 政教分離の原則が、国民主権並びに民主的国家体制を支える重要な基盤となっている点を考慮しますと、特定の教団を母体とする宗教政党は否定されるべき存在となります。憲法第20条において「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と明記するのも、民主主義体制を擁護する目的があってのことなのです。

 ところが、公明党の山口代表は、上記の発言において「宗教団体が政治活動をすることなどは、憲法上、完全に保障されていることであり、こうしたことと明確に区別をしながら、議論を進めていくことが大切だと思う」とも述べています。おそらく、憲法第20条の冒頭に記されている「信教の自由は、何人に対しても保障する」の部分を恣意的に拡大解釈したのでしょうが、憲法の条文には宗教団体に対する政治活動の自由の保障という表現は見えません。否、政治活動の自由が保障されているのであれば、そもそも、憲法が政教分離を定める理由がなくなってしまいましょう。

たとえ戦前の国家神道を強く意識して設けられた条文であったとしても、第20条の条文は、同原則の本質的な意義に鑑みて「いかなる宗教団体も」と念を押しています。むしろ、仮に特定の宗教、例えば国家神道を否定するのであれば、「国は神道には特権を与えない」、あるいは、「国教制度はこれを設けない」と記載したことでしょう。全ての宗教団体に適用される条文なのですから、当然に、創価学会にも、それを母体とする公明党にも適用されます。

また、百歩譲って川口代表の悪しき拡大解釈を認めるとしても、今度は、第20条が支離滅裂な条文となってしまいます。同解釈に従えば、憲法第20条は、「宗教団体は政治活動を行う自由が保障されているけれども、政治権力を行使することはできない」と述べていることになるからです。それでは、創価学会は、政治活動を‘行う’のみの宗教団体なのでしょうか。仮に、創価学会が同解釈をとるならば、公明党は解散すべきです。しかしなら、現実には、政党として公明党を設立し、公明党議員を国会に送り出すのみならず、連立政権の与党として政治権力を行使しています。しばしば、議会と政府は異なるので、前者の議員であれは政治権力の行使には当たらない、とするアクロバティックな擁護論も聞かれますが、公明党は、国土交通大臣のポストの長期独占が問題視される与党ですので、この弁明も通用しません(自民党憲法改正案において政治権力の行使の禁止を削除したのは、創価学会や世界平和統一家庭連合への配慮では・・・)。

1980年代頃からカルト教団の問題が深刻化したために、フランスの国民議会は調査委員会を設け、1995年12月に『フランスにおけるセクト』という同委員会が作成した報告書を採択しています。同報告書は、カルト(セクト)と判断する10の基準を示したことでも知られており、その第10番目の基準には、「公権力への浸透の企て」とあります。同報告書、並びに、1999年の報告書において調査対象となったセクト教団のリストには、創価学会、並びに、統一教会の名称も見えます。その後、2000年2月に反セクト法が制定され、カルト教団は公的監視の下に置かれることとなるのです。ヨーロッパでは、フランスの他にもベルギーなどでも同様の対策が行われていると共に、EUレベルでの取り組みも見られます。

公明党の山口代表は、自民党に対して国民の不信感を払拭するように求めていますが、国民の大多数は、世界平和統一家庭連合のみならず、創価学会に対しても強い不信感を抱いています。否、同団体が日本国の公権力に浸透し、憲法に反して政治権力を半ば私物化していると見なしているのです。今般の問題の核心は、霊感商法と言った刑法上の問題ではなく、政治と宗教団体との関係、即ち、政教分離にあるのですから(宗教団体は世界支配ネットワークの一部である可能性も高い・・・)、公明党は、自民党への批判は自らにも向けられたものであることを自覚すべきなのではないでしょうか。そして、国会は、国民の要望に応え、カルト教団を政治から排除すべく、政教分離を徹底する対策と法整備を急ぐべきではないかと思うのです。

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