万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

欺瞞に満ちた日中韓の対米自由貿易共同戦線

2017年05月05日 15時08分40秒 | 国際経済
日中韓の財務相「あらゆる保護主義に対抗」、共同声明に明記
 アジア開発銀行の年次総会の開催に合わせて、日中韓の三カ国は、毎年、財務相・中央銀行総裁会議を開催しているようです。今年の共同声明では、アメリカのトランプ政権に対する牽制を意図してか、”あらゆる保護主義に対抗”とする文言が明記されました。しかしながら、この宣言、欺瞞に満ちているとしか言いようがないのです。

 TPP交渉が難航したように、通商交渉には、常に国益と国益との鬩ぎあいがあります。ポジティヴ・サムの相互利益を主張したリカード流の自由貿易理論の成立条件は極めて狭く、実際には、劣位産業の淘汰というマイナス効果が伴います。しかも、今日の自由貿易、否、グローバル化政策には、賃金水準等の国家間の格差に伴う企業や勤労者の移動により、政治・社会分野にまで甚大な影響が及ぶという謂わば’副作用’があるのです。このため、無条件に自由貿易主義の原則を実行し、関税障壁、並びに、非完全障壁を完全撤廃する国は殆どなく、唯一これを実行したEUでも、ソブリン危機のみならず、移民問題なども発生し、政治問題とも化し、離脱問題が生じてきたのです。

 一方、今般の会議では、政治的には対立する日中韓の三カ国が経済分野では反保護主義で一致し、対米共同戦線で足並みを揃えた格好となりましたが、三カ国とも、その実、通商政策において保護主義を採用しているのが現実です。日本国は、WTOの交渉枠組みのみならず、あらゆる通商交渉の舞台でコメの高い関税率等を死守しており、農業分野においては最も高いレベルの保護主義を貫いてきた国です。中国は、資本や人民元の為替取引など、様々な分野で国境規制を残しており、他国には市場開放を求める一方で自国の市場は保護するダブル・スタンダードに批判が集まっています。また、保護主義を掲げて当選したトランプ政権発足直後には、”グローバリズムの旗手”を自認しながら、習主席は、トランプ大統領との米中首脳会談で「100日計画」を約し、あっさりと旗手の座から降りてしまいました。韓国はと言いますと、FTAをアメリカやEU等と締結したものの、次期大統領選挙では、革新系最大野党「共に民主党」の文在寅氏が独走状態とされており、自由貿易協定の締結は、一部の財閥系企業を潤すことはあっても、所得格差を広げ、雇用の不安定化をもたらしたため、一般の国民の経済的不満が高まっているようです。

 自由貿易主義か保護貿易主義かの二分法は既に意味を失っており、徒に反保護貿易主義を掲げることは、自らの首を自らの手で絞めるようなものです。それとも、国内においてマイナス影響を受ける産業や国民の懸念については無視を決め込んでいるとしますと、日中韓の三カ国の財務相・中央銀行総裁は、揃いも揃って”行き過ぎたグローバリズム”を良しとする国際的な新自由主義勢力の手駒であり、この勢力が書いた台本を読んでいるに過ぎないのでしょうか。

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