甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

岳南電車の記録 その2

2014年07月31日 21時19分17秒 | 鉄道のこと


 跨線橋(こせんきょう)を渡って、唯一の有人駅・吉原駅で1日フリー切符を買う。料金は720円だった。あとで、平日がこの額で、土日は410円ということを知る。知ったときには、何だか損をした気分ではあったが、この時はとにかく1日岳南電車を回ることが目標であったので、何も思わずにポンと買った。18キップで旅をしているせいか、ここまで何も必要なものがなく、この日初めて財布を取り出す。貧乏旅行というべきか、私らしいというのか……。水分も取らずに、6時間も電車に乗っていて、この日初の出費とは!

 すぐ発車するというのことなので、停車中の車両を撮らずに1両だけの電車に飛び乗った。すると、本当にすぐの発車となる。車内は平日のお昼ということで、あまり混んではおらず、十数人ほどのお客さんがいた。私は観光客なので、一番後ろの座席に座り、走り去る風景を見ていくことにした。

 吉原駅を西に出たかと思うと、すぐに大きく右にカーブして富士の裾野へと向かっていく。何年か前までは工場街の荷物を運び出すために機能したというこの路線。だから、両脇に製紙工場その他が続いている。そのそばを縫うように車両は走っていく。全部で10ある駅(本当はそのすべての駅から富士山が望めるということだった)の最初のいくつかは町中で、後半はずっと工場街である。


 とはいうものの、その工場を少し抜けると、人々の生活圏があるのだが、初めて見た人間としては、何だか殺風景に見えた。冬になればよく富士山が望めるだろうから、それなりの風景だと思う。けれども、富士も見えず、ただ線路から見える風景だけを見るのであれば、とても寂しい、少し薄汚い町に来てしまったと反省するかもしれない。

 それほどに工場街のインパクトは強い。私の住んでいる三重県でも、四日市あたりを通るとき、コンビナートへの引き込み線があるのを目にするが、あの感じなのだ。あの引き込み線を入っていくと、ものすごい工場群があって、そこは鉄さび色とグレーに覆われ、何だか息苦しいような、あの感じなのである。

 ただ、岳南電車は小さな車両で、乗っている人たちものんびりしていて、とてもそんな殺風景なところを走る電車ではないようだ。そう、まるで工場の張りぼて・書き割りが並んでいて、その裏には人々の生活空間が広がっているような感じである。よく見れば、人々は沿線にいて、この短い私鉄を利用しているらしい。

 経営面でもいろいろあったようで、貨物廃止であったり、運営会社が交代したり、岳南鉄道から岳南電車と社名が変わったり(社名変更1周年らしい)したらしい。何とか、地域の足として生き残りのためにいろんな努力をしているという。突然の訪問者の私には、細かいところまではわからないが、車内を七夕電車として地元の保育園・幼稚園の子どもらの絵を広告のところに掲げている車両もあった。ビール電車など、いくつか企画があるように見えた。



 運転手さんはもちろんワンマンで往復運転を担当する。1時間に2本(片道30分)なので2人の運転手がいれば、真ん中の駅で入れ替われば、うまく回転するようになっている。私が乗った7001号の運転手さんは、とても丁寧な方で、駅に止まる度に運転席から出てきて、料金を受け取っている。その対応が本当に腰の低い、いつでもどんなことにも対応しますよというような優しい態度である。電車を運転するキビキビモードと、客に対応するソフトムードを簡単に切り替えながら運転している。たいしたものだとは思うが、実際にやる方としてはクルクル忙しい仕事のような気がした。


 あっという間に終点の岳南仁尾に着いた。緑色の2両編成が止まっていたので、ひょっとしてこちらが着くと同時に出てしまうのかと、あわてて駅に着くとすぐ写真を撮った。けれども、どうやらこれはここに止め置かれているようであった。


 さて、終点まで来たものの、行くあてがなかった。また、駅の案内もなく、町も特に観光をメダマにしていこうという雰囲気がなかった。そして空腹であった。食堂はないような感じである。少し途方に暮れて、駅の外を歩いてみようとしたらすぐ、マックスバリュの看板が見えて、お昼はここで買ったものをどこかで食べることに決定する。


 周辺を歩いてみたが、観光するところもなさそうで、時折新幹線が走り去る音だけがこだまする。すぐそばを高架で抜けていくのである。名古屋と東京を1時間半くらいで結ぶ電車と、名古屋から普通を乗り継ぎ4時間かけて、さらにゆっくり30分足らずの路線を最後まで来た自分、2つの世界は時折つながるかもしれないが、すぐそばを走り合っている電車には違いないが、お互いに平行線のままで接することはない。違う時間が、同じ場所を走っているのに存在していた。私は、今日はこちらの岳南電車の世界にいる。新幹線の世界に行くときはめったになくて、よほどのハレの時しかないのであった。




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