万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政策が’詐欺’となりかねない問題-政府によるリスク説明の欠如

2022年06月21日 14時48分40秒 | 国際政治
 先日、岸田内閣が発足に際して打ち出した’新しい資本主義’を実現する具体策として、’一億総株主’の方針が示されました。この方針、すこぶる国民には評判が悪く、岸田内閣の支持率が下落に転じた要因の一つもここにあるのかもしれません。政府の説明によれば、全国民が株主になれば、国民所得も増加し、経済も成長し、凡そ全ての経済問題が解決することになるのですが、何故、国民から支持を得ることができないのでしょうか。

 国民の政策、あるいは、政府説明に対する不信感の問題は、今般の’一億総株主’政策に限ったことではありません。また、国政レベルのみならず、地方自治体レベルでもしばしば見受けられます。考えてもみますと、あらゆる分野において以前から長期にわたって燻っていた政治問題の一つとも言えましょう。

 例えば、今般の’一億総株主’政策について、政府は、国民に対して’最も成功したケース’を描いて説明しています。それは、’国民が預金から投資へと金融行動を変えれば、企業は資金調達が容易となり(資本も増強…)、新たな成長分野(DX化や脱炭素?…)における事業展開が可能となる。その結果、株主である国民は配当所得を得ると共に、企業業績の回復により給与所得もアップする’というものです。まさに、このシナリオが実現すれば、「成長と分配の好循環」が生まれ、国も国民も喜ぶことでしょう。

 しかしながら、ここで一歩、立ち止まってみる必要があるかもしれません。何故ならば、投資詐欺事件にありましても、詐欺を試みようとする側が、同様の説明をするケースがしばしばあるからです。もちろん、全く架空の投資話を持ち掛ける悪質なタイプもありますが、そうではなく、’最も成功したケース’についてのみ紹介説明するタイプもあります。たとえ、現実にはその成功率が0.001%であったとしても、あたかも、100%の確率で期待どおりの収益を手にできるかのように話すのです。結局、失敗するリスクの方が遥かに高いのですがから、言葉巧みに誘導されてしまった顧客は、損失を被ってしまうのです。

 近年では、こうした民間における投資詐欺事件を防止するために、金融事業者には、勧誘時に際し、顧客に対してベネフィットのみならず、リスク面についても十分な説明を行うよう法律で義務付けられるようになりました。例えば、日本国では、消費者保護の観点から2001年に金融商品販売法が制定されています。現在では、投資は顧客がリスクを知った上で行うべきものとされているのですが(リスク説明なしは違法行為に…)、政府が提唱している今般の’一億総株主’政策には、リスク説明が全く欠けているのです。

同政策によって、「成長と分配の好循環」が生まれる可能性は100%のはずもなく、投資である以上、国民が損失を被ったり、金融バブル等が発生するリスクは当然あるはずです。’笛吹けど踊らず’の状態になったのも、国民の多くが、リスクに対しては何らの説明もしようとしない政府に対して不信感を抱くからなのでしょう。もしかしますと、’最も成功したケース’となる確率は、1%以下かもしれないのですから。

政府が’、リスク説明をせずに最も成功したケース’のみを語って、利益誘導型の政策を実施する事例は、枚挙に遑がありません。かつて、公共事業における’箱もの’が問題となったのも、政府の計画段階では収益が見込める黒字事業として説明されていたものの、実際に運営を開始してみると大幅な赤字となり、国民の財政負担が増すケースが後を絶たなかったからです。今日にあっても、カジノを含むIR計画には同様の側面が見受けられますし、コロナワクチン接種促進政策も、リスク面の説明がほとんどありません(インフォームドコンセントの原則も無視…)。政策が事実上の’詐欺’とならないためには、金融販売商品法と同様の目的と趣旨において、政府に対し、全ての政策についてリスク面の説明を国民に行うよう、法律によって義務付けるべきではないかと思うのです。
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