万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

中国巨大鉄鋼企業の誕生-‘恐竜’は絶滅するのか?

2019年06月03日 13時58分29秒 | 国際政治
鉄鋼世界2位の中国国有企業が統合 巨大会社の誕生へ
報道に拠りますと、中国の鉄鋼大手国有企業が合併し、巨大鉄鋼企業が誕生するそうです。合併するのは世界市場第2位、かつ、中国市場第1位の中国宝武鉄鋼集団と世界第9位の馬鋼集団の二社であり、前者が後者を子会社化する形で統合される予定です。国有企業同士の合併ですので、背後に習政権、あるいは、中国共産党の意向が働いていることは想像に難くありません。

 その一方で、近代鉄鋼業の発祥の地とも言えるイギリスでは、国内市場第2位ブリティッシュ・スチールが経営破綻しています。倒産の理由は、イギリスのEU離脱の不透明性による経営不振とされていますが、破綻に至る経緯を見ますと、投資ファンドの下で経営再建の途上にあった同社からの緊急融資の要請に対して、イギリス政府が二の足を踏んだことにあるようです。政府主導で合併を進めた中国とは反対に、イギリスでは、政府が自国企業を見放した格好となったのです。

 ブリティッシュ・スチールは、鉄道部材を主力商品としている企業ですので、産業革命の母国の凋落を象徴するような出来事なのですが、国内雇用への影響も2万人に上るとされます。ここで、何故、イギリス政府は、同社と他の自国鉄鋼事業者との合併を後押ししなかったのか、疑問も湧くのですが、中国の巨大企業の誕生とイギリスの同業企業の消滅とは、グローバル化に伴う連動した動きなのでしょうか。

 実のところ、グローバル企業の寡占化の動きは鉄鋼分野に限られてことではありません。最近では、FCAが仏ルノーに統合案を持ちかけ、日産、並びに、三菱自動車との統合にも影響を与えるとして関心を集めていますが、アグリ・ビジネスの分野でも、大手の統合による寡占化が急速に進んでいます。スイスのシンジェンダと中国のケム・チャイナとの合併案が注目を集めましたが、これと並行して、米モンサントと独バイエル、並びに、ダウとデュポンの合併も進んでいます。同分野におけるグローバル市場が三大巨大企業によって寡占される勢いであり、日本国の種子法の廃止もこの動きと連動しているようにも見えます。日本国政府もイギリス政府も、グローバル時代における自国企業のサバイバルに対しては極めて消極的であり、否、むしろ、積極的に自国企業の‘淘汰’を援けているかのようなのです。ブリティッシュ・スチールの供給先企業は、同社の倒産により、中国の巨大鉄鋼事業者に乗り換えるかもしれません。

 俄かには信じられない対応なのですが、グローバル市場とは‘規模の経済’が強力に働く場であり、かつ、日英のみならず、中国を含む各国政府に対しても影響力を及ぼし得る国際金融勢力が存在するとしますと、大国を背景とした巨大企業による寡占化と中小諸国の企業淘汰や独自性の消滅が同時進行する現状をいくらかは説明できるかもしれません。グローバル時代は大再編時代とも称されますが、その具体的な内容とは、アメリカ、EU、中国といった巨大市場を背景に大企業群が中小諸国の企業を呑み込む、あるいは、踏み潰しつつ、利益の最大化を可能とする世界大にサプライチェーンを構築することでグローバル市場を分け合う時代かもしれないのです。この結果、グローバル時代とは、多様性とは逆に単一性が強まる時代ともなりましょう。

 このように考えますと、少なくとも日本国としては、グローバル時代の到来を、その行く先を見定めることなく諸手を挙げて歓迎することには慎重であるべきであるように思えます。日本国政府がそうあるように、自ら亡びの道を歩むことになりかねないのですから。地球史を振り返りますと、隕石の衝突によって巨大恐竜の時代が終焉した後に(隕石説は証明されているわけではありませんが…)、爬虫類よりも高い知能を有する哺乳類たちが種を分化させながら活躍する時代が幕開けます(恐竜も鳥類として環境の変化に対応…)。巨大恐竜化した企業群によるグローバル市場の支配はやがて終わりを迎え、より多様性に富んだ豊かな時代が訪れるとすれば、日本国政府は、後者の道こそ選択すべきではないかと思うのです。

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