アメリカ大統領選挙では、大手マスメディアが両陣営の伯仲状態を盛んに報じながら、大差によるドナルド・トランプ共和党候補の勝利という結末で幕を閉じました。前々回の選挙あたりからマスメディアによる作為的な‘接戦演出’が露わになってきてはいたのですが、今般の選挙では、マスメディアの信頼性がより一層低下すると共に、同作戦が既に効果を失いつつある現実をも示しています。接戦作戦に隠された意図が、世論誘導や不正選挙のための環境作りであったとしますと、トランプ候補の当選は、アメリカ政治に変化が生じていることを示唆しているとも言えましょう。
それでは、何故、トランプ大統領は、かくも大差をつけてカマラ・ハリス候補に対して勝利したのでしょうか。アメリカ大統領選挙は、かつては羨望の的であった‘草の根民主主義’とはほど遠く、今ではマネー・パワーが物を言う世界に成り果てています。一種の‘政治ショー’と化していますので、4年に一度の大イベントといっても過言ではありません。このため、候補者の‘売り出し’に要される費用は莫大です。古典的な宣伝手段であるパンフレットやポスター等の作成のみならず、メディア時代の今日では、知名度を上げたり、広く国民にアピールするには、プロモーションビデオを作成したり、マスメディアへの出演機会を確保するなど、‘工作資金’も用立てる必要があります。また、全国各地で開催される選挙集会では、候補者を引き立てる舞台装置等も準備せねばならず、聴衆の‘動員’を含めて多額の資金が費やされているのです。
そして、大統領選挙に不可欠となる甚大なる費用は、今日、民主主義の危機をももたらしています。その一つとして挙げられるのが、金融・経済パワーとの癒着です。民主主義国家の建前では、為政者とは、公正・公平な選挙を介して国民から国民のために選ばれる存在です。ところが、現実には、大統領選挙には、一般市民では到底準備できないような費用がかかりますので、トランプ氏のような実業家にして富裕者であっても、自己の資金だけで選挙戦を闘うことは最早できません。もちろん、各候補者とも所属政党を組織的なバックとしていますので、党の資金のみならず、党員や支持者からの寄付に期待することができましょう。しかしながら、小口の寄付では全ての選挙資金を賄うことは難しく、結局は、金融・経済パワーからの纏まった資金提供に頼らざるを得なくなるのです。かくして、ここにおいて、アメリカ国民は、民主主義国家の最大の弊害ともされる政財癒着の構図を見せつけられているのです(「プルートクラシー」と称されている・・・)。
グローバル時代を迎えた今日、グローバル企業でもある米IT大手の大半がリベラルな価値観を共有する民主党に巨額の資金を提供してきましたが、トランプ陣営も献金問題とは無縁ではありません。トランプ候補暗殺未遂事件の直後にあって、‘勝ち馬に乗る’かの如く、逸早く巨額資金の提供を表明し、政治の舞台に躍り出たのが、かのイーロン・マスク氏であったからです。選挙資金の提供のみならず、自ら積極的に支援活動に乗り出し、激戦が予測されていた7州を対象として、「100万ドルの小切手が毎日一人に当たる!」とする請願制度を利用したキャンペーンまで展開したのですから(ペンシルバニア州では州法違反として提訴されたものの、マスク氏の勝訴に・・・)。
かくも露骨にトランプ陣営に肩入れをしたマスク氏は、次期トランプ政権にあって‘見返り’を求めているともされます。自らが構想する火星移住計画を国家プロジェクトに昇格させようとするかも知れませんし、政府効率化省(The Department of Government Efficiency)を創設し、そのトップのポストを要求しているとも報じられています。来るトランプ政権は、マスク氏の‘傀儡政権’とする見方もあり、しかも、マスク氏のその背後には、トランプ氏自身が‘敵’と見なすディープ・ステート、すなわち世界権力が潜んでいるリスク―‘トロイの木馬リスク’―もないわけではありません(このリスクは、トランプ次期大統領についても認められる・・・)。二頭作戦の現れである懸念も燻るのですが、それでは、トランプ候補は、マスク氏の支援なくしては当選できなかったのでしょうか。
グローバル企業からの巨額献金や資金提供については、民主党の方がむしろシリコンバレーのリベラル系企業を中心に集金力に長けています。仮に、マスク氏の献身的な支援の結果であれば、氏一人で並み居るIT大手を押しのけるほどの資金力と影響力を示したことになりましょう。こうした資金額に関する疑問に加え、選挙結果を見ますと、538人の選挙人の内、トランプ候補が312人、ハリス候補が226人を獲得しており、両候補の間には86もの開きがあります。また、獲得票数も、トランプ候補7460万票、ハリス候補7090万票と370万票の差がつく結果となりました。前回の選挙では、バイデン大統領は8100万票を獲得したとされていますので、ハリス候補の陣営は1000万票を失ったことになるのです。この数字は、‘マスク効果’としては、大きすぎるように思えます(上述したキャンペーンの参加者はこの数字を大幅に下回るのでは・・・)。否、仮に、凡そ500万票がマスク氏の資金力のみで動いたとしますと、アメリカの選挙は、収益を計算に入れたグローバリストの‘投資事業’に過ぎない言うことにもなりましょう(つづく)。