報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アリスのリハビリ」 2

2020-06-28 20:08:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月26日12:00.長野県北部山中 マリアの屋敷 視点:稲生勇太]

 イリーナ:「ん?お昼の時間なのに、まだ誰も来ないねぇ……」

 イリーナが1階の大食堂に行くと、まだそこには誰もいなかった。
 マリアのメイド人形が昼食の用意をしている。

 稲生:「あ、先生。すいません」
 イリーナ:「どうしたの?何か、随分と盛り上がってたみたいだけど……」
 稲生:「は、はあ……」

 稲生は言い難そうだった。

 イリーナ:「多分、勇太君は悪くないと思うから、正直に言ってごらん?」
 稲生:「実はアリスのリハビリに力を入れ過ぎて、却って、体を痛める結果となってしまいまして……」
 イリーナ:「中庭から随分と工事現場のような賑やかな音と振動がしてたと思ったら、それねぇ……」
 稲生:「マリア……さんはゴーレムを動かし過ぎてMPが0になり、アリスはゴーレムに殴り飛ばされてHP0になりました」
 イリーナ:「若いっていいわぁ……。だけど、ちょっと説教しておかないとね」
 稲生:「すいません。僕は2階からコントローラーで操作していただけなんですが、アリスが思ったほど強かったもので、僕も熱が入っちゃって……」
 イリーナ:「しかも操作係がゲーマーの勇太君とはね……」
 稲生:「とても今、2人は昼食を取れるどころでは……」
 イリーナ:「……マリアにはエーテル、アリスにはポーションの使用を認めるわ。但し、勇太君の昼食の後にね」

 エーテルとはMPの回復薬、ポーションとはHPの回復薬のことである。

 稲生:「は、はい」

 昼食にはパスタが出た。
 稲生には好物のミートソース。
 イリーナにはボロネーゼが出た。
 どちらも似たようなものだが、どうも作り方が違うらしい。
 食べ終わると、食後のコーヒーもそこそこに、稲生はマリアとアリスの部屋に向かった。
 まずは、アリスの部屋。

 稲生:「マリア、ちょっといい?」

 稲生はマリアの部屋のドアをノックした。

 マリア:「……なに?」

 ドアを開けたマリアはブラウスだけを着た状態で、下のスカートは穿いていなかった。
 それと、顔色が悪い。
 MPが0になった魔法使いの症状の1つである。
 どうやらベッドに横になっていたようである。

 稲生:「これ、エーテル。これでMPを回復させて。で、回復したら食堂に来るようにって」
 マリア:「あ、うん。分かった……」

 マリアはやっと自分の恰好に気づいたか、恥ずかしそうにブラウスの裾を引っ張った。

 稲生:「それじゃ……」

 稲生はマリアのエロい恰好に、飛びそうになる理性を何とか押さえ、部屋をあとにした。

 稲生:「ふぅ~、落ち着け、落ち着け……。まだ昼だぞ、まだ昼……」

 そして今度はゲストルームに向かった。

 稲生:「アリス……アリス卿。稲生勇太です」

 部屋をノックする。

 アリス:「何だ?たかがゴーレムに負けた私を嗤いに来たのか?」
 稲生:「なワケないでしょう」

 アリスは鎧を脱いで綿入れの姿をしていた。
 所々、手足に包帯を巻いている。
 せっかく魔法で塞がった傷が開いたのと、ゴーレムとの戦いで新たに傷が付いてしまったのだ。

 稲生:「これ、うちの先生からです。その傷だと……うーん……ただのポーションより、ミドルポーション……いや、ハイポーションの方がいいですね」
 アリス:「すまない」
 稲生:「これでHPを回復したら、先生が話があるというので、食堂まで来るようにとのことです」
 アリス:「ああ、分かった。どんな話がされるのかは分かっている。大いに反省の弁を述べさせてもらうとしよう」
 稲生:「それじゃ、また」

 稲生はゲストルームをあとにした。

 稲生:(騎士様はガードも堅そうだ)

