前の記事の続きみたいな話なんだが、南部の村々は保守的なユカタンの中でもさらに保守的。頑固という意味でなく、いろんな意味で古い物がとても多い。
まず、メキシコの遺物、エヒード(農業共同体、あるいはそのシステム)について、ここんとこいろいろ学んだので書き留めておく。簡単にいうと、メキシコ革命で大農園解体が行われて、支配層の所有地をそこで従事していた民衆に共同所有させたシステム。
えーと拡大しないとよくわからないと思いますが水色のところで、上の図で黒く見えるのが小さい水色が密集してるところです。特にユカタンに多いわけではなく、結構メキシコ中に残っている。残ってるんだから遺物とは言えないか、でも政府としては農民は別の決まりで守っていくつもりなんで、エヒード自体は歴史上の出来事の落とし子って感じでしょうか。
拡大図で北西端の近くにある丸い白エリア(エヒードじゃなくて現登記システム)が、メリダ。その他の白か薄緑はジャングルで、誰も住んだり使ったりしていなかったところ。ちなみにジャングルと言っても低木が多いので、東南アジアやアフリカのとずいぶんイメージは違う。遺跡なんかもそういうところにあったり、そういうとこで見つかったりする。あとは国や州の自然保護区。
少ない(白か薄緑の部分がほとんど)のは別に保護してるわけじゃなくて、湿地で使いようがなかっただけである。幹線道路の海岸側はよく売買されるため、すでに現在の登記システムに変わっている。我が家も来た当時、あまりの安さにエヒードの土地を1カ所検討してやめた。ちなみに最近は開発が進んで、湿地の中でも村に近いところのエヒードはよく売りに出ている。地元の人間は、乾季に草っ原に見えてもあんなとこ住むところじゃないと分かっていて、いくら?とか正確にどこ?などと反応しているのは他国か他州から来た人間だけ。
海岸エリアには大農園などない。農業(畑や牧場)用でなく、漁業(製塩業も)に従事していた村民の居住スペースとして確保された。農業じゃないので、共有する土地で共同作業をして適当に住居が散らばっているわけでなく、漁師の誰それさん一家が住むとこ…という感じでエヒード構成員それぞれに独占使用権みたいなものが設定されている。話を聞く限り、我々が引っ越してくる10年くらい前から、共同所有者で協議して現登記システムに書き換えることが進んだらしい。組織自体を構成員自ら解体したり、独占使用権を持っている人がその土地を現登記システムに変えたいと言ったとき組織としてはそのまま残ってその人だけに許可を出したりして、変わっていく。
現在エヒードのタイプは、この決まり事が一番ゆるい独占使用権型から「ガチガチの共同所有&共用」型まで、4種類に分かれている。場所によっては3種類しか残っていないこともある。
エヒードの土地の売買は、不可能じゃないんだが、メキシコの農業保護のための法律で厳しくて細かいルールが定められている。メキシコの「民衆守る!」は社会主義革命の要ですから、金に明かして…とか無知な民衆を騙くらかして…ってなことが起こらないように、そこんとこは大事に守られているわけです。
それにしてもエヒードの土地は安い。うちの村のあたりで、手頃なサイズでロケーションがいいところが、高くても一般的な市場価格の3分の1くらい。下手すると10分の1なんて値段もある(ちなみにここでは一般的な市場価格の他にガイジン価格というのもあるw)。これらのエヒードは独占使用権型なんだが、売る側からすればめちゃくちゃ安くしないと売れない。
買う側…というか一般的には、「買っても現登記システムに変えるのが大変」と認識されている。まぁマンションの管理組合(集合住宅だと住民の意見がまとまらない問題がある)と同じで、一定数の賛同が得られなかったら却下。つまり、最終的にエヒードの賛同が得られず売買お流れってなリスクは負えないということですね。あとはやはり民衆を守る目的から、構成員の数だけでなく許可する組織や立場の人なども多くて、手続きが煩雑。
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ユカタン南部で土地を探すにあたり(詳しくはまた後日書く)、エヒードの土地がやたら多くて苦労した。古き良きメキシコ人同士では、エヒードの売買は特に珍しいことじゃないのである。さらに、ユカタン南部はガチで農業をしてる地方なので、この「ガチガチの共同所有&共用」型も多く残っている。独占使用権であっても、教育レベル的な問題もあってよく分からず現登記システムと勘違いしていることも多い。見に行ってみたらエヒード…ということも多々あった。
でもユカタンの田舎の農民というか、古き良きユカタンを地で行ってる人たちって、本当にいい人が多い。独占所有権になっていても外国人はエヒードは買えないようになっているので、わざわざ弁護士と話して名義貸しを法的に有効にする方法を調べてきてくれた人たち(同じエヒードの構成員複数)もいた。
山(日本人的には丘)のてっぺんで360度地平線!というすごい土地があった。ある家族が怪我をして8万ペソ(50万円くらい)必要なので、山のてっぺんだけその家族が売ってもいいってことに構成員全員で決めたという。共同体の持ち物なんで土地へのアクセスがなくて(道路に面してない、私道でさえ存在しない)、傾斜25度超えるデカイ岩ゴロゴロの斜面に、構成員を動員して道を作るから買ってくれと言われた。遺跡ですか!スペイン人侵略者でもそんなことしろと言わないんじゃないか!ってな斜面。これだけ売るのに熱心なら大丈夫かも…と思ったが、逆に、家族や元々の構成員に何かあったら新しい約束よりそちらを優先するだろうと思って、つまりいい人たちの集まりならではのリスクってものがあるなぁと思って、申し訳ないが断った。早く買い手が見つかって怪我した家族が治療を受けられたことを願う。
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世界遺産ウシュマルと同じ様式の都市で、建物群から2キロくらい離れた山の上にピラミッドがある。
この写真の少し先まで車で行ったんだが、疲れてたんで登るのは次回のお楽しみにした。上に書いた360度地平線の土地は、このピラミッドより凄いとこだった。
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