報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「人間界に飛ばされて」

2020-06-10 20:05:25 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月9日20:00.岩手県岩手郡雫石町 旧国鉄橋場線・橋場駅跡 視点:マリアンナ・ベルフェゴール・スカーレット]

 マリア:「It heart...」

 列車は右に45度ほど傾いた状態で止まった。

 イリーナ:「皆……生きてる……?」
 稲生:「何とか……」

 マリアはその時、車両の後ろに気が付いた。

 マリア:「師匠、燃えてます!早く、列車の外に!」
 稲生:「窓の外から出られます!」

 客室の割れた窓から列車の外に避難する。
 後ろの車両を見ると、3号車から後ろは無かった。
 亜空間トンネル内で連結が外れて取り残されたか、或いは他の出口から出てしまったのかもしれない。

 マリア:「とにかく、早く逃げましょう」
 イリーナ:「ちょっと待って。パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……Care lu la!」

 イリーナは回復魔法を掛けて、マリア達のHPを回復させた。
 これで車内での戦いや、今の事故の衝撃によるケガが回復する。
 直後、ボンッ!という小爆発と共に、先頭車の1号車にも引火した。
 というか、列車の周りは山林のようで、そこにも火が燃え移っている!
 漏れ出した軽油に引火しているらしい。

 マリア:「ここから離れましょう!ここがどこだか知りませんけど!」
 イリーナ:「ここがどこだか分からないと、ルゥ・ラが使えないわ!勇太君、大至急検索して!」
 稲生:「わ、分かりまし……」

 ボーンッ!

 稲生:「うわっ、また爆発した!」
 マリア:「取りあえず、あそこから逃げましょう!」

 マリアは朽ち果てた石段を指さした。

 イリーナ:「冥鉄の列車は鉄道以外の所に出るわけが無いのに、これは一体どういうことなのかしら!?」
 マリア:「分かりませんよ!だいぶ前の時みたいに、廃線跡に出たんじゃないんですか!」

 石段を駆け下りる。
 だが、マリアの言う通り、本当に廃線跡なのだろう。
 石段自体がボロボロになっていて、足を乗せる度に崩れてしまう。

 稲生:「逆に危ないですって、これ!」
 マリア:「そんなこと言ったって……!」

 その時、マリアはふと気づいた。

 マリア:「師匠!あれですよ!あの魔法があったでしょ!?フライ・ルゥ・ラ!」
 イリーナ:「その手があった!」

 フライ・ルゥ・ラというのは瞬間移動魔法たるルゥ・ラの亜種で、要はセルフ・テレキネシスのことである。
 つまり、瞬間移動するのではなく、自分の体を浮遊させる魔法である。
 それでもそこそこ難しい魔法なのか、ある程度階級の高い魔道士が見せびらかす移動を楽する為に使用することが多い。

 イリーナ:「Fly ru ra!」
 稲生:「おおっ!?」

 イリーナが魔法を唱えると、3人の体が宙に舞う。

 稲生:「わっ、とととと!」
 マリア:「落ち着いて!」

 稲生は突然自分の体が宙に舞い上がったことで、半分パニックになった。
 マリアが落ち着かせようとすると、マリアに抱き着いてしまう。

 マリア:「ちょ、ちょっ……!もう……」
 イリーナ:「あなた達、上空でイチャつかないの」
 マリア:「……だってさ。勇太、離れて」
 稲生:「びっくりしたぁ……」
 イリーナ:「それより、あれ見て」

 イリーナはさっきまでマリア達がいた事故現場を指さした。
 赤々と列車が燃え、引火した山林が燃え上がっている。
 近くの道路に消防車が何台もやってきた。
 で、気づいたことがある。