 稲生が自室に戻り、自分のレベルに見合った魔導書を読んでいると、ダニエラがコーヒーを持って来た。

 稲生:「ありがとう」

 稲生が礼を言うと、ダニエラが顔を近づけて来た。
 稲生に何か報告があると、ダニエラは顔を近づけて来て、まるで内緒話をするかのように、コソッと言うことが多い。

 ダニエラ:「1F大食堂において、『暴風』『雷』警報が発令されました。解除まで、西側への接近を控えるよう進言致します」
 稲生:「先生のマリアとアリスに対する説教が始まったか。それでもアリスは騎士団員だし、さすがの先生も手加減するだろうけどね。問題は、マリアかぁ……」

 ゴーレムを召喚し、動力たる魔力を付与したのはマリアであるが、それを操作したのは稲生である。
 なので稲生にも責任があるような気がするが、イリーナは稲生には責任を追及しなかった。
 恐らく、こういうのはきっかけを作った者が全ての責任を負うべきというイリーナの考えなのだろうか。

 稲生:「それにしても、マリアのスカートだけ脱いだブラウス姿もエロかったな。今度、あの恰好で僕の部屋に来てもらえないかなぁ……」
 ダニエラ:「面と向かって頼もうものなら、恐らく思いっ切り殴られるものと思われます」

 ダニエラは無表情に近い微笑を浮かべて、稲生のエロ妄想にツッコミを入れた。

[同日15:00.同屋敷1F大食堂 視点:稲生勇太]

 クラリス:「ティータイムです」
 稲生:「おっ、ありがたい。……って、僕1人だけ?」
 クラリス:「イリーナ様は、部屋でお休みになられています」

 マリアとアリスに思いっ切り説教をしたものだから疲れてしまったのだろう。

 稲生:「で、マリアとアリスは先生にメチャクチャ怒られたから、部屋でヘコんでる?」
 クラリス:「いいえ。地下のプールで別のリハビリをしております。マスターがお客様のリハビリに付き合っているという形ですね」
 稲生:「何だかんだ言って、マリアも面倒見いいな。魔法使い以外の友達が欲しいのかな?」

 マリアの実年齢はともかく、見た目年齢に関してはアリスとほぼ同じだ。
 人間時代、同級生達に悉く裏切られ続けたマリアにとって、アリスは魔道士とも違うタイプであり、少し新鮮味でもあるのだろうか。

 稲生:「ん、待てよ。水泳でリハビリというのは分かるけど、アリスって水着持ってたっけ?」
 クラリス:「いいえ。スキニー・ディップ(全裸水泳)です」
 稲生:「! 僕だけティータイムってわけにもいかないから、ちょっと2人を呼んで来るね!」

 稲生は両目をハートマークにすると、地下への階段があるエントランスホールへのドアへ向かった。
 が!

 稲生:「がっ!?」

 いきなりドアが開けられ、稲生は開いたドアに激突した。

 マリア:「その必要は無い」
 アリス:「ティータイムって言うから戻って来たぞ」
 稲生:「いっ、いてててて……!お、お疲れさまです……」

 稲生は顔を押さえながら、何とか取り繕おうとした。

 アリス:「それにしても、まさかこの屋敷の地下にプールまであるなんて凄いな!私の家でも、さすがに大きめのバスタブがあるだけだぞ!」
 マリア:「私は泳ぎが苦手でね、師匠がその練習もできるようにって造ってくれたんだ」
 アリス:「そのプールに、躊躇無く裸で入ったけど、いつもそうなのか?」
 マリア:「いつもは水着を着るけど、スカイクラッドの一環で裸で入ることもある」

 魔女達の中で全裸で儀式を行うグループの名前がスカイクラッドと言い、ウィキペディアでも説明されている。
 ダンテ一門においては、特に難しいことをするわけではない。
 暑気払いでここのプールに入る時、最初は水着を着ているものの、盛り上がってきたらそれを脱いで全裸になったり、あとは日本で温泉に入る時に裸になるくらいである。
 マリアがアンナと2人でホテルの大浴場に入った時も、しっかりスカイクラッドの儀式の1つとして報告に上げていた。
 もちろんそれは女性の魔道士に限られることである為、稲生は排除される。

