万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

アメリカン・ドリームのパラドクスーグローバル・ドリームの問題

2023年12月01日 09時45分29秒 | アメリカ
 アメリカン・ドリームという言葉は、全世界の人々をアメリカという国に引きつけてきました。生まれた国にあって貧困や圧政などに苦しむ人々は、自由と民主主義を謳歌できる新天地で新たに事業や商売を始め、自らの才覚で億万長者になるという夢を抱いて、アメリカに渡ったのです。誰もが自由の国で大金持ちになるチャンスがあるのですから、アメリカは、まさに夢の国であったと言えましょう。かくして、アメリカの人口はヨーロッパ諸国をはじめ全世界からの移民で急速に増加し、開拓を伴う経済発展と相まって20世紀初頭には押しも押されぬ大国へと成長することとなりました。

 しかしながら、かつて輝いていたアメリカン・ドリームは、過去のものとなり、今や色褪せて見えます。アメリカの現状を見る限り、もはやアメリカン・ドリームは、‘誰もが実現できない夢’として消え入りそうなのです。人々がアメリカン・ドリームから覚めてしまった理由は、もちろん、現実が夢とは余りにもかけ離れていることに気がついたからに他なりません。それでは、何故、アメリカン・ドリームは、覚めれば消えてしまう夢になってしまったのでしょうか。

 第一は、自ら貧困から身を起こして大富豪となったとしても、その人物は、必ずしも、アメリカン・ドリームに対して好意的ではなくなるという、人間の利己心を挙げることができます。全員が同一のスタートラインにおり、凡そ等しい競争条件の下にある場合には、確かに誰にも平等に勝利者となるチャンスがあります。ところが、いざ競争が始まりますと、当然にゴールラインにあって勝利者が決まるのですが、この勝利者は、競争のやり直しを許そうとはしないことでしょう。ここに、勝者による独占願望の問題を見出すことができます。言い換えますと、富豪達は、自らの夢を実現した途端、自らはその恩恵を受けながらも、アメリカン・ドリームを壊す側に回ってしまうのです。

 第二に、競争のプロセスにあっては、ライバルとの熾烈な潰し合いが生じます。先頭を走る者は、後から追ってくる者を妨害しようとそうとしますし、後から追う者も、あらゆる手段を駆使して先頭を走る者を引きずり下ろそうとするかもしれません。‘自由な国’では、欲望のままに人々が無制限なままに自由に行動しがちであり、‘万人の万人に対する闘争’に近い状態になりかねないのです(自由の最大化はリスクの最大化・・・)。この場合、アメリカン・ドリームは、現実が地獄であることを隠すための、お飾りの言葉に過ぎなくなるのです。

 第三に、チャンスは全ての人に公平に開かれているとしても、勝者は一人、あるいは、少数に過ぎないという否定しがたい現実があります。全ての人々が億万長者になれるわけではありませんので、少数の勝者の陰には、その凡そ数万倍以上の敗者が存在しているのです。確率論からすれば、アメリカン・ドリームは、ロシアン・ルーレットとは言わないまでも、極めてリスクの高い‘賭け’と言えましょう。夢が叶うのは、全体からしますと圧倒的に少数であり、ほんの僅かな人たちなのですから。

 第4に指摘すべきアメリカン・ドリームの現実とは、そもそも全ての人々が同じスタートラインにあり、かつ、同一の競争条件の下にあるのではないのではないか、という疑いです。つまり、個人的な属性や血脈によって既に運命が半ば定まるようになっており、多くの人々にとって夢を追うことは、無駄な行為となりかねないのです。

 例えば、日露戦争において日本国債を引き受けたことで知られるジェイコブ・シフは、無一文でアメリカに渡りながら、一代で億万長者にのし上がります。まさしくアメリカン・ドリームの体現者であったのですが、本当のところは、シフ家は、ドイツのフランクフルトのゲットーにあって、ロスチャイルド家と緑の館で過ごしていたユダヤ系の一族です。このことは、ユダヤ人脈がアメリカでの成功の、必要不可欠とまで言わないまでも、重要な条件であったことを示唆しています。

 実際に、アメリカの富裕層あるいはセレブはユダヤ系で占められており、この結果、金融や産業界のみならず、マスメディアや様々な分野においてもユダヤ系の人々が地位を得ています。ユダヤ系のマネー・パワーは政界にまで及んでおり、アメリカの‘陰の支配者’とも称されるのは、その絶大なるマネー・パワーに求めることができましょう。

 以上に簡単に主たるアメリカン・ドリームの問題点を述べてきましたが、その理想と現実との違いは明白です。自由は勝者となった少数の大富豪のみが享受し、その大富豪も、血脈によって優位性を約束された特定のユダヤ人グループに凡そ限定され、そのマネー・パワーによってアメリカが牛耳られているのが現実なのです。そして、民主主義も、マネー・パワーによって歪められてしまうのです。おそらく、このパラドクスの根本的な原因は、アメリカン・ドリームの基本的なメカニズムの発動が、個々の心に潜む利己心や欲望の解放にあったからなのでしょう(自らが勝者になればそれでよく、他者の幸せを考えない・・・)。しかしながら、そろそろアメリカも、この利己的ドリームから目を覚ますべき時が訪れているように思えます。そして、グローバリズムがアメリカン・ドリームの拡大版であるとしますとーグローバル・ドリームー、目を覚ますべきは、アメリカ国民のみならず、日本国民を含めた全人類であるのではないかと思うのです。

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