報恩坊の怪しい偽作家!

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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「天長会の進学塾」

2025-03-01 21:00:40 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月15日15時00分 天候:晴 東京都渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿→同都新宿区代々木 TS進学会]

 バスは私の予想通り、羽田空港第1ターミナルで満席となった。
 私の相席となったのは、私と大して歳の変わらぬスーツ姿のビジネスマンで、リサはホッとしていた。
 ややもすれば、若い女が隣に座ったりしたら……。
 このバス、新宿まで運行できなかったかも。
 ホッとして少し機嫌が良くなったのか、リサは首都高を走るバスの窓側に座る太平山美樹に、車窓案内をしていたくらいだ。
 但し、長い地下トンネルの山手トンネルに入ってしまうと、それもできなくなったが。
 しかし、このトンネルのおかげで、新宿方面へのアクセスは各段に良くなったのだとか。

〔「ご乗車お疲れ様でした。まもなく終点、バスタ新宿、バスタ新宿です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意願います。本日もご乗車頂き、ありがとうございました」〕

 バスはほぼ時間通りに、バスタ新宿の3階降車場に到着した。

 リサ「先生、着いたよ」
 愛原「おっ……と」

 どうやら、バスの中で少し寝落ちしてしまったらしい。
 前扉が開いて、乗客達が降り始めたことで、私の意識はうっすらと戻り始めたのだが、更にそこを後ろに座るリサに揺り起こされ、ハッと目が覚めた。

 愛原「寝てたか。悪い悪い」

 私はリクライニングを戻して立ち上がった。
 バスを降りると、運転手や係員が荷物室のハッチを開けて、乗客達の荷物を降ろしている。
 私やリサは小さなバッグしか無いから預けていないが、美樹は預けている。

 愛原「さあ、後は予備校まで徒歩だ」
 美樹「さすがは愛原先生スね。空港からだと、あたし1人じゃ、キツかったス」
 愛原「そうだろう、そうだろう」
 リサ「バスに乗るという発想がなかなか無いもんね」

 リサは、私が菊川駅からもらってきた東京の地下鉄路線図を美樹に渡した。

 リサ「東京に住むなら、これを覚えないと」
 美樹「受験より難しっちゃねぇ……」
 リサ「愛原先生は、それにプラス、バスの路線も頭の中に入ってるんだよ!」

 リサはまるで自分の事のようにドヤ顔で言った。

 美樹「色々教えて下せぇ」
 愛原「あ、ああ。まあ、だいたいがググれば分かる範囲だけどね」
 リサ「ググるという発想が出てこないし、本当に分かんなかったら、ググり方すら分かんない」
 愛原「そういうレベルか……。ま、さすがに新宿駅はハードモードだからな。さすがの俺も避けたいくらいだよ。だから、バスに乗ったんだ。バスタ新宿からの方が分かりやい」
 リサ「そういう情報も先生ならではだよね」
 美樹「ンだべね」

 バスタ新宿を出て、甲州街道を西に進む。
 幸いなのは、帰りも楽だということだ。
 実は甲州街道の下には、京王新線が通っている。
 そしてその京王新線は、都営新宿線と繋がっているのだ。
 その乗り場から地下に下りれば、難無く地下鉄に乗れるというわけだ。

 リサ「あそこが台風中継とかで、よく出てくる新宿駅南口」
 美樹「ほー!」

 バスタ新宿の向かい側。
 西新宿1丁目の交差点を越えて更に西に進む。

 愛原「えー、ここの路地を入る……」
 リサ「んん?」

 路地を1本入って、裏道っぽい所に入る。
 一方通行ではないのだが、車1台すれ違えるのがやっとといった広さの道。
 それでも、その地下には京王本線が通っているという。
 その沿道に建っている1軒のオフィスビル。
 一見すると、何の変哲も無いテナントビルだが、その中に予備校の本部があった。

 リサ「TS進学会?聞いたことない予備校だねぇ……。よくこんなマイナーな予備校見つけたね?」

 リサは感心したような、呆れたような感じで美樹に言った。
 それ自体は、私も同感である。
 進学塾や予備校なんて、自動車学校の数よりも多いはず。
 その中から自分に合った所を探すなんて、至難の業だ。
 四年制大学受験失敗という私の学歴からしてみれば、そういう意味で私の親は学習塾ガチャに外れたと言える。