 稲生:「たまにエレーナが誘ってくれることもあるけど……」

 稲生がボソッと呟いたが、マリアはそれを華麗にスルーした。

 マリア:「他にもローブの下は全裸で外を歩いたり?」
 アリス:「うわ、ヘンタイ……」
 マリア:「いや、私はしないよ。ガチでそういう流派もあるって話。うちは違うけどね」

 本当の話である。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AD%94%E5%A5%B3#%E9%AD%94%E5%A5%B3%E3%81%A8%E8%A3%B8
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“大魔道師の弟子” 「アリスのリハビリ」

2020-06-28 16:07:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月26日08:00.長野県北部山中 マリアの屋敷 視点:稲生勇太]

 朝食の時間になり、アリスが部屋から出て来た。
 案内するのはメイド人形のミカエラである。
 急いで洗濯、乾燥した服を着ていた。
 鎧の下に着る、いわゆる綿入れを着ている。
 ワインレッド系のノースリーブのワンピース型であった。
 騎士なので、いわゆる金を自分で稼ぐ傭兵などとは違い、ビキニアーマーなどは着ない。

 稲生:「Good morning!Sir.Links!」

 稲生は立ち上がってアリスに挨拶した。
 見た目が赤毛の白人なので、アルカディア王国第2公用語の英語で挨拶した。

 アリス:「Year.あなたが私を助けてくれた日本人?」

 アリスは英語で頷いた後、第1公用語の日本語で返して来た。

 稲生:「たまたま帰りの道すがら、あなたを発見しただけです。そして、この家にお連れしました」
 アリス:「そう。助けてくれてありがとう。私はアルカディア王国騎士団のアリス・リンクス。確かに叙勲はされているから、『Sir』と呼ばれるけど、ここでは単に『アリス』でいいから」
 稲生:「でも……」
 アリス:「あなた、名前は?」
 稲生:「あ、稲生勇太と言います」
 アリス:「よろしく。稲生」
 稲生:「よろしくお願いします」
 イリーナ:「さてさて。挨拶も済んだし、朝食と行こうかね」

 アリスの毛が本当に赤いのに対し、イリーナの赤毛はどちらかというと、赤茶色に近い。
 因みによくアメリカンドラマで、何人か出てくる白人の女の子のうち、大抵1人は『ジンジャー』と呼ばれる子が出てくるが、元々は『赤毛の子』という意味とのこと。
 黒人や黄色人種では、素の赤毛はいない為、彼女らが『ジンジャー』と呼ばれることはない。
 もっとも、ドラマを観ている限りでは、どういうわけだか、赤毛ではないのに『ジンジャー』と呼ばれる子もいるが(今はただ単に『赤毛だから』そう呼ばれるわけではないのかもしれない)。

 イリーナ:「体の具合はどうだい?」
 アリス:「昨晩よりはいい。ただ、まだ体が時々痺れる。……痺れるというのは、どういうことだろう?」
 イリーナ:「その『痺れ』というのは、本当は『痛み』なの。だけど、回復魔法ってのは『痛み』も取り去ってくれるから、それで本来、傷痕が疼く『痛み』が、代わりに『痺れ』という形で現れるのよ」
 アリス:「では、私のケガは見た目だけで、本当は治っていないと?」
 イリーナ:「そういうことよ。あくまでも回復魔法というのは、戦闘中にHPが0になって『戦闘不能』になるのを防止する為の魔法。だから、あなたのHPは今はマックスになっているはずよ」
 アリス:「なるほど。これはまた士官学校とは違うことを言われるものだ」
 イリーナ:「士官学校には魔道士はいないからね」
 マリア:「でも師匠、今のHPとかの表現、勇太の受け売りでは?」
 イリーナ:「日本のRPGは表現方法として面白いからいいわ」
 アリス:「すまん。ちょっと何言ってるか分からない……」
 稲生:「すいません。魔道士の会話で……」
 アリス:「『痺れ』が治まることが、イコール私のケガが完治するということでいいんだな?」
 イリーナ:「そんなところね」

