昨日、NHKのBSプレミアムで午後4時半から6時にかけて放送していた「刑事フォイル」が終了いたしました。イギリスの放送局が作成した作品ですが、最終回となった「エリーズのために(冒頭部分でベートーベンのピアノ曲が流されていましたので、‘エリーゼのために’が適切な邦訳では?)」には、製作者が同作品を通して視聴者に伝えたかったメッセージが凝縮されているように思えます。
NHKでは、「刑事フォイル」と番組名を邦訳していますが、原題はFoyle's Warであり、直訳しますと‘フォイルの戦争’となります。刑事ものなのにもかかわらず‘戦争’というタイトル名はどこかそぐわないように思えますが、全8シリーズのうち7シリーズまでは第二次世界大戦期を背景としておりますし、最後の第8シリーズでも、主人公のフォイルはイギリスの諜報機関であるMI5に職を移し、冷戦の裏側で’敵勢力‘と闘っております。このため、‘戦争’という表現もあながち外れてはいないものの、真の意味合いは、フォイルにとっての‘戦争’は、現実の戦争とは違うと言うことのように思えます。
イギリスにあって「刑事フォイル」が人気を博した理由は、しっかりとした時代考証がなされており、ストーリーに史実を織り込んでいるところにあります。最終回のお話とは、諜報部の上司であるピアス女史が何者かに狙撃される事件から始まります。犯人は、その際、‘エリーズのために’という言葉を残しており、この言葉を手掛かりとしてフォイル達の捜査が始まることとなります。長くなりますので手短に述べますと、その犯人は、戦時中に特殊工作員としてフランスに派遣されたエリーズという名の女性の兄であり、最愛の妹であるエリーズが、渡仏直後にゲシュタポに捕縛され、拷問を受けた後に処刑されたことを恨んだ上での復讐であったのですが、この作品の凄さは、表面的な犯人探しや動機の解明にあるのではありません。捜査を進めるにつれ、そのさらに奥に潜む、国家内部の犯罪が次々と明るみになって行くのです。
そして、最終回においてフォイルが気付いてしまった最大の‘国家機密’とは、ノルマンディー上陸作戦前夜におけるイギリスの軍情報機関の‘失態’です。英軍の特別情報機関の上層部は、フランス北部の英国情報網が壊滅し、ナチス側に英国側の情報が筒抜けになっていることを知りながら、その重大情報を末端には伝えなかったため、エリーズを含む9人の女性諜報部員の女性達は、無残にも命を落とすこととなったのです。つまり、フランスに潜入すればナチス側に処刑されることを知りながら、女性諜報員達が送り込み続けられたのです。
あくまでも刑事ドラマですので、D-デーを前にしてフランス北部の情報網が崩壊していたか否かは史実であるかどうかは不明です。しかしながら、実際に、連合国軍がノルマンディー海岸に上陸するに先立ってナチス側は既に防衛線を引いており、上陸してくる兵士達を機関銃を構えて待ち構えていたとされます。通信網の奪取であれ、スパイによる漏洩であれ、連合国側の情報がナチス側に漏れていた可能性は極めて高いのです。この結果、同作戦における双方の死傷者数は凡そ23万人を数え、激戦地となったオマハ・ビーチだけでも連合国側に2500から4000名が斃れたのです。
同番組は、当時のイギリスの状況について知識が乏しいと、複雑なストーリー展開についていけなくなるという問題もあります。この点、本稿の‘読み’にも誤りがあるかもしれないのですが、最終回のストーリーを深読みいたしますと、重大な暴露のようにも思えてきます。第二次世界大戦が連合国、並びに、枢軸国の双方に膨大な人的・物的犠牲を伴う凄惨な戦争と化したのは、国家内部で極秘の内に遂行されていた国家と国民を裏切る‘背信行為’に要因を求めることができるのではないか、という。‘フォイルの戦争’とは、いわば、自国の国家内部に巣食う背信者との‘戦争’であったと言っても過言ではないように思えます。
イギリスにあって、同番組に対する批判がそれ程聞かれないのは、国家内部の背信行為や陰謀は、同国国民には日常茶飯事の出来事であり、これらの存在を当然視しているからなのかもしれません。一方、国家に対する信頼が厚い日本国民にとりましては、「刑事フォイル」の内容はショッキングであったことでしょう。しかしながら、国際社会の現実が背信や陰謀に満ちているとしますと、素直な故に騙され易い日本国の国民性は、乱世にあってはマイナスに働くかもしれません。国を傾ける最大の要因が内部にあるとしますと、いずれの国の国民も、慎重に自らの国の政治家や行政組織等を再点検してみる必要があるように思えるのです。
