[5月4日21:00.天候:晴 宮城県仙台市泉区のぞみヶ丘(架空のニュータウン) DCJ仙台支社泉倉庫]
敷島:「南里研究所か。懐かしいなぁ」
平賀:「今ではDCJの倉庫になってしまいましたね。研究施設としては、もう機能停止してしまった所で……」
一時期はアリスが接収して使用していたこともある。
ここが、単なる電機メーカーの営業マンだった敷島がロイド達と初めて接した原点である。
ニュータウンの外れにある、元々は診療所であった。
しかし近隣に私立の総合病院が存在し、しかもニュータウンの外れにあるということもあって、患者数は少なく、すぐに閉鎖されてしまった。
そこを南里志郎が安価で買い取り、自らの研究所としたわけである。
平賀:「あくまでも部品を取りに来たついでですからね」
敷島:「分かってますよ」
閉鎖された門扉の前に車を止め、そこから平賀が降りる。
平賀は大学教授の肩書を持つと共に、DCJの外部役員の肩書きも持つ。
そこで貸与されているカードキーでもって、門扉の解錠した。
敷島:「あの頃はまだボカロ達が信用できなくて、脱走防止をエミリーに頼んでいたんでしたっけ」
平賀:「そういうこともありましたねぇ」
門扉を開けて再び車に乗り込み、研究所建物前までの坂道を登って行く。
建物の反対側には階段があり、その下には路線バスの折り返し場がある。
路線バスが運行されていて、しかもバス停が崖下にあるという立地ではあるが、急な階段を何十段を登らなくてはならず、これでは患者が集まるわけが無かった(デベロッパー出て来い!)。
車で建物の前まで行き、今度は別のカードキーで玄関を開ける。
敷島:「あの木の幹の所に、前期型シンディが襲撃に来た際、めり込んだ銃弾が残っているはずです」
平賀:「“死刑執行”のボタンを自ら押された敷島さんに、今でもヤツは頭が上がらないようですね」
敷島:「そうですねぇ……」
建物の中に入る。
平賀:「ミクのパーツがこの中に入っています」
敷島:「仙台に来た時に、ここに予備パーツが保管されているのは便利ですね。先生の研究室では預からないんですか?」
平賀:「エミリーはともかく、ボーカロイドは敷島エージェンシーの所有です。そしてその整備・維持をDCJが委託されているだけに過ぎません。だから、彼女らのパーツはDCJで預かってるんですね」
敷島:「なるほど」
平賀:「探し出すのに少し時間が掛かりそうなので、敷島さんは思い出に浸っててくださいよ」
敷島:「いや、ハハハ……。エミリー、コーヒーでも淹れてくれ」
エミリー:「かしこまりました」
この建物の用途は今や『倉庫』であるが、実は居住区についてはそんなに手を付けていない。
給湯室には、しっかりコーヒーカップ等が用意されていた。
敷島がこんなこともあろうかと、用意していたものである。
本当は敷島エージェンシーでこの旧・研究所を管理したかったらしいのだが、紆余曲折あってそれは叶わず、結果的にDCJが預かることになった。
最悪、取り壊して土地を売り払うことも選択肢に入れられていただけに、それが回避されただけでも良かったのかもしれない。
エミリーがコーヒーを入れている間、敷島は中庭に出た。
敷島:「この辺りにエミリーが花を植えていて、あの辺りでマリオとルイージがキノコ栽培をやってて……」
木が倒れていた。
恐らく昨年の台風で倒木したものだろう。
昨年の夏はこの旧・研究所には来なかったから気づかなかったのだ。
敷島:「後でエミリーに片付けてもらおう」
敷島は何気なく足で倒れた木を蹴ってみた。
すると意外と簡単に木は前後に動き、中から錆びた鉄の塊が出て来た。
敷島:「? ああ、これもシンディのヤツか」
それは薬莢。
前期型のシンディが襲撃に来た際、右手のマシンガンを乱射して行ったが、その時の銃弾だろう。
敷島:「まだ残ってたんだな」
裏手の崖の方から大型車のエンジン音が聞こえて来た。
泉中央駅からやって来た路線バスであろう。
折り返し場に到着したのだ。
オレンジ色のLED行き先表示の周りが緑色の枠で囲われていたことから、最終便の1つ前の便ということが分かる。
最終便だと緑色の枠が赤に変わる。
まだ行き先表示が幕式だった頃は、緑色のランプや赤色のランプで照らしてそうであることを主張していたが、今は全てLED。
車種によっては、行き先表示と『最終バス』の表示を交互に行う場合もあるようだ。
敷島:「昔はあれで、駅と研究所を行き来したものだ」
敷島が下に降りようとした時だった。
エミリー:「社長、コーヒーが入りました」
エミリーが呼びに来た。
敷島:「おー、そうか」
エミリー:「何をされていたのですか?」
敷島:「昔はあのバスで、駅と研究所を往復してたなって回想していたんだよ」
エミリー:「そうですね。社長が初めて研究所を訪れた時、私は泉中央駅までお迎えに行きました。そして、あのバスに乗り換えたのです」