 稲生:「すっごい田舎ですね……」
 マリア:「あ、逆にここなら安全だ。勇太、ここがどこだか検索して」
 稲生:「あ、はい」

 稲生はスマホを取り出した。
 これでグーグルマップを立ち上げ、現在地を検索する。

 稲生:「岩手県岩手郡雫石町!?マジかよ……」
 マリア:「遠いの?屋敷から?それとも勇太の家から?」
 稲生:「どっちもです!じゃあ、あの場所って、田沢湖線の旧線かな?確かそこの終着駅の橋場駅って所が廃止になったって聞いたけど……」
 マリア:「私の予想が当たりなら、きっとそこだよ。で、この近くに駅は?旧線がそれなら新線があるでしょ?」
 稲生:「もちろんです。えーと……この近くだと……赤渕駅って所ですね」
 イリーナ:「その駅はここから遠い?賑わってる?」
 稲生:「ここから約1.5キロってところです。ここから1.5キロ行ったところで、栄えているとは思えませんね。……ああ、やっぱり無人駅みたいです」
 イリーナ:「よし。だったら、そこに舞い降りても大丈夫ね。方角は?」
 稲生:「この下の道路……恐らく、国道46号線ですね。その沿道にあるので、この道沿いに行けばすぐです」
 イリーナ:「よし、そこまで行くわよ。……いえね、人の多くいる場所に舞い降りたら大騒ぎなるからね」
 マリア:「そりゃそうだ」

 市民達に不思議がられてはいたものの、“魔女の宅急便”のキキの、コリコシティ内における低空飛行はもっと大騒ぎになる事態であったはず。

 稲生:「で、問題がまだあります」
 イリーナ「なぁに?」
 稲生:「こういうローカル線、終電がメチャクチャ早かったりするんですが、果たしてもう終電の時間じゃないのかなーって……」
 イリーナ:「……取りあえず駅に行ってみましょう」

[同日21:00.同町内 JR田沢湖線・赤渕駅 視点:稲生勇太]

 稲生:「取りあえず、買って来ました!」
 イリーナ:「ああ、ありがとう」

 稲生は買って来た飲み物をイリーナとマリアに渡した。
 駅周辺に民家は立ち並んでいたので、けして寂し過ぎる場所ではない。
 家々には明かりが灯っているし、そもそも駅前の国道自体が岩手県と秋田県を結ぶ動脈ということもあって、特に長距離トラックが多く行き交っている。
 しかし、それ以外は確かに寂しい。
 駅前に駐輪場はあるものの、数えるほどしか自転車は止まっておらず、無人駅ということもあってか、駅舎は無いし、キップ売り場も改札口も無い。
 そして、そもそも自動販売機すら無かった。
 誰もいないホームから周辺を見渡している時、ようやく見える場所に自動販売機を見つけたので、稲生が急いで買いに行ったのである。
 で、肝心の電車の方はどうなのかというと……。

 稲生:「21時9分発の盛岡行き最終、そろそろ来るんじゃないですか?」

 近くで踏切の警報機の音が聞こえた。
 稲生が駅の前後を見る限り、上り方向の出発信号機は赤になっている。
 しかし、下り方向の出発信号機も赤になっていた。
 これは下り電車がこの駅に到着して、折り返し上り電車になることに他ならない。
 だから、下り場内信号機は黄色信号1つの『注意』または2つの『警戒』になっているはずである。

 稲生:「おおっ、あの電車だ」

 無人駅だからだろうか、接近放送などは無く、上り方向から『ワンマン』『赤渕』と表示された普通列車がゆっくりとホームに入線してきた。

 稲生:「これが折り返し、上りの最終電車になるはずです」
 イリーナ:「良かったわねぇ。終電間に合って……」
 マリア:「まだ21時過ぎなのに……」

 降りて来た乗客は思ったよりもいた。
 恐らく駅前の駐輪場に自転車を止めている乗客もいるし、よく見ると駅前広場に車が何台か止まっているから、迎えの車だろう。
 地方ではよく見られる光景だ。

 稲生:「ていうか先生、これ絶対、盛岡市内で一泊しないといけないパターンだと思います」
 イリーナ:「大至急、今夜泊まれるホテルを検索して予約して。条件は問わないわ」
 稲生:「了解しました」

 稲生の目論見通り、電車は『ワンマン』のままであったが、行き先を『盛岡』に表示を変更した。
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“大魔道師の弟子” 「冥鉄999D列車の最期」

2020-06-10 14:56:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月9日20:30.冥界鉄道公社999D列車1号車内 視点:稲生勇太]

 人間界への避難列車に攻め込んで来たミッドガード共和国の兵士達。
 列車は今正に制圧されようとしていた。
 しかし、兵士達に誤算が発生した。
 『自動運転』の冥鉄列車を『手動』に切り替える方法が分からないらしい。
 あいにくと兵士達はこの列車を制圧する一環で、車掌達を全員射殺してしまっていた。
 そこでイリーナは一計を案じ、鉄ヲタで取りあえずハンドル操作だけなら知っている稲生を運転席に連れて行くよう、兵士達に交渉し……。

 兵士A:「どけっ、道を開けろ!」
 兵士B:「邪魔だ!退かんか!」

 イリーナ達は兵士達に前後を挟まれ、避難民で混雑する普通車内を運転室に向かって移動した。

 兵士A:「このバカたれ!車内放送で連絡するアホがどこにいる!?」
 兵士C:「す、すいません」
 兵士A:「何でこんな新兵にやらせたんだ?」
 兵士D:「隊長が、『こういうのは若い兵隊の仕事だ』って言ってて……」
 兵士A:「いや、違う。隊長はそういう意味で仰ったんじゃないと思う」
 兵士B:「そりより、自称『鉄道に詳しい』ヤツを連れて来たぞ」
 兵士E:「これがターゲット?」
 兵士A:「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
 稲生:「多分……」
 兵士B:「できなかったら射殺する」
 稲生:「やっぱり……」

 運転席に行くと、まるでそこに透明人間の運転士がいるかのように、ハンドルがガチャガチャと動いていた。
 スピードメーターを見ると、時速90キロ辺りを指している。
 このキハ58系の最高速度は95キロなので、だいたい最高速度で走行していると言える。

 稲生:「どれ……」

 稲生は運転席に座ってみた。
 確か以前乗り込んでしまった埼京線205系を使用した冥鉄電車も、ハンドルだけが自動でガチャガチャ動いていたのだった。
 あの時はどうしていたか……。
 いや、この列車を停車させるというのなら、後ろにある車掌用の緊急ブレーキを引っ張れば良い。
 尚、電車の運転台にはある赤い緊急ブレーキボタンが、このキハ58系には無かった。

 稲生:(さて、どうしたものか……)

 稲生はあちこち機器を触ってみた。
 だが、何がどうなるというわけでもない。

 兵士A:「おい、何をしている?早く手動に切り替えろ!」
 兵士B:「できなきゃ、まずコイツを殺す」
 マリア:「うっ……!」

 兵士Bはマリアの頭にショットガンを突き付けた。

 稲生:「え、えーと……」

 そこで稲生、パッと嘘を思いついた。

 稲生:「ま、まず……このままでは自動運転装置を解除することができない」
 兵士A:「なにっ!?」
 兵士D:「ぬねの」
 兵士B:「おい!」
 兵士D:「……コホン。スマン」
 稲生:「この列車は乗客を人間界に無事に運ぶよう、設定されている。その設定を解除しないとダメだ」
 兵士A:「だから、どうしたらいい?」
 稲生:「この列車は意識を持っていてね。要は生き物と同じだ。ということは、『勘違い』させればいい」
 兵士A:「勘違い?」
 稲生:「この列車は『実は回送でした』と誤解させるんだ。そしたら設定変更の動きをするだろうから、その動きを突いて『手動』に切り替えられる」
 兵士A:「どうすればいいんだ?」
 稲生:「まず、この車両にいる乗客達を全員、後ろの車両に避難させてくれ。なるべく後ろ、後ろに……。この長い編成だから、『運転士』も後ろの車両のことは分からないはずだ。少なくとも、この車両だけでも回送状態にさせるんだ。それで、『誤解』させてみる」
 兵士A:「それで『手動』にできるんだな?」
 稲生:「やってみなきゃ分からない」
 兵士A:「その言葉、忘れるな。よし、乗客を全員後ろの車両に送り込むぞ!CとDはここに残って、こいつらを見張ってろ。妙な動きをしたら、即刻射殺して構わん」
 兵士C:「はっ!」
 兵士D:「了解」

 兵士達は1号車の乗客に銃を突きつけ、2号車から後ろに誘導した。
 稲生がイリーナに目配せをする。

 稲生:(僕にできるのはここまでだ……)

 イリーナは稲生の目配せに目を細めて微笑を浮かべた。

 兵士C:「な、なあ?人間界のアキバってどんな所なんだ?」
 マリア:「面白い街だよ」
 兵士D:「そうか。オレ、この戦争が終わったら、人間界入境資格を取って、アキバに遊びに行くんだ」
 稲生:(『この戦争が終わったら、○○したい』というのは、死亡フラグなんだけど……)

 兵士CとD以外の兵士や乗客達が1号車から出て行った。
 その直後、運転室の後ろにあるデッキの乗降ドアの窓ガラスが破られた。
 そこから『人質』にされていた魔法の杖が飛び込んで来る。

 兵士C:「な、何だ!?」

 魔法の杖達は兵士CとDの頭やをみぞおちを攻撃し、一気にダウンさせた。

 兵士A:「な、何だ!?」
 兵士B:「何事だ!?」
 マリア:「私達の列車からとっとと降りろ、クソ野郎共!」

 マリアは兵士CとDが持っていた手榴弾を投げつけた。
 どうしてマリアが手榴弾の使い方を知っているのかは、【お察しください】。

 兵士A:「ぐわっ!」
 兵士B:「ぎゃっ!」

 最初に投げたのはCが持っていた手榴弾。

 兵士E:「撃てっ!撃てっ!」

 今度は兵士Dが持っていた手榴弾を投げた。

 稲生:「ちょっと待った、マリア!気動車でそんなもん爆発させたら……!」

 だが、遅かった。

 兵士E:「!!!」

 キハ58系は耐火構造になっているのだろうか?
 少なくとも、燃料に軽油が使われていることは否めない。

 稲生:「うわっ、引火した!」
 イリーナ:「ちょっとマリア、何やってんのよ!?」
 マリア:「S-Sorry!ディーゼルエンジン搭載だってこと、忘れてました!」

 車内の構造的には、165系や455系などの急行形電車と似ているからか。
 しかし……。

 稲生:「ああっ!消火器が無い!」
 イリーナ:「こうなったら、イチかバチかで吹き飛ばすわよ!」

 イリーナは魔法を唱えた。
 が、その前に、後ろの車両で爆発音がした。

 稲生:「うわっ!」

 爆発の衝撃で車両が大きく揺れる。
 それだけではない!床下から大きな揺れがした!

 稲生:「だ、脱線した!」
 マリア:「ええっ!?師匠、早く緊急離脱を!」
 イリーナ:「無理よ!亜空間トンネルの中じゃ!」
 稲生:「と、取りあえず、体を低くしてどこかに掴まって!」

 稲生は運転台のハンドルにしがみ付くような体勢になった。

 稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!早くトンネルを抜けてくれーっ!」

 稲生の祈りが通じたか次の瞬間、トンネルの中ならではの響く走行音が無くなり、開けた感じがした。
 が、また次の瞬間、大きな衝撃が3人を襲った。

 稲生:「ぶ、ブレーキ!」

 稲生は右手にあるブレーキハンドルを思いっ切り右に回した。
 どうやら本当に『手動』に切り替わったのか、列車が思いっ切り減速していく。
 だが、途中で何かにぶつかったりしながらの減速、そして急停車であった。
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