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NHKでは、「刑事フォイル」と番組名を邦訳していますが、原題はFoyle's Warであり、直訳しますと‘フォイルの戦争’となります。刑事ものなのにもかかわらず‘戦争’というタイトル名はどこかそぐわないように思えますが、全8シリーズのうち7シリーズまでは第二次世界大戦期を背景としておりますし、最後の第8シリーズでも、主人公のフォイルはイギリスの諜報機関であるMI5に職を移し、冷戦の裏側で’敵勢力‘と闘っております。このため、‘戦争’という表現もあながち外れてはいないものの、真の意味合いは、フォイルにとっての‘戦争’は、現実の戦争とは違うと言うことのように思えます。
イギリスにあって「刑事フォイル」が人気を博した理由は、しっかりとした時代考証がなされており、ストーリーに史実を織り込んでいるところにあります。最終回のお話とは、諜報部の上司であるピアス女史が何者かに狙撃される事件から始まります。犯人は、その際、‘エリーズのために’という言葉を残しており、この言葉を手掛かりとしてフォイル達の捜査が始まることとなります。長くなりますので手短に述べますと、その犯人は、戦時中に特殊工作員としてフランスに派遣されたエリーズという名の女性の兄であり、最愛の妹であるエリーズが、渡仏直後にゲシュタポに捕縛され、拷問を受けた後に処刑されたことを恨んだ上での復讐であったのですが、この作品の凄さは、表面的な犯人探しや動機の解明にあるのではありません。捜査を進めるにつれ、そのさらに奥に潜む、国家内部の犯罪が次々と明るみになって行くのです。
そして、最終回においてフォイルが気付いてしまった最大の‘国家機密’とは、ノルマンディー上陸作戦前夜におけるイギリスの軍情報機関の‘失態’です。英軍の特別情報機関の上層部は、フランス北部の英国情報網が壊滅し、ナチス側に英国側の情報が筒抜けになっていることを知りながら、その重大情報を末端には伝えなかったため、エリーズを含む9人の女性諜報部員の女性達は、無残にも命を落とすこととなったのです。つまり、フランスに潜入すればナチス側に処刑されることを知りながら、女性諜報員達が送り込み続けられたのです。
あくまでも刑事ドラマですので、D-デーを前にしてフランス北部の情報網が崩壊していたか否かは史実であるかどうかは不明です。しかしながら、実際に、連合国軍がノルマンディー海岸に上陸するに先立ってナチス側は既に防衛線を引いており、上陸してくる兵士達を機関銃を構えて待ち構えていたとされます。通信網の奪取であれ、スパイによる漏洩であれ、連合国側の情報がナチス側に漏れていた可能性は極めて高いのです。この結果、同作戦における双方の死傷者数は凡そ23万人を数え、激戦地となったオマハ・ビーチだけでも連合国側に2500から4000名が斃れたのです。
同番組は、当時のイギリスの状況について知識が乏しいと、複雑なストーリー展開についていけなくなるという問題もあります。この点、本稿の‘読み’にも誤りがあるかもしれないのですが、最終回のストーリーを深読みいたしますと、重大な暴露のようにも思えてきます。第二次世界大戦が連合国、並びに、枢軸国の双方に膨大な人的・物的犠牲を伴う凄惨な戦争と化したのは、国家内部で極秘の内に遂行されていた国家と国民を裏切る‘背信行為’に要因を求めることができるのではないか、という。‘フォイルの戦争’とは、いわば、自国の国家内部に巣食う背信者との‘戦争’であったと言っても過言ではないように思えます。
イギリスにあって、同番組に対する批判がそれ程聞かれないのは、国家内部の背信行為や陰謀は、同国国民には日常茶飯事の出来事であり、これらの存在を当然視しているからなのかもしれません。一方、国家に対する信頼が厚い日本国民にとりましては、「刑事フォイル」の内容はショッキングであったことでしょう。しかしながら、国際社会の現実が背信や陰謀に満ちているとしますと、素直な故に騙され易い日本国の国民性は、乱世にあってはマイナスに働くかもしれません。国を傾ける最大の要因が内部にあるとしますと、いずれの国の国民も、慎重に自らの国の政治家や行政組織等を再点検してみる必要があるように思えるのです。
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実際の戦闘ばかりに目が行きがちですが、戦争の実態とはそれ(実際の戦闘)を含む物流と情報の戦いであったことがアリアリと分かります。
本来は国民の代表であるはずの首相や役人たちが機密と称して国民を裏切る、そのような行為が後を絶たないことを表わして秀逸だったと思います。
「刑事フォイル」の制作者は、アンソニー・ホロヴィッツというユダヤ系のイギリス人の方なそうです。ユダヤ系に、政治の裏舞台で繰り広げられた陰謀や謀略、そして、裏切りに関する様々な情報を入手し得る立場にあったのかもしれません。それ故に、ドラマでありながら、否、ドラマとして表現することで、人々に戦争の真実を伝えようとしたのかもしれないと思うのです。