 美樹「何か、うちの親が色々とツテを辿って、紹介してくれたみてェなんだ」
 愛原「TSというからには、アンブレラとかは関係無さそうだな……」

 ビルの中に入る。
 それからエレベーターに乗り込んで、TS進学会の本部事務所があるフロアへと向かった。

 リサ「これはエレベーターと言って……」
 美樹「いや、そンくれェは知ってる。ま、あんま乗らねェけど」

 何気に都会人マウントを取るリサだった。

 愛原「街の方に出たりすることもあるでしょ?秋田市に行くの?」
 美樹「秋田市さ行く機会は、あんま無いスね。鷹ノ巣さ出ることが多いス」
 愛原「鷹ノ巣か。北秋田市だな」
 美樹「そうス」

 恐らく秋田内陸縦貫鉄道線を使っているのだろう。
 南側の角館駅よりは、北側の鷹ノ巣駅周辺の方が買い物しやすいのかもしれない。
 そして私達は、本部事務所に到着した。
 私は保護者として、リサの合宿申込を。
 美樹は保護者からの委任状を添えて、申込を行った。
 私達はともかく、やはり美樹に関しては、地方からの参加というのは珍しいのか、社員も珍しがっていた。

 社員「どなたからかの紹介なんですか?」
 美樹「多分、そうです。……親が決めたもんで……」
 社員「そうですか」

 今日の申込者は私達だけのようなので、社員が事務所内の打ち合わせコーナーに案内してくれた。
 うちの事務所のように、衝立で仕切られただけの簡易的な打ち合わせコーナーであったが、それでも冷茶は出してくれた。
 社員が合宿の資料を持って来てくれて、色々説明してくれたのだが……。

 リサ「ちょ、ちょっと!!」

 その時、資料に目を通していたリサがびっくりした様子で立ち上がった。

 愛原「どうした?」
 美樹「なに?!なしたの!?」
 リサ「合宿で泊まるホテルが、天長園ってどういうこと!?」
 愛原「えっ、そうなの!?」
 美樹「??? 天長園って、栃木のあそこだよね???」

 美樹は、まだ私達の態度の理由が分からないようだった。
 美樹自体も家族旅行(親族旅行?)で、ホテル天長園に泊まったことはあるようだ。
 ただ、それは鬼族同士の親交を深める為の親善旅行であったとされる。

 社員「あの……弊社は天長会が運営する企業の1つなんです」
 愛原「えっ、そうなの!?」
 社員「はい」

 そういえば上野利恵、そんなこと言ってたような……?
 まさか、予備校、学習塾の経営までしていたというのは初耳だが。
 教祖が中小企業団を率いている。
 その売り上げで天長会という宗教法人は運営されているので、基本的に信者からはお金を取らないのだと言っていた。
 まさか、TS進学会がその1つだったとは……。

 愛原「! まさか、TSのTって、『天長会』!?」
 社員「はい。『Tencho Seminar』の略でTSです。元々は天長会内部で行われていたセミナーから始まったもので」
 愛原「……美樹ちゃん?」
 美樹「あー……多分、うちの親が、ホテル天長園のお偉いさんから紹介されたんでしょうねぇ……」
 リサ「断る!わたしは行かない!!」
 愛原「おいおい!もう申し込んじゃったんだぜ!?」
 美樹「リサぁ~!一緒に行ぐっで約束したべでねがぁ~!」

 や、ヤバい!
 私と美樹で、リサを何とか宥めすかさないと大変なことになる!

 愛原「お、俺も行くから!」
 リサ「! ……ホント?」
 社員「失礼ですが、保護者の方は同行できませんよ?」
 愛原「合宿先のホテル、貸切にするんですか?」
 社員「そういうことです。なので、一般の宿泊客が一緒ということはないです」

 とはいえ、全ての客室が埋まるというわけでもないだろう。
 こうなったら……。

 愛原「リサ、任せろ。俺が何とかする。だからここは呑んでくれ!」
 リサ「くっ……」
 美樹「リサぁ~!」

 リサの頭から角が少し覗いたような気がしたが、何とかここの社員達に見られずに済んだ。

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