 イリーナは大きく頷いた。

 イリーナ:「ケガが治るまで、ここで療養するといいわ。そうそう。騎士団本部には連絡が付いてね、『ケガが治ってからで良い』ということだったわ。だから、安心してゆっくり養生なさいな」
 アリス:「凄いな!どうやって騎士団本部に連絡を取ったのだ?」
 マリア:「アリス。うちの師匠は元・宮廷魔導師だ」
 アリス:「! そんなに偉い型だったとはっ!とんだ御無礼を!」

 アリスは慌てて椅子から立ち上がると、すぐにイリーナの前に片膝を付いて畏まった。

 イリーナ:「いいのよいいのよ。どうせ、バァルの爺さんの介護……じゃなかった。御守りしてただけだから」
 アリス:「宮廷魔導師の経験のある方とあらば、このような立派な屋敷に住まわれているのも十分納得が行く」
 稲生:「アリスも貴族の出でしょう?このくらいの屋敷に住んでるんじゃないの?」
 アリス:「いや、私の実家はここまで大きくはない。爵位も子爵程度で……」
 稲生:「男爵よりも上だ!凄いじゃない!」
 アリス:「いや、父が名誉の戦死を遂げたので、それで上がっただけのこと。本来、元々は男爵だったんだ」
 稲生:「なるほど。お父さんの後を継いで、騎士に……」
 アリス:「いや、兄が既に別の騎士隊の隊長をしている。子爵の爵位も兄が受け継いだ。兄妹で同じ隊にいるわけではない」
 稲生:「何だか圧倒されちゃうな。僕なんか絶対に叙勲されることがない……」
 イリーナ:「そもそもが、日本にはもう貴族制度も華族制度も無くなったから、ピンと来ないでしょ?」
 稲生:「そうですね」
 イリーナ:「貴族は『絶対的上級国民』とでも思えばいいんじゃないかしら」
 稲生:「ああ、なるほど」
 アリス:「あの、1つお願いがあります」

 アリスはイリーナに向き直った。

 イリーナ:「ああ、心配要らないわ。ケガが治ったら、王国へ帰してあげるから」
 アリス:「いえ、そうではありません。このまま寝ているだけだと体が鈍ってしまうので、リハビリをさせてはもらえませんでしょうか?」
 イリーナ:「リハビリねぇ……」

[同日10:00.同屋敷・中庭 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 アリス:「でやぁーっ!!」

 マリアが魔法で命を吹き込んだ失敗作の人形に斬り掛かるアリス。

 マリア:「ちっ!」

 マリアは両手に持った『見えない操り糸』で人形達を操っているが、アリスを翻弄させてやるつもりが、逆にバッタバッタと斬られていく。

 アリス:「くっ……!」

 ビリッとアリスの左腕に痺れが走る。
 見た目に傷は無いが、稲生に助け出された時、出血していた部分だ。

 マリア:「それだけ戦えれば、十分なんじゃないの?」
 アリス:「いや、まだだ!もう一回!」
 マリア:「もう代わりの人形は無いって。……あ、そうだ」

 マリアは何かを思いついた。

 マリア:「デカ物だけど、戦ってみるか?」
 アリス:「上等だ!来い!ゴーレムでも何でも、倒してみせるさ!」
 マリア:「うん。正しくそのゴーレムなんだけど」

 主人公の敵役の魔法使いがよく使役する巨大人型人形だ。
 但し、ゲーム作品によっては敵としてではなく、味方として、あるいは仕掛けを解く為のギミックとして登場することもある。
 マリアが召喚したのは顔の無いマネキンで、ボブ・サップみたいな体型をしたものである。

 アリス:「何だ、こんなものか。もっと大きいかと思った」
 マリア:「せっかく魔法で治ったケガが、また開いても知らないぞ」
 アリス:「分かってる。行くぞ!」

 アリスはゴーレムと対峙した。

 マリア:(騎士も所詮は根性論の体育会系か……)
 アリス:「何だ!?さっきの人形達よりも動きが細かいぞ!?」
 マリア:「だから、ただのゴーレムじゃないんだって」

 マリアはニヤリと笑いつつ、チラッと2階の窓を見た。
 そこには何故か、ゲームのコントローラーを握った稲生がいた。

 稲生:「せっかくPS4で遊ぼうと思ってたのに……」
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