[9月30日09:00.天候:晴 東京都台東区上野 JR御徒町駅前]
春日通り(都道453号線)を走る1台のハイヤー。
それが御徒町駅前で止まる。
稲生勇太:「ありがとう、父さん。便乗させてもらって……」
稲生宗一郎:「いいよ。通勤の途中だし」
今日は月曜日。
宗一郎も専務取締役員として、勤務先に向かう途中だった。
で、勇太とマリアもついでに便乗させてもらったわけだ。
宗一郎:「それじゃ、イリーナ先生によろしく伝えといてくれ」
勇太:「分かった」
マリア:「アリガトうございましタ」
勇太が助手席後ろのドアを閉めると、黒塗りのハイヤーが走り去って行った。
恐らく昭和通り(国道4号線)に出て、そこから本社のある大手町へ向かうのだろう。
魔界への入口は日本国内に何ヶ所かあるが、確認されているのは都内では2ヶ所だけ。
しかもそのうちの1ヶ所は東京中央学園上野高校の旧校舎(木造校舎。現在は教育資料館に改築済)にある為、封印されている。
もう1ヶ所はワンスターホテルの地下にある。
エレーナのもう1つの顔は、この魔界の穴の番人である。
ホテルで住み込みのバイトというのは表の顔に過ぎない。
勇太:「都営大江戸線ですぐにでも向かいたいところですが、その前にやることがあります」
マリア:「分かってる」
2人は未だ朝ラッシュの余波が残る駅構内に入ると、みどりの窓口へ向かった。
東京山手線内の駅でも閑散としている方の部類に入るが、そこは東京山手線内。
決して寂しい駅ではない。
ターミナル駅の1つ、上野駅と秋葉原駅の間に挟まれているが為に目立っていないだけだ。
近隣には地下鉄が3本も通っている。
で、そのうちの1本の地下鉄に乗ればいいはずの2人が、本来は用の無いJR駅に入った理由は……。
勇太:「本当はこれから北陸新幹線に乗って帰るはずだったんですけどね。本当に払い戻しじゃなくていいんですか?」
マリア:「師匠がああ言ってたんだからいいだろう。ああ見えても、グランドマスター(大魔道師)だ。予知能力はズバ抜けて高いものがある」
魔道士は弟子を取る資格の無い魔法使いのこと。
魔道師は弟子を取る資格の有る魔法使いのこと。
英語ではしっかり分けられているのだが、日本語では上手く分けられていない為、当作品では『士』と『師』で分けることにする。
西洋の存在なので、それが日本に輸入された際、当時の日本人は上手く和訳できなかったようだ。
魔道士という単語も比較的新しいものである。
駅員:「いらっしゃいませー」
勇太:「すいません、予約した新幹線の乗車変更をしたいんですけど……」
駅員:「かしこまりました」
帰りの列車の便も変われば、人数も座席も変わる。
具体的には帰りの列車は数日後の夕方になり、しかもイリーナが引率する形になる。
その為、座席も普通車からグリーン車へとグレードアップする。
弟子の身分が上級席に座ることは通常許されていないが、師匠が引率する場合は例外とされている。
また、ビジネスクラスだと、更にランクが分けられている場合がある(ただのビジネスクラスなのか、それともプレミアムエコノミーなのか?また、ファーストクラスでもマイレージなんかでエコノミークラス並みに安く買った場合は良いのか?等)為、結局は組単位での取り決めということになっている。
イリーナ組の場合、『弟子のモラルに任せる』という投げやりっぷりだ。
因みに大魔道師達を見ていると、彼女らでさえ、ファーストクラスは避けてビジネスクラスに乗ることが多い。
新幹線のグリーン車はファーストクラスのようであるが、JR東日本が本当のファーストクラスという意味でグランクラスをリリースした為、グリーン車はビジネスクラスという位置付けになってしまった。
その為、イリーナが同行する場合はグリーン車ということになる。
駅員:「それでは稲生様、変更内容が……」
大幅に変更することになったので、少し時間が掛かった。
それでも、希望通りの列車と座席を確保することができた。
因みに……。
勇太:「ありがとうございます。因みに、その列車の普通車はもう空いてませんよねぇ?」
駅員:「席自体はまだ空いているんですが、3人様横一列の席はもうお取りすることができない状態です。窓側席はもう既に一杯で……」
勇太:「ですよね。どうもすいません」
駅員:「いえ、ありがとうございました」
席がまだ余裕で空いているのは、グリーン車とグランクラスのようだ。
勇太は3人分のキップをしまいながら、みどりの窓口を出た。
マリア:「あの旅行客、券売機で格闘しているよ」
マリアはインバウンドの旅行客を見て言った。
マリアと同じ白人であるが、こうした光景は都内の駅でよく見かける。
勇太:「まだ指定席券売機は使いにくいですかねぇ……」
マリア:「こっちには日本人がいるから楽だ」
勇太:「ありがとうございます。……ってか、券売機も外国語に表示やアナウンスを切り替えることができるんですけどね」
マリア:「その切り換えのボタンに気づくかどうかだ」
勇太:「ああ、なるほど。……え?マリアさん、気づかなかったです?」
マリア:「悪かったな」
[同日09:20.天候:晴 台東区上野 都営地下鉄上野御徒町駅]
上野駅なのか御徒町駅なのか分からない名前の駅だが、恐らく所在地区名とJR御徒町駅に近接するという意味でそのような名前が付いたのだと思われる。
〔まもなく2番線に、両国方面、清澄白河行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
接近放送が駅構内に響き渡る。
マリア:「清澄白河行き……」
勇太:「大丈夫ですよ。あれは森下駅の次の駅ですから」
マリア:「そうか」
あれも清澄地区と白河地区に跨っている為に、両方の地区名を駅が名乗っているだけに過ぎない。
都営大江戸線では、このような駅名が他にも存在する。
勇太:(清澄というと、千葉県の清澄寺を思い浮かべるんだよなぁ……)
電車がホームに到着する。
ホームドアが先に開いて、それから電車のドアが開く。
〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕
この駅で降りて来る乗客は多かった。
通勤導線としては逆方向なのと、途中駅止まりのせいか、それで車内が閑散となる。
先頭車に乗り込み、ファインレッドのモケットが張られた硬い座席に座った。
車両側面のスピーカーから、短い発車メロディが流れる。
〔ドアが閉まります。駆け込み乗車は、おやめください〕
ホームドアと車両のドアが閉まった。
駆け込み乗車は無かったらしく、すぐに発車する。
〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi.Please change here for the Tukuba Express line.〕
マリア:「師匠は先にホテルに着いたらしい」
勇太:「ルゥ・ラですか。さすが先生は早いですね」
マリア:「こういう時はね」
勇太:「それにしても、先生も御一緒なら、僕じゃなくて先生に手紙を送れば良かったのに……」
マリア:「その辺は女王様の性格だろう。安倍首相の苦労が少しは想像できるよ」
勇太:「魔王を討伐した勇者、あえて倒した魔王を王座から引きずり下ろすようなことはせず、再び王座に担ぎ上げました……」
マリア:「共和制が上手く行かなかったからだろう」
勇太:「向こうの王国も大変ですね」
春日通り(都道453号線)を走る1台のハイヤー。
それが御徒町駅前で止まる。
稲生勇太:「ありがとう、父さん。便乗させてもらって……」
稲生宗一郎:「いいよ。通勤の途中だし」
今日は月曜日。
宗一郎も専務取締役員として、勤務先に向かう途中だった。
で、勇太とマリアもついでに便乗させてもらったわけだ。
宗一郎:「それじゃ、イリーナ先生によろしく伝えといてくれ」
勇太:「分かった」
マリア:「アリガトうございましタ」
勇太が助手席後ろのドアを閉めると、黒塗りのハイヤーが走り去って行った。
恐らく昭和通り(国道4号線)に出て、そこから本社のある大手町へ向かうのだろう。
魔界への入口は日本国内に何ヶ所かあるが、確認されているのは都内では2ヶ所だけ。
しかもそのうちの1ヶ所は東京中央学園上野高校の旧校舎(木造校舎。現在は教育資料館に改築済)にある為、封印されている。
もう1ヶ所はワンスターホテルの地下にある。
エレーナのもう1つの顔は、この魔界の穴の番人である。
ホテルで住み込みのバイトというのは表の顔に過ぎない。
勇太:「都営大江戸線ですぐにでも向かいたいところですが、その前にやることがあります」
マリア:「分かってる」
2人は未だ朝ラッシュの余波が残る駅構内に入ると、みどりの窓口へ向かった。
東京山手線内の駅でも閑散としている方の部類に入るが、そこは東京山手線内。
決して寂しい駅ではない。
ターミナル駅の1つ、上野駅と秋葉原駅の間に挟まれているが為に目立っていないだけだ。
近隣には地下鉄が3本も通っている。
で、そのうちの1本の地下鉄に乗ればいいはずの2人が、本来は用の無いJR駅に入った理由は……。
勇太:「本当はこれから北陸新幹線に乗って帰るはずだったんですけどね。本当に払い戻しじゃなくていいんですか?」
マリア:「師匠がああ言ってたんだからいいだろう。ああ見えても、グランドマスター(大魔道師)だ。予知能力はズバ抜けて高いものがある」
魔道士は弟子を取る資格の無い魔法使いのこと。
魔道師は弟子を取る資格の有る魔法使いのこと。
英語ではしっかり分けられているのだが、日本語では上手く分けられていない為、当作品では『士』と『師』で分けることにする。
西洋の存在なので、それが日本に輸入された際、当時の日本人は上手く和訳できなかったようだ。
魔道士という単語も比較的新しいものである。
駅員:「いらっしゃいませー」
勇太:「すいません、予約した新幹線の乗車変更をしたいんですけど……」
駅員:「かしこまりました」
帰りの列車の便も変われば、人数も座席も変わる。
具体的には帰りの列車は数日後の夕方になり、しかもイリーナが引率する形になる。
その為、座席も普通車からグリーン車へとグレードアップする。
弟子の身分が上級席に座ることは通常許されていないが、師匠が引率する場合は例外とされている。
また、ビジネスクラスだと、更にランクが分けられている場合がある(ただのビジネスクラスなのか、それともプレミアムエコノミーなのか?また、ファーストクラスでもマイレージなんかでエコノミークラス並みに安く買った場合は良いのか?等)為、結局は組単位での取り決めということになっている。
イリーナ組の場合、『弟子のモラルに任せる』という投げやりっぷりだ。
因みに大魔道師達を見ていると、彼女らでさえ、ファーストクラスは避けてビジネスクラスに乗ることが多い。
新幹線のグリーン車はファーストクラスのようであるが、JR東日本が本当のファーストクラスという意味でグランクラスをリリースした為、グリーン車はビジネスクラスという位置付けになってしまった。
その為、イリーナが同行する場合はグリーン車ということになる。
駅員:「それでは稲生様、変更内容が……」
大幅に変更することになったので、少し時間が掛かった。
それでも、希望通りの列車と座席を確保することができた。
因みに……。
勇太:「ありがとうございます。因みに、その列車の普通車はもう空いてませんよねぇ?」
駅員:「席自体はまだ空いているんですが、3人様横一列の席はもうお取りすることができない状態です。窓側席はもう既に一杯で……」
勇太:「ですよね。どうもすいません」
駅員:「いえ、ありがとうございました」
席がまだ余裕で空いているのは、グリーン車とグランクラスのようだ。
勇太は3人分のキップをしまいながら、みどりの窓口を出た。
マリア:「あの旅行客、券売機で格闘しているよ」
マリアはインバウンドの旅行客を見て言った。
マリアと同じ白人であるが、こうした光景は都内の駅でよく見かける。
勇太:「まだ指定席券売機は使いにくいですかねぇ……」
マリア:「こっちには日本人がいるから楽だ」
勇太:「ありがとうございます。……ってか、券売機も外国語に表示やアナウンスを切り替えることができるんですけどね」
マリア:「その切り換えのボタンに気づくかどうかだ」
勇太:「ああ、なるほど。……え?マリアさん、気づかなかったです?」
マリア:「悪かったな」
[同日09:20.天候:晴 台東区上野 都営地下鉄上野御徒町駅]
上野駅なのか御徒町駅なのか分からない名前の駅だが、恐らく所在地区名とJR御徒町駅に近接するという意味でそのような名前が付いたのだと思われる。
〔まもなく2番線に、両国方面、清澄白河行き電車が到着します。ドアから離れて、お待ちください〕
接近放送が駅構内に響き渡る。
マリア:「清澄白河行き……」
勇太:「大丈夫ですよ。あれは森下駅の次の駅ですから」
マリア:「そうか」
あれも清澄地区と白河地区に跨っている為に、両方の地区名を駅が名乗っているだけに過ぎない。
都営大江戸線では、このような駅名が他にも存在する。
勇太:(清澄というと、千葉県の清澄寺を思い浮かべるんだよなぁ……)
電車がホームに到着する。
ホームドアが先に開いて、それから電車のドアが開く。
〔上野御徒町、上野御徒町。銀座線、日比谷線、JR線はお乗り換えです〕
この駅で降りて来る乗客は多かった。
通勤導線としては逆方向なのと、途中駅止まりのせいか、それで車内が閑散となる。
先頭車に乗り込み、ファインレッドのモケットが張られた硬い座席に座った。
車両側面のスピーカーから、短い発車メロディが流れる。
〔ドアが閉まります。駆け込み乗車は、おやめください〕
ホームドアと車両のドアが閉まった。
駆け込み乗車は無かったらしく、すぐに発車する。
〔次は新御徒町、新御徒町。つくばエクスプレス線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Shin-Okachimachi.Please change here for the Tukuba Express line.〕
マリア:「師匠は先にホテルに着いたらしい」
勇太:「ルゥ・ラですか。さすが先生は早いですね」
マリア:「こういう時はね」
勇太:「それにしても、先生も御一緒なら、僕じゃなくて先生に手紙を送れば良かったのに……」
マリア:「その辺は女王様の性格だろう。安倍首相の苦労が少しは想像できるよ」
勇太:「魔王を討伐した勇者、あえて倒した魔王を王座から引きずり下ろすようなことはせず、再び王座に担ぎ上げました……」
マリア:「共和制が上手く行かなかったからだろう」
勇太:「向こうの王国も大変ですね」