敷島:「そうそう。そして途中で雨が降って来て、お前は右足の脛をパカッと開けて折り畳み傘を出したよな。あれで俺は本当にエミリーがロボットなんだって分かったよ」
エミリー:「そうですか」
本来そこは設計上、大型のナイフをしまう場所であった。
前期型のシンディはそれを指示棒代わりに振るったり、近接戦や暗殺用に使用していた。
そして最後には自分の製作者を刺し殺してしまったのである。
本来の用途は、このナイフは所有者の人間が使うもの。
恐らく、中世の騎士の叙勲の際の儀式として行われた、『主君が叙勲する騎士の両肩に、剣の平を乗せて忠誠を誓わせる』図を真似たのではないかと思われる。
製作者が全員あの世に行ってしまった今となっては知る由も無い。
敷島:「エミリーのナイフは今そこにあるよな?」
エミリー:「本当は社長に持っていて頂きたいのですが」
敷島:「今はお前が預かっていろ。取りあえず、儀式はやっただろ」
敷島はエミリーの大型ナイフの平を彼女の両肩に乗せて、中世の騎士の叙勲まがいのことを行った。
エミリー:「分かりました」
敷島:「シンディのナイフは無いんだもんなー」
エミリー:「東京決戦の時に紛失しましたからね。頭の悪い妹で申し訳ありません」
敷島:「いや、いいよ。そもそもそんな血塗られたナイフ、俺は欲しくないよ」
エミリー:「それもそうですね」
敷島:「今、あのビルはどうなってるんだっけ?」
エミリー:「東京決戦の時、ドクター・ウィリーがいたビルですか?取り壊されて、今は再開発地として別のビルを建築中ですが……」
敷島:「じゃあ、跡地を探しても意味は無いな」
エミリー:「ですね」
敷島:「お前達の銃火器と同じで、国外で造られたものか?」
エミリー:「いいえ、国内です」
敷島:「は?」
エミリー:「『忠誠のナイフ』は、国内の鍛冶師に造らせたものです」
敷島:「わざわざ岐阜県関市まで?あそこ、刃物生産で有名だもんな」
エミリー:「いいえ。山形県山形市です」
敷島:「……お前のナイフだけ?」
エミリー:「シンディのナイフもです。というか、他の兄弟も皆同じです。山形の鍛冶師に特別に造ってもらったものです」
敷島:「それは知らなかった!何故今まで言わなかったんだ!?」
エミリー:「聞かれませんでしたから……」
敷島:「というかお前らのナイフ、片刃だったな?!やけに和風だなとは思ったんだ!」
エミリー:「そりゃあ、国内で生産されたものですから……」
新たな発見に敷島は息巻いた。
敷島:「南里研究所か。懐かしいなぁ」
平賀:「今ではDCJの倉庫になってしまいましたね。研究施設としては、もう機能停止してしまった所で……」
一時期はアリスが接収して使用していたこともある。
ここが、単なる電機メーカーの営業マンだった敷島がロイド達と初めて接した原点である。
ニュータウンの外れにある、元々は診療所であった。
しかし近隣に私立の総合病院が存在し、しかもニュータウンの外れにあるということもあって、患者数は少なく、すぐに閉鎖されてしまった。
そこを南里志郎が安価で買い取り、自らの研究所としたわけである。
平賀:「あくまでも部品を取りに来たついでですからね」
敷島:「分かってますよ」
閉鎖された門扉の前に車を止め、そこから平賀が降りる。
平賀は大学教授の肩書を持つと共に、DCJの外部役員の肩書きも持つ。
そこで貸与されているカードキーでもって、門扉の解錠した。
敷島:「あの頃はまだボカロ達が信用できなくて、脱走防止をエミリーに頼んでいたんでしたっけ」
平賀:「そういうこともありましたねぇ」
門扉を開けて再び車に乗り込み、研究所建物前までの坂道を登って行く。
建物の反対側には階段があり、その下には路線バスの折り返し場がある。
路線バスが運行されていて、しかもバス停が崖下にあるという立地ではあるが、急な階段を何十段を登らなくてはならず、これでは患者が集まるわけが無かった(
車で建物の前まで行き、今度は別のカードキーで玄関を開ける。
敷島:「あの木の幹の所に、前期型シンディが襲撃に来た際、めり込んだ銃弾が残っているはずです」
平賀:「“死刑執行”のボタンを自ら押された敷島さんに、今でもヤツは頭が上がらないようですね」
敷島:「そうですねぇ……」
建物の中に入る。
平賀:「ミクのパーツがこの中に入っています」
敷島:「仙台に来た時に、ここに予備パーツが保管されているのは便利ですね。先生の研究室では預からないんですか?」
平賀:「エミリーはともかく、ボーカロイドは敷島エージェンシーの所有です。そしてその整備・維持をDCJが委託されているだけに過ぎません。だから、彼女らのパーツはDCJで預かってるんですね」
敷島:「なるほど」
平賀:「探し出すのに少し時間が掛かりそうなので、敷島さんは思い出に浸っててくださいよ」
敷島:「いや、ハハハ……。エミリー、コーヒーでも淹れてくれ」
エミリー:「かしこまりました」
この建物の用途は今や『倉庫』であるが、実は居住区についてはそんなに手を付けていない。
給湯室には、しっかりコーヒーカップ等が用意されていた。
敷島がこんなこともあろうかと、用意していたものである。
本当は敷島エージェンシーでこの旧・研究所を管理したかったらしいのだが、紆余曲折あってそれは叶わず、結果的にDCJが預かることになった。
最悪、取り壊して土地を売り払うことも選択肢に入れられていただけに、それが回避されただけでも良かったのかもしれない。
エミリーがコーヒーを入れている間、敷島は中庭に出た。
敷島:「この辺りにエミリーが花を植えていて、あの辺りでマリオとルイージがキノコ栽培をやってて……」
木が倒れていた。
恐らく昨年の台風で倒木したものだろう。
昨年の夏はこの旧・研究所には来なかったから気づかなかったのだ。
敷島:「後でエミリーに片付けてもらおう」
敷島は何気なく足で倒れた木を蹴ってみた。
すると意外と簡単に木は前後に動き、中から錆びた鉄の塊が出て来た。
敷島:「? ああ、これもシンディのヤツか」
それは薬莢。
前期型のシンディが襲撃に来た際、右手のマシンガンを乱射して行ったが、その時の銃弾だろう。
敷島:「まだ残ってたんだな」
裏手の崖の方から大型車のエンジン音が聞こえて来た。
泉中央駅からやって来た路線バスであろう。
折り返し場に到着したのだ。
オレンジ色のLED行き先表示の周りが緑色の枠で囲われていたことから、最終便の1つ前の便ということが分かる。
最終便だと緑色の枠が赤に変わる。
まだ行き先表示が幕式だった頃は、緑色のランプや赤色のランプで照らしてそうであることを主張していたが、今は全てLED。
車種によっては、行き先表示と『最終バス』の表示を交互に行う場合もあるようだ。
敷島:「昔はあれで、駅と研究所を行き来したものだ」
敷島が下に降りようとした時だった。
エミリー:「社長、コーヒーが入りました」
エミリーが呼びに来た。
敷島:「おー、そうか」
エミリー:「何をされていたのですか?」
敷島:「昔はあのバスで、駅と研究所を往復してたなって回想していたんだよ」
エミリー:「そうですね。社長が初めて研究所を訪れた時、私は泉中央駅までお迎えに行きました。そして、あのバスに乗り換えたのです」
敷島:「そうそう。そして途中で雨が降って来て、お前は右足の脛をパカッと開けて折り畳み傘を出したよな。あれで俺は本当にエミリーがロボットなんだって分かったよ」
エミリー:「そうですか」
本来そこは設計上、大型のナイフをしまう場所であった。
前期型のシンディはそれを指示棒代わりに振るったり、近接戦や暗殺用に使用していた。
そして最後には自分の製作者を刺し殺してしまったのである。
本来の用途は、このナイフは所有者の人間が使うもの。
恐らく、中世の騎士の叙勲の際の儀式として行われた、『主君が叙勲する騎士の両肩に、剣の平を乗せて忠誠を誓わせる』図を真似たのではないかと思われる。
製作者が全員あの世に行ってしまった今となっては知る由も無い。
敷島:「エミリーのナイフは今そこにあるよな?」
エミリー:「本当は社長に持っていて頂きたいのですが」
敷島:「今はお前が預かっていろ。取りあえず、儀式はやっただろ」
敷島はエミリーの大型ナイフの平を彼女の両肩に乗せて、中世の騎士の叙勲まがいのことを行った。
エミリー:「分かりました」
敷島:「シンディのナイフは無いんだもんなー」
エミリー:「東京決戦の時に紛失しましたからね。頭の悪い妹で申し訳ありません」
敷島:「いや、いいよ。そもそもそんな血塗られたナイフ、俺は欲しくないよ」
エミリー:「それもそうですね」
敷島:「今、あのビルはどうなってるんだっけ?」
エミリー:「東京決戦の時、ドクター・ウィリーがいたビルですか?取り壊されて、今は再開発地として別のビルを建築中ですが……」
敷島:「じゃあ、跡地を探しても意味は無いな」
エミリー:「ですね」
敷島:「お前達の銃火器と同じで、国外で造られたものか?」
エミリー:「いいえ、国内です」
敷島:「は?」
エミリー:「『忠誠のナイフ』は、国内の鍛冶師に造らせたものです」
敷島:「わざわざ岐阜県関市まで?あそこ、刃物生産で有名だもんな」
エミリー:「いいえ。山形県山形市です」
敷島:「……お前のナイフだけ?」
エミリー:「シンディのナイフもです。というか、他の兄弟も皆同じです。山形の鍛冶師に特別に造ってもらったものです」
敷島:「それは知らなかった!何故今まで言わなかったんだ!?」
エミリー:「聞かれませんでしたから……」
敷島:「というかお前らのナイフ、片刃だったな?!やけに和風だなとは思ったんだ!」
エミリー:「そりゃあ、国内で生産されたものですから……」
新たな発見に敷島は息巻いた。