万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

政府備蓄米放出と米相場の問題

2025年01月28日 12時08分05秒 | 日本経済
 米価高騰の原因については諸説が入り乱れているものの、何れも説得力に欠けています。このため、複合要因説も唱えられることにもなったのですが、本ブログでは、先物取引をはじめとした投機マネーの流入、並びに、それに便乗する形でのバブル現象ではないかと疑っております。仮に、異常な値上がりが一種のバブルであれば、政府による備蓄米の放出は米相場に影響を与えますので、幾つかの留意すべき問題があります。

 最初に、政府備蓄米の放出によるプラス面を挙げてみることとしましょう。昨年のお米の作柄は6年ぶりに収穫量がアップしていますので、流通していない保管分を合わせれば、現状はお米不足の状態ではありません。となりますと、仮に、消費者への小売り段階で品不足であるならば、それは、さらなる値上がりを期待して人為的に供給が制限されていることを意味します。つまり、集荷事業者、卸業者、生産農家、農協などのいずれかが(小売業者もあり得るものの、保管にコストがかかるので可能性は低い・・・)、が‘売り惜しみ’や‘囲い込み(買い占め)’を行なっていることになりましょう。第一のプラス効果は、政府備蓄米が市場に供給されることで、人為的であった供給不足が解消されるところにあります。

 第二のプラス効果は、もちろん、国民の大多数が待ち望んでいる米価の下落です。供給不足が解消され(売り惜しみや囲い込みを行なう動機も失われる・・・)、市場に十分な量の米が出回るようにならば、米価格の上昇はストップし、やがて下落に転じることでしょう。

 そして、第三のプラス効果があるとすれば、お米の先物市場でも先物価格が下ることです。先高に期待した資金の流入も止まることでしょう。‘買いヘッジ’に投じた人々は、米価下落により損失を被ることにもなるのですが、先物取引に付随する変動リスクですので致し方がないことになります。

 それでは、政府による備蓄米の放出には、マイナス面もあるのでしょうか。マイナス面とは、国民にとりましての不利益を意味します。プラス効果となるのか、マイナス効果となるのかは、偏に政府の政策目的、選択する放出方法、並びに、タイミングにかかってくるように思えます。政府性悪説をとれば、上述したプラス効果が現れず、逆効果となるケースも想定されるからです(性悪説の延長には、米輸入促進の隠れた意図も指摘されている・・・)。

 例えば、政府が放出する備蓄米の量が微々たるものであれば、品不足の状態は解消されません。‘売り惜しみ’や‘囲い込み’を止めさせるだけに十分な放出量がなければ、焼け石に水となってしまうのです。

 また、第二の価格下落効果についても、放出量が少なければ効果が限定されると共に、政府が集荷事業者に販売するに際して設ける価格次第では、米価は高止まりとなってしまいます。現状と同程度の価格で販売すれば、むしろ、政府が高値状態を追認したことにもなりかねません。その一方で、売り渡し先となる農協等が、小売り事業者に卸すに際して高値を維持する可能性もありましょう。仮に、米価高騰には農林中央金庫の巨額損失問題が絡んでいるとすればなおさらです。政府が卸売業者に対して安価での小売りへの卸しを条件付けない限り、米価下落効果も限られてしまうのです。

 そして、第三のプラス効果もマイナス効果が生じるリスクがあります。先ずもって、‘お米バブル’が崩壊すれば、急激な米価下落が生じるかもしれません。もちろん、消費者にとりましては、お米価格の低下は歓迎すべきことです。しかしながらその一方で、米価が著しく安値になりますと、経営が立ちゆかなくなる農家も現れるかもしれません。農業へのマイナス影響を考慮すれば、政府は、農業経営を揺るがすほどの大幅な下落を防ぐ手段を講じておく必要がありましょう。

 しかも、米市場に投じられてきた投機資金は、米価下落をも利益追求のチャンスにされるものと予測されます。政府が備蓄米を放出する時期を見計らって、‘買いヘッジ’から‘売りヘッジ’に切り替えるようとすることでしょう。この場合、政府による備蓄米放出は、外国為替市場における政府による‘市場介入’のような状況ともなり、どこか、投機筋との攻防戦のような様相も呈してくるのです(政府が付した買い戻し条件とは、価格低下時への備え?)。投機マネーについては、政府の介入実施のタイミングによって損得の差が生じるのですが、ここでポイントとなるのは、政府が投機筋には‘忖度’せず、国民の利益のために市場介入を行なうか否か、ということになりましょう。もっとも、今般の放出のケースでは売りに拍車がかかり、米価暴落ともなりかねませんので、先物市場は予め閉鎖しておいた方が安全であるかも知れません。

 以上に述べてきましたように、政府による備蓄米の売却に際しては、考慮すべき点が多々あります。何れにしましても、現状にあって米価高騰は国民の生活に深刻なダメージを与えていますので、政府は、お米放出による影響を十分に検討し、万全の準備を整えた上で、国民のために備蓄米を放出すべきであると思うのです。

*2025年1月30日修正 JAについては、表現を卸売業者から集荷事業者に変更しました。

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