
岳南仁尾(がくなんにお)駅から反時計回りに近辺を歩いた。マックスバリュ、本来であれば富士山がみえそうなところ、新幹線の高架下、踏み切り、東西に走る道路、はるか東南の方に見える伊豆の山々、海は見えないけれど、海岸に連なる松林のてっぺんのような連なり、太陽光線のあふれる道々、へとへとになって歩く。仁尾公園でほうじ茶とオニギリ2ヶとクリームパンを食べた。公園にはだれも遊ぶ人はいない(暑いのだから、当たり前!)



電車の時間はチェックしておいたので、上りの電車に乗ることにする。次の目標は、二台の車両をなかよく収納していた車庫のある岳南富士岡をめざす。ここでは思った通りの写真が撮れたのであった。とはいえ、この二台がどういう経緯でお休みしているのか、それぞれはどういう車体なのかとか、全く知識がなくて、ただ小さな車庫にかわいくおさまっていた。朝夕の通勤通学の時間には有人駅となるのだから、それなりに何かあるのだろうと、観光を始めた。ただ、お昼過ぎの夏の太陽はきびしく、すぐにヘナヘナになってしまいそうになる。


とりあえず、車庫の周辺を見てみようと、踏み切りを渡る道に向かった。夏のお昼時だった。普通の家であれば、エアコンをつけて、あかりを消して、テレビかなんかをつけて、くつろいでいる時間である。細い道に面したアパートのベランダに、リラックスしたネコが迎えてくれて、7001号の運転手さんに次ぐ2番目の出会いは、アパートのネコ! ガラス戸の向こうに飼い主さんがこちらを見ているかもしれないので、とりあえず写真だけを撮らせてもらって、「じゃあ、お元気で」と声を掛けて、車庫に向かう。

すると、車庫の裏手は、うらぶれた工場のようで、とてもここに電車が収納されているようには見えなかった。ただ、会社のマークが誇らしく裏口の門扉に掲げられていたので、これぞ、弱小私鉄の心意気だと写真を撮りました。中が見えると、もっとうれしいのだけれど、中はまるで見えない。ただマークのみ。


仕方がないので、通りを更に進んで、どこかに緑はないのかと探し歩き、見つけたのは石やさんで、大きな招き猫が1つ、その他は道祖神やら、小動物やら、造形は基本は伝統的な形ながら、少しだけユーモラスに彫ってあり、味のある雰囲気。でも、ここにも人はいなかった。

下りの電車が走り去り、できたら折り返してきた電車に乗ろうと決めた。まだ、早いけれど、この富士岡駅も、それほど観光するところはないように見えた。そこへ「コンニチハ」と声をかけてきた小学生の男の子が2人。こちらもモニョモニョとあいさつを返して、ついでだから彼らの歩く方へ行くことにした。

彼らはそれぞれに網と釣り竿を持っていたので、虫取りか魚釣りでもするのだろう。彼らのあとをついていけば、きっと川か森に出くわすかもしれなかった。
しばらく彼らの百メートルくらいうしろを歩いた。変なオッサンがあとをつけてくるのに気づいた2人は、それから歩くスピードを上げたようだった。あまり角度がないのでわからないが、学校を過ぎたくらいから道のよこを水路が流れていくので、少しずつ坂道を登っているらしい。この水はひょっとして富士山の伏流水かもしれなかった。ただ、駅周辺の町中は、まだゴミゴミしていて、水路も何となく薄汚れている感じである。溝掃除も行き届いてないような印象を受けた。
信号を小学生たちは左折した。私は、彼らが迷惑そうではあるし、この水路をたどれば伏流水のわき出るところへ出るかもしれないので、魚釣りの川原はあきらめて、湧水を見つけることに切り替えた。
住宅街を静かに水路が流れ、一歩ずつそれをさかのぼる。最初は汚い感じであった水路が、だんだんキレイになり、魚の影がちらつき、水路の底の砂もみるみるサラサラに変わっていく。ほんの少し歩いただけで、これだから、水源にたどりつければ清冽な水が流れているかもしれない。それだけを楽しみに、真昼の道をたどる。住宅はびっしりと建ち並んでいる。何という集落なのだろう。そして、人はどこにいるのだろう。
家々に囲まれた周囲数十メートルの池を見つけた。といっても、湧水の池なので、大きな石が底に敷き詰められていて、深さもちょうど子どもプールのようになっていて、小さい子どもたちが水浴びをしていた。この楽園の風景! でも、不審者と思われてもイヤだから、ここでは写真を撮らず、その雰囲気だけを味わう。できたら、小さいウチの子を連れて、ここで遊ばせてあげたいくらい楽園であった。今となっては、ウチの子はこんな子ども湧水では満足できないだろうけれど、子の親であれば、できたら一度はこんなところへ連れてきてあげたいくらいの、しあわせな風景だった。

ただ、水源はもっと奥にあるらしい。お寺か、神社か、昔の人々が大事にしてきた何かがあると予測し、しばらくするとお寺が見え、扉が閉まっている。水源はこちらではないようだ。家々が立て込んでいて、その奥から流れている。ということは、個人の土地に水源があるのか、行き止まりになって、観光地探しもおしまいにしなくてはならない。ここから6時間の帰路が待っているのだ。電車の時間もあと少し!




と、あわてて駅にもどると、電車はすでに何分か前に出たあとだった。ということは、また30分後まで電車は来ない。駅間は短いのだから、次の駅まで歩いてみようと、さっき小学生たちが左折した道をたどることにした。
大きな工場を抜けて、比奈という駅に着いて、ここでも富士は見えず、赤さびの駅、すすけた工場、昔は居酒屋やその他の店が入り、今はタクシーの営業所しかない駅前のビルを見て、すっかり岳南鉄道を味わった気分になった。また、ふたたび冬に来てみたいと思い、帰りは何の写真も撮らず、静岡の電車に乗る人々を観察して、みんなごく普通に学校や仕事が終わって帰るような雰囲気をプンプンさせているのを、少しだけうらやましく思い、「私は、家に帰るまでにこれから6時間普通電車を乗り継いで帰るんですよ」と心の中で叫んで、目で訴えて、そして無言のまま吉原駅にたどりつき、島田行きに乗りこんだのでした。



★ 2014年は、すでに18キップの旅をしていたんですね。うらやましい。2015年は、今日からスタートで、神戸に古本を買いに行くことにしていましたが、あまりに暑いので気力がなくなって、他の日に回すことにしました。こうしてチャンスを逃していくんですね。まあ、それも自分で選んだ道だから仕方がありません。
自分でどこにも行かないことにしたわけです。……言い訳ばっかり!
とにかく、夏はまだまだ続くし、9月10日まで日にちはあるし、キップだけでも買ってこようと思います。