報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「鬼首温泉へ」

2020-09-13 22:24:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月26日14:45.天候:曇 宮城県大崎市岩出山池月 あ・ら・伊達な道の駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 善場主任の依頼で私は、高橋やリサと一緒に鬼首温泉に向かっている。
 その途中、国道47号線(国道108号線との重複区間)上にある道の駅に休憩で立ち寄った。
 入口の交差点を左折して入る。
 平日だからか、そんなに駐車場は混んでいなかった。
 道の駅は観光施設も兼ねているので、週末はもっと賑わうはずだ。

 愛原:「どれ、ちょっとトイレ休憩するか」
 高橋:「俺は一服してから行きますんで」
 愛原:「ああ、分かった」

 古川駅で借りたレンタカーが禁煙車である為に、高橋は車の中でタバコを吸えなかった。
 道の駅には喫煙所があるので、そこで思いっ切り吸えるだろう。
 私とリサは、まずはトイレに向かう。
 それからせっかくなので、施設の中も覗いてみた。

 リサ:「色々売ってる」
 愛原:「土産物だけじゃなく、農産物の直売所もあるのか。“ベタな道の駅の法則”通りだな」

 高橋はここでタバコを買い足したようだ。
 私はおやつ代わりにパンを買って行く。
 リサは屋外店舗に興味を示した。

 リサ:「スペアリブください」
 店員:「ありがとうございます」

 おいおい、私はついソフトクリームでも頼むのかと思ったぞ。
 しかしリサが頼んだのは肉だった。

 愛原:「いいのか?ソフトクリームじゃなくて」
 リサ:「こっちの方が美味しそうだったから」
 愛原:「そうか」

 道の駅を回った後は再び車に乗り込み、鬼首温泉を目指す。
 途中、栗駒方面に向かう国道457号線の交差点に差し掛かるが、当然そこには入らない。
 私達が辿るは108号線である。
 で、懐かしの鳴子温泉が近づいてくる。
 あの時、餓鬼の襲撃を受けたホテルは営業を再開していると聞く。
 新型コロナウィルスの影響を受けていないといいが。

 高橋:「あれ?」

 十字路交差点の赤信号で止まる高橋。
 右折して橋を渡る方が108号線だと、青い看板に書かれている。
 しかし、ナビの方はまだ直進であることを示していた。
 私はナビをタップして、先の方を見た。

 愛原:「ああ。こっちは旧道だよ。で、ナビの方は新道の方を指しているんだな」
 高橋:「そういうことですか」

 そういうわけで私達は直進する。
 川向にある旧道を見ると、何か一気に登っている感じだった。
 馬力の弱い車だと、ちょっと登坂するのに苦労するのではないかと思うほどだ。
 しかし鬼首方面に向かう路線バスは、こちらの旧道を走るらしい。

 リサ:「相変わらず臭い……」

 リサは鼻をつまんだ。
 鳴子温泉は場所によって様々な成分のお湯が出るが、硫黄泉がよく出る為に、この温泉街は硫黄の臭いが漂っている。
 鼻が利くリサは、逆にそれで鼻がやられるらしい。

 愛原:「少しガマンしてくれな?」
 高橋:「先生、こっちっスね?」

 ようやく私達は新道との交差点に差し掛かり、そこに入った。
 旧道は鳴子ダム湖を回り込むようにして登坂して行くのに対し、バイパスはその対岸の山にトンネルをいくつも掘って、ほぼ直進的に北上する。
 その為、前者は絶景に恵まれているが、後者はトンネルだらけなので絶景は望むべくもない。

 リサ:「こういう長いトンネルを進むと思い出すね」

 リアシートに座るリサがポツリと言った。

 リサ:「霧生市の研究所から脱出するトラックに乗った時……。町を出る為に、長いトンネルを通ったよね」
 愛原:「そうだったな」

 霧生市のバイオハザード事件に巻き込まれた時の話だ。
 私と高橋、そして高野君は市内郊外にある旧・日本アンブレラの研究所から脱出した。
 生き残りのアホ研究員が、トチ狂って研究所の自爆装置を作動させやがったのだ。
 おかげさまで所内に侵入してきたゾンビやハンターの大群は一掃できたが、当の研究員は自爆装置を起動させた直後にその大群に襲われて死亡した。
 私達は最初、リサをタイラントと共に置き去りにして、トラックで脱出するつもりだった。
 だが、私はリサはどうしても他の化け物とは違う、何というか、人間的な何かを感じ取った。
 だから、リサだけは連れて行くことにしたのだ。
 おかげでこうしてリサは生き残っている。

 リサ:「先生が私を初めて人間扱いしてくれたおかげで、私は今ここにいられる。だから私は先生の言う事は何でも聞くから。何でも命令して」
 愛原:「お前を置き去りにしていくのが、どうしても何か違うと思ったんだな」
 高橋:「ふっ。今頃、先生の偉大さに気づいても遅いぜ」
 愛原:「そんなことないさ。俺はしがない探偵だよ」
 高橋:「そんなことないです!先生は一流の探偵ですよ!」
 リサ:「一流の探偵だと思う」
 愛原:「そうかい。ま、お世辞でも嬉しいよ」
 高橋:「いや、ガチな話っスよ!?」
 リサ:「ガチな話だよ」
 愛原:「分かったから前見て運転してくれ」

 ピピピピピ!(前の車に近づき過ぎたせいで警告音が鳴る)

 高橋:「りょ、了解っス!」

[同日15:15.天候:雨 同市内鳴子温泉鬼首 某旅館]

 トンネルを出て、旧道との交差点を通過する。
 そこから先は現道となるが、そこから先が道が広いというわけでもない。
 また、鬼首温泉の温泉街も旧国道沿いにあるようだ。
 そこは国道の指定からも外れた道である。
 今度は硫黄泉は無いのか、硫黄の臭いはしなかった。

 高橋:「鬼の首と書く温泉に、餓鬼が出た秘密の研究所があった所に、鬼の娘と一緒に行くなんて、変な感じっスね」

 高橋は旅館の駐車場に車を止めながら言った。

 愛原:「そうだな。で、やっぱり思った通りの悪天候だ。今日の所は旅館でゆっくりして、明日調査しよう。明日には天候も回復するらしいから」
 高橋:「うっス」

 車から降りてエントランスに向かう間も傘が必要なほどの降り方だったが、中に入ると一段と強くなった。
 やはり調査は明日にした方が良いだろう。

 愛原:「今日から一泊で予約していた愛原です」

 帳場の従業員に声を掛けると、すぐに玄関までやってきた。

 従業員:「いらっしゃいませ。3名で御予約の愛原様ですね。どうぞ、こちらへ」
 愛原:「すいません」

 私が宿帳に記入している間、リサや高橋は古い造りの帳場に興味津々だった。

 リサ:「この時計、藤野の研究所にもあったね」
 高橋:「高そうな時計だな。これも時間になったら、ボーンボーン言うヤツか」

 私が宿帳に記入し、先に前払いで宿泊料金を支払う。
 それから部屋に案内されることとなった。

 従業員:「それではご案内致します」
 愛原:「お願いします」

 恐らく歴史のある旅館なのだろう。
 どことなく和洋折衷的な造りの建物だ。
 建物は古いが、けしてボロいわけではない。
 古い建物ならではの価値というものを存分に発揮していると思われる。
 それをこの2人ときたら……。

 高橋:「何か、どこからともなくゾンビが出て来そうっスね」
 リサ:「私にはハンターが外から飛び込んで来そうな気がする」
 愛原:「オマエらなぁ……」

 まあ、私も口にしないだけで、何となくそんな感じはしていたが。
 一応、口に出していいことではないと思ったので、窘めておいた。
コメント
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