2025年1月20日、アメリカではドナルド・トランプ氏が大統領に就任し、第二次トランプ政権が発足しました。その一方で、就任式に先立つ19日に、過去の三つの暗殺事件に関する機密文書を‘数日以内’に‘全て公開する’と同大統領が述べたことから、この日を待ち望んでいた人々には朗報ともなりました。三つの暗殺事件とは、1963年に発生し、全世界に衝撃が走ったジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件を含む、68年のロバート・ケネディ元司法長官並びにマーチン・ルーサー・キング牧師の暗殺事件の三件です。
ケネディ大統領暗殺事件については、当初からオズワルド単独犯説は疑われており、ウォーレン委員会が提出した最終報告書にも現場の状況や目撃証言との食い違いや矛盾点があったことから、アメリカ国民のみならず多くの人々が陰謀の存在を疑うこととなりました。誰もが、‘政府は嘘を吐いている’、あるいは、‘政府は何かを隠している’として、アメリカ政府に対して疑いの目を向けたのです。
仮に、事件の経緯が政府の説明通りに、‘一匹オオカミ’による個人的な犯行であれば、如何なる情報であれ、国民に隠しておく必要はないはずです。また、CIAや国防総省が機密としてきた理由は「情報提供者の保護」とされていますが、何らの組織的な背景がないならば、この説明も説得力を欠きます。何故ならば、この説が正しければ、一体、誰が‘情報的強者’を狙うのか、という疑問が生じるからです(オズワルドも既に暗殺されている・・・)。加えて、犯人のオズワルドが事件直後にジャック・ルビーなる人物に、これもまた‘個人的な理由’によって暗殺されてしまったことにも、事件の背景に巨大な組織が潜んでいる可能性を強く示唆しているのです。
真犯人、あるいは、黒幕については、オズワルドは過去にあってソ連邦に亡命した経歴があることから、先ずは、黒幕としてソ連邦やキューバの名が挙がることにもなりました。しかしながら、スパイや工作員が蠢く国際社会の裏側では、偽旗作戦や偽装作戦は日常茶飯事ですので、‘容疑者’は冷戦時代の共産主義国のみではありません。CIAや当時副大統領であったジョンソン大統領の名も挙がると共に、オズワルドやルビーには反社会組織との繋がりもあることから、マフィア犯行説も唱えられたのです。
かくして、ケネディ大統領暗殺は、何らかの背景を持つ陰謀であった可能性が極めて高いのですが、CIAや国防総省が機密解除を阻止してきた様子からしますと、これらの組織が関与していた可能性も否定はできなくなります。隠蔽する強い動機を持つからです。あるいは、真犯人を知るが故に、情報公開により、それが鋭い国家間対立や戦争へと向かうことを恐れたとも考えられます。超大国間で一触即発の状態が続いた米ソ冷戦時代の暗殺事件であればこそ、戦争回避のための隠蔽説もあり得るのですが、既にソ連邦が消滅し、キューバにあってフィデル・カストロ議長が鬼籍に入った今日、仮に両国、あるいは、いずれかの国が暗殺に関与していたとしても、機密解除をもって米ロや米・キューバ間の対立が激化するとも思えません。
アメリカでは、一定の期間が経過すると機密文書が解除される仕組みが設けられていますので、国民は、何れであれ、陰謀が囁かれる事件であっても真相を知ることができるとされます。しかしながら、歴代大統領が情報の開示を要求しても、CIA並びに国防総省が拒絶してきたとされますので、両機関には、大統領の要請をも拒否できる情報に関する絶大な権限があることになります。第一次トランプ政権での同事件の情報公開は、両機関に阻止されて一部に留まりました。
‘陰謀論作戦’、すなわち、政府が発信する情報や説明に対して異議を唱え、これとは違う真相を追求しようとする人々を‘陰謀論者’として揶揄する作戦は、CIAが、ケネディ大統領暗殺事件に対する国民の詮索を阻止するために考案されたとする説がありますが、今日の状況を見ますと、この説も、俄然、信憑性を帯びてきます(CIAが‘アメリカの機関’であるかどうかも疑わしい・・・)。そして、日本国において2023年に発生した安部元首相暗殺事件に際しても、疑いを提起しようものなら陰謀論者のレッテルが貼られるという、同様の現象が見られるのです(トランプ大統領の就任式に安部元首相の昭恵夫人が招待されたことにも、何らかの意味があるのかも知れない・・・)。
民主主義国家であっても国家の情報に国民が知り得ない現状こそ、陰謀の実在性を半ば証明しているとも言えましょう。仮に、今般も、トランプ大統領による機密解除の要請がCIAや国防総省によって拒否されるとしますと、背後の闇の深さが際立つこととなります。そして、この由々しき現状は、国家の情報に関する権限や権利は、一体、誰が持つのか、という重要なる問題をも問いかけていると思